現実に舞い戻り、今も延々とコードを打ち込んでいる。
そんな忙しさであるが、とにかく寝る時以外はずっとこんな感じなので、気にせず声を掛けていく。
「エマ、今私の贈り物してたらさ、雪国で祭りするって言ってるんだけど」
「そんなことは予定してない。けど、私の特別端末を使っているアカウントは所謂テストプレイも兼ねている。大陸版と呼ばれている地球で配信しているものはあくまで、こちらが許可したデータだけを出来るようにしている」
「テストプレイ、ってことは……地球で配信していないイベントもあるってこと?」
「そう。なにがあっても、起こっても、起きても不思議じゃない。うちのアカウントには制限をかけてない」
「地球の配信ゲームはコントロール出来る範囲で制限してるんだね。知らなかった」
「たとえば、マーマがゲーム内で手配犯として生活し続けれているのは、そのせいかもしれない」
「ゲーム的に利益を産まないから、無制限に出来るのか。じゃあ、雪国の祭りはエマのアカウントでも起こってる?」
「起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。エマ的に採用基準が満たされるのなら、地球版に実装を考える」
「それなら、エマも一緒に祭りイベントやろうよ。出来るんだよね?」
「出来る。こっちのアカウントではなんでも可能」
「地球版で可能にしたらMMOになっちゃうから、実装はしないんだっけ」
「うん。MMOよりもソロゲームを作りたい」
彼女本人が一番ソロを望んでいるからだそう。
MMOはいろんな人が居るから、のんびりしにくいし、ネタバレの可能性も高いから、とか。
「AIで十分だね。今の所、それで満足出来るし」
私も散々AI達にお世話になっている。
彼らは普通に人と同じだし、悪意を吐露しない。
情操教育にも非常に良い。
パーフェクトな人間と言える。
倫理観どうのと、地球ならば物議を醸すかもしれないが、すでにその域は遠く遠く、通り過ぎている。
エマと再びゲーム内にログイン。
冬の国の祭りについてエマは聞き取りしていく。
「ふむふむ。山から雪と桜が降ってくる」
「桜吹雪をAIがそういう解釈したんだ」
まあ、幻想的で悪くない。
ゲームらしい山のつくり方。
現実じゃ先ずお目にかかれないよね。
こういうのが非現実だから出来る光景。
風景?
「桜を飾りつけて、デザイン力を競う祭りなんだって」
エマの聞き取りが終わったらしく、なるほどねと頷く。
この桜は日本の桜まんまではなく、雪の要素も混じったフワッとした感じの桜で、桜山から降り注ぐ特殊な場所でしか取れない素材と説明に書いてある。
「3Dプリンターでゲーム内のデザインを現実に持って来れる」
(え?うちの妹天才すぎる)
絶対その要素、他の人たちには真似できないよ。
「だから、この桜で作ったものも現実に持っていける」
「スライムとかは?」
「勿論。性格も人格も、見た目も全てコピーして持って来れる」
「いいね。スライム現実にいてくれれば良いのにって夢想したことあるもん。ぷにっとが再現されるんなら、夏とかひんやりで良いかも」
椅子とかクッションになってもらえれば、ぷにっとしたものが住んでいるところで体験出来る。
「エマ。祭りしたらスライムテイムしに行こう」
「分かった。この国だったら雪桜モチーフのスライムが居るかも」
「それは、可愛い!欲しい!」
「その間に私は携帯獣の開発進める」
「そっか。タイトル決めてる?」
「タイトルの代案はある」
という、タイトルの候補を上げていく。
「プロトタイプのだから迷ってる。シリーズは毎回対になるタイトルをつけているけど、販売する予定もないから一つしか作らない。というわけで、タイトル候補は対の関係なくつける。トパーズ?」
「宝石を名前につけるの、憧れだよね」
「本当はルビーってつけたい。私達の象徴だから。でも被るから候補にすら上げられない。悲しみ。シャインが好ましい」
「携帯獣シャイン?良いんじゃないかな。どうせやるのは私達だけだから」
妹は細部まで拘る子だから、安易なネームはつけたくないのだろう
「凄く迷った。でも、次作に取っておく」
「もう次作のこと考えてるんだ……」
「勿論。進化携帯獣や新携帯獣もすでに作って待機状態」
「おお!やりたーい!」
「なら、DLCとして追加する」
「販売はしないんだよね?」
「家族間専用ゲーム」
自作ゲームにDLCって違和感ありすぎる。
「携帯獣シャインはいつ出来る?」
「携帯獣シャインはテストプレイならいつでも出来る。やる?」
「やるやるう」
嬉しすぎて飛び跳ねる。
雪国の祭りは後でにして、今はもう携帯獣をしたくて、頭はそれで埋めつくされる。
「じゃあ、準備するアプリにしてインストールしておく」
「わー。楽しみで体が浮き上がりそう」
「自転車の付与は、まだかかるから。これで時間を潰すのも良い。エマもやる」
「エマが一緒ならなんでも楽しいよ」
一緒に遊びたくて、頬を赤く染めている。
体験型フルダイブVRを起動して、エマの作った携帯獣シャインへ移動する。
ゲームからゲームの移動は可能なのだ。
携帯獣のゲームの中に入った私達。
タイトルロゴがデカデカと浮いている。
「ロゴのデザイン良いねえ」
「シャインだから太陽を採用した」
「夏っぽいイメージがあるから、暑いとか?」
質問じゃなく、独り言。
「えーボタン押す」
「Aボタン?VRにボタンの概念ないよね?」
「これは伝統を引き継いで、そういう感じにしておいた」
押す意味はないけど、押せと言うことなのだという。
とりあえずスタートボタンを押す風のところ触り、携帯獣ワールドへ。
「よく来たな、妹よ」
「え?だ、誰?」
「主人公の兄」
「兄?白衣着てるってことは、携帯獣博士ってこと?」
「そう。主人公は三つ子の末っ子」
「三つ子に末っ子の概念ってあるんだ?」
「3人は互いを対等に見ているけど、戸籍は決めなきゃならないから、世間的には必要」
「そりゃそうだ」
あはは、と笑う。
三つ子の兄が携帯獣博士なのだと言う。
具体的には携帯獣の研究所の職員。
「主人公が大体15歳だとして、兄は20歳くらいかな」
「三つ子を可愛がってる。良い兄」
兄の博士は携帯獣の説明を始める。
それを聞き、私達は白くなる視界に目を閉じて、自室から起こされるというプロローグが始まる。
「ナターシャ、起きなさい」
母が起こすと言うありがちな始まり。
家の中は携帯獣がちらほら。
「三つ子の二人も起きてきた」
2人を見ると外見が違うから一卵性。
「今日はお兄ちゃん、居ないね」
「いくらなんでも研究所で寝泊まりって、仕事に取り憑かれてるにも程があるわ」
姉妹の会話を聞き、母親は今日は携帯獣をもらえる日だから、もらいに行けと元気よく伝えてくる。
「行くわよ」
身支度を終わらせて、私たちは研究所へ行く。
行くと言っても徒歩20秒。
建物に入ると兄が出迎えて三つ子に携帯獣の贈与を説明して、選ぶように言ってくる。
テンプレートなので火、水、草タイプがいるのだが、デザインが良すぎる。
でも、私……進化後の姿で決めるタイプなんだよね。
なんせ、最終進化と永遠に過ごすことになるから、進化前で選んでもすぐに進化しちゃうんだよ?
「エマ。進化後のデザインみたい」
「これ」
「私のこと分かってる」
すかさず表示されるデザイン。
阿吽の呼吸。
モンスの進化後はどれも良い。
「よおし、この子にする」
そのうちの一匹を手にした。