ヘルメット団の拠点制圧はあっさり完了した。
指揮官が前線に出られない状態の中では、彼女たちの動きは非常に悪く、反対にこちらは補給が受けられたこともあり、士気も高く、自分の指揮の下で抜群の連携を見せてくれた。
『ここから見るに、元気そうなやつは周りにおらんようじゃな。』
『お疲れさまでした、先生!これで依頼は完了ですね!』
とはいえ、ここから無事に帰るまでが仕事だ。
「みんな、余裕がありそうなら拠点にあった物資を頂いて帰ろうか。」
「えぇっ!?」
「い、いいいんですかそんなことして!?」
「まだ正式な補給が来てないんだ。こういう時に集めておかないと、今後の戦闘に影響が出るよ。」
実際、転がっていた戦死者から拾った武器や薬は役に立つ。その分金も浮くしね。
「ん。私と先生は思った以上に気が合いそう……………」
今まで見たことがない以上に目を輝かせているシロコが気になるが、使えそうなものを回収してアビドスに戻った。
アビドス高校にて……………
「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです。」
「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる。」
やはりほかの問題があるようだ。
「うん、先生のおかげだね!これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ!」
……………借金だと?
「ちょっと待って、借金ってどういうこと?」
「……………あ、あわっ!」
……………セリカの反応からするに、今回のことは踏み込んでおく必要があるな。
「借金について、詳しく教えてくれないかな?」
「そ、それは……………。」
「待ってアヤネちゃん、それ以上は!」
「いいんじゃない、セリカちゃん。別に隠すようなことじゃあるまいし。」
「か、かといって、わざわざ話すことでもないでしょ!」
「別に罪を犯したわけじゃないでしょー?それに先生は私たちを助けてくれた大人でしょー?」
「ホシノ先輩の言うとおりだよ、セリカ。先生は信頼していいと思う。」
「ちゃんと話してほしいな。シャーレの先生である以上、君たちを助ける必要がある。」
「う、うぅ……………。」
「でも、さっき来たばっかりの大人でしょ!今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことがあった!?」
「この学校の問題は、ずっと私たちでどうにかしてきたじゃん!なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんて……………」
「私は認めない!!」
そう叫び、セリカは出ていった。
……………セリカの言うことが正しければ、彼女たちが問題に向き合っているさなか、”大人”はみな助けてくれなかったことだろう。
それに借金があるって……………残ったホシノたちが詳しく話してくれた。
アビドスは約9億円、厳密には9億6235万円の借金がある。数十年前に起きた砂嵐によって、学区のあらゆる場所が砂に埋もれてしまった。その復興のために借金をしたのだが、大した役にも立たず、借金が膨れ上がり、最終的には多くの生徒がアビドスを捨て、借金だけが残った。さらにはこれを返済しなければ、学校そのものを手放さなければならない、とのことだ。
借金といえば、士官学校の学費を借金で補ったレオニーを連想するが、それが些細に感じるほどだとは……………
「私たちの力では、毎月の利子を返済するので精いっぱいで…弾薬も、底をついてしまっています。」
「セリカがあそこまで神経質になっているのは、これまで誰もまともにこの問題に向き合ってくれなかったから。話を聞いてくれたのは先生、あなたが初めて。」
「……………まあ、そういうつまらない話だよ。」
「もし対策委員会の顧問になってくれるとしても、借金のことは気にしなくていいからね。話を聞いてくれただけでもありがたいし。」
「……………」
……………物資の支援以外にもしてあげたいと思っていたが、情けないことに”助けになりたい”という言葉が出なかった。
次の日……………
アビドス住宅街を散策していると、見知った顔に会った。
「うっ……な、何っ……!?」
「おはよう、セリカ。」
「何がおはようよ!なれなれしくしないでくれる?」
「私、まだ先生のこと認めてないから!」
そういってセリカは走り去っていった。
……だが自分は体力に自信がある。彼女を追うことにした。
セリカに気づかれないように尾行した先には、”紫関ラーメン”という店があった。
「ラーメンって、たしか料理の名前だったよね?」
『はい!キヴォトスでも多くの人に愛されているんですよ!』
ということなので、その店に入ってみることにした。
「いらっしゃいませ!紫関ラーメンです!」
「何名様ですか?空いてるお席にご案内いたしますね!」
「……………あれってセリカだよね?」
『うむ。休暇も惜しんで稼ぎに出るとは、マメな奴よのう。』
「なっ……先生!?」
気づかれた。
「あの~5人なんですけど~☆」
後ろにはノノミ含めた4人がいた。
「み、みんな……どうしてここを……!?」
「うへー、セリカちゃんがバイトしてそうなのはここぐらいだからねー。」
どうやらこの店は、彼女たちにとってなじみの場所のようだ。
それと同時に、店の奥から店主らしき人物が現れた。
「おっ、アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそのぐらいにして、注文受けてくれな。」
「はい……大将。それでは、広い席にご案内します……こちらへどうぞ……」
セリカはいかにも不服そうな顔をして案内してくれた。
ちなみに店主のラーメンは、確かな腕を感じる味だった。
夕暮れが過ぎ、外を歩きながら、彼女たちの言ったことを思い出していた。
「9億の借金……か。」
フォドラにいた時でさえそんな金額を見るのはまれだった。戦後、大修道院の補修、戦地となった街の復興など、大金が動くのはそれ相応の仕事があった時だ。
だが彼女たちはどうだ?将来やることとしては、それ以上の金が必要になる。だが5人であの借金を完済するのははっきり言って無理だ。それを理解はしているようだが、なぜあそこまでアビドスにこだわるんだ?
『おぬし、いろいろ悩んでいるようじゃな?』
「……ソティス。」
『どれ、わしにも聞かせるのじゃ。』
「……………」
「本当に、彼女たちをアビドスに留めることが、正しいことなのかな?」
エーデルガルトが戦争を引き起こし、その5年後にはセイロス正教会を中心とした新生軍を立ち上げた。その中には、実家を離れて帝国に敵対した生徒、王国や同盟に戻り、帝国に従う、自分たちとは別で帝国と戦った生徒がいた。新生軍と合流した生徒たちは死ななかった。だが自分とは別の場所にいた生徒がどうなったのかはすべてを把握できなかった。
「確かに、彼女たちは確かな信念がある。でも、それを守るには”弱すぎる”んだ。」
『……なるほどのう。』
『おぬし、あの戦争に引っ張られすぎておらんか?』
「……否定はしないよ。」
「でも、先生と呼ばれている以上、どうしてもあの時を思い出すんだ。」
『まぁ、なるべくしてなったといえるかもしれんが、おぬしが小童に手を掛けたというのも事実だからのう。』
「そうはっきりと言わないでほしいな。」
『手に……掛けた……?』
今一番居てほしくない人に聞かれてしまった。
『そ、それに、戦争って……………二人は一体何を経験してきたのですか……?』
「アロナ、君は知らなくていいことだ。」
『で、でも……』
『別に話してもよかろう?おぬしが話したくないのなら、わしから話すが。』
「いやソティス、無闇に教えることじゃ……」
『別にそれで過去がなかったことにならん。こやつはこの先付き合いが長いかもしれんから、隠さず話したほうが楽じゃなかろうか?』
ソティスは自分がフォドラでどんなことを経験したのかを語った。
『……………』
「やっぱり……聞かなくてよかったんじゃ……」
『……いえ。』
『初めて会った時に言いましたよね?私は”シッテムの箱”のメインOSであり、先生をアシストする秘書だって……』
『先生が、生徒さんたちに死んでほしくないということは分かりました……』
『ですが、そのために生徒さんの夢を辞めさせる、というのは違うのではないでしょうか?』
「それは……」
アロナの言い分も分かる。だが、そうしたことにより、守るべきものも守れなかったのだから……
『ですから、生徒さんの夢を守る……それがシャーレの仕事だと、私は思います。』
「夢を守る……………か。」
『要するに、おぬしが小童どもを導く、至って単純じゃな。』
『はい!』
『でも、誰かを傷つけたりするなら、さすがに注意して止めてくださいね。』
「……………分かった…努力するよ。」
『あと、おぬし!キヴォトスに来てからは何か弱気になっておらんか?』
『先生として、もっとピシッとせい!』
……………二人に説教されるとは、いろいろ迷いすぎてたみたいだ。
”彼女”に笑われないためにも、生徒たちを導いていくとしよう。
読んでいただきありがとうございました。
書いてて思ったのですが、ベレスが滅茶苦茶弱気&ソティスが結構容赦ないですよね。
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