ヴァンガード・スターダスト&ダスト   作:栗山飛鳥

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前回の続きですので、今作中はまだ10月となります。


第十四想「だから絶対に負けてやらない」

 はーい! サナちゃんの『前回のあらすじ』コーナーだよ!

 突如開催された『眠り姫』最強決定戦! そこでソロ君がまさかまさかの大番狂わせ大穴大金星!(驚きすぎじゃね!?)

 しかし、賞金の倍増を釣られてネネちゃんさんの挑戦を受けてしまうことに!

 ネネちゃんさんの操るダイアフルドールは慣れた相手。そこに勝機を見出すソロ君であったが、ネネちゃんさんのファーストヴァンガードは《デザイアデビル タイーダ》だった!

 さて、どーなるソロ君!?

 

 

★彡

 

 

 ソロが降り立ったのは、淫靡な赤紫色の瘴気渦巻く暗黒街。アンドロルドと対峙した時に見た不気味ながらも厳かな洋館とは、同じダークステイツであっても明らかに雰囲気が違う。

 眼前には小さな悪魔が浮遊しており『タイーダ タイーダ』と気怠げな声をあげていた。

「お、俺のターンだぜっ! 《Absolute Zero クラウ》にライドだぜっ!

 ラ、ライドコストとして捨てられた《安らぎの天色 風紀乙女 アルハ》のスキルでエネルギーチャージだぜっ!

 ス、スキルで《花園を巡る光 風紀乙女 ルリーニア》を手札に加えるぜっ!

 お、俺はこれでタタタターンエンドだぜっ!」

 やたら上ずった声で冷静なフリをしながらソロが宣言する。

「ネネちゃんのターンー。スタンド&ドロー。《デザイアデビル ゴーマン》にライドー。タイーダのスキルで1枚ドロー」

「うわ本当にグリードンだ」

 ライドしたカードを見て、サナエがギャラリーの心中を代弁するように呟いた。

「ゴーマンでヴァンガードにアタックー」

「《Spiny∧Spiky ヒース》でガードッ! ヒースはソウルに置かれるぜ!」

「ネネちゃんのドライブチェックはノートリガー。ターンエンドなのだー」

「お、俺のターン! スタンド&ドロー!

《Absolute Zero カシュア》にライドッ!」

(ええい! いい加減に落ち着け俺! ネネちゃんさんのデッキがいつもと違っても、ネネちゃんさんから教わった基礎は変わらねぇ! サジッタ……俺を殴ってくれ!)

『丁重にお断りします』

 丁重にお断りされたが、そのゾクゾク冷たい声音に少し冷静さを取り戻す。

「ライドコストとして捨てられたプリストロをスペリオルコール!

 カシュアでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードだよー」

「ドライブチェック……(クリティカル)トリガー! ★はカシュアに! パワーはプリストロだ!」

 ネネも2回目のダメージチェックで★トリガーを引く。

「プリストロでヴァンガードにアタック!」

「《デザイアデビル ゴージョー》でガードー。

 ネネちゃんのターンだねー。スタンド&ドロー。

《デザイアデビル ボーショック》にライドー。

 ライドデッキからグリードンを公開して1枚ドロー。

 ライドコストとして捨てられた《スチームガンナー ティズカール》でEB3の1枚ドロー。

《デザイアデビル アクエーン》をコールー。アクエーンのスキルで山札の上から5枚を見てー……《デザイアデビル オモネール》を手札に加えるよー。

 オモネールをコールして、スキルで山札の上から5枚を見てー……《デザイアデビル モウシーン》を手札に加え、《デザイアデビル ヒーコウ》をソウルに置くよー。

《デザイアデビル フージョ》に《デザイアデビル ブベツー》をコールしてバトルだよー。

 フージョはプリストロにアタックー」

「ノーガード。プリストロは退却するぜ」

「オモネールでブーストしてー、ボーショックでヴァンガードにアタックー」

「ノーガード!」

「ドライブチェックー、★トリガー。★はヴァンガードにー、パワーはアクエーンにー」

「ダメージチェック……」

 ソロはトリガーを引くことができず、2枚のカードがダメージゾーンに置かれる。

「ブベツーのブーストー、アクエーンでヴァンガードにアタックー」

「ノーガード……」

 さらに3枚目。

「くっ、俺のターン……!! スタンド&ドロー!

 唄え、我が最愛の人! ライド! 《Absolute Zero サジッタ》!!」

 噎せ返るような瘴気を吹き飛ばし、風切り音と共に半人半鳥(ワービースト)の歌姫が飛来する。

「ライドコストとして捨てたクラーリをソウルへ!

 ソウルからカシュアとクラウをスペリオルコール!

《花園を巡る光 風紀乙女 ルリーニア》をコール! 山札の上から5枚を見て……サジッタを手札に加えるぜ!

 手札を1枚捨て、クラウのスキル発動! 手札から捨てられたプリストロをスペリオルコール! サジッタのスキルで1枚ドロー!

 サジッタのもうひとつのスキルも発動!

 ユイカをコールして、バトルだ!

 ユイカのブースト! ルリーニアでヴァンガードにアタック!」

「《ダイアフルドール べさにー》でガードー」

「ユイカのスキルでルリーニアを手札に戻すぜ!

 ブーストを得たプリストロでブースト! サジッタでヴァンガードにアタック!

 ドロップからアルハもスペリオルコールだ!」

「ノーガードだよー」

「トリプルドライブ!!!

 1枚目……ノートリガー!

 2枚目……よしっ、(ヒール)トリガー! ダメージ回復! パワーはアルハに!

 3枚目……★トリガー! ★はサジッタに! パワーはカシュアに!」

「ダメージチェックー」

 ネネは2度目のダメージチェックで(ドロー)トリガーを引き当てるが、ダメージはソロが2点、ネネが4点と逆転した。

「アルハでヴァンガードにアタック!」

「《ダイアフルドール あれっさんどら》でガードー。アクエーンでインターセプトー」

「手札を1枚捨て、クラウのブースト! カシュアでヴァンガードにアタック! カシュアのスキル発動で、パワー+5000!」

「《ダイアフルドール しゃるめいん》でガードー。ヴァンガードのグレードが相手ヴァンガードのグレード以下なので、シールド+10000だよー」

「カシュアは退却し、1枚ドロー! 俺はこれでターンエンドだぜ!」

「ネネちゃんのターンー。スタンド&ドロー。

《強欲魔竜 グリードン》にライドー!」

 ソロと対峙していた悪魔が、不意に伸びてきた腕に体を掴まれたかと思うと、その上半身をバリバリと食いちぎられる。

 闇の中からのそりと姿を現したのは、身なりのよい正装に身を包んだ大柄な魔竜。

 その抜け目ない眼光が次なる獲物を求め、危険な輝きを放つ。

「手札のヒーコウをソウルに置いて、山札からボーショックを手札に加えるよー

 オモネールをコールー。スキルで山札の上から5枚を見て、グリードンを手札に加え、そのままグリードンをソウルへー。

 アクエーンもコールして……《デザイアデビル ムッカー》を手札に加えて、バトルだよー」

「来いっ!」

「ところでさー」

 身構えるソロだったが、ネネは手札をテーブルに置き、雑談の体勢をとった。

「ネネちゃんは一時期このグリードンを愛用していたんだけど、最近ずっとアンドロルドを使っていたのは何でかわかるかなー?」

「……イケメンだからか?」

「ソロちゃんと一緒にしないでくれるかなー?」

 ネネが心外とばかりに頬を膨らます。

 ソロも「俺はサジッタの顔だけに惚れたんじゃねぇ!」と主張しかけたが、本人(サジッタ)から『恥ずかしいからそれ以上はやめて』と止められた。

「アンドロルドは守備的なデッキだから長くファイトできるでしょー? ファイトできる回数が限られるネネちゃんにとって、のんびり戦えるデッキは貴重なのだー。慣れないデッキでプレイングが拙かったのはお恥ずかしい限りなんだけどねー」

「あれで拙かったの……?」

 ポツリと呟いたのはサナエだ。彼女を含め、この場にネネのアンドロルドに勝てた者はいないのだが。

「あたしがグリードンを使うとね。すぐに勝負が決まっちゃってつまんないんだ。お願いだから、ソロちゃんはすぐに壊れないでね?」

 熊が兎に向かって「今から全力で殴るけど死なないでね?」とお願いするような理不尽。

 純真無垢の黒い殺意がネネの全身から溢れ出す。

「グリードンでヴァンガードにアタック。ダメージが4枚以上なので、ソウルのボーショックのスキルでパワーが+5000されているから、合計パワーは18000だよー」

「……ノーガード」

「ツインドライブー!!

 1枚目はノートリガー。

 2枚目はー……」

 喜ぶでもなく、勝ち誇るでもなく、すべては既定路線であるかのように、淡々とそのカードを公開する。

(オーバー)トリガー《怨恨の冥竜神 ゴルマギエルド》」

「!?」

「グリードンにパワー+10000と、★+1の永続効果を与え、グリードンにパワー1億」

 魔竜に竜神の力が宿り、地面に叩きつけられた拳が天をも揺らす。

「ダメージチェック……」

 ソロはトリガーを引けず、ダメージが互いに4枚で並ぶ。

「バトル終了時、グリードンのスキル発動ー。アクエーン以外の4枚をソウルに置いて、グリードンをスタンドー」

 渾身の一撃で力を使い果たし片膝をついた魔竜だったが、手近な悪魔を根こそぎ引っ掴むと、まとめて口の中に放り込みムシャムシャと咀嚼する。

 力を取り戻した魔竜が再び立ち上がり、その全身から紫色の瘴気が立ち昇った。

「な!?」

「オモネールがソウルに置かれたので、ドロップからボーショックをソウルにー。

 もう1枚のオモネールで、ドロップからアクエーンをソウルにー。

 フージョがソウルに置かれたので、ソロちゃんのクラウを退却ー。

 リアガードがヴァンガードの能力でソウルに置かれたので、ブベツーのスキルも発動ー。手札から《デザイアデビル ムッカー》をコールして、ムッカーのスキルでソウルからフージョをスペリオルコールー」

「な!? な!? な!? なんだとぉ!?」

「パワー1億とんで28000、★2のグリードンでヴァンガードにアタックー。

 アタック時、ソウルのヒーコウをバインドすることで、ヒーコウをスペリオルコールー」

「あ、あ、《暖かいうちに召し上がれ ウォルミア》で完全ガードッ!」

 強欲な魔の手が通りすがりの少女に迫る。だが魔竜は少女ではなく、彼女の手にしていた肉まんの入った紙袋を奪い取り、一口で袋ごと平らげた。

「ツインドライブー。

 1枚目ー……お、治トリガー。パワーはグリードンに与えて、ダメージ回復だよー

 2枚目は★トリガー。効果はすべてグリードンに。

 バトル終了時、グリードンのスキル発動ー。4枚のデザイアデビルをソウルに置いて、グリードンをスタンドー」

 増殖した悪魔を再び喰らい、魔竜がなおも地響きと共に立ち上がる。

「グ、グリードンにターン1回制限は!?」

「そんなものないよー。

 フージョがソウルに置かれたので、ユイカを退却ー。

 ★3の1億グリードンでヴァンガードにアタックー。

 アタック時、ソウルのフージョをバインドして、ソロちゃんは手札からガーディアンサークルにコールする際、2枚以上同時でないとコールできないよー」

「ウォルミアとルリーニアをコール! ウォルミアで完全ガードォッ!!」

 再び肉まんが犠牲となり、魔竜の圧倒的な攻撃を逸らすことに成功する。

「ツインドライブー。

 1枚目は引トリガー。1枚引いて、パワーはグリードンにー。

 2枚目はノートリガー。

 ネネちゃんはこれでターンエンドだよー」

 3枚しかなかったネネの手札が、この1ターンで9枚にまで回復している。

「……ふふ、ソロちゃんすごいねー。本当に壊れなかったんだー」

「へっ。このくらい想定の範囲内だぜ」

「グリードンが1ターン1回とかほざいてたけどねー。

 でも正直、ゴルマギエルドを引いた時点であたしの勝ちだと思ってたー。

 キミは大して強くないくせして、いつもあたしの予想だけは飛び越えていく。

 今日だって優勝するのはクロエちゃんだと思ってたし、そもそもアヤメちゃんに勝つことはないだろうと思ってた」

「マジでか」

「きっと勝負強いんだろうねー。ほら野球にもいるでしょ? チャンスにだけやたらと打率のいい人」

 言いながら、めちゃくちゃなフォームで透明のバットを振るう。

「ならここでネネちゃんさんもブッ倒して、もっと驚かせてやるぜ!」

「せいぜい楽しみにしてるよー。手札は4枚。クラウもユイカも失って、アルハが盤面に残ったままの、その状況でやれるものならねー」

「やってやるさ! 俺のターン! スタンド&ドロー!

 ペルソナライド! 《Absolute Zero サジッタ》!」

 ソロの負けん気を映す鏡のように、その銀色の文字がきらりと輝く。

「《小悪魔的メソッド ヴァレフル》をコール! スキルで1枚ドロー! ……くそっ、《休息の羽衣 風紀乙女 クルノール》をアルハの上にコールして、アルハを退却!

 サジッタのスキルも発動して、バトルだ!!

 クルノールでヴァンガードにアタック!」

「《喚起の操獣師 ライリー》でガードだよー」

「サジッタでヴァンガードにアタック! アタック時、ドロップからアルハをスペリオルコール!」

「ノーガードー」

「トリプルドライブ!!!

 1枚目……治トリガー! ダメージ回復! パワーはヴァレフルに!

 2枚目……★トリガー! ★はサジッタに! パワーはアルハに!

 3枚目……★トリガー! ★はサジッタに! パワーはヴァレフルに!

 これで決まりだっ! いっけえええええええぇぇ!!!」

 ネネのダメージゾーンに4枚目、5枚目とカードが置かれていく。いずれもノーマルユニットだ。

 そして6枚目……。

「……ノートリガー」

 ネネが俯きがちにグリードンのカードを公開してダメージゾーンに置いた。

「っしゃあ!! 俺の勝ちだっ!!」

 ソロが両拳を握りしめて立ち上がる。渾身のガッツポーズだった。

「油断したな、ネネちゃんさん! 俺の引きの強さを忘れたか!

 おら、50000円分の商品券だ! それも忘れたとは言わせねーぞ!」

「……いや、まだだよ」

 おずおずと、ギャラリーを代表して声をあげたのは親友のカケルだ。今のソロにそれを指摘できるのは、彼をおいて他にいないだろう。

「グリードンは……ソウルにグリードンがある場合、7点のダメージを与えなければ敗北しないんだ」

「……へ?」

 間の抜けた声が口から洩れた。

「……悪い、ネネちゃんさん。テキストを確認させてくれねーか」

 そのネネはと言うと、笑いをこらえるように口元を押さえながら肩を小刻みに震わせており返答できる状態ではなかったため、ソロは勝手にカードを取り上げる。

 そしてテキストに目を通すと。

「そんなのアリかよぉ!!!!!」

 と頭を抱えて絶叫した。

「ネネちゃんさん、ソロ君の反応が見たくて、あえて説明しなかったよね……」

 サナエが呆れたように呟いた。

 ネネはファイトになると性格が悪くなるが、初心者を相手にカードの説明をしないほどではない。むしろ店員として積極的にカードを売り込んでいく。だが今回は悪戯心が良心を上回ってしまった。

「ごめんねー。ここまで完璧に状況がハマるとは思わなくてー。本当にごめんねー」

 目尻に浮かんだ涙を拭いながら、ネネが素直に頭を下げた。

「いや。カードを把握していなくて、テキストを確認しようともしなかった俺が悪い。ネネちゃんさんは俺のことをもう初心者だなんて思っていないから、あえて説明しなかったんだろ?」

「いやまだバリバリ初心者だと思ってるけど」

「それに今のドライブチェックで手札も充実した! 勝つのは俺だ!」

 どっかと椅子に座り直し、次のカードを傾ける。

「アルハでヴァンガードにアタック!」

「2枚の《ステムディヴィエイト・ドラゴン》でガードー」

「手札を捨て、ヴァレフルでヴァンガードにアタック! サジッタのスキルで1枚ドロー!」

「2枚のあれっさんどらとボーショックでガードー」

「俺はこれでターンエンドだぜ!」

「ずいぶんと強気だねー」

「ああ。ヴァンガードの3回アタックには驚いたが、かなり手札が充実していないと狙えないコンボと見たぜ。これだけ消耗させたらもう使えねぇだろ。1回までのスタンドなら、この7枚の手札と3点のダメージで耐えられるぜ!」

 ネネは軽く目を見張りながらカードを引いた。

「……ソロちゃんの言う通りだねー。このターン、グリードンを2回スタンドさせることは無理みたいだよー」

 ソロがホッと安心したのも束の間。

「だから別の手を打たせてもらうね」

 ネネの口調が背筋を凍らせる冷徹なものに豹変した。

「ライドフェイズをスキップ

 オモネールをコール。山札から5枚見て……《マスク・オブ・ヒュドラグルム》を手札に加えるよ」

「?」

 ネネが公開した禍々しい意匠の仮面を見て、ソロが首を傾げ、ギャラリーの一部がざわつく。

「そのカード……」

 カケルが思わずと言った調子で口を挟む。

「ネネちゃんさんは……ユニフォーマーズだったの?」

「うん。そーだよ」

 ネネはあっさりと認めた。

「ゆにふぉーまーず?」

 ソロが首を傾げる。

「僕も詳しいわけじゃないんだけど……どこまでも効率的に最強のファイターを育成することだけを目的としたチーム、みたいな感じかな。色々あって今は廃れちゃったけど。その象徴となったのが、ユニットに強大な力を与える《マスク・オブ・ヒュドラグルム》だよ」

「ユニフォーマーズの考え方には、あたしも思うところはあったけどさ。それに救われた人も少なからずいたんだよ。

 例えばあそこには、意識だけをコンピューターネットワークに繋げてファイトできる施設があった。あたしみたいな体が弱い人間にとっては夢のような世界だったよ。ずっとこの世界でまどろんでいたいと本気で思ってた。……まあパパがあんまり心配するから出てきちゃったんだけどさ」

 ネネは少し恥ずかしそうに寝ぐせだらけの髪をくるくると指に巻き付けた。

「もしすべてを顧みず、あの世界に入り浸れる人間がいたとするなら、今頃はどうなっているのかな? 本当に最強のファイターになれた? それとも意識だけ向こうに取り残されて廃人にでもなったかな?」

 ネネが笑った。まるでそうなった人間を知っているかのような、皮肉めいた笑みだった。

「話が逸れたね。あたしはそんな最強という見果てぬ夢を追い求めた者達が残した落胤だ。だから絶対に負けてやらない」

 寝ぼけ眼だったネネの瞳が完全に覚醒し、ソロをギラリと睨みつけた。いや、彼女が真に見据えているのは勝利のみ。そしてそれを積み重ねた果てにある称号だけだ。

「ファイトを続けるよ。まずはオモネールの効果処理の続きで、手札のモウシーンをソウルに。

 そして、手札の《マスク・オブ・ヒュドラグルム》を発動する」

 仮面のカードから黒い霧が溢れ出し、視界を覆い尽くす。

「あたしはが手札に加えるのは……《強欲魔竜王 グリードン・マスクス》」

 霧が晴れた時、その手の中には別のカードがあった。

「ドロップの《マスク・オブ・ヒュドラグルム》第2の効果を発動。グリードン・マスクスにペルソナライド!」

 仮面から触手が伸び、魔竜の顔面に憑りついた。魔竜も抗うことなくそれを顔の左半分に固定する。

『悪いな、ブルース。この力は二度と使わない約束だったが……契約違反は悪党の十八番だぜ』

 暗黒街を牛耳る首魁でありながら、豪放磊落でどこか憎めない魅力も兼ね備えていた魔竜が、この一瞬で無法の闇に堕ちた。

「ソウルのグリードンを除外して、グリードン・マスクスのスキル発動。山札の上から7枚を見て、《デザイアデビル アラークレイ》を手札に加える。

《デザイアデビル ケンエン》をコール。スキルで山札の上から1枚……《デザイアデビル ヒステラ》をコール

 アラークレイをコール。スキルでソウルからゴーマンをコール。」

「盤面がまたデザイアデビルで埋まりやがった……」

「まだ終わりじゃない。

 ソウルにあるアクエーンのスキルで、このカードをバインドしてアルハをキミのソウルに置く。もう1枚、同じスキルでヴァレフルもソウルへ」

「くっ! インターセプトできるユニットが全滅しちまった……」

「バトル。ヒステラでヴァンガードにアタック。ダメージが5点以上の場合、ヒステラはスタンドしているリアガードの数だけパワー+5000される。ペルソナライド含め、合計パワーは43000」

「いきなりそんなパワーかよ! ノーガードだ!

 ダメージチェック……引トリガー! 1枚引いて、ヴァンガードのパワー+10000!」

「グリードン・マスクスでヴァンガードにアタック! アラークレイのスキルでグリードンと自身のパワー+5000! ペルソナライドとゴルマギエルドで合計パワーは38000、★2!

 さらに2回目のアタック時、ソウルからモウシーンをスペリオルコールし、パワー+5000」

「《青空を舞う翼と アンティア》と《珠玉の一曲 エドウィージュ》でガード!」

「ツインドライブ!!

 1枚目……ノートリガー。

 2枚目……★トリガー。効果はすべてモウシーンに。

 グリードン・マスクスのスキル発動! オモネール、ケンエン、ゴーマンを喰らい、グリードン・マスクスをスタンド! パワー+5000!」

 逃げ惑う悪魔達が剛爪によって斬り裂かれ、魔竜の纏う闇と同化する。

「オモネールがソウルに置かれたので、ドロップのヒーコウをソウルへ。

 ゴーマンがソウルに置かれたので、このターン中、キミは手札からガーディアンサークルにコールする際、2枚以上同時でないとコールできない。

 グリードン・マスクスでヴァンガードにアタック!」

「《柔らかな光 プルエル》と《澄み渡る雪夜 ベレトア》でガード! 1枚貫通だ! これが俺のできる全力だぜ!」

「ツインドライブ!!

 1枚目……ノートリガー。

 2枚目……引トリガー。1枚引いて、パワーはグリードンに」

「まだだっ! ダメージチェック!!

 1枚目……ノートリガー!

 2枚目……治トリガー!! これでダメージ回復……」

「無理だよ」

 パッと顔を輝かせるソロに、ネネが冷たく言い捨てた。

「あたしのダメージは6点。キミはまだ5点だから回復できない」

「あ……マジかよおおおおぉぉぉぉ!!!」

 魔竜は手近な悪魔をかき集めると、団子状に丸め歌姫に投げ放つ。それは歌姫の翼を掠め、遥か上空へと到達したところで大爆発を起こした。

 散りゆく命の輝きが満開の花火となって常夜の空を彩る。それはどんなダンスや歌声よりも住民の目を釘付けにし、魅了した。

 魔竜が仮面をはずしながら、鼻息荒く歌姫に笑いかける。

『どうだ踊り子の姉ちゃん。俺様のエンターテインメントもなかなかのものだろう?』

 

 

★彡

 

 

「だあー! くそっ! 負けちまったぜ!」

 その乱暴な言葉遣いに反して、ソロの顔には晴れ晴れとした笑顔が浮かんでいた。

「でも楽しかったぜ! やっぱネネちゃんさんはすげーや!」

「ずいぶんと上機嫌だね。25000円を損したのに」

 ネネが心底不思議そうに首を傾げる。

「ん? そういえばそうだったな。けど損したとはちっとも思わねー」

 その声にも負け惜しみの色はまったくない。

「このファイトから逃げていた方がよっぽどもったいなかったと思うぜ。そう……25000円の価値があるファイトだったぜ!」

「……まったく。ファイターがみんなソロちゃんみたいなら、ユニフォーマーズなんて生まれなかっただろうねー」

 親指を立てるソロに、いつもの調子に戻ったネネが諦めたように肩をすくめた。

「俺はまだ進路ってやつが定まってねぇ。けどネネちゃんさんに勝つことは人生における目標のひとつだな」

「叶わない夢を見るのはやめときなー。今から宇宙飛行士になる方がまだ簡単だよー」

 ネネは不敵にそう言い切ったかと思うと。

「これからはヴァンガードのことだけじゃなくていい。進路でもなんでも悩みがあるなら相談しなよ。こう見えてキミより人生経験豊富なお姉さんだからさ」

 その言葉通り、いつしか彼女は穏やかな大人びた笑みを浮かべていた。

「……ああ! これからも頼りにさせてもらうぜ」

 テーブル越しにソロとネネが固く握手を交わす。そんなふたりをギャラリーが万雷の拍手で祝福した。

「負けたけどソロの兄貴も強かったぜぇ!」

「負けたけどソロの兄貴もかっこよかったぜぇ!」

「負けたけどソロの兄貴もすごかったぜぇ!」

「うるせぇ! 負けたけどを連呼するな!」

 イチニィサンの野次にソロが怒鳴り返す。やっぱり少しは気にしているようだった。

「ソロ! 負けたけどナイスファイト!」

「はいっ! 負けたけど私とっても感動しちゃいました! ヴァンガードすごいです!」

「カケルとアリスまで!?」

 そのやり取りに会場が笑いに包まれた。

「それじゃー、そろそろ表彰式に移るよー」

 場が温まったのを見計らって、ネネが司会に戻る。

「優勝はソロちゃん! 惜しくもなく賞金は逃したけど――」

「惜しくもなかったのかよ」

「逃したけど、副賞としてこの店にあるカード、どれでも1枚プレゼントー。どれにす――?」

水着(LSR)サジッタ」

「どうせそう言うと思ったから、とっくに用意してるよー。はいこれ。おめでとー」

 差し出された厚手のスリーブに包まれたカードを両手で恭しく受け取り、ソロはそれを高々と掲げた。

『それ、使うの?』

 瞬間、絶対零度の声音が背筋に突き刺さった。婚約者(サジッタ)だ。

『誰がよ』

「サ、サジッタさん。『それ使うの?』とはどういった意味でしょうか――」

『私に水着姿で踊れと?』

「ぐ!」

『ましてや戦えと?』

「ぐぐぐ!」

 もっともすぎてぐうの音もでなかった。

「コレクションにします……」

 かくんと全身から生気が抜け落ちたかのように項垂れる。

 ソロがここまで落ち込むとは思っていなかったのか、サジッタは鍛えられた肺から特大の溜息をつくと。

『そんなに水着姿の私が見たいの?』

 と尋ねた。

「いや。サジッタが嫌なら……」

『私はあなたの本音を聞いているの』

「はい! 見たいです!」

 再び諦めが混じった溜息。

『素敵なデザインであることは否定しないし、私もたまになら着てみたい、かも……』

「じゃあ……!!」

『たまになら使ってもいいわよ。たまになら。アイドルが水着姿を恥ずかしがっていたらお話にならないしね』

「ああ! 2日に1回使わせてもらうぜ!」

『せめて1週間に1回にしてちょうだい』

「どうしたの、ボーッとしてー?」

 サジッタとの交渉を成立させたところで、ネネが心配そうにこちらを覗き込んでいることに気が付いた。

「あ、ああ! なんでもないぜ」

「? ならいいけどー。もうみんなフリー対戦やってるよー。ソロちゃんも時間の許す限り楽しんでいってねー」

 言いながら、ネネは後ろ手を振りながらバックヤードに消えていく。

「ネネちゃんさん! 今日はありがとうな! すっげー楽しかった!」

 その小さな背に声をかけるとバックヤードからサムズアップした小さな手がひょっこりと顔を出し、またすぐに引っ込んでいった。

「さぁーて! 今日はまだまだファイトすっか!」

 ソロはファイトスペースに向き直り、手のひらに拳を叩きつけた。

 そんなソロに気付いたのか。

「あっ! 兄貴! 俺とファイトしましょう!」

「いやいや! 俺とファイトしましょう兄貴!」

「いやいやいや! 兄貴は俺とファイトしたがってるんだ!」

 イチニィサンが口々に声をかけてきて。

「いえ。ソロさんにはまず私のリベンジマッチを受けて頂きます」

「あっ! それなら私も! 負けたままじゃ終われないもんね!」

 クロエとサナエがそれに割り込み。

「わっ、私ももう1回ソロさんとファイトしたいですっ!」

 そこにアリスまで加わってくる。

「あはは……大人気だね、ソロは」

 カケルが苦笑しながらソロを小突いた。

「ありがたいことにな」

 ソロも釣られて笑った。

「俺はもう“孤皇”じゃねーんだな」

『何を今さら』

 思わず口をついて出た言葉に、サジッタが呆れたように呟いた。

『でも、よかったわね』

「サジッタのおかげだよ」

『私はあなたの世界に干渉できない。すべてあなたの素行がよかったからよ』

「それでも……ありがとう」

 ソロの手とサジッタの翼が世界の壁を越えて繋がり合う。

「もう一曲、踊れるか?」

『当然よ。風紀乙女としてヤワな鍛え方はしていないわ』

「よっしゃー! お前らそこに並べ! まとめて相手してやらぁ!」

 イチニィサンやクロエ達を順々に指さし堂々と宣言する。

「俺と水着サジッタが返り討ちにしてやるぜ!」

『あ、さっそく今日使うのね……』

 本日三度目となる超特大の溜息が、さわやかな風となってファイトスペースに吹き抜けていった。

 

 

★彡

 

 

 バックヤードに引っ込んだネネはすぐさま備品のPCを起動した。暗がりの中、モニターに淡い明かりが灯る。アクセスするのはヴァンガードの公式ホームページ。そこには次の新弾に収録されるカードがずらりと表示されており、ネネはそのうちの1枚に目を留めた。

 

《待ち侘びた手紙 風紀乙女 プリュケ》

 

 それは新しく登場する風紀乙女のカードだった。

(もし、もしもだよ――)

 ファイトにおいてその言葉はありえないと分かってはいるが。

(すでにこのカードが発売されていて、あの子がクルノールとこのカードを入れ替えていたら?)

 脚を組みながら目を閉じ、当時の自分とソロの手札を反芻し再計算。

(あたしはあの子のアタックを防ぎきれなかった――?)

 その結論に至った瞬間、小さな拳を机に叩きつけた。古いPCの電源がブツッと音をたてて落ちる。

(ふっふっふっー、やってくれるじゃないソロちゃん。そろそろ初心者は卒業かなー?)

 真っ黒なガラスのモニターに、笑う悪魔の形相が映り込んでいた。




グリードン回でした。
アニメに登場しているユニットがこの作品に登場するのは珍しいと思われた方もいるかも知れません。
実際、私の書くヴァンガード小説のコンセプトは「アニメに登場しないユニットを活躍させること」です。

つまり『グリードン』はともかく『グリードン・マスクス』は活躍させるべき対象なわけですね。

私はグリードンを存分に暴れさせることができて楽しかったですが、皆さまはいかがでしたでしょうか?
感想等いただければ幸いです。


そして……当作品は次回が最終話となります!!
どうか最後までお付き合いください!
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