俺がこの世界で目覚めてから約6年後の4月中旬。
大都市である一城市の市街地にあるデュエルアカデミアキャッスル校。
近代的なビルが並ぶ都市部から外れた大きな敷地を持つ中高一貫校の学園で、ここはデュエルの実力で立場が決まる場所。
ある意味ではデュエルモンスターズで全てが決まるこの世界にはピッタリなのだが、俺は花形のデュエル科ではなく普通科に通っている。
その理由は……まあ、特に語ることでもないので、今日も窓側の席からグラウンドで行われているデュエルを観察していく。
「楽しそうって言うよりもしんどそうだな」
「そりゃ勝たなきゃ意味がないって教育されているからねー」
「だろうな……。で、学年3位の朝川夢香さんは何で普通科の教室にいるんだ?」
「デュエルの師匠である颯斗に会いにきただけよ」
「すとれーと……」
周りの視線が痛いんだけど?
この学園ではデュエルの強さ=権力なので花形であるデュエル科はいい思いができる。
そのため普通科やサポート科の生徒は肩身の狭い思いをしているが、俺の場合は夢香が毎日のように会いに来るせいで違う意味で浮いているんだよな。
まだ高等部が始まって一ヶ月しかたってないが、中等部次代での出来事もあるから余計な事ができない。
なので静かに暮らしていたいのに、その願いは叶わず1年23組の扉が勢いよく開いた。
「邪魔するぜ!」
「邪魔するなら帰ってー」
「おうよー! って、この流れは昨日もやったぞ!!」
ブチギレる乱入者の大男。
制服は黒色のコートなのでデュエル科の生徒と一目でわかり、胸元には8位と書かれた金色の勲章がついている。
そのためクラスメイト達はビビっているのか目を逸らしており、大男の取り巻き2人はニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべながら近づいてきた。
「あらあら、学年ランク8位の剛力が何のようかしら?」
「チッ、今回はランク3位のお前じゃなくてそこのヘタレに用があるんだよ」
「他のやつならともかく颯斗はアタシの幼馴染なんだけど」
「竜姫の幼馴染ねー。それならデュエルが強いんだよな!」
これは明らかな挑発だな。
そうなるとここは無理に乗る必要はないので適当に受け流すのが一番だが、ニヤッと笑みを浮かべた夢香は自信満々に口を開く。
「本気のアタシでも勝率3割弱と聞いたらどう思う?」
「つっ!? それは断然面白くなるな」
「で、でも、郷田さんは前に龍姫とのデュエルで負けましたよね!」
「うるせぇ! あの時は調子が悪かったんだよ」
「ええ……でも10連敗中」
すでに10回も負けているのかよ。
それならさっさと諦めて欲しいところなのだが、筋骨隆々で角刈りさんこと郷田君は獰猛な笑みを浮かべながらコチラに向いた。
というか、この流れはかなりマズイが本人達はどこ吹く風みたいで勝手に話が進んでいく。
「それならコイツにデュエルを申し込む!」
「もちろんいいけど負けても泣かないでよ!」
「待って待って!? なんで強引に決めるんだ!」
「デュエリストなら挑まれたら受けるのがルールだろ!」
おおう……。
その言葉は中等部時代も耳にしたので萎えていると、満足そうに笑っている竜姫こと夢香がトドメの一言。
「アタシの師匠だしあんなやつぶっ倒してね」
「なっ、それは本当なのか!」
「もちろん本当よ!」
「おまえな!?!? ああもう、俺が勝ったらスペシャルパックをワンカートン奢れよ!」
「ちょっ!?」
ここまできたら勢いでやるしかない。
そう思った俺は強引に取引をした後、戸惑っているゴリマッチョ共に視線を送りながら頭が痛くなるのだった。
ーー
デュエルアカデミアのデュエル。
今回はデュエル科同士じゃないのでランクポイントの変動はないみたいだが、デュエルドームには大勢の観客が集まっていた。
というか、大体のやつは学年ランキング8位の剛力こと郷田君が勝つと言っており、俺も見物人だったら多分おんなじ事を言っている。
そのため左腕にデュエルディスクを装着したが、帰りたい気持ちが湧き上がってしまう。
「何はともあれ龍姫を倒す前にまずはお前からぶっ潰してやる!」
「俺は普通科の生徒なんだが?」
「あの龍姫が一目をおく存在がタダの普通科の生徒じゃないだろ!」
「おおう……」
マジで俺は観客席側にいたい。
俺がスレているのは百も承知ではあるが、個人的にデュエルは大好き。
そのためデュエル自体は問題ないがガチガチな空気感はあまり好きではない。
そのため渋い表情になっていると、対戦相手である郷田君がデュエルディスクを展開した。
「さあお前のデュエルを見せてもらうぞ!」
「は、はい」
「「デュエル!!」」
桐原LP4000VS郷田LP4000
マスタールール2・先行は郷田。
デッキからカードを5枚ドローした後。
先行を確認すると向こうからなので俺は手札を……うん、めっちゃいい手札なんだが?
内心で今の手札を見て喜びつつ視線を上げると、郷田君の方も手札がいいのか頬を釣り上げた。
「オレのターン、ドロー! まずは予想GUYを発動してデッキからジェネティック・ワーウルフを特殊召喚」
「初手から攻撃力2000のモンスターとか、郷田君も気合いが入っているなー!」
「このままだと銀髪の優男は何もできないんじゃない?」
ジェネティク・ワーウルフ
ATK2000
うーん、ぶっちゃけジェネティク・ワーウルフだけなら特に問題がない。
てか、ドラグニティデッキを使う夢香の方がわりかしエグい盤面を作ってくるので、この程度なら問題はないが……。
ただ相手は学園ランク8位の実力者だし、この程度で終わるわけがないよな。
「もちろんこの程度で終わるつもりはない! 次に神獣王バルバロスを妥当召喚し装備魔法・愚鈍の斧を装備して自身の効果を無効にする代わりに攻撃力を1000ポイントアップさせるぜ!」
「さ、流石、学園ランキング8位の実力者」
「攻撃力4000のモンスターをこんな軽々と出すなんて」
「まだまたぁ! さらに魔法カード・二重召喚を発動し、増えた召喚権でジェネティク・ワーウルフをリリースしてアドバンス召喚! こい、デーモンの召喚!」
神獣王バルバロス
ATK4000(愚鈍の斧を装備)
デーモンの召喚
ATK2500
初手から攻撃力4000の上級モンスター+アドバンス召喚される上級モンスター・デーモンの召喚。
攻撃力が高いモンスターが二体揃っているが、前世の時みたいにコチラを妨害するカードがないのでまだ楽ではある。
そのため気を抜いていたが、ふとあるカードを思い出して冷や汗をダラダラと流し始めしてしまう。
「これで終わりだ! 俺はデーモンの召喚にデーモンの斧を装備させてターンエンド!」
「……スキルドレインは伏せないのか?」
「スキドレは手札に来てないんだよ!!」
デーモンの召喚
ATK2500→3500(デーモンの斧を装備)
あ、はい。
悲痛な叫びを上げる郷田君だが、スキルドレインがないのはかなりありがたい。
なので俺はさっき引いた5枚の手札を見つつ、追加のドローでどのカードがくるか楽しみにするのだった。
ーー
《ターン2》
・名前、桐原
・LP4000、手札6枚
《フィールド》
〈モンスター〉
・ゼロ
〈魔法・罠〉
・ゼロ
ーー
・名前、郷田
・LP4000、手札1枚
《フィールド》
〈モンスター〉
・神獣王バルバロス(愚鈍な斧装備)
・デーモンの召喚(デーモンの斧装備)
〈魔法〉
・愚鈍な斧〈装備魔法〉
・デーモンの斧〈装備魔法〉
ーーー
状況的に相手フィールドには攻撃力4000と3500の上級モンスターが2体。
郷田君の戦い方はシンプルイズベストのパワーデッキなので、観客席で見ている生徒達はガヤガヤと話していた。
「銀髪はどうしようもないだろ」
「逆にあの展開を返せたらランカーレベルよ」
「そうそう! てか、青色のブレザーを着た普通科のやつが返せたら驚きだぜ」
だよなー。
まあでもすでに返せる手段は揃っているので、俺はデッキからドローしたカード手札に加えた後。
展開して行くために別のカードをデュエルディスクのプレートに置く。
「相手フィールドに攻撃力2000以上のモンスターが存在する場合、手札の無限竜シュヴァルツシルトは特殊召喚でき、コイツの効果でデッキから螺旋竜バルジを効果を無効にして特殊召喚」
「なっ!? 上級モンスターを召喚権なしで出しただと!」
・無限竜シュヴァルツシルト
ATK2000
・螺旋竜バルジ
DFF2500
こちらのフィールドに現れる2体のドラゴン。
互いにレベル8なので準備ができたのだが、特等席に座っている夢香は目をキラキラとさせながらつぶやいた。
「デュエル科でも使える人が少ないアレが見れるわね」
「アレ? 龍姫様はこの後の展開がわかるのですか?」
「颯斗とは何回もデュエルしているから当たり前よ」
あいつ、隣にいるデュエル科の女性生徒と何か話しているな。
まあでも、コチラのやる事は変わらないので視線を郷田君に戻した後、フィールドに揃っているドラゴン達に右手を向ける。
「俺はレベル8の無限竜シュヴァルツシルトと螺旋竜バルジでオーバレイ」
「……はっ!? お、おいまさか!」
「2体のモンスターでオーバレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろ、ランク8! 神影金龍ドラッグルクシオン!!」
・神影金龍ドラッグルクシオン
DFF3000
フィールドの天井に現れた真っ暗なブラックホールみたいな渦に入っていく2体のドラゴンが光に代わり中に入ってく。
すると大爆発が怒り中から現れたのは黄金に輝くドラゴン、神影金龍ドラッグルクシオン。
このデッキのエンジン役のため、相棒を出すために召喚させてもらった。
「は、ははっ、守備表示とか驚かせるなよ」
「そうだったらよかったな。俺はEXデッキから特殊召喚された神影金龍ドラッグルクシオンの効果発動。デッキから
「あ、アイツ、さっきから手札が減ってないぞ!」
・銀河眼の時源竜
ATK3000
本当は他にも回せるんだがあまり余計な手は使わない方がいいよな。
そう思いながら俺はエクストラデッキに入っている相棒を見ながら、フィールドに存在する神影金龍ドラッグルクシオンに頷く。
「だ、だが、オレの上級モンスターには攻撃力は及んでない!」
「それはどうかな?」
「まだ何かあるのかよ!?」
「ああ、俺は神影金龍ドラッグルクシオンのX素材を2つ使って効果発動。このカードの上にドラゴン族でランク8、攻撃力3000のエクシーズモンスターをこのカードを素材してエクシーズ召喚をする!」
「……へ?」
「俺は1体のモンスターでオーバレイ」
このやり方はこの世界ではあんまり見ないんだよな。
目が点になっている郷田君を尻目に、空中に浮き上がるブラックホールに入っていく金色のドラゴン。
その姿はかなり美しく、まるで天に登っていくドラゴンのよう……。
「オーバレイネットワークを構築! 宇宙を貫く雄叫びよ。遥かなる時をさかのぼり、銀河の源よりよみがえれ! 顕現せよ! そして我を勝利へと導け! 現れろ、ランク8! No.107銀河眼の時空竜!!」
「クオオォン!!」
「きたぁ! 颯斗のエースモンスター!!」
「そうそう! あ、追加効果でエクストラから超銀河眼の光子龍を素材するな」
・No.107銀河眼の時空竜
ATK3000、X素材は2つ
フィールドに現れる紫色の装甲を持つ機械的なドラゴン。
スフィアモードからモンスターモードにガシャガシャと変形し、原作のアニメを見て惚れた相棒が天高く吠えた。
その姿は凛々しくかっこいいので、俺はテンションを上げながらニヤリと笑う。
「な、何なんだお前は!」
「ただの普通科のモブ生徒だが?」
「んなわけあるか!?」
そんなことを言われてもな。
口をアングリと大きく開けている郷田君や目が点になっている観客達。
タキオンさんの姿に見惚れているなら嬉しいので、内心で気持ちよくなりながらデュエルディスクを構え直す。
「さてと、バトルに入ると同時にX素材を一つ使ってタキオンの効果を発動!」
「ま、また姿が変わるのか!?」
「ああ、これで自身以外の表側に存在するカードすべての効果を無効した後に攻撃力を元々の数値に戻す!」
「なんだと!?」
神獣王バルバロス
ATK4000→3000
デーモンの召喚
ATK3500→2500
スフィアモードになったタキオンさんが放つ紫色の光を浴びた他のカードは素の状態に戻っていく。
その時に相手のモンスターの攻撃力は元に戻ったのと、フィールドのカード効果が無効になったのでこのカードが使える。
「タキオンの効果後に速攻魔法、殲滅のタキオン・スパイダルを発動! ①の効果、表側で効果が無効になっている相手フィールドのカード全てを破壊する!」
「はあぁ!?」
モンスター状態になったタキオンさんから放たれる紫色のブレスを浴びた相手フィールドは壊滅。
何もなくなった状態になり、プレイヤーである郷田君は何ともいえない表情で膠着していた。
「お、おい、これって……」
「そんなバカな事があるの?」
「てか、あのドラゴンは凛々しいわね」
今日のデュエルを見にきた生徒達はキラキラとした目でこちらを見てきた。
そのため凛とした姿で吠えるタキオンさんを見た後、改めてバトルフェイズなので俺は容赦なく攻撃していく。
「バトル、2体のタキオンでダイレクトアタック!!」
「クオオォん!」「きゅあ!」
「こ、こんな、ばがなぁ!?!?」
郷田LP0(ダメージ6000)
勝者、桐原颯斗
フィールド外に吹き飛んでいく郷田君。
このデュエルはリアルダメージがあるソリットビジョンなので、痛みが実際にある。
なので俺もあまりこのやり方でデュエルをしたくないが、身を守る為にやらないといけない。
その事で思わずため息を吐きながらデュエルフィールドから降りていくのだった。