鑑定を使って集めた宝剣を、貸し出したり授けたり見せびらかしたりもっと集めたりする道楽冒険者 作:かてい
『剣鬼:☆』というのはユニークスキルだ。
ランクの部分が☆になっているのがその証。
これだけで、彼が剣士としての才能に恵まれている事がわかる。
それに加えて、『剣術:S』と『気配察知:A』
他にも剣のためのスキルがずんばらり、もといずらり。
ずばり、ユズリアは剣の天才だ。
そして、悲しいことの魔術に関するスキルは一つもなかった。
一番基礎的なスキルである『魔術』スキルすらなかった。
そこらの一般人でも、『魔術:E』くらいは持ってるもんだが。
逆に、ユズリアみたいな極端な天才は、持っていないことが多い。
ちなみにこれだけS級スキルを持ちながら総合力がEなのは、S級スキルの習熟度が足りないからだ。
基本的に、この世界のスキルのランクは一言で言えば「鍛えればそこまで伸びる」という指標にすぎない。
今のユズリアはSランクの剣術スキルを持っていても剣の技能は
これを戦闘や鍛錬で鍛えることで、S級にふさわしい技能にするのである。
まぁ、スキルはランクが高ければ高いほど成長速度も早いので、すぐにユズリアは大成するだろう。
そうしてランクに見合った能力を手に入れることで、ユズリアの総合力はSになるのである。
ちなみに俺も総合力はSランクだ。
この総合力、身につけている装備の影響も受けるからな。
そして、ユニークスキルはランクの影響を受けない。
ユズリアの『剣鬼』スキルは、現時点ですでに完成しているということだな。
「というわけで、ぶっちゃけ君ならここにある剣のどれを握っても問題ないと思う」
「えっ」
「君は剣の天才だ、エルフ剣士として大成することを願ってるよ」
「えっえっ」
先日俺のところにやってきたシェリカは、はっきり言って天才だ。
数多のスキルをSからAランクで保有し、ユニークスキルまで所有している。
だが、こと剣の才能に限ればユズリアはシェリカ以上の天才である。
「いやでもあの、ボク、剣なんて握ったこと一度も……」
「握ったことがないからこそ、スキルの存在に気付かなかったんだ。自分の才能に気づけるかどうかって、結局は運によるところが大きいよ」
これでも、才能があって運さえ良ければ確実にスキルが身につく分、前世よりもマシではある。
対するユズリアは困惑している。
いきなりそれまで才能がないと思っていた人間に、とんでもねー才能があると言っても信じてもらえないだろう。
自己評価が地の底に埋まっているだろうからな。
「じゃあそうだな……少し主義に反するんだが、コレを握ってみてくれ」
そう言って、俺はとりあえず自分の所有するアイテムボックスから、宝剣ではない剣を取り出す。
何で持っているのかと言えば、宝剣を手に入れる前に使っていた市販の剣だからだ。
アイテムボックスの肥やしと化しているが、また日の目を見るときが来るとは。
「しゅ、主義?」
「宝剣以外の剣がこの店にあるとか……宝剣の棚失格だろ」
「私物なら別に問題なくないですか!?」
鋭いツッコミだ。
そしてツッコミながら、ユズリアは剣を握る。
初めて握るのだろう、おっかなびっくりと言った様子だったが――
――握った瞬間、彼の雰囲気が一変した。
「――この剣」
まるで、研ぎ澄まされた剣のように。
視線は鋭く剣に向けられていて、どこかその様子は鬼気迫るものがある。
端から見ている分には想像するしかないが、剣に魅入られているかのようだ。
少し危うい状態だな。
宝剣狂いも、宝剣を前にするとこういう感じになる。
「……この剣、使い込まれてますね」
「当時は剣を買い替える金も惜しかったからな。今はもう使わないけど、大事な思い出の詰まった剣だよ」
「そうじゃなければ、アイテムボックスに入れませんもんね」
喋り方が、先程とはずいぶん違う。
はっきりとした意思の伴った、鋭い視線がこちらに向く。
なんというか、本当に別人って感じだ。
もしかしたら彼の中にはもうひとりの僕がいるのかも知れない。
「ありがとうございます、握らせてもらって」
「おう。んで、これで理解ったと思うが――」
剣を返してもらいつつ、話を続けようとして――
「はい。……あ、え? え!? ボク、一体今、何を!?」
「あ、剣を手放すともとに戻るのか」
ユズリアがもとに戻った。
きっと、剣を握ると性格が変わるんだろう。
ユニークスキル『剣鬼』の影響だろうな。
なぜならユニークスキルは、所有者の性格に影響を与えるからだ。
ユズリアは自己評価の低い少年だが、剣を握るとそうではなくなるのだろう。
「とにかく、ユズリアには魔術の才能はなくとも、剣術の才能がある」
「ボクに……剣の才能が」
「エルフは剣を使わないから、気づかないのも無理はない。でも、剣を握ればすぐにユズリアは強くなるだろう」
俺の鑑定スキルが、それを教えてくれている。
疑う余地もなく、ユズリアは天才であると。
そして運命剣が彼を導いたことで、運命も彼が剣の才能に目覚めることを望んでいる。
だとしたらそうだな、果たしてユズリアにはどんな剣を授けるべきか――
「……選択肢が多すぎると、選ぶのも大変だな」
「え、えっと……その、ごめんなさい」
「謝ることじゃないって、むしろ楽しいことなんだから、これは」
なんというか、彼ならば刀剣タイプの宝剣ならどんな剣でも扱えるだろう。
剣術スキルもそうだが、剣を握った際の集中力などが上がるスキルであろう剣鬼の存在はでかい。
ユズリアのような自己評価が低く、自分に自信がないタイプでもすぐに剣士としての才能を開花させるはずだ。
だからこそ、下手な宝剣をポンと手渡すのは不味い。
ユニークスキルが性格に与える影響は、決して良いものだけではない。
先程のやり取りだけでも解るだろう、ユズリアはユニークスキルのせいで剣に魅入られてしまっている。
剣の鬼とはよく言ったもので、一度彼の才能をなんの枷もなく世に解き放てば、たちまち彼は人斬りになってしまうだろう。
それは、よくない。
とすると、自然と候補は絞られるな。
選択肢は山ほどあるが、突き詰めていくと最終的な答えは一つに落ち着くのだ。
宝剣と人とのめぐり合わせというのは、だいたいそういう物である。
「よし、エルフならやっぱりコレしかないだろう」
言いながら、俺はその宝剣を手に取る。
その宝剣は――刀の形をしていた。
ファンタジー世界特有の、何故か存在する日本刀である。
ただし、刀身は錆びついていてどう見ても切れ味の良い剣ではない。
エルフならこれしかない、というのはエルフが和服を着る文化だからですね。
ユズリア少年は現在作務衣だが、そのうち立派な袴を着るようになるだろう。
相変わらずエルフがなんで和服なのかってことの説明は後回しにするけれど。
ようは俺が今手にしている、何故か存在するファンタジー日本刀が理由の一端だ。
で、そんなファンタジーサビサビ日本刀を、俺は鑑定する。
これがどういうものなのかはわかっているけれど、念の為な?
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鬼を斬り、研ぎ澄まされていく刀。
その姿は錆にまみれているが、正しき使い手が鬼を切り裂く時真なる姿を開放する。
この宝剣は、滅するべき鬼以外を切ることはできない。
所有者が正しくこの宝剣を振るうことの意味を理解していなければならず、理解できていなければこの宝剣の真価は発揮されない。
この宝剣は鬼を斬り続けることで切れ味を増し、新たな力に目覚めていく。
今は、振るうべき所有者が存在していない。
宝剣を鑑定すると、こんな感じになる。
他のアイテム――先日シェリカが持ち込んだ<狂い角の黒猪>の角なんかは、アイテムとして鑑定すると人間を鑑定した時のように価格や得られる効果が端的に提示される。
だが、宝剣の場合は違う。
なんというか、TCGのテキストみたいになるのだ。
わっかりにくいことこの上ないが、端的に纏めるとこんな感じ。
・鬼だけを切る剣だよ!(鬼とは、基本的には魔物のことを指す。たまにクソド外道な人間も切れる)
・この剣を使えるのは正しくこの剣を使える善人だけだよ!
・鬼を切れば切るほど強くなるよ!
・今は所有者がいないよ!
こんな感じ。
()の中は俺が仮の所有者として使ってみた時の補足だ。
基本的に、俺は宝剣はある程度使ったら満足してしまうタイプだ。
だが宝剣は眺めるのもいいが、使ってなんぼのマジックアイテム。
使わなくなったら、次の所有者を運命剣に導いてもらう必要がある。
宝剣も、それを了承しているから俺を所有者ではないと認定しているのだ。
というわけで、この剣をユズリアにわたす。
ユズリアは、俺の説明を聞いてどこか興味深そうに剣を眺めていた。
「これが……宝剣」
しげしげと宝剣を眺めるユズリア。
対する俺はユズリアが研澄剣を握っても剣鬼にならないことを確認していた。
俺がユズリアに研澄剣を渡した理由がコレだ。
研澄剣は、正しい使い方をしないと効果を発揮しない。
そして効果が発揮されていない剣を握ってもユズリアは剣鬼にならない。
正しい時だけ剣鬼になれる。
これなら、ユズリアが剣鬼に堕ちることも、宝剣狂いに堕ちることもないだろう。
「あの……ボク、絶対にこの宝剣にふさわしい剣士になります」
「ああ、頑張れよ」
「そして……」
ぎゅ、と強く宝剣を握りしめ、覚悟に満ちた瞳で、ユズリアは言う。
「……必ず、この宝剣の代金、お支払します」
「あっ、それはいらない」
「えっ」
――沈黙。
ユズリアが、完全に停止していた。
どうやら、彼は俺がタダで宝剣を授けるサービスをしていると知らなかったらしい。
てっきり運命剣のことまで教えられていたから、そこまで知っているものと思っていたが。
……先生、わざと教えなかったな?
「え、あの……でも、この宝剣。すごい価値のあるもの……なんじゃ」
「価値のあるものだからこそ、俺はその価値を最大限発揮できる相手に宝剣を授けてるんだ」
「えっぇっ、授けるって、えっ!? 本当に授けてるんですか!?」
ううむ、ユズリアは何ともいいリアクションをする。
あの人がここらへんを教えなかったのも納得――いややっぱり普通に教えといてくれよそこまで。
教えても信じない? 運命剣のこと信じてるなら、こっちも信じるよな……?
「というわけで、その剣はもう完全に君のもの。タダだよタダ、持っていきなさい」
「で、でも……」
「それに……これは俺がやりたいからやってるんだ」
俺が宝剣を授けているのも、貸し出しているのも。
宝剣を正しく使ってもらいたいからだ。
こうして棚に飾っているだけでは、結局宝箱の中の宝剣と何も変わらない。
宝剣は、使われてこそだ。
「俺が宝剣を集めるのは宝剣を正しい持ち主に届けるためなんだ」
「アズマ……さん」
俺の言葉に、ユズリアは納得してくれたようだ。
実際、俺の本心から出た言葉である。
真摯に伝えれは言葉は伝わるものなのだ。
「そして宝剣を届ける間、宝剣を眺めて悦に入ったり、ちょっと試し切りさせてくれればいいだけで……」
「だ、台無しですよ!?」
おっと、本心が漏れすぎた。
ともあれ、ユズリアは概ね納得してくれたようだ。
俺が変なことであることを納得しただけのような気もするが。
「あ、あとその……これをアズマさんに渡すように言われました」
んで、気を取り直して。
ユズリアは一枚の手紙を俺に手渡してくれた。
書いたのは間違いなく先生だろうけど。
一体何が書いてあるんだ?
えーっとなになに?
『これからユズリアくんが向かうのは精霊樹神殿だよ、護衛して最深部まで行ってくれたら、そこにある精霊剣持ってってもらっていいからね』
…………。
……。
え!?
次回、宝剣を求めてダンジョンへ。
先生とは一体何者なのか……とか色々。