夏休みの予定…部活しかないです…。
光の刺さなかったこの場所に薄気味悪く輝く月光が一筋の線になるように所々の隙間から入り込んできていた。
その光は影を作り濃く、深くする。
弱く、悲しげな隙間風が仮面のフードを扇ぐ。
「…早く、殺せよ…そのために来たんだろ?誰だかは知らんがどうせヤツらの仲間かなんかなんだろ…?」
仮面の前で両手両足を動かせなくなり、最早人形と変わらなくなった男は弱々しく諦めたかのように言う。
それでもその鋭く睨む目は仮面から一切反らすことはなく食い殺す勢いだ。
「怖いなぁ、そんなに悔しいの?まぁ、私はあんたより一回りも二回りも小さいしね。」
そんな男の態度にまるで緊張感のない口調でヘラヘラと言葉を返す仮面。
それもそうだろう、今彼女の目の前にいるのは動けなくなったゲガを負った人間…玩具なのだから。
「元はと言えばさぁ?お前が原因なんだよ?こんなのに手を出しちゃうから。」
仮面はその安物のようなズボンの中から先程と同じカプセル状の薬の入った袋を取り出し男の前でフラつかせる。
男は歯を食い縛り仮面を睨む目を更に鋭くした。
「どんな辛い人生送って来たかは知らないけどさ?まぁ、私には関係ないし幸せにしてやるって言ってんだろ?」
仮面は袋をズボンの中にしまい直すと男の目線まで腰を下ろす。
「…なにが幸せだよ!どうやって?また、その薬を飲ませて一時的にか?それとも俺がまだ助かる方法でもあんのか!?」
男は仮面に向かって叫ぶ…が仮面の奥に隠した素顔がどう変化したかは男には分からない。
「はぁ!?助かる方法!?舐めてんの??有るわけないじゃんそんなの!!言ったでしょ?あんたの人生はこれに手を出した時点でエンドってるんだよ!!なに夢見てる訳ぇ!?」
仮面は立ち上がると男を踏みつける。
「…ぐっ!!」
「だいたいさぁ!!見知らずのヤツをいちいち助けるほど私はお人好しじゃねぇんだよ!!薬を飲ませるぅ!?馬鹿言うな!!お前にやるほどホイホイ手に入る代物じゃねぇんだよ!!」
仮面は叫びながら男の腹部周辺を何度も踏みつける。
両手両足が使えない男にそれを守る術は無かった。
「今のお前の一番の幸せってのはなぁ!!!」
肋骨が砕ける、仮面が踏み砕いたのだ。
男の口から血が巻き散る。
「この人生からさっさと手を引く事なんだよぉ!!!」
仮面は息を、切らしながら息すらろくに出来なくなっている男を眺める。
何処からか吹いてくる風は勢いを増し、雑に仮面のフードを脱がした。
奇抜な髪が乱暴な風に踊らされ生きているように揺れる。
「…たてが…み。」
男は出ない声を出し呟くように言う。
月光に照らされたその髪は真っ赤な、不気味な色を映し出す。
「返り血の…鬣、ヒス…?」
「なぁに?私の事知ってんの?私も有名になった物だな!」
フードを被り直しながら陽気な声を発する仮面。
男は密かに笑っているような表情となる。
「大犯罪者が…よく言う…。」
「大犯罪者ぁ??うーん?身に覚えが無いなぁ?」
仮面は笑う…少なくとも男にはそう感じられた。
「ところでさ、もしかしてお前に家族とかっている?家族じゃなくても一緒に暮らしてる人とかさ…。」
仮面の口調が変わる、高く陽気な声から、低く深い声に。
「…なんだよ、いたら同情でもしてくれんのか?逃がしてくれるとか…?」
仮面はなにも言わない、男の答えをただ待っているようだった。
「…いねぇよ、独身だし、父親も母親も俺が小さい時に死んだ…独り暮らしだ、満足か?」
男からは先程とは違う全てを受け入れるような目が仮面に向けられていた。
「…そうか、よかった…。」
仮面は足を男の顔面までゆっくりと上げた。
「お前は私程、クズじゃない…。」
翌朝、頭部がバラバラに吹き飛んだ遺体が発見される。
その遺体の胸ポケットからは一人の少年と一人の女性と、そして男が映った写真が発見されたそうだ。
なお、この事件がニュース、新聞等で発表されることは無い。
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