ヴァンガード・スターダスト&ダスト   作:栗山飛鳥

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今回も番外編となります。
このお話での出来事は、本編には一切影響しません。


第幻想「あなたに出逢えてよかった」

「ペルソナライドォ!! 何ィ!? ペルソナライドはないのかァ!?」

「ゲット、(クリティカル)トリガー! ★とパワー+10000はヴァンガードだ! ……え? +5000だって?」

「《マーメイドアイドル セドナ》にライド! 後攻なので1枚ドロー! ……ちがう?」

「あんたらはいいかげんに慣れなー」

 ファイトスペースににイチニィサンの悲鳴とネネの茶々入れが響く中、カードショップ『眠り姫』主催、ヴィンテージファイトは後半戦を迎える――!!

 

 

★彡

 

 

「《探求の騎士 ガラハッド》のスキル発動! 山札の上から5枚見て……その中の《試練の騎士 ガラハッド》にライドします!」

 カケルが淀みない手つきでカードを操り、隻眼の騎士を昇級させる。

「おや? ロイヤルパラディン……ですか。先ほどはシャドウパラディンを使っていませんでしたか?」

 対戦相手の副会長が几帳面にメガネの位置を直しながら尋ねた。

「はい! せっかくのヴィンテージファイトですから、いろんなデッキを使ってみたくて。ネネちゃんさんに許可は取ってます」

「なるほど。その向上心と探求心。私も見習わなくてはいけませんね」

「いえ、それほどのものじゃ……」

「それでは私も生徒会の名に恥じぬよう、本気を見せなくてはなりませんね」

「……え?」

 カケルのターンエンド宣言を受けるや、副会長は上半身の制服を脱ぎ捨てた。芸術作品の如く美しい、鍛え上げられた裸体が露わになり、一部女性ファイターから悲鳴とも歓声ともつかない黄色い声があがる。

「いや、なんで脱いだの……?」

 同性のカケルからしたら困惑しかなかったが。

「野郎どもォ! 謝肉祭の時は来た!! 《暴君 デスレックス》にグレートライドォ!!!」

 巨大な足が不毛の荒野を踏みしめる。

 半機械化された白銀の暴君(ティラノ)。鋼鉄の顎が天を衝き、死を告げる咆哮が世界を竦ませる。

(副会長のクランはたちかぜ。ヴァンガードは……やっぱりデスレックス!)

「《餓竜 ギガレックス》! 《餓竜 メガレックス》! 《ソニックノア》をコール!

 さぁーて! お楽しみのバトルフェイズだぁ! 貴様のはらわたをソテーにして食い尽くしてくれる!」

「調理はしてくれるんですね……」

「《ドラゴンエッグ》のブースト! ギガレックスでヴァンガードにアタックゥ!! ブチ抜けェ! ニードル・エクスプロージョン!!」

「《沈黙の騎士 ギャラティン》でインターセプト!」

 赤銅色の鎧を纏いしたちかぜ最強の恐獣が、全身の武装を解き放つ。破壊の奔流に巻き込まれた騎士の躰は一瞬にして消し飛ばされた。

(っ! ごめん、ギャラティン……)

『ノープロブレム』

「《翼竜 スカイプテラ》のブースト! デスレックスでヴァンガードにアタックゥッ!!! アタック時、デスレックスのパワー+5000で、合計パワーは21000! このパワーは貧弱なメガネ野郎にゃ防げねェぞ!!」

「あなただってメガネでしょうに!」

 ツッコむが、15000要求にトリガーが乗る可能性も考慮すれば、防ぐことが困難なのは事実。

「……ノーガード、です」

 カケルは唇を噛みしめながら宣言した。

「ツインドライブ!!

 1枚目……ノートリガー!!

 2枚目……(スタンド)トリガーキターッ!!」

「!?」

「俺様がスタンドさせるのは当然ギガレックス!!」

 ごぅん……と弔いの鐘が鳴る。

 それは武装が再装填された音。最強の恐獣が全身の装備を軋ませながらゆっくりと立ち上がる。

「ダメージチェック……トリガーはありません」

「カァァァァァニバァァァァァル!! デスレックスのアタックがヒットした時、俺様はリアガード1枚を退却させる! 俺様が退却させるのは《ドラゴンエッグ》だァ!」

 騎士団の鍛冶師が鍛え上げた聖剣を容易く嚙み砕いた暴君は、それだけに飽き足らず味方にも牙を剥いた。

「だが! 破壊された《ドラゴンエッグ》は俺様の手札に戻る! おかえりィ!」

 踏みつけられ、一口に呑み込まれた幼竜は、しかし卵となって副会長の手札へと還っていく。

(デスレックスとドラゴンエッグ……知識では知っていたけど、やっぱり強力なコンボだ)

 バトルに参加したユニットを手札に戻す動きは、現代でも通じる強力なギミックである。

 それを当時としては破格のパワーと共にやってのけるたちかぜは、まさしく攻防一体と呼ぶに相応しい強さだった。

「何をボンヤリとしてやがーる! ギガレックスでヴァンガードにアタックゥ! ユニットが退却したので、ギガレックスのパワーは+1000されているゥ! 抉れ! ニードル・エクスプロージョン!!」

 硝煙と死臭を撒き散らしながら、血塗られた武装が再び暴威を振るう。

「くっ……《世界樹の巫女 エレイン》でガードッ!」

 迫り来る弾丸――と呼ぶにはあまりにも荒々しい鉄屑の嵐を、今度は巫女の祈りによって生み出された翠緑の障壁が防ぎきった。

「無駄ァ! 《ソニックノア》のブースト! メガレックスでヴァンガードにアタック!」

「エポナでガードします!」

「ちぃい! 俺様はこれでターンエンドなり! お前のターンだ、優等生!」

「あなたの方が副会長(ゆうとうせい)でしょう!?」

 ツッコみながら、カケルは思考を巡らせる。

(このデッキを相手に長期戦は不利だ……なら!)

「ライドフェイズ開始時、試練の騎士のスキル発動! 山札の上から5枚を見て……《神速の騎士 ガラハッド》にスペリオルライド!」

 愛犬(どらんがる)が、折られた剣と融合し、バイクのような乗騎(マシン)に変形。隻眼の騎士がそれに颯爽と乗り込んだ。

「試練の騎士のスキルでソウルチャージ2!

《ギガンテック・チャージャー》をコール! スキルで山札の上から1枚をスペリオルコール! 僕が呼ぶのは……《静かなる賢者 シャロン》です!」

「トリガーユニット? ハハッ! ハズレだな!」

「そうでもないですよ。僕の狙いは最初からこれでした!

《大いなる賢者 バロン》をコール! そして、シャロンのスキル発動! このユニットをソウルに置いて、ガラハッドのパワー+3000!

 さらに! カードがソウルに置かれたので、バロンとV後列の《若年のペガサスナイト》のパワー+3000!」

「なぬ!?」

「《まぁるがる》をコール! スキル発動! このカードをソウルに置いて、ガラハッド、バロン、ペガサスナイトのパワー+3000! さらにもう1枚《まぁるがる》もコールしてスキル発動だ!」

「なぬぬぬぬぬ!?」

「エレインもコールして、バトル! エレインのブースト! ギガンテックでメガレックスにアタック!」

「むむむ……メガレックスは退却」

「ペガサスナイトのブースト! ガラハッドでヴァンガードにアタックだ!! 合計パワーは35000の★2!!」

「むむむむむむ……」

 副会長が目だけギョロギョロさせて手札とダメージを見比べる。副会長のダメージは3点。★トリガーさえ引かれなければ負けはしない。

「ノーガードだ!!」

 それ故だろう。副会長はノーガードを宣言した。

 好機!

 カケルのメガネがキラリと光る。

「ツインドライブ!!

 1枚目……はトリガー無し。

 2枚目……★トリガー!! パワーはバロンに! ★はガラハッドに!」

「なんとぉーっ!?」

「いっけえええええええっ!!」

 神速に達した騎士の突撃が 暴君をすれ違いざまに一閃し、遥か彼方へと吹き飛ばした。

「この俺がッ……脆弱な人間ごときにぃいいいいいいいっ!!!」

「あなただって人間でしょう!?」

 ダメージゾーンに3枚のカードが一気に置かれ、副会長の負けが確定。そのメガネがバリンと割れて破片が床に散らばった。

「こらー! ゴミを散らかすな―」

 ネネの間延びした叱責が飛ぶ。

「怒るところそこなの!?」

 カケルがそちらに気を取られている間に、副会長は服を着直し、新たなメガネを装着していた。

 そして爽やかな笑顔を浮かべながら、カケルに握手を求めてくる。

「さすがの腕前ですね。勉強させていただきました。対戦ありがとうございます」

「いやもうツッコミきれないよ!?」

 

 

★彡

 

 

「!?」

「あら?」

 対戦を終えたソロは、受付の前でアヤメとばったり出くわした。

「さすがのお前も、ここでは人を傷つけるイメージは使ってないみたいだな」

 この機会に気になっていたことを尋ねてみる。

「え? してるけど」

「おいっ!?」

「してるけど、ここでは力が上手く働かないみたいなの。番外編恐るべしだね」

 つまらなさそうに首を横に振り。

「そんなことより調子はどう?」

 両手を合わせて、今度はアヤメが尋ねてくる。

「もちろん勝ったぜ」

「好調そうね。私もだよ」

 誇らしげに見せつけてくるスコアシートは、勝ちを示す○ばかりが当然のように並んでいた。

「じゃあ次は私とだね。楽しみ」

 ガンスリンガーのルールに則れば、当然そうなるのだが。

「……いや。やめとこうぜ」

 一瞬の逡巡の後、ソロは首を横に振った。

「お前との決着は、こういう場所でつけちゃならねー気がする」

「それもそうだね」

 アヤメもあっさり同意した。

「そういうわけだ、ネネちゃんさん。悪いけど、他の人とマッチングしてくんねーか」

「んー、いいよー」

 ふたりの因縁を知っているネネも、それを快く受け入れた。

「じゃ、アヤメちゃん。次はあたしとやろっか?」

 いや、それが言いたかっただけか。

 進行を他のスタッフに任せ、闇色のデッキケースを手にゆらりと立ち上がり、指をアヤメに向けて挑発するようにくいくいと動かした。

「わぁ楽しみ」

 そう言って笑うアヤメの口元は、少し引きつっているようにも見えた。

 

 

★彡

 

 

「《魔界侯爵 アモン》にライドー」

 闇の瘴気渦巻く大地に一滴の炎が落ち、それは一瞬にして燃え広がると、魔界は地獄へと姿を変える。

 獄炎の中、ゆっくりと翼を広げるは四臂単眼の大悪魔。

「さぁ……悪いこと、しましょう? ライド! 《邪甲将軍 ギラファ》!」

 対峙するは、黄金色の甲殻を身に纏う、秘密結社の大幹部。

 力を以って魔を統べる暗黒の支配者と、恐怖を以って悪を統べる罪過の支配者。

 けして交わることのなかったふたつの覇道が交錯し、世界の裏で雌雄を決する。

「《ステルス・ミリピード》のブースト。ギラファでヴァンガードにアタック。あなたのユニットがすべてレストしているので、ミリピードのパワーは+4000だよ」

「ノーガードだよー」

「ツインドライブ!!

 1枚目……ノートリガー。

 2枚目……★トリガー! ★はギラファに。パワーは《アイアンカッタービートル》に。

 アタックがヒットしたので、ギラファのスキルも発動するね。

 ミリピードと戦闘員Bを退却させ、2枚の《ドリーン・ザ・スラスター》を退却させるよ」

 味方を斬り捨てることで、毒の体液に塗れた黄金色の刃は鋭さを増し、続けざまに異能者達をも薙ぎ払う。

「尊い犠牲のおかげで、あなたの切り札は壊滅したね。あとはじわじわと追い詰めるだけだよ。

《ファントム・ブラック》のブースト。アイアンカッターでヴァンガードにアタック」

「2枚の《ダークソウル・コンダクター》でガード。2枚の《ヴェアヴォルフ・ズィーガー》でインターセプト。

 コンダクターのスキルでソウルチャージ2。同じスキルをもう一回」

 そうして5点のダメージを受け、リアガードすら失ったネネにターンが回る。

「アヤメちゃん、小細工が好きだねー」

「あら、どうも」

「褒めてないよー。けど、そんなものが通じるのはせいぜいソロちゃんまで」

「なんで俺を引き合いに出したの!?」

 遠くから声が聞こえたが気にしない。

「あたしの盤面にはアモンがいればもう十分。歴然たる力の差ってものを、もう一度キミの心と体に刻みこんであげる。

《誘惑のサキュバス》をコールしてソウルチャージ。そしてアモンのスキル発動……サキュバスをソウルに置き、アヤメちゃんはユニットを1枚選んで退却させる」

「……ファントムを退却させるね」

 ふたつの火柱が渦を巻く。魔王の配下は炎に抱かれて贄となり、昆虫怪人は熱に焼かれて灰と化す。

「インターセプトできるユニットを守ったところで無駄だよー。もう1枚《誘惑のサキュバス》をコール。ソウルチャージ。アモンのスキルでソウルイン」

「……《ブラッディ・ヘラクレス》を退却」

「《ブリッツ・リッター》をコール。アモンのスキルでソウルイン」

「アイアンカッターを退却」

「これでアモンのソウルは17枚。アモンはソウルの数だけ力を増し、パワー+1000される。これでアモンのパワーは27000」

「!? こんな古いカードばかりでそれだけのパワー……」

「出せるんだよー。《漆黒の詩人 アモン》をコールしてバトルー。

 G1アモンのブーストー。魔界侯爵でヴァンガードにアタックー。

 ソウルが6枚あるので、G1アモンのパワー+3000ー。これで合計パワーは36000ー」

「……ノーガード」

 アヤメのダメージはすでに5点だが……。

「ツインドライブー。

 1枚目ー、★トリガー。

 2枚目ー、★トリガー」

「そんな……」

 魔王の腹部にある口が開き、その奥で蠢く眼球から放たれた熱線が怪人を焼き払う。

 薄羽に引火した炎は黄金色の甲殻を舐めるように這い回り。

「あ……あっ……やだっ……いやあああああああああっ!!」

 アヤメの魂ごと慈悲も無く焼き尽くした。

(これで一強は潰した。ここからおもしろくなってきそうだねー)

 ブスブスと全身から黒い煙をあげて動かなくなったアヤメのスコアシートに大きな×を記しながら、主催(ネネ)は無邪気にほくそ笑むのであった。

 

 

★彡

 

 

「はいはーい。残り時間30分だよー。今やってるファイトが最終戦ねー」

 しばらくファイトをして(さんざん大会をかき乱した後)運営に戻ったネネが、全体に声をかける。

「……だとよ。お互いに負けてらんねーな!」

 ソロが対戦相手にニヤリと笑いかけ。

「うん。そーだね!」

 その対戦相手であるサナエもニッと口の端を上げた。

「じゃあ今度は私の番だよ! ライド! 《隠密魔竜 マンダラロード》!!」

 草木も眠る丑三つ時。月明かりに六臂の影が差し、異形の竜が浮かび上がる。

「《忍獣 ミリオンラット》をコール! ミリオンラットのスキル発動! 山札から同名カードをスペリオルコール! さらにそのミリオンラットのスキルでもう1枚!」

「すげえ! 分身の術か!」

「そういうこと! 《決闘龍 ZANBAKU》もコールしてバトルだよ!」

「ミリオンラットのブースト、ミリオンラットで《トップアイドル アクア》にアタック!」

「ノーガード……アクアは退却するぜ」

「《忍獣 イビルフェレット》のブースト! マンダラロードでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードだっ!」

「ツインドライブ!!

 1枚目……醒トリガー! ミリオンラットをスタンドさせて、パワー+5000!

 2枚目はトリガー無し!」

 忍竜が六本の腕で複雑怪奇な印を結ぶと、その背後に曼荼羅が浮かび上がり、そこからおびただしい数の妖怪が解き放たれた。

 悪戯好きの妖怪達は、歌姫達を驚かせ、怖がらせ、あらゆる手段を講じてライブの邪魔をする。最早歌うどころではない、阿鼻叫喚の地獄絵図。

「ミリオンラットでヴァンガードにアタック!」

 残るサナエのアタックはどうにか凌ぎ、ダメージ4点で抑えたが、手札は1枚になってしまった。

「エンド時、スペリオルコールしたミリオンラット達はデッキに戻るよ」

「俺のターン! スタンド&ドロー!!」

(よし、引きは悪くねぇ! 前のターンで5点のダメージは与えているし、サナエがドライブチェックで引いていたのもG3だ! イケるぜ!)

「《マーメイドアイドル フリュート》と《レインボーライト キャリン》をコールして、バトル!

《マーメイドアイドル セドナ》のブースト! キャリンでヴァンガードにアタックだ!」

「どーせ、さっきのドライブチェックでG3を引いていたからイケるとでも思ったんでしょ!? 甘いよ!」

「なっ――」

「何でそれを!?」と言うよりも早く、やたら堂に入った仕草でサナエが印を結ぶ。

「マンダラロードのペルソナブラスト! マンダラロードを捨てることで、キャリンのパワーを-10000!」

 歌を浴びた竜の巨体がサラサラと砂のように崩れていく。そこには初めから何も存在していなかったかのように。

 闇に潜む竜が嗤う。

 心無き忍びの心すら絆す魔性の歌声も、届かなければ意味は無し。

 虚空に唄え、哀れなる歌姫よ。

「今度は変わり身の術ってわけか……。

 なら俺は……セドナでブーストせず、フリュートでヴァンガードにアタック」

「? 《忍竜 カースドブレス》でガード」

「《ブレザープレジャーズ》のブースト! 《ベルベットボイス レインディア》でヴァンガードにアタック!」

「《忍獣 リーブスミラージュ》で完全ガード!」

 無数のスポットライトに照らし出され、闇の衣を暴かれた忍竜が、今度は舞い上がる木の葉に紛れ姿を隠す。

「ツインドライブ!!

 1枚目……来たぜ! 俺が引いたのは《スーパーアイドル セラム》! G3だ! レインディアのスキルでフリュートを手札に戻し、このカードをスペリオルコール!

 2枚目……今度はレインディア! これもG3なので、キャリンを手札に戻し、フリュートをスペリオルコール!

 フリュートでヴァンガードにアタック!」

「《忍妖 ダートスパイダー》でガード!」

 これでサナエの手札は残り1枚。

「俺の勝ちだぜ、サナ」

「え?」

「セドナのブースト! セラムでヴァンガードにアタック! セラムのスキルでアタック時にパワー+3000! 合計パワーは21000! 15000要求だ!」

「!?」

 ヴィンテージファイトにおいて、15000要求を手札1枚で防ぐ手段はまだない。

「……それを狙ってセドナを温存したんだね」

 サナが最後の手札――マンダラロードを震える指で握りしめる。

「ノーガードッ……」

 銀髪の歌姫を中心とした歌声が闇を晴らし、木の葉を吹き飛ばすと、ついに忍竜の心を捉えた。

『見事……ッ!』

 感嘆と称賛の交じり合った声をあげると、両膝をついた忍竜が動きを止め、その背に浮かぶ曼荼羅が溶けて消えていった。

「ダメージチェック……あーっ! 私の負けだーっ!」

 6枚目のカードをダメージゾーンに置き、サナエが頭を抱える。

「これで8勝3敗かぁ。さすがに優勝は厳しいかなぁ? ソロ君は?」

 真紅の髪をわしゃわしゃとかきながらボヤき、ソロが何か答えるよりも早く、サッとスコアシートを取り上げる。

「…………え?」

 それを見たサナエは大きな瞳をさらに大きく見開いた。

 

 

★彡

 

 

「それじゃー、結果発表だよー!」

 結果を集計し終えて立ち上がったネネをまずは拍手が出迎え、続けてその小さな声を聞き逃さないよう全員が黙り込む。

「まずは2位と3位ー。どちらも11勝1敗! 八雲アヤメちゃんと、鏑木クロエちゃんー!」

「あなたが乱入してこなければ、私が単独1位だったはずなんだけど?」

 呼ばれたアヤメが恨みがましく微笑んでくるが、ネネはスルーした。

「直接対決ではアヤメちゃんが勝ってるから、アヤメちゃんが2位で、クロエちゃんが3位かなー」

「意義あり。それだけでは彼女の方が強いと証明できません。全試合の解析を求めます」

 今度はクロエが美しい所作で挙手をして、言い訳がましくいちゃもんをつけてきた。

「2位と3位の賞品は同じだから我慢してー。賞品はうちの店で使える商品券3000円分だよー」

「私、番外編じゃなかったら出禁になってるんだけど?」

 アヤメの微笑みはやっぱりスルーされた。

「そして栄えある1位はなんとー! 12勝0敗! 御導ソロちゃんー!」

 即席の檀上に上がったソロが高々と拳を突き上げる。

 歓声や拍手より先に、驚きやとまどいで場がどよめいた。それもそのはず、ソロはまだ初心者で『眠り姫』のショップ大会でも優勝経験は無かったのである。(なお『眠り姫』はネネという教官がいるためか、全体的にレベルが高い)

「意義あり。私は彼と対戦していません」

「私なんて対戦を断られたんだけど?」

 そしてクロエとアヤメがやっぱりケチをつけてきた。さっきから上位入賞者の器が小さい。

(それだけ負けず嫌いだからこそ強いんだろうけどねー)

 ネネは心の中でそう評価した。言い訳ができるというのは、それだけ振り返りができているということだ。

(もっともこのふたりが特別で、言い訳がましい人間の9割は口だけなんだけどねー)

 クロエはもちろん、アヤメも立場上敵対せざるを得なかっただけで、本音を言うとその負けん気は嫌いではないのだ。

「うるさーい! こういうこともあるのがガンスリンガーなのー!」

 そんな本音はおくびにも出さず、ネネは間延びした声で一喝してふたりを黙らせた。

「優勝賞品は5000円分の商品券ー。さーみんなー、ソロちゃんに盛大な拍手をー」

 まずはカケル、サナエ、副会長から拍手が起こり、イチニィサンがピーピーと指笛を吹く。それにつられてか、まばらに拍手が起こり、やがて万来の拍手と歓声がソロを包み込んだ。

 なお、クロエとアヤメは最後までそっぽを向いていた。

 

 

★彡

 

 

(へへ……称賛を受けるってのもいいもんだな)

 不良時代、恐れられることはあっても、褒められることはけして無かった。

(ありがとうな、レインディア)

 大切に握りしめていたデッキに目を向ける。サジッタのように声が聞こえるわけではないが、確かな絆をこのカードからも感じていた。

『素晴らしい歌声とファイトだったわ』

(!?)

 そのサジッタから声をかけられ、ソロはデッキを取り落としそうになる。

(い、いや、これは違うんだサジッタ! 何もレインディアに浮気していたとか、そんなんじゃ……)

『誰もそんなこと言っていないでしょう』

 サジッタは呆れたように肩をすくめた。

『こんな形で、あのレインディアの歌声を聴けるだなんて思ってもみなかった。学園にも映像記録や音声記録は残っていたけれど、3000年以上も前の物だから、さすがに状態が悪くて……』

 歌声の記録ともなれば、状態が悪ければ価値も半減するだろう。ましてやどれほど精巧な記録であっても、ライブの臨場感だけは、記録だけでは再現できまい。

『けれど、今日の歌声はまるでレインディアが傍にいるみたいだった。イメージの力ってすごいのね』

 サジッタは居住まいを正すと、真っ直ぐにソロと向き合った。

『ソロ……あなたに出逢えてよかった』

 潤む黒曜の瞳に見つめられて、ソロの心臓が高鳴る。

『現金な女だなんて思わないでね? それ以外のことでもあなたには感謝してる。少なくとも、あなたといると退屈はしない。

 学園での生活に不満は何一つないけれど……もし私がそちらの惑星に生まれていたら、きっとそんな毎日を過ごしていたんだろうなって』

 ソロをあしらって、カードゲームで遊んで、個性的すぎる仲間がいて、好きなアイドルのライブを観に行って、またソロをあしらって……。

 サジッタが唄うように想像を巡らせている間、ソロは全身をわななかせていた。

(サジッタが……俺にデレた?)

『デレてない』

(これはもう愛の告白なのでは……?)

『感謝を伝えただけ。……こうなると思ったから、言うべきか迷ったのよね』

 少し後悔したようにサジッタは翼で頭を抱えた。

(けど、ひとつだけ訂正させてもらうぜ)

『え?』

(地球に生まれても、サジッタはそんな生き方はしていない)

『そうかしら?』

(サジッタはここでもきっとアイドルをやってる。そして俺はそれに憧れて……サジッタ一番のファンになってる)

『……そうね。そうかもね』

 ソロの差し出した手を、サジッタの翼が温かく包み込む。

『これからも応援よろしくね。私の先導者……』

 それはたったひとりの少年のために用意された握手会だった。

 

 

★彡

 

 

 打ち上げだの何だの会場が盛り上がってきたところで、アヤメは人知れず『眠り姫』を後にした。今日は楽しかったし、気になる者が一部いることも否定はしないが、必要以上に慣れ合うつもりはない。

 日も暮れた帰路に人気の無い公園を見つけ、アヤメはそこのベンチに腰掛けると、カードケースから《邪甲将軍 ギラファ》のカードを1枚抜き出した。

 瞬間、アヤメはギラファの差し出した刃の上、その切っ先に爪先ひとつで立っていた。

『異星の少女よ』

 重々しく声がかけられる。

『女王以外の者に初めて傅く。此度の采配は、それに値するものであった』

(それはどうも。私もあなたが気に入ったよ。ねえ、私とお友達になってくれないかな?)

 アヤメがダンスを誘うように手を差し出す。

『よかろう。だがもし貴様が我が期待を違えた暁には……』

 けして感情を映すことのない蟲の眼が、月明かりを浴びて鋭く輝く。

(ええ。後ろから刺してくれて構わないよ。それが背中を預けられる関係というものでしょう?)

『契約成立だ、我が先導者』

 ギラファが声だけで嗤った。

(ああ、なんて素敵な夜なのかしら……)

 アヤメが刃の上でくるくると舞い、ワンピースの裾がふわりと広がった。

(これからたくさん悪いことをしましょうね)

 悪の華は月影に咲き誇る。

 彷徨う孤独な魂を、どうしようもなく魅了して。




ネネちゃんだよー。

「この時代にソウル17枚も貯まるの?」って人のために解説するねー。
とは言え展開まで書くと長くなるので、どのユニットがどれだけソウルチャージしたかだけ書いてくよー。

G0~G2のライド分⇒3枚
《ヴァーミリオン・ゲートキーパー》⇒1枚
《ダークソウル・コンダクター》⇒4枚
《退廃のサキュバス》⇒4枚
《誘惑のサキュバス》⇒2枚
《魔界侯爵 アモン》⇒3枚

以上!

来月からは本編が再開するからお楽しみにねー。
感想もお待ちしてまーす。

それじゃー、おやすみなさいー。ぐー。
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