『おはようございます、先生!』
「おはよう、アロナ。」
この一週間のうちにシャーレの噂はますます広がっているらしく、多くの生徒から依頼が集まってきている。
『おぬしも生活に慣れてきたようじゃし、ここは一つ、ドカンと大きな依頼もやってみるのはどうじゃ?』
「そうだね……………アロナ?来た依頼にそういったものはないかな?」
『うーん……………ならば、これはどうでしょうか?なんだかちょっと不穏な気がしますが……………』
アロナが指した手紙は、”アビドス高等学校”所属の奥空アヤネという生徒からだった。
……………内容を要約すると、地域の暴力組織によって、学校が危機に陥っている。なぜそうなったかの諸々の事情は省略するが、物資が尽きかけているので、支援してほしい、とのことだ。
……………物資が尽きかけていることから、彼女たちの戦況は籠城戦で間違いないだろう。
「アロナ、アビドス高等学校のことについて詳しく教えて。」
『はい!』
『昔のアビドスは、キヴォトスの中でも特に強大な学校だったようです。ですが、度重なる砂嵐による自治区の砂漠化により、今では大きく衰退したとのことです。』
「生徒の数は分かる?」
『ええと……………データベースによると、確認できる生徒さんは5人しかいません……………』
5人だって!?よく今まで持った方だな……………
『5人しかおらんのか……………それはもう学校としては死に体も同然じゃなかろうか?』
「これは……………物資支援のほかにも色々してあげる必要があるね。」
「アロナ、すぐに物資の準備をして。それからアビドスの道案内も頼めそう?」
『お任せください!私の完璧なナビゲートで、先生が迷子になることはありませんよ!』
こうして、自分たちはアビドスへ向かうこととなった。
アビドスの自治区には着いた……………着きはしたのだが……………
「アロナ……………ここから目的地に行くにはどっちに行くべきかわかる?」
『うぅ……………先生、この辺りはアクセスポイントがなく、現在の位置情報がわかりません。』
確かにここがアビドス自治区なのは間違いない。ただ建物に人気がなく、道には砂が侵食している。どうやらここは、ずいぶん前から放棄された廃墟のようだ。
『はぁ!?おぬし!出発前に”私の完璧なナビゲートで、先生が迷子になることはありませんよ!”とか言うとったではないか!』
『仕方ないじゃないですか……………!アビドスは人口の流出や砂漠化による荒廃によって、現在でも正式な地図がないんですから!』
「……………でも困ったな。今ある備蓄から考えて、まともに動けるのはあと4,5日ほどだ。それまでに着かなければ三人まとめて干からびちゃうね。」
『わ、わしは嫌じゃぞ!キヴォトスに来て、こんな最期を迎えるのは……………!』
「どうしようか……………ここに運よく人でも通ってくれればいいんだけど。」
『そんな身も蓋もない話をするでない!』
そんなこんなで言い争っているうちに、
「……………ん?」
キキーッ
”自転車”が止まる音がした。
「あの…………………………大丈夫?」
「君は?」
服装や頭に浮いている”ヘイロー”からして、生徒なのは間違いない。頭に犬耳が生えている。
「ん、気が付いた。一人で何かと話していたから、幻覚でも見えてたのかと。」
『こやつ、わしのことを幻覚と言うたぞ。』
『ま、まぁ……………生徒さんには、私たちの声は聞こえませんからね。』
ほかの人から見れば、さっきまでは得体のしれないものと言い争っていたということか……………
それはそれとして、ここに人が通ったことは幸運だ。アビドスについて聞いておこう。
「君はこの辺りに住んでいるの?」
「うん。そうだよ。」
「だったら、アビドスの行先について教えてくれるかな?自分はそこに用があってきたんだ。」
「アビドスなら、私も今から行くところ。一緒に行く?」
もしかして、彼女はアビドスの生徒だったのか?だったら話は早い。
そうして、犬耳の少女とともにアビドスへ向かうこととなった。
アビドス高等学校校舎
自分は犬耳の少女もといシロコに連れられ、アビドス高校に着いた。ところどころに砂が入り込んでいるが、掃除した後がある。これもシロコを含めた5人の生徒がやったのだろう。
シロコの案内のもと、”アビドス廃校対策委員会”と書かれた部屋へ入る。
「ただいま。」
「おかえり、シロコせんぱ…い?」
「うわっ!?何っ!?その女誰!?」
「わあ!シロコちゃんが美人さんをエスコートしてきちゃいました!」
「エスコート?シロコ先輩そんな趣味があったんですか!?」
色々誤解しているようだ。ここにはシャーレの噂が伝わっていないのか?
「いや、そんな趣味はないから。うちの学校に用があるんだって。」
「えっ?てことはお客さん?」
……………ようやく話が進みそうだ。
「自分は”連邦捜査部シャーレ”所属のベレスだ。君たちの依頼を受けて来たんだ。」
「「「ええっ!?」」」
「てことは、連邦生徒会関連の!?」
「支援要請がようやく受理されたんですね!」
「よかったですね、アヤネちゃん!」
「はい、要請を送り続けてきた甲斐がありました!」
「これで補給が受けられる!」
三人とも嬉しそうだ。送り続けたってことは、今まで支援がなかったということか。だったら物資が尽きるのも仕方ない。
「本格的な支援は少し後になるけど、数日分は持ってきた。確認してほしい。」
「ありがとうございます!では、確認しますね。」
ちなみに持ってきた物資は、彼女たちが使う銃に応じた弾薬、医療品、手榴弾等の投擲物、そして液体の燃料。
『先生!?ガソリンなんてどこで使うんですか!?』
『あー、そういう手で来おったか。なるほどのうー。』
『え?ソティスさん、先生が何をしようとするのか分かってるんですか!?』
籠城戦にはもってこいの策がある。できれば使わずには済ませたいけど。
「ヒャーッハハハハハハ!」
「攻撃、攻撃だ!奴らはすでに弾薬の補給を絶たれている!襲撃せよ!奴らの学校を占領するのだ!」
そういった野蛮な声とともに、銃声が鳴った。そしてズケズケと校庭に入ってくる。
「わわっ!武装集団が接近しています!カタカタヘルメット団のようです!」
「あれが君たちの言っていた暴力組織だね。」
「あいつら……………また性懲りもなく……………!」
猫耳のセリカが小柄な少女を連れて部屋に入り込む。
「ホシノ先輩を連れて来たよ!先輩、寝ぼけてないで起きて!」
「むにゃ……………まだ起きる時間じゃないよー。」
追い込まれているという状況だというのに昼寝とは、呑気なものだな。
「ホシノ先輩、ヘルメット団が再び襲撃を!こちらの方はシャーレの先生です。」
「ありゃ~それは大変だね……………あ、先生?よろしくー、むにゃ。」
眠そうな自分を見る目は、何かを感じた。この呑気さは、どちらかと言うと実力があるからなのか?
「すぐに出るよ。先生のおかげで、弾薬と補給品は十分。」
「はーい、みんなで出撃です☆」
そういうと、アヤネを除く4人は、校舎を出てヘルメット団の迎撃を始めた。
ヘルメット団との攻防が始まって時間がたった。アビドスの生徒たち……………きっと自分が知らないところで多くの苦難を乗り越えてきたのだろうか、個々の実力は高いといっていいだろう。しかし、それだけでは戦争は勝てない。
「あなたたちにアビドスは渡しません!」
ノノミがヘルメット団に牽制射撃をしているところ、
「……………シロコちゃん!?うわっ!?」
銃撃を避けていたシロコがノノミにぶつかってしまう。
「アイツら、まるで連携も取れていないじゃないか!!」
連携については、アヤネがいる以上、普段はもっとできているのだろう。推測だが、連戦による疲労、それによる士気の低下が原因だろうか。
「……………いよいよ決着をつける時が来たようだ。」
「よーし、このまま一気に畳みかけるぞ!」
ふむ、あの赤い服が指揮官のようだ。
「……………アヤネ、ちょっと準備したいことがある。」
アヤネにある”仕込み”を頼み、校庭を出た。
ヘルメット団は手榴弾を投げ、相手の進軍を防いでいる。
「みんな大丈夫?」
「固まらずに分散して戦った方がいいですね……………」
「ん、私が前に出る。援護お願い。」
「ま、待って!シロコ先輩!」
「キャハハハハハ!とうとう万策尽きたか!」
「アイツをハチの巣にしてやれ!」
銃口がシロコに向けられ、発射される瞬間、
「させるか!」
咄嗟に天帝の剣で砂を舞い上がらせた。わずかだが時間を稼げる。
「「「「先生!?」」」」
「待たせて悪かった。策を立てるのに時間がかかった。」
戦術を聞く時間がなかったため、少し戦闘を見させてもらった。
「ノノミ、敵に弾幕を張って威圧して。」
十六夜ノノミ。彼女が持っている巨大な銃器は重さを引き換えに威力、連射性が高い。だから、広範囲の制圧に向いている。
「セリカは残った敵を狙って。」
黒見セリカは高い機動力と同時に優れた命中率を持ち、ノノミが取りこぼした敵を狙い撃つ。
「何なんだアイツら!?急に動きが変わりやがった!」
「……………あの女だ!アイツが指揮ってやがる!」
おっと、さすがに気づかれたか。
「自分は彼女たちの先生だ。大人しく引いてくれないかな?」
「ハッ、テメェらの補給が切れているのは知ってんだよ!それに今更1人増えたところでアタシらの勝ちは決まってんだ!」
「へぇ?それだけの人数を率いておいて、どうして今までここを占領できなかったの?」
「それは、指揮官が相当な無能だったから?」
「んだとぉ!?」
軽く煽ってみたが、あっさり通った。
「かかれ!奴の口を黙らせろ!」
ヘルメット団が一斉に突撃する。
「アヤネ、今だ!」
上空に”ドローン”が発進し、我を忘れた彼女らの前にあるものを落とす。
ドガァーン!
爆発音とともに、炎が広がる。
「……………ひ、火だ!ギャアアアアア!」
「火攻めだと!?」
『せ、先生!?』
『火計じゃな。入り込んできた猪を追っ払うのには丁度いい。』
持ってきた物資に燃料が入っていたのはそのためだ。籠城戦を想定していたので、ガルク=マクの戦いで使った策を再現することにした。
「シロコ、ホシノ、行くよ!」
「分かった、先生。」
「うへ~、割とエグイ策を練ったね~先生。」
砂狼シロコ、機動力があるのはセリカと同じだが、近接戦闘は彼女に分がある。
小鳥遊ホシノは盾を持つことで前衛での守備も得意だが、どうやら攻撃役もできるようだ。
黒煙の中、動揺状態にあるヘルメット団をホシノが盾でぶん殴る。それに続き、シロコも距離を詰め、零距離射撃とともに蹴り飛ばす。
自分は指揮官に向け、戦技の準備をする。
「クソ、近寄るんじゃねえ!!」
自分に向かって苦し紛れに乱射するが、そんな攻撃に当たってやる義理はない。
「これで決める!」
覇天
天帝の剣を伸ばし、その状態で連続攻撃を繰り出す戦技だ。
天帝の剣の刃が体表を何度も切り裂き、
「セイヤァ!」
「ぎゃああああ!」
指揮官は後ろに大きく吹き飛ばされた。
「お、覚えてろよ~~~!」
戦意を失ったヘルメット団は、気絶した指揮官を構成員が担ぎながら逃げ去っていった。
「いやぁ~まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団も相応の覚悟で仕掛けたみたいだったけど。」
「勝っちゃうなんてじゃありませんよ、先輩。勝たないと学校が不良たちのアジトになっちゃうんですから……………」
「先生の指揮が良かった。私たちの戦法とは全然違う。」
「それに、シャーレの先生が”魔法の剣で戦う”という噂は本当だったんですね☆」
「ノノミ?それはどういう……………?」
「知らないんですか、先生?今、先生の戦いがとても話題になっていて、いったい何者なのかという考察が、いろいろ出回っているんですよ!」
「えぇ……………。」
『噂というのは、伝われば伝わるほど、誇張されていくものですからね……………。』
魔法の剣と言えばサンダーソードがあるが、彼女達からすれば、天帝の剣も魔法みたいなものだろう。
「で、これからどうする?リーダーは先生がぶっ飛ばしたのはいいけど、構成員はそれなりに残ってると思うよ?」
「確かにそうですね……………もしかしたら、報復として、また攻めてくるかもしれません。」
報復か……………確かにセリカとアヤネの言うとおりだ。まともな軍隊ならしないだろうが、いかんせん彼女たちはごろつき同然の集まりだ。
「だったら、こちらから攻めて、拠点を制圧するってのはどうかな?」
「そ、それはそうですが、皆さんはどういたしますか?」
「うん、問題ない。」
「私も異論無しです☆」
「いいわ、むしろ上等よ!」
「この勢いでいっちょやっちゃいますかー。」
皆の異論はないようだ。
「ならそういった感じで、行こうか、みんな。」
読んでいただきありがとうございます。
アビドスの初戦は、アニメとゲーム両方の演出を混ぜてみました。
それと、火攻めは絶対にやりたかったので入れました。