巫女装束姿の少女が、パソコンを前にして「むむむ」などと唸っていた。
白妙の小袖に夕陽の如く燃ゆる深紅の長髪が映える。だがその古風な装いに相反して、愛機はハイスペックな最新鋭のゲーミングPC。外側は漆を想起させる艶のある黒で、内側には和をイメージした赤と金のダイオードをふんだんに使ったそれは彼女の自慢だった。
「これで……どうだっ……!」
たっぷり30秒は悩んだ後、カチ、カチと少女のマウスが動く。モニターの中でカードが躍動し「WIN」の文字が派手な演出と共に表示された。
「よしっ! これで5連勝!」
少女以外に誰もいない、だだっ広い社殿に歓喜の声が響き渡る。
彼女の名は
(さてさて今の順位は……?)
スマホで時間を確かめながらサナエがマウスを操り(オンラインのヴァンガードはスマホでもプレイできるが、サナエはもっぱらPC派だ)「順位」と書かれたページを開く。11位の欄に「SANA」(彼女の
(うっ……またこの人かぁ……)
「ツチノコ」という名前があった。
それは常に彼女より上の順位に位置し、ことトップ10入りに至っては3度も阻まれている。好敵手と言うより、目の上のたんこぶ。けして越えられない壁であった。
(この人……いったい誰なんだろう……?)
上位勢には友人も多く、そうでなくともトップランカーはSNSや動画サイトなどでも精力的に活動している者がほとんどで、サナエが知らない者はまずいないのだが、このツチノコだけは正体が謎に包まれていた。まさしく
サナエが首を傾げていると、ガタンと背後で物音がして、慌てて体ごと振り返る。その頬を涼やかな気配が撫でていった。どうやら風が古い社殿を揺らしただけのようだ。
暇な時はこうしてゲームをしているサナだが、来客時には即座に応対する心構えもできている。だが今日に限って言えば、サナエが外を気にしている理由は別にあった。今日は少し特別な日なのだ。
(11時半……まだ少し早いかな?)
スマホで時間を確かめながら、座布団に座り直す。
(あと一戦くらいはできるよね……)
心中で呟きながら「対戦」のボタンをクリックする。再び吹き込んだ風が、赤い髪を炎のように揺らした。
酷暑が続く真夏ではあるが、山頂に位置する真赭神社はこの季節でも涼しく、戸を開け放てば天然のクーラーとなる。住まいに同情されがちな彼女もこれだけは羨ましがられることが多く、デリカシーのない男友達は団扇を片手に「夏はサナとふたりでここで暮らしてぇなぁ」などとほざいていた。
あんたには婚約者がいるんでしょーが。
「マッチング中……」の文字が流れる画面を眺めながら、そんなどうでもいいことを思い出す。
(いけないいけない。対戦に集中しなきゃ……)
ランクマッチの終了は午後12時。ツチノコとのポイント差は僅か。ここで勝てれば逆転して10位でフィニッシュすることができる。ツチノコも同じようにゲームをプレイしていて、勝たなければ……の話ではあるが。
そんなサナエの心配は杞憂に終わった。
軽いSEと共に「マッチング完了」の文字が画面に踊り、続いて対戦相手の名前が表示される。
ツチノコ
(……やってやろうじゃん)
虚勢にも似た気炎をあげて、サナエは乾く唇をぺろりと舐めた。
★彡
画面に表示された5枚のカードのうち、サナエは2枚のカードにカーソルを合わせると、それらが山札に戻され、新たに2枚のカードが表示される。
オンラインでもヴァンガードはヴァンガードだ。ルールは変わらない。
カードの交換を終え、いよいよスタンドアップ……その矢先に。
『どすこい!』
サナエのスマホが揺れ、通知を知らせるボイスが鳴った。ちなみにこの通知音はサナエがプレイしている格闘ゲーム「ストライクファイター」の持ちキャラ、ジャパニーズ・スモウレスラー「
(誰よこんな時に……)
ぶつくさ言いながらも確認するのが律儀な彼女らしいが。
スマホの画面には「
「ヒャッハー! この村の水は全部俺たちのものだぁ!」
などというコメントと共に、錆の浮いた金属製のバケツで頭から水を被るモヒカン男の写真が添付されていた。
そう言えば、今日はイチニィサンでツーリングに出かけるとか言っていた。恐らくは井戸を見つけて一息ついているところなのだろう。
微笑ましく思いながら(なお、背後に写っている確実に何らかの法律に引っかかっていそうなトゲだらけのバイクは気にしないことにした)スマホを置き、PCのモニターに向き直る。ツチノコも引き直しを終え、いよいよ対戦が始まるところだった。
Stand up! Vanguard!!
お馴染みの文字と共に、互いのヴァンガードが公開される。
《斗酒なお辞せず 忍鬼 猩々童子》
《斗酒なお辞せず 忍鬼 猩々童子》
ファーストヴァンガードはまったく同じカードであった。
(そちらもいつもと同じってわけね……)
ツチノコとの戦績は3戦3敗。ランキングのみならず、対戦においても天敵と言える存在である。
先攻はツチノコ。
《桜花爛漫 忍鬼 猩々童子》にライドして効果処理の後、ターンが回ってくる。
「私のターン!」
気合を入れるためあえて声に出してマウスをクリック。
「《桜花爛漫 忍鬼 猩々童子》にライ――」
『どすこい!』
その声はエドワードのボイスにかき消された。
「…………」
サナエが憮然とした表情でスマホに目を向けると「
「ババァーッ!! その食料をこっちへよこしなーっ!!」
スキンヘッドの男が、あろうことか老婆から荷物を巻き上げていた。
……いや違う。よく見ると信号や横断歩道が写っていることから、道路を渡ろうとしていた老婆の買い物袋を持ってあげているだけのようだった。
ほっと安心してスマホを置き、ゲームに戻る。
「《桜花爛漫 忍鬼 猩々童子》にライド! G1童子の効果で山札の上から5枚を見て……《忍竜 ツクヨダチ》をソウルに。《忍竜 ドウジュン》をバインド。ツクヨダチがソウルに置かれた時、自身のスキルでバインドされ、ソウルチャージ!
《忍妖 フォークテイル》をコール! スキルで山札の上から7枚を見て……《絢爛たる忍鬼 キンラン》をソウルに!
《鎖道の忍鬼 カゲチカ》をコール! ドロップの《忍竜 ジャクメツアークス》をソウルに置く!
バトルだよ! 童子でヴァンガードにアタック!」
ツチノコはノーガードを宣言。
G1で準備を整えつつ、速攻する。サナエの得意な展開である、が。
「!?」
ツチノコはダメージチェックで
ツチノコのターン。《鬼も歩けば世に憚る 忍鬼 猩々童子》にライドし、そのスキルでフォークテイルをコール。さらにカゲチカもコール。ヴァンガードのみならず、盤面も鏡映しのようにそっくりだ。
ツチノコはバトルフェイズに移行し、ヴァンガードでヴァンガードにアタックしてきた。
「ノーガード!」
ツチノコのドライブチェックで山札がめくられる。
ゲット、
派手な演出と共に文字が流れた。
「うげっ!?」
続いてサナエのダメージチェックだが、トリガーはめくれない。
残りのアタックを1回はトリガーで防ぎ、このターンは2点のダメージを受けた。
2点目のダメージで引トリガーを引いたものの、状況はサナエの不利である。
「でも、まだまだ! 私のターン! スタンド&ド――」
『どすこい!』
気を取り直そうとしたサナエの意気をエドワードのボイスがくじく。
(もう、今度は何!?)
スマホには「
「こんなモノ、ケツ拭く紙にもなりゃしねーぜ!」
パンキッシュな頭をした男が、なんと札束をばら撒いていた。
(何をしてるの、この子は!?)
本文をよく見ると、先ほど助けた老婆が大富豪で、お礼にもらえた大金を寄付しているシーンのようだ。よく見ると写真の隅に募金箱もある。
(なーんだ)
納得してスマホを机に置き直し。
(って、いやいや! 運よすぎるし、善人すぎない!?)
慌ててツッコミ直す。
(ああもう、どこまで進んだっけ。……そうだ、まずはG2にライドしなきゃ)
気になることは山ほどあるものの、今はファイトに集中しなければならない。
「《鬼も歩けば世に憚る 忍鬼 猩々童子》にライド! 山札の上から5枚を見て……《護衛忍竜 ハヤシカゼ》をソウルに! 《忍妖 イザサオウ》をスペリオルコール!
イザサオウのスキル! 山札の上から5枚を見て……《雲水飛動 忍鬼 猩々童子》を手札に! イザサオウとフォークテイルの位置を入れ替え、カゲチカを後列に下げて、バトル!
童子でヴァンガードにアタック!」
ツチノコは《忍妖 フタクチヨ》でガードを宣言。
「ドライブチェック!」
めくれたのは
「効果はすべてイザサオウに! イザサオウでヴァンガードにアタック!」
そのアタックにはノーガードが宣言され、ツチノコに3点目のダメージを与えたが、ツチノコも引トリガーでカードを引く。
『ターンエンド』をクリックし、ツチノコのターン。
ツチノコがG3にライドすると、モニターにその名が大きく表示された。
《幻魔忍妖 メガロノヅチ》
其は蛇に姿をやつした大妖怪。這いずる跡は大河となってうねり、首もたげればその威容は天を衝く。
(やっぱり来た……メガロノヅチ!!)
猩々童子と双璧を成す、忍を束ねしもうひとつのヴァンガード。設定上でも猩々童子が長らく勝てなかった宿敵であり、それは奇しくもSANAとツチノコの関係によく似ていた。
ソウルのカードを
《桜花爛漫 忍鬼 猩々童子》
《鬼も歩けば世に憚る 忍鬼 猩々童子》
《忍竜 アンプレセデン》
《忍竜 ハダンレッソウ》
《忍竜 ジャインゾウ》
これまで大妖の喰らってきた魂が、その腹に姿を浮かび上がらせては消えてゆく。
ツチノコはバインドゾーンにあるG2童子のスキルを発動させ、そのカードをスペリオルコール。カゲチカをソウルに置いて1枚ドロー。
イザサオウをコールし、メガロノヅチを手札に加える。
さらにG2童子とイザサオウをソウルに置き、メガロノヅチもうひとつのスキルを発動。このカードと同名のユニットをスペリオルコールすることができる。
即ち、山札から2枚のアンプレセデンがスペリオルコール。
ヴァンガードが猩々童子である場合、アンプレセデン2枚分のスキルがそれぞれ発動。カードを2枚ドローする。イザサオウがソウルに置かれた時のスキルも発動し、サナエのバインドゾーンにあるツクヨダチを山札の下に置いた。
(つっ……!)
サナエが露骨に嫌そうな顔をする。
ツチノコがバトルフェイズを宣言。
イザサオウのスキルでパワー18000になったメガロノヅチがヴァンガードにアタックを仕掛けてくる。
「ノーガード……!!」
ツチノコのツインドライブ。2枚目で引いたのは
「うっ……」
ダメージを回復し、ブーストがいない列のアンプレセデンにパワー+10000される。
サナエもダメージチェックで前トリガーを引くも、パワー38000と、パワー36000の前には焼石に水である。
アンプレセデン1枚目のアタックはノーガードで通し、2枚目はフタクチヨのガードとイザサオウのインターセプトで防いだ。
だが早くもサナエのダメージは4点。
対するツチノコは2点。
圧倒的に不利な状況である。
「私のターンッ……! スタンド&ドロー!!
ライド! 《雲水飛動 忍鬼 猩々童子》!!」
しゃらんと鈴のような音色をたてて抜かれる太刀。
真紅の髪が渦を巻き、飛び散る酒が珠となって光と踊る。
狂い咲け、見栄と傾奇の徒花よ。
誰が呼んだか猩々童子、喧嘩とあらばただいま参じょ――
『どすこい!』
サナエの見る荒々しくも艶やかなイメージにエドワードが割り込んだ。
(今度は誰!?)
もうイチニィサンはネタを出し尽くしたはずだ。見るとスマホの画面には「
(カケル君?)
メッセージを開く。
『僕もオンラインのヴァンガードに興味があるんだ。よかったらサナさんのプレイしているタイトルを教えてくれないかな?』
(ボケろよ!!!!)
あんまりと言えばあんまりなツッコミだった。
(いや、そうじゃないそうじゃない。せっかくオンラインに興味を持ってくれたのに……)
とりあえず返信は後でするとして、サナエはスマホを丁寧に置き、モニターへと向き直った。
「《忍竜 オウギジシ》をコール! スキルで山札の上から5枚を見て……アンプレセデンをソウルへ!
童子のスキル発動! ソウルからハヤシカゼ、G2童子、ジャクメツアークスをバインドすることで、相手のアンプレセデン2枚と、手札1枚をバインド!
G2童子のスキルで、このカードをバインドゾーンからスペリオルコール!
バトルだよ! フォークテイルのブースト! オウギジシでヴァンガードにアタック!」
ツチノコは《忍竜 シキンタン》でガード。
「童子でヴァンガードにアタック! アタック時、オウギジシとフォークテイルをソウルに置いて、童子のスキル発動! バインドゾーンからジャクメツアークスとドウジュンをスペリオルコール!
ドウジュンの登場時スキルで、ソウルのアンプレセデンをバインド!
ソウルに置かれたオウギジシのスキルで、ツチノコさんのバインドゾーンにある2枚のアンプレセデンをドロップに置いて、前列ユニットのパワー+5000の効果を童子に与える! さらにジャクメツアークスのスキルでバインドゾーンのフォークテイルを山札の下に戻す!」
ツチノコはノーガードを宣言。
「ツインドライブ!!
1枚目……トリガー無し。
2枚目……★トリガー!! ★はヴァンガードに! パワーはG2童子に!」
だがツチノコのダメージチェックで引トリガーを1枚引かれ、残るアタックは最小限の消費で防がれた。
「……ターンエンド」
ツチノコにターンが渡り、メガロノヅチがペルソナライドを発動する。
さらにソウルからG2童子をバインドし、バインドされたユニットすべての名称を得る。
G1童子をバインドゾーンからスペリオルコールし、それとフォークテイルをソウルに置いて、メガロノヅチもうひとつのスキルも発動。山札から2枚のハダンレッソウをスペリオルコールする。そして仕上げとばかりに手札から繰り出されたのは……。
レガリスピース《魂魄封ぜし禁忌の形代》発動!
派手な演出の後に、山札からアンプレセデンとジャインゾウがスペリオルコールされ、アンプレセデンのスキルで1枚ドロー。手札からもジャインゾウをコールされ、バトルフェイズが宣言される。
まずメガロノズチがヴァンガードにアタック。
荒れ狂う大蛇が嵐となって、木々を、山を、木っ端の如く薙ぎ倒す。
「ハヤシカゼで完全ガードッ!!」
ツチノコのツインドライブ。
1枚目は前トリガー。前列にパワー+10000。
2枚目も前トリガー。さらに前列パワー+10000。
「ダブルトリガー!? 嘘でしょ!」
山札からのスペリオルコールを繰り返すメガロノヅチは、ターンを経るごとにトリガー率を増していく。
だがそれすらも強みのひとつにすぎない。大妖の本領はここからだ。
大蛇の瞳が黄金色に輝くと、背後に控えていた忍竜達も同じ色の妖気を纏う。
(メガロノヅチみっつめのスキル……ヴァンガードと同名の忍は後列からでもアタックできる……!!)
アンプレセデンのアタック。
「《忍竜 シキンタン》でガードッ!」
ジャインゾウのアタック。手札からトリガーを捨て、ジャインゾウのパワーは+15000。
「《忍竜 マドワズ》でガードッ! ジャクメツアークスでインターセプト!」
もう1枚のジャインゾウでアタック。手札からさらにトリガーが捨てられ、パワー+15000。
「マドワズでガードッ! G2童子でインターセプト!」
だがまだパワー54000となったハダンレッソウのアタックが2回残っている。
サナエの手札は僅か2枚。
ハダンレッソウ1枚目のアタック。
「ノーガード!」
これで5点目のダメージ。トリガーは出ない。
ハダンレッソウ2枚目のアタック。
「キンランとカゲチカをソウルに置いて、童子のスキル発動! バインドゾーンからハヤシカゼをスペリオルコール! ハヤシカゼのスキルで手札を1枚捨てて、完全ガード!!」
耐えきった。
だが手札はペルソナ札1枚。そうしなければ敗北していたとは言え、リアガードも全滅。
(ツチノコさん……やっぱり強い)
テクニックだけではない。この人とファイトしていると、自分のやりたいことがことごとく読まれ、先回りされているかのように錯覚してしまうのだ。まるで幼い頃の自分を知っている大人に弄ばれているような。
「……私のターン」
馬鹿げた想像を払うように首を振り、マウスをクリックしてカードを引く。
引いたカードは治トリガー。
(ダメだ、勝てない……)
サナエが諦めかけたその時。
『ごっつぁんです!』
彼女のスマホに電話の着信(エドワードの勝利ボイスだ)があった。
『ごっつぁんです!』
画面には
「ソロ君……?」
『ごっつぁんです!』
早く出ろと急かすように、着信音は鳴り続ける。
『ごっつぁん――』
「……もしもし。ソロ君?」
『サナ。悩みがあるんだ。相談に乗ってくれないか……?』
電話越しに聞こえるソロの声は、いつになく真剣だった。
「うん。どうしたの?」
『サジッタに着せるのなら、この中でどれが一番似合うと思う?
1,セーラー服。
2,メイド服。
3,巫女服』
「そんなもん3に決まっとるだろうがあああああああああああっ!!!!」
絶叫し通話を切ってスマホを放り投げる。吹っ飛んだスマホは丁寧に畳まれた布団の上に着地した。
「何故それを私に聞こうと思った!? 仕事で渋々巫女さんのコスプレをしているとでも思ったかぁっ!! あとちょっと想像してみたけど巫女サジッタめっちゃかわいいな!?」
猛り狂いながらモニターに向き直る。
(もう何なのよ……こんな時にどうでもいい連絡ばっかり)
思えば、オンラインの友人はこの時間帯に連絡を寄越すことはない。皆、ランクマッチのラストスパートで忙しいからだ。
モニターの置かれた文机の片隅に目を向ける。そこにはサナエのデッキが置かれていた。オフでもヴァンガードを始めたことで、またたくさんの仲間ができた。そのことを改めて実感する。
そんな彼らに恥じない自分でいたい。
少なくとも……この程度の逆境では、さっき電話をくれたバカは絶対に諦めない!
「イチ君、ニィ君、サン君、カケル君、ソロ君……そして童子! 私に力を貸して! ペルソナライドッ!!」
デッキに手を触れながらマウスをクリック。
ペルソナライドで引いたカードは猩々童子。迷わず治トリガーと共に前列にコールする。
開き直れば視界がクリアになり、勝ち筋も僅かな光明となって見えてくる。
「ソウルの童子、カゲチカ、フォークテイルをバインドして、童子のスキル発動! 2枚のハダンレッソウと手札1枚をバインド! ……バトルだよ!
シキンタンでヴァンガードにアタック!」
カゲチカでガード。
「リアガードの童子でヴァンガードにアタック!」
フタクチヨでガード。
「ヴァンガードの童子でアタック! アタック時、シキンタンと童子をソウルに置いて、バインドゾーンからアンプレセデンとフォークテイルをスペリオルコール!」
ハヤシカゼで完全ガード。
「ツインドライブ!!
1枚目……トリガー無し。
2枚目…………来たっ!
煌びやかな演出と共に、竜神のカードが画面いっぱいに表示される。
「童子をスタンドさせ、パワー+1億!!
フォークテイルでブーストした、アンプレセデンでヴァンガードにアタック!」
ノーガード。ツチノコに5点目のダメージ。治トリガーでメガロノヅチのパワー+10000。
「童子でヴァンガードにアタック! そして童子のスキルに1ターン1回の制限はない! アンプレセデンとフォークテイルをソウルに置いて、童子とカゲチカをスペリオルコール!」
ハヤシカゼで完全ガード。
これでツチノコの手札は前のドライブチェックで引いた《焔の巫女 パラマ》の20000ガードが1枚。
リアガードのアタック通すのはダブルトリガーが必須。
「ツインドライブ!!
1枚目……引トリガー!! 1枚引いて、パワーはリアガードの童子に!
1枚目……★トリガー!! 効果はすべてリアガードの童子に!
リアガードの童子でメガロノヅチにアタックだぁ!!」
ノーガード。
大太刀に竜神を宿らせた鬼が大蛇の頭部めがけて斬りかかる。
大蛇は額に妖気を集中させると、鱗を硬質化させた。これで竜神の力すら弾き返せる自信があった。
だが刀が額に激突する寸前、鬼の姿が霞となって溶ける。
――幻術かっ!!
大蛇が口惜しそうに叫ぶ。
神すら囮として背後へと回り込んだ無頼の鬼が、大木の如き胴体を一閃!
オオオオオオオオッ!!
耳にこびりつくような怨嗟を残し、大妖はこれまで呑み込んできた魂を撒き散らしながら消滅した。
★彡
「勝った……勝ったぁーっ!!」
画面に表示された「WIN」の文字を見て、サナエが両拳を握りしめ、大きくガッツポーズをする。
すぐさまランキングページを確認すると、SANAの名が10位にランクアップしていた。
時間は11時59分。ここからの逆転は無い。
「やったぁー! これで私もトップランカーの仲間入りだぁー」
正座していた脚を崩し、キーボードの上にふにゃふにゃと倒れ込んだ。誰も見ていないところでも姿勢を凛として崩さない彼女にしては非常に珍しい。
「……ありがとね、童子」
デッキの一番上に置かれていたカードを手に取り呼びかける。カードがきらりと輝き、それに応えてくれたような気がした。
その時、彼女の背後で再び物音がした。
今度は風ではない。その奥から漂う優しい気配で分かる。
そう、今日は――仕事で旅に出ていた母親が月に一度帰って来る日なのだ。
カードをデッキの上に置き、サナエが駆け出す。
「おかえりなさい、お母さん!!」
そして、スマホを片手に玄関で草履を脱いでいた、サナエをそのまま大人にしたような巫女装束姿の女性の胸に飛び込んだ。
「ただいま、サナエ」
娘の突進をふわりと抱き止め、女性が自身とそっくりな色をした赤い髪を優しく撫でる。
「強くなったわね」
続く言葉にサナエが首を傾げた。
「え? 大きくなったとかならともかく、何でそんなことがすぐに分かるの?」
「ふふ。お母さんは何でも知ってるの」
そう言ってサナエの母、
★彡
やめて! やめて、おとうさん!
少女の懇願虚しく、その手から虫かごが取り上げられた。
いつまでこんなものをかわいがっているんだ!
男は虫かごの中身を床へとぶちまける。その中にいた蟷螂がまるで少女を守るかのように両腕を振り上げるが、次の瞬間、あえなく男に踏み潰された。
それを片付けておけ!
男は少女に命令すると、部屋を出て行った。
おとうさんが捕まえてくれたのに……。
父娘を繋ぐ最後の絆は、その父親によって無惨に破壊された。
少女は庭に墓を作りそれを丁重に弔ったが、その翌日に墓は掘り返されていた。
骸は鳥にでも食われたのか、どこにも見当たらなかった。
ああ、あいつはここまでやるんだ。
絶望が少女の心を黒く染め上げる。
あの子は私の身代わりになって殺された。
次に殺されるのは私だ。
あいつを殺さなければ、自分が殺される。
墓を暴かれ、死体すら辱められる。
殺す。
少女の中で何かが芽生えた。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
手を伸ばした先すら見えない血の色をした闇に溺れる寸前、
飾り気のない自分の部屋。クーラーをガンガンに効かせている(どうせ電気代を払うのはあの男だ)にも関わらず、寝間着は汗でぐっしょりと濡れていた。
(またあの日の夢――やっぱり、あの時に殺しておけばよかった)
それともますます悪夢を見ることになっていただろうか。あの男なら自分のしてきたことをさておいて、平気で人を呪いそうではある。
八雲アヤメは気まぐれだ。
それは彼女の根幹をなす殺人欲求においても例外ではなく、誰かれ構わず人を殺して回りたい気分の時もあれば、そんなことをしたら殺される人がかわいそう、やっぱり人殺しはよくないよねと思う時もある。
そして今は
「そろそろ彼との約束を果たしにいきましょう――ね、ラスカリア」
感情の見えない虫のような笑みが、机の上に置かれたデッキへと向けられた。
メガロノヅチ回でした。
巫女サジッタはかわいいと思います。