鑑定を使って集めた宝剣を、貸し出したり授けたり見せびらかしたりもっと集めたりする道楽冒険者 作:かてい
シェリカ・パスフィールドは一言で言えば天才だった。
複数のユニークスキルと、高ランクの各種スキル。
そしてそれらを十全に扱う魔力総量と戦闘センス。
生まれながらにして、彼女は強者だった。
下級貴族の三女として生まれ、蝶よ花よと育てられながらも。
その圧倒的な戦いの才能が、彼女を騎士の道へと誘った。
そんな彼女は武者修行のために、冒険者として活動していた。
貴族の子女であっても、騎士として国に仕える前に冒険者として経験を積むのは当然のことだ。
後に『宝剣の棚』を開く冒険者――アズマと出会ったのも、その頃のことである。
当時のアズマは新進気鋭の斥候として知られていた。
幼いながらも、大人のような冷静さと洞察力。
何より彼の鑑定スキルはあらゆる罠と隠し通路、それからお宝の価値を見定めた。
彼のユニークスキルとしての鑑定スキルは非常に強力だ。
一度使えば、視界内の全てのトラップを鑑定することができる。
隠し通路が存在していれば、その存在すら看破する。
斥候としては非常に有用なスキルと言えた。
シェリカは、そんな彼と時折パーティを組むことがあったのだ。
お互いにソロであり、固定のパーティを持たない者同士。
何よりシェリカは容姿端麗な貴族女子で、アズマは誰もが有用性を一発で理解できる斥候能力の持ち主。
どちらもパーティの誘いを受けることが多く。
自然と、それを避けるために組むことが増えていった。
何より、彼個人の性格をシェリカは好ましく思っていた。
一言で言えば、どこにでもいるような庶民。
素朴、平凡、そんな言葉が似合うような少年だ。
だが、大人相手でも物怖じしない胆力と、大人顔負けの洞察力。
同年代では一番大人びている彼を、シェリカは評価していたのだ。
シェリカ自身が、「早く大人として認められたい」という早熟な考えの持ち主だったのも大きいだろう。
何より、他の男と違って貴族であるシェリカのことを慮って、紳士的に振る舞ってくれる男性は大人の冒険者を含めてもアズマだけだった。
シェリカの目には、彼がシェリカの知る中で最も大人な冒険者に見えたのだ。
ただ同時に、惜しくも思っていた。
彼はユニークスキルである鑑定スキル以外に、コレと言って特筆すべき才能がなかった。
魔力総量、戦闘用スキル、どれをとっても人並み程度。
才能に溢れたシェリカにとって、彼が只人の域を出ないのは余りにも惜しかったのだ。
何より彼の鑑定スキルが彼自身に使えないというのも、非常に惜しい要因である。
彼は全てを見通す鑑定スキルを持っている。
そのため、他人の適性を見抜くことに長けていた。
才能がないのではないかと絶望している人間に、本人が知らない才能を指し示すことができた。
そんな彼が、自分自身を鑑定できないというのは余りにも惜しい。
そんな彼の冒険者としての生活に変化が起きたのは、彼が宝剣を手にした時だった。
宝剣。
この世界に存在する、特別な能力を持ったアイテムの総称。
剣の形をしていることが多いが、剣以外の形をしていることもある。
なぜこれが宝剣と呼ばれるのかといえば、宝剣の始祖――もしくは頂点と呼ばれるアイテムが「至宝剣」の名を冠しているからだ。
冒険者の中には、宝剣を求めて冒険に出る者もいる。
宝剣の特別な能力は、才能のない人間を強者に変えるのだ。
特に、アズマのような宝剣の能力を最大限引き出せる代わりに、それ以外の才能に乏しいような人間なら。
その影響は絶大である。
宝剣を手に入れて以来、アズマは変わった。
彼が斥候をしていたのは、鑑定スキルが有用だったこともあるが他にも理由がある。
前衛をするにも、後衛をするにも決定打がなかったからだ。
剣術スキルも、魔術スキルもCランク程度。
前衛にも後衛にも向いていない、中途半端な能力では戦闘中にできることが余りにも少ない。
しかしそれも、宝剣があれば話は変わる。
宝剣を手に入れてからの彼は、シェリカに勝るとも劣らない優秀な前衛となった。
それから、彼はトントン拍子に冒険者として成長していく。
宝剣を手に入れる前から、一人前であることを示すCランク冒険者の称号を手に入れていたアズマ。
宝剣を手に入れた直後の冒険で、実力を示しBランクに。
それから、大きな冒険を連続で成功させ、Aランクに昇格した。
異例とも言えるスピードの大出世である。
とはいえこれは、アズマの素行に問題がなく――どころか、Cランク時代から周囲の冒険者に彼が優秀な人間だと評価されていたことが大きい。
単純にBランクに上がれる実力がなかっただけで、実績で言えばCランクに留めておくのが相応しくない存在だったのだ。
しかしそれと同時に、周囲の人間はアズマのことを危険視するようになっていった。
アズマの出世を妬んだわけではない。
むしろ、アズマを心配してのことだ。
なぜなら、冒険者として強くなるに連れ、アズマが複数の宝剣を操り――そして宝剣を求めるようになったからである。
宝剣狂い、という蔑称がある。
これは、宝剣の能力に魅入られ、宝剣を手に入れることを目的として活動するようになった冒険者の呼び方だ。
なぜコレが蔑称なのかと言えば、宝剣狂いは宝剣以外のものをおろそかにするから。
人間関係も、冒険者としての立場も。
宝剣を手に入れられるなら、彼らは容易に捨ててしまうだろう。
それだけ宝剣の能力は優秀なのだ。
アズマのような優秀だが決定打にかける一般冒険者を、英雄と呼ぶにふさわしい実力者に変えてしまうくらい。
そしてそういう、才能を自分ではなく宝剣に依存した冒険者ほど、宝剣狂いに堕ちやすい。
実際、宝剣を求めて、宝剣を手に入れるために宝剣を操るアズマは、宝剣狂い以外の何者でもなかった。
だから周囲の人間は危惧したのだ。
アレほど優秀だった人間が、宝剣狂いに堕ちてしまうのか――と。
だが、シェリカは知っていた。
彼はそんな人間ではない、と。
アズマと最もパーティを組んだことのある人間として、彼の人間性は宝剣の魅力で削がれてしまうほど軟ではないと知っていた。
否、信じていた。
そして実際、アズマは宝剣に堕ちなかった。
驚くべきことだ。
アレほど宝剣に魅入られていながら、彼は正気を保っていた。
宝剣を手に入れるためなら、彼は人道に反しない限りは何でもした。
逆に言えば、人道に反していればたとえ宝剣を前にしても諦める理性があった。
驚くべき忍耐力だ。
普通、宝剣という餌を前にした宝剣狂いは、耐えようと思っても耐えられるものではないというのに。
だが、アズマは違った。
宝剣の誘惑に耐え、宝剣を正しく扱った。
彼が異例のスピードでAランクに昇格したのも、宝剣の扱いを評価されたことが理由として大きい。
そしてそれからも、彼は宝剣使いとして冒険を成功させ――ついにはSランクに昇格、最上位の冒険者として認められた。
これ以上、冒険者として得られる栄誉はもう存在しない。
そう悟った彼は、手に入れた宝剣を使って店を開いた。
今から一年ほど前のことである。
誰もがそれを道楽と思っていたし、彼自身道楽だと口にしていたがそれだけではないとシェリカは知っていた。
宝剣のレンタル業が、その証明だ。
最初にそのサービスを聞いた時、シェリカは自分の正気を疑った。
せっかく手に入れた宝剣を、他人に貸し出すとはどういうことか。
貸したものを奪われてしまったらどうするのか?
そんなシェリカに、彼は言う。
「その時は、俺の目が曇ってたってことで」
万能とも言える鑑定スキルを持つ彼がそういうのでは、シェリカは何も言えなかった。
とはいえ、彼が道楽で『宝剣の棚』を開いたことは非常に正しい判断といえる。
何せ、Sランク冒険者とは誰もが憧れる英雄だ。
時にはその力を、国のため振るうことを求められる。
だが彼はそれをこう示すことであらかじめ断ったのだ。
「俺は、宝剣以外に興味はない。宝剣が絡まないことにはかかわらない」
――と。
加えて、こうも彼は言っていた。
「そして何より、
宝剣狂いの道楽冒険者であることを示すことで、周囲からの干渉を事前に避けた。
国はSランク冒険者の力を借りたいが、彼らの機嫌を損ねたいわけではない。
その点アズマは、事前にラインを引いた。
宝剣に関することしか協力しない。
人を攻撃してまで宝剣を手に入れようとはしない。
これはつまり、人と人の戦争には関わることはせず、宝剣に関わる事態でしか国には協力しないというポーズ。
相変わらず、地に足のついた方針だとシェリカは思う。
あれからシェリカは騎士団の団長となり、アズマとの関係は変化した。
けれども、アズマに対する「大人だな」という評価は変わっていない。
強いて言うなら――貴族の女性を娶るつもりとか、ないだろうかと考えるようになったくらい。
だって、ほら。
かつてはお互い子供だったが、今はもうアズマもシェリカも成人している。
家庭を持つにはちょうどいい年頃で――というか。
これ以上独り身だと、お互い周囲の視線が辛い年頃になってくるのだが。
アズマは、そこら辺興味ないだろうか。
Sランク冒険者なら、下級貴族の三女くらいなら娶ってもおかしくないのだけど。
最悪側室でもいいから。
シェリカは、本気でそう考え始めていた。
が、今のところまだ態度には出していなかった――
主人公はだいたいこんな感じの人、みたいな話