フリーレンと一京の魔法使い   作:練菓子

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次話までのつなぎなので、ちょっと短めです。




フリーレンと一京の魔法使い②

 

 

 

 

 

 

 魔法都市オイサースト……そこから少し離れた、北側諸国のとある地。

 

 未開のダンジョン、鏡会わせの魔境。人呼んで『零落(れいらく)王墓(おうぼ)』。

 

 その最深部、最奥にして最後の部屋。

 

 そこに、フリーレンら一行はいた。

 

 一級魔法使い選抜試験、第二次試験。()()()銘を付けるならば『(トラ)の威狩り』だろうか。

 

 試験者は各々思う手段で未開の迷宮『零落の王墓』の攻略に取り掛かる。

 

 翌日夜までに迷宮最深部にいた者全員が試験に合格という、極めてシンプルな試験だ。

 

 無論、シンプルながら魔法使い試験として最上である、一級魔法使い選抜試験足る難易度は誇る。

 

『零落の王墓』には、シュピーゲルという神話の魔物が棲みついている。この魔物はダンジョンに入り込んだ者の魔力を読み取り、それと全く同一の複製を作り出し、操る。

 

 つまりダンジョンに足を踏み入れた人間は、当人含め、踏み入れた全員を相手にし、倒さねばならないのである。

 

 攻略者が強ければ強いほど、迷宮の難易度は跳ね上がる。その厄介さは言葉以上のもので、多くの冒険者がこの零落の王墓に挑み、帰らぬ者となった。

 

 当然ながら迷宮の攻略は難航。最近では手付かずだったところを、その難易度を試験官、一級魔法使いゼンゼに見込まれ、第二試験会場となった。

 

 正直、現一級魔法使いですら呆れる無理難題だった。しかしフリーレンらは試験者同士でチームを組み、相性のいい相手と戦い合うという戦法によって、なんとか試験を突破した。

 

 フリーレンの複製体が半端でない強さだったせいで、フェルンの杖が砕けるだとか。試験監督をするため入ったゼンゼがシュピーゲルにコピーされ、とんでもないモンスターが徘徊するだとか。多くのトラブルにこそ見舞われたものの。

 

 フリーレンはなんとか己らが複製を凌駕し、迷宮最深部へとたどり着いた。

 

 これにて、第二次試験は終了。一行は次に待つ最終試験をともかくとして、全員が安堵のため息をついた───

 

 

 パチ、パチ、パチ。

 

 

いやぁ、見事なものだ。零落の王墓の攻略は、もう少し先のことだと思っていたよ。人間の力というものはすごいねえ

 

 全員の、視線が奪われた。

 

 目を疑うほどに。

 

 浮かれて、魔力という概念を忘れたのかと錯覚するほどに。

 

()()は、ぬるりと現れた。

 

 というよりも、いた。

 

 どこからともなく歩いてきた、でなく。ましてや空から降ってきた、でなく。

 

 つい一瞬前まで何もなかった場所に。突然、()()

 

 腰を超え、膝程にまでなる艶がかった栗梅の髪を束ね。民族衣装なのか、見知らぬ織物を身につけている。

 

 若い女の容姿で、魔力の残滓ひとつ漂わせず、感心するように拍手をして。

 

 ただ当然かのように、迷宮の奥に腰掛けて。

 

 それは、いた。

 

「一体、いつからそこに……」

()()()()()()、さ」

 

 臨戦態勢に入る、十二人の魔法使いを前にして。

 

 なんでもないように、女はそう、なんでもなく口にした。

 

時と場所を選ぶ魔法(アリバイブロック)という僕の持つささやかな魔法でね。僕はいつでも、好きな場所にいられるのさ。密室でも宇宙でも。天国でも地獄でも。夢の中でも心の中でも君達の中でさえねえ」

「なん───!」

 

 さらりと告げられ、ゼンゼは言葉を失う。

 

 ハッタリ? 否。それにしては壮大すぎる。

 

 というか、意味がない。

 

 自分の実力を過大に見せたいなら、もう少しマシな噓がある。例え、ブラフをする必要性があったところで、実際ここにいる説明にはならない。先程の彼女の登場は、まず間違いなく魔法でなければありえなかった。少なくとも、つい先ほどまで未踏破だったダンジョンに転移できるほどの力はあるとみていい。

 

 ───ハッタリの程度もわからない、余程の大馬鹿? 

 

 そんな訳はない。それなら、そもそもここまでたどり着けないはずだ。

 

 しかし。にわかには信じられない。自在に転移ができる魔法など、それこそ魔法の歴史が変わる代物。伝説級の魔法を通り越して神話級の魔法だ。

 

 ありえない。しかし、どうやって。そもそも、目の前の女は一体何だ? 

 

 情報、予測、否定。様々な情報が錯綜し、脳を埋め尽くす。そうしてゼンゼは不覚にも、一瞬呆けていた。

 

 致命的な隙だった。一人前の魔法使いとの立ち合いであれば、まず間違いなく死ぬほどの隙。

 

 その意識を呼び戻したのは、銀髪のエルフだった。

 

「ゼンゼ、あまり真に受けない方がいい。

 時と場所を選ぶ魔法(アリバイブロック)は確かに彼女が好んで使う魔法だけど、本質じゃない。そんなもの、彼女にとっては一京(いっけい)分の1の力にすぎないからね」

「一、京……!?」

 

 ピンとこない。普段聞くことすらない単位に、背筋が凍る。

 

 困惑と未知への恐怖を綯交ぜにするゼンゼ。表情を隠す余裕すらないその様子を見やり。フリーレンはため息を吐いて立ち位置を変える。

 

 圧倒的未知の生物へ、物怖じ一つせず話しかけた。

 

「や。最近は見なかったけど、まさかこんなところにいたなんてね。いつものできないこと探し?」

「ああ。あと数ヵ月は突破されないと踏んでいたんだがね。お陰でアテが外れたよ。次はもう少し、難易度を上げてみるかな」

 

 その語りはまるで、既知の友人と話すかのようだった。内容こそぶっ飛んでいるが、フリーレンもどこか懐かしそうな様子を見せている。親し気な様子に、一同の警戒のギアがわずかに下がる。

 

「フリーレン様……お知り合いなのですか?」

「うん。ここに来る途中で話した……」

「おっと。その先の台詞は僕に譲っておくれ。僕を知っている人も少ないみたいだし、ここは改めて、自己紹介をさせてもらおうかな」

 

 咳払い一つなく、修正のしようもないほど完璧に。人間ではありえないほど精緻な声で。

 

「一級魔法使い志望の皆さん、こんちには。僕は安心院(あじむ)なじみ。しがない人外の魔法使いさ」

 

 人外は()ぐ。

 

「親しみを込めて、安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」

 

 臆面どころか、何一つ恥じることのない親しみやすさで。巫女服を着込んだ魔法使いはそう名乗った。

 

 フェルンは、つい先日聞いた師の言葉を思い返していた。

 

 ────誰もが、彼女を安心院(あんしんいん)さんと呼ばざるを得なかった、と。

 

 数秒後、彼女も理解することとなる。

 

 絶対的な力を前に。逆らう気すら起きない絶対強者を前にした際。

 

 相手の望むままにするしかない、自らの無力さを。

 






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