「あなたが落としたのはこの
「いえ、もっとヘンテコなやつです」
「あなたは正直者ですね。ではこの二つのKARASAWAをあげましょう」
「…………」
イグ太の部屋の中心にできた謎の水たまり。そこから出てきた女神のような人物は、両手に持った強そうな武器をイグ太に手渡す。そして事を終えるや否やそそくさと水の中に戻っていった。
ここまでの経緯を説明しておこう。いつものように、オマえもんから押し付けられた妙ちくりんな武器をどう有効活用すべきかと頭を悩ませながら自室に戻ってきたイグ太。
そこで部屋の中心に広がる謎の水たまりを発見した彼は、つい魔が差して持っていたものを水中に投げ込んでしまったのだ。
「強そうだな……」
謎の女神から渡された二つの武器を見やるイグ太。
それらは大まかなシルエットこそオマえもんから渡されたものと類似しているものの、銃身が二つ並んでいたりはしない。
シンプルで……何やらいろいろと猛威を振るっていそうな雰囲気がそこにはあった。
……これを使えば、普段は手も足も出ないのらいぬに一矢報いることができるかもしれない。
そう考えたイグ太は、さっそくいつもの空き地へ向かおうとする。
「おや、イグ太くん? KRSVはどうしたのですか?」
だがしかし、何事もそううまくいくものではなかった。
押し入れの中で眠っていたオマえもんが都合よく目を覚まし、イグ太に問いかけてくるではないか。
オマえもんは、自身の手で開発した武器に絶対の自信を持っている。
そんな彼女が最高傑作と公言してはばからないKRSVを捨てたとなれば、面倒ごとになるのは必至だった。
「……あっ! あんなところにミールワームが!」
「えっ?!!??!?!?!?!?」
隙を作るべく、あらぬ方向を指さして叫ぶイグ太。
それを鵜吞みにし、突然現れた脅威からの逃走を試みるオマえもん。
だがオマえもんはポンコツであった。
寝起き一発、だらしない寝間着姿のまま跳ね起きた彼女はそのまま派手に転び、押し入れから落下する。
そして、その先にあるのは――――
「あなたが落としたのは、このきれいなオマえもんですか?」
「いえ、もっときたないの」
「では、このきれいなオマえもんをあげましょう」
こうして、きれいなオマえもんとの生活が始まった。
「我々はきれいなオマえもんと申します。本日より、貴方の生活をサポートさせていただきますね」
礼儀正しい所作で挨拶を済ませる、きれいなオマえもん。
ついさっき水たまりから出てきたばかりの彼女だが、身なりは全く乱れていない。
見た目だけは良かった元のオマえもんと比べても非常に整った印象を受けるスーツ姿からは、几帳面そうな雰囲気と清潔感があふれ出ていた。
その瞳は澄み切っており、穏やかな微笑みをたたえた表情からは確かな理知が感じられる。
あと、最近おま焼きの食べ過ぎで贅肉が目立ってきた元のオマえもんと比べて、幾分かスレンダーだった。
「よ、よろしく……お願いします……」
いつもとはまるで異なるきれいなオマえもんの様子に、イグ太も少々委縮しているようだ。
だがそんなイグ太に遠慮することもなく、きれいなオマえもんは彼の目の前まで近づく。そしてイグ太の手……が握っているKARASAWAに触れた。
「イグ太くん。これらの武器を現行の環境で使うのはマナー違反ですよ。特に2の方は対戦で使うと友達を失くす危険性があります。没収させていただきますね」
「あっはい……」
「問題はありません。我々が貴方のために最適化された武器を用意いたしますので」
そう言って、きれいなオマえもんはイグ太からKARASAWAを取り上げ、胸ポケットにしまう。
「我々が来た以上、もはや何も心配することはございません。きれいなオマえもんに全てお任せください」
自信と風格をうかがわせる口調で、優美に宣言するきれいなオマえもん。
その様子はまさしく彼女の名前…………きれいなオマえもんを体現しているようだった。
こうしてイグ太の新たな生活は、順風満帆なものとなることが確約された――――かに思われたのだが。
「いいですかイグ太くん。兵器開発において最も重要なのは実用性と信頼性です。ロマンや遊び心で余計な機能を付加するといったことはあってはならないのです」
「はい」
「イグ太くん、景品を用意する際は手を抜いてはいけませんよ。安易なカラーバリエーションで数量を盛るのは愚かな行為です」
「……はい」
「イグ太くんイグ太くん、チェックは入念にしなければなりません。番号の重複やグラフのズレというような、不注意によるミスは恥ずべきものです」
「…………はい」
「イグ太くん。なんでもすぐに他者に頼るのは良くありませんよ。また、頼みごとをする際は『対処してください』などと言って丸投げするのではなく――――」
「……こんなのオマえもんじゃない!!!」
イグ太の限界は割とすぐに来た。ギャップに耐えられなかったのだ。
「イ、イグ太くん?」
「オマえもんはこう、もっと雑で……丁寧なのは口調くらいのもので……!」
「ひ、ひどくありませんか……?」
「あと、これのどこら辺が最適化された武器なんだよ!!」
そう言って、イグ太は二丁のKRSVを取り出す。
そう。これこそが、没収されたKARASAWAの代わりにきれいなオマえもんから与えられた武器であった。
「何を言っているのですか? それこそ完璧に最適化された、100%の実用性と信頼性を誇る武器です」
「いやロマンと遊び心が100%だろどう考えても!!」
「そんなはずはありません! KRSVは我々の合理性を突き詰めて生み出された最高傑作ですよ……?」
がっくりと肩を落とすきれいなオマえもん。
ここに至るまでの流れで、イグ太の中にとある考えが浮かび上がりつつあった。
それは…………きれいなオマえもんはただ単に外面がきれいになっただけで、特段性能が上がったわけではないのではないか、という疑惑だ。
要するに、きれいなオマえもんも結局のところポンコツなのではないか―――ぶっちゃけ、イグ太はそう確信し始めていた。
「……あっ、あんなところにミールワームが」
「えっ?!!??!?!?!?!?」
すべてを悟ったイグ太は、あらぬ方向を指さして呟く。
次の瞬間、きれいなオマえもんはきゅうりを目にした猫のように驚き、飛び跳ね――――水たまりへと落ちていった。
「あなたが落としたのは、このとてもきれいなオマえもんですか?」
「……いやもっと、更にきれいなやつ」
「では、このきたないオマえもんをあげましょう」
こうして、いつものオマえもんが戻ってきた。
「我々はきたねぇオマえもんです。傭兵支援とかめんどくせーですよ」
……いや、どうやらすこし汚くしすぎたようだった。
水たまりから現れたオマえもんは、いつものスーツをラフに着崩したような服装をしており、目にはサングラス、口には棒状の駄菓子を装備している。
あと、心なしか元のオマえもんよりもムチムチとしていた。
「まぁ、せいぜいよろしくお願いするのですよ。イグ太くん」
困惑するイグ太に対して、きたないオマえもんはめんどくさそうにそう言い放った。
……こうして、きたないオマえもんとの生活が始まったのである。