「うわーん! 助けてオマえもーん!」
突然だが、この情けない声を上げて爆走している少年はイグ太くん。
レッドガンに所属するうだつの上がらないAC乗りだ。
ちなみにフルネームはイグ イグ太くんとなる。
これを見て卑猥なことを連想した奴は心が穢れているので注意してほしい。誰だよ
そんな彼だが、ビビりな性格が災いしてACではガン盾ばかり、そのせいで戦績は振るわずいつも担任のミシガン先生に怒られ、近所に住むスネイル夫やフロイトィアン、そしてのらいぬなどにボコボコにされる毎日を送っていた。
だが、そんな彼にも転機が訪れる。
彼の元に、ある日突然奇妙な同居人がやってきたのだ。
それこそが、今彼が泣き付こうとしている相手――――未来を生きる傭兵支援システムを自称する美少女型ロボット、オマえもんであった。
「おや、イグ太くん」
勢いよく扉を開けて部屋に入ってきたイグ太に、オマえもんが振り返る。
その整った緑メッシュの黒髪にビッシリ決めた黒スーツという外見は、本来知的でクールそうな印象を与えるものだったが――――そんな外見的特徴とは裏腹に、彼女の出で立ちからはむしろそれと正反対の印象が漂っていた。
言い方を変えるなら――――どことなくアホそうだった。
そんな彼女――――オマえもんは、数日前にイグ太がのらいぬにボコられて泣きながら帰宅した直後、部屋の収納から這い出して来たのだ。
ちなみにその収納は別にタイムマシンになっているとかそんなことはなく、人ひとりがギリギリ入れそうな普通の収納スペースであった。
これを冷静に考えた場合、彼女はイグ太の留守を狙って彼の部屋に忍び込み、その樹大枝細な身体を収納スペースに押し込んで彼の帰りを待っていたヤバい奴という事になるのだが、イグ太はそれに関しては不毛なので考えないようにしている。
なお、オマえもんが体のあちこちをつっかえさせたりひっかけたりしながら、時折奇怪な悲鳴を上げつつ収納スペースから這い出して来るという光景がいかに青少年の健全育成に悪影響を与えるか、という議題についてだが、これも不毛なので考えない方が賢明だろう。
閑話休題、ともかく無事にイグ太の部屋へ不法侵入を果たしたオマえもんは、帰ってきた部屋の主に対してこう言い放ったのだ。
「我々、オマえもん! 未来を生きる傭兵支援システムです! あんなこともこんなことも、不思議なパーツで叶えて差し上げますよ!」
で――――今に至る。
「どうしたのですか? イグ太くん」
「助けてオマえもん! またのらいぬに負けたんだ! のらいぬに勝てる武器を出して!」
「しょうがないですねぇイグ太くんは。でも大丈夫、オマえもんは全ての傭兵のためにありますから」
イグ太の嘆きに応え、胸ポケットをまさぐり始めるオマえもん。
ちなみにイグ太は傭兵ではなくれっきとした企業所属なのだが、彼女がその辺をどう認識しているかは不明だ。
「てってれー。『44-142 KRSV』です」
オマえもんがセルフ効果音と共に胸ポケットから取り出したのは、銃身が横に二つ並んだような奇怪な形状の大型武器であった。
「オマえもん、これは?」
「よくぞ聞いてくれました、これは時代の最先端を行く最強の武器です!」
ふふんと胸を張りながら自慢げに話すオマえもん。
そう、彼女は決して人の部屋に不法侵入しただけの変質者という訳ではなく、未来を生きる高性能な傭兵支援システムだったのだ。
「これを使えば、スネイル夫にもフロイトィアンにも、のらいぬにも決して負けることはありませんよ!」
「わーい! ありがとうオマえもん!」
オマえもんの自信満々な様子と、取り出した武器の強そうな見た目にイグ太は大喜び。
早速その武器を受け取ると、のらいぬにリベンジマッチを挑むべく駆け出して行った。
「ふふふ……傭兵支援システムとして当然のことをしたまでです」
駆け出していくイグ太の勝利を確信し、オマえもんは感慨深く呟く。
そう、これこそが彼女の使命。不思議なパーツの力で迷える傭兵たちを導くことこそが、オマえもんの存在意義なのだ。まあイグ太は傭兵ではないのだが。
ちなみにそのイグ太だが、この後普通にW重ショでボコボコにされた。
「……これがアーキバスの最新兵器、スタンニードルランチャーです」
あれから数日後、イグ太、スネイル夫、フロイトィアン、のらいぬの四名は空き地でたむろしていた。
ルビコニアンデスワームが三つほど置かれているだけの、何の変哲もない空き地である。
ここはイグ太らの家からもほど近く、近所に住むAC乗り達の集会所としてちょうどよかったのだ。
そんな空き地で、眼鏡をクイっとしながら口を開いたのはスネイル夫。
彼はアーキバスという大企業である。
これは重役とか社長とか株主とかそういう話ではなく、スネイル夫は企業それそのものなのだ。
よって、当然ながら彼は金持ちだ。
そして企業そのものであることや金持ちであることを鼻にかけ、事あるごとに自慢してくるイヤミな奴でもある。ただしフロイトィアンには絶対に勝てない。
そんな彼がこうして最新兵器を自慢してくるのは、実によくある出来事だった。
「ほう、今度はどんなオモチャを作ったんだ、スネイル夫?」
スネイル夫の自慢話に真っ先に興味を示したのは、フロイトィアンである。
彼の名前を一体どのように発音すればいいのかは不明だ。
まあそれはともかく、彼は寝ても覚めてもACの事ばかり考えているバカで、漫画家志望の妹がいるらしい。
そして、スネイル夫の複数ある頭痛の種、その頂点に君臨する存在であった。
「…………」
一方、のらいぬはスネイル夫そっちのけでイグ太を見つめていた。
彼女はこの四馬鹿の紅一点で、たまに虚空と話している不思議ちゃんだ。
ちなみに父親に溺愛されていることでも知られており、万が一彼女の風呂を覗こうものなら覗いた奴は翌日死体で発見されるだろう。
そんな彼女は基本的にはパパの言う事をよく聞くいい子なのだが、何故かイグ太に対してだけは往年の暴力系ヒロインじみたバイオレンスな態度で接するのだ。
これはイグ太の元にオマえもんがやってきてからより一層苛烈になった気がするが、おそらくは気のせいだろうとイグ太は考えている。
そんな三人と、そしてイグ太。
それがこの空き地に集まった四馬鹿の全容であった。
「スネイル夫、これしばらく借りていいか?」
「……以前貸したレーザーランスが未だ返却されていないのですが、そちらを返却するつもりは?」
「ははは心配するな、永久に借りておくだけだ。いつか返すさ」
「…………」
「スネイル夫、俺にも貸してよ!」
「残念ながら、これは三つしかないのですよ。まあ今しがた実質二つになりましたが なので貴方のような狂犬に貸す余裕はありませんね」
「えっ」
「……そんなの気にしなくていいよイグ太さん、それより――――」
「うわーん!! 助けてオマえもーん!!」
「」
申し出をにべもなく断られたイグ太は、のらいぬの言葉に耳を貸す間もなく走り出す。
なお、振り向かずに走った彼は、それを見送ったのらいぬが浮かべていた表情を見ることはなかった。
「オマえもん! スネイル夫をギャフンと言わせるような武器を出して!」
「おやおや、しょうがないですねイグ太くんは……」
またしてもオマえもんに泣きついたイグ太。
オマえもんもまたそれに応え、たゆんと胸を張りつつそのポケットをまさぐる。
余談だが、それはのらいぬには無いものだった。複数の意味で。
「てってれー。『44-141 JVLN ALPHA』です」
まあそれはともかく、今回オマえもんが取り出したのはシャープなデザインのバズーカだった。
それだけなら特に変哲も無いバズーカなのだが、その銃身下部には鋭い銃剣が取り付けられている。
「オマえもん、これはどんな武器なの?」
「ふふふ、これは最強の直撃補正を誇るバズーカです! これならそのワーム砲とかいうのにも負けることはありません!」
「わあ、ありがとうオマえもん!」
オマえもんの解説にイグ太は興味津々だ。
その見た目から考えて、おそらく銃剣による近接攻撃とバズーカによる射撃を組み合わせた強力無比な追撃コンボを放つことが出来るに違いない。
「早速スネイル夫に自慢してくる!」
バズーカを受け取り、喜び勇んで駆け出したイグ太。
相変わらず、オマえもんはそれを優しく見送る。
「ふふふ……オマえもんは全ての傭兵のためにあります」
なお、イグ太はこの後なぜか激昂していたのらいぬにボコボコにされた。
あと銃剣は特に効果を発揮しなかった。
「大変だよオマえもん! メテ子がフロイトィアン×スネイル夫のBL同人漫画をバラ撒いてるんだ! なんとかしてよ!」
「しょうがないですねイグ太くんは……てってれー、はい、『45-091 JVLN BETA』」
「わぁいありがとうオマえもん……イヤ待て、冷静に考えたらこれでどうしろってんだ?」
「えっ」
「いやだって、確かに友達の生モノBL同人誌がばら撒かれているのは色々とキツイんだが、別に武力行使で解決する程のことじゃあなくないか?」
「……急に理性的にならないでくださいよ、あと口調変わってますよ」
「大変だよオマえもん! キメ杉くんがまた薬をキメ過ぎて錯乱してるんだ! 自分が無敵かつ最強の何でもできる天才だと思い込んで暴れてる!」
「しょうがないですねイグ太くんは……てってれー、はい、『45-091 ORBT』」
「オマえもん、暴力以外の解決法は知らないの?」
「傭兵支援システムですから。それに、キメ杉くんは何度やられても生きてるので大丈夫ですよ」
「あと、型番が被ってんぞオマえもん」
「大変だよオマえもん、鉄人兵団が攻めてきたんだ!」
「それはいつもの事なのでは?」
「……それもそうだ」
――――そんなこんなで、オマえもんとイグ太の日常は続いていく。
その、はずだった。
「ねえイグ太さん、どうしてここまで戦うの?」
「――――決まってんだろ」
「ひょっとして、私のことが――――」
「一回くらいテメェに勝たなきゃぁ、オマえもんが安心して帰れねぇだろうが――――野良犬!!」
「――――――は?」
そんな、私は企業だぞ――――!?(ワーム砲全ロスト)