カードショップ『眠り姫』のファイトスペースは今日も平和だった。
そこかしこから聞こえるカードが擦れる音と、宣言。たまに楽しそうな歓声と悲鳴。
隣では巫女装束姿のサナエがデッキの調整をしており、カードがペタ、ペタとテンポよくプレイマットに置かれる音がまた耳に心地よい。
今の時間帯は窓から陽が差し込んでくるので冬にしては温かく、絶好のお昼寝日和だった。
この部屋の責任者、パステルレインボーの寝間着を纏った少女のような女、夢見弥ネネが己の職務も忘れてうとうとしてしまうほどに。
「ネネちゃんさんはいつもうとうとしてるでしょーが」
隣の巫女さんが半眼になってツッコんできた。
だがそんな雑音には耳を貸すことなく、本格的に眠りにつくため、ネネは立てかけてあった『対戦者募集中!』の札をひっくり返そうとした、その時――
「失礼」
彼女に影が落ち、遥か頭上から声をかけられた。
「んー?」
札に伸びていた腕をサッと下ろし、ネネが顔を上げる。
短く刈り込まれた黒髪に褐色の肌をした男が厳しい表情を浮かべてこちらを見下ろしていた。かなりの長身だ。
「どうしたのー?」
ネネが小首を傾げる。
「我が名はアクアフォース第一大隊所属、旗艦竜フラッグバーグである! 階級は中将!
貴女にヴァンガードファイトなるものを所望する!」
胸を張って名乗りを上げる男に。
(あ、この人、変な人だ)
ネネは生暖かくその目を細めた。
カードショップには、たまにいるのである。
★彡
どこまでも続く水平線。今日も海は凪だった。
空から照り付ける陽射しは水面を蒼く輝かせ、潮騒が遠く聞こえている。
その中心には小島が浮かび、寄せては返す波を受けてなお静かに佇んでいた。
ちゃぷりと音を立てて、その横から美貌の
「中将。……中将!」
人魚が誰かに呼びかけるように叫んだ。だが、返ってくるのは小島に打ち寄せては砕ける波音のみ。
人魚は小さく溜息をつくと、大きく息を吸い込み、凛としたよく通る声でその名を呼んだ。
「フラッグバーグ中将!」
小島が動いた。
畳まれていた全身の武装が展開し、長い首を天に向かってもたげる。そこで羽を休めていた海鳥達がギャアギャアと慌てて飛び去っていった。
その小島は島ではなく1匹の
『カリオペイア大尉』
竜から発せられたのは、声ではなく脳内に直接語りかける念話だ。まるで無線のようにノイズがかかっている。
『何用だ?』
「お疲れのようですわね」
上官の問いには答えず、カリオペイアと呼ばれた人魚は整った顔立ちに厳しい表情を浮かべて言った。
『そのようなことはない』
「普段の中将でしたら、私が一度呼びかけた瞬間――いいえ、私が近づいた時点で反応されていました」
『……用件を述べよ、カリオペイア大尉』
その問いの繰り返しは上官として当然のものではあったが、どこか痛いところを突かれて誤魔化すような反応でもあった。
「進言します。一週間ほど休暇を取られては如何でしょうか?」
『却下。この海から悪を駆逐するまで我に休みは無い』
「浜の真砂は尽きるとも、世に盗人のなんとやら。それは一生休まないと宣言しているようなものですわ」
唄うように詩を詠み、カリオペイアは小さく頭を抱えた。
『無論、その覚悟』
「……よいですか? アクアロイドであれ人魚であれ竜でさえ、適度に休みを挟まなければパフォーマンスは加速度的に低下していきます。
人を例にすれば、寝ずに戦えるのは半日が限界でしょうが、そこに7時間の睡眠を挟むことで50年戦えるようになるのです。
竜であるあなたなら100年は寝ずに戦うことも可能でしょうけど、休憩を挟むことで1000年以上戦い続けることだってできるのです。どちらが我々の――正義のためとなるか分からないわけではないでしょう?」
かつては戦場の歌姫として後方支援を担ってきた彼女の言葉は重い。
「それとも中将は、カリクレス候補生ら自らの麾下が、そして我々蒼奏の歌姫部隊が信じられませんか? たった一週間すら中将のいない海は支えられないと?」
そして彼女は今や蒼奏の歌姫として前線に立ち、フラッグバーグに劣らぬ戦果を挙げ続ける将なのである。
『……進言を容れよう』
フラッグバーグは恥じ入るようにその身を少し海に沈め、前言を撤回した。たったそれだけの仕草で大きな波が立ち、遠くで訓練をしていた隊員達が攫われたが、カリオペイアは姿勢を凛として崩さなかった。
『だが一週間は長すぎる。5日……いや、3日が限度だ』
「承知致しました」
カリオペイアが完璧な敬礼を返す。
『……して大尉よ』
「なんでしょう?」
『休暇とは何をすればよいのだ?』
「そうですわね……」
カリオペイアは白手袋に覆われた指を、形のよい顎に当てて小首を傾げた。その飾らない仕草に、つい先ほどまで上官に詰め寄っていた鉄の女の面影は無い。隊の健康管理に関しては鬼のように厳しいが、普段の彼女は気さくで頼れるお姉さんなのである。
「何もせずに寝て過ごしてくだされば十分なのですけど……」
この
「……そうだ! 最近、面白い技術が再生されたと聞きましたわ」
『ふむ』
「なんでも、自らの意識をこの惑星クレイとよく似た惑星Eに移して、そこの住人に憑依させるとか。
顎に当てていた細い指をピンと立てる。
「ディフライド、だそうですわ」
★彡
かくしてフラッグバーグは己と繋がりの深い人間に
――のだが、憑依した男は異常に衰弱しており、フラッグバーグは憑依した瞬間、危うく死にかけた。
数か月間ほとんど飲まず食わずで、ろくに睡眠も取れていないような肉体だった。財布の中に金はあったので、食料が買えなかったというわけでもなさそうである。
それはまるで生きる気力を失ってしまったか……もしくは、自らを罰するような苦しい死に方を望んでいたかのような。
ともあれフラッグバーグは奇しくも食事と睡眠の大切さを思い知ることとなり、どうにか外を出歩けるようになるまで回復するのに丸2日かかった。
そんな散々な旅行の最終日(もちろん倒れていた期間も休暇のうちである)、フラッグバーグは憑依した男が大切そうに抱えていたデッキを手にカードショップへと向かった。
辿り着いた『眠り姫』というカードショップで寝間着姿の少女にファイトを申し込み――。
「そ、そんな……まさか、あたしが……」
その少女は今、目の前で両手をわななかせ愕然としている。
「まさかあたしが初心者を相手に5点もダメージを受けて勝ってしまうだなんて……」
「いや勝ってるんかい」
隣にいた巫女装束姿の少女がツッコんだ。
「いやー、初心者相手ならノーダメージで勝たなきゃでしょー」
「いくらネネちゃんさんでもノーダメージは難しくない!?」
さらに巫女少女が目を剥いて叫ぶ。
「それに初心者初心者って失礼でしょ。どう見ても熟練のフラッグバーグだったよ?」
「いや。ヴァンガードファイトはこれが初めてだ」
とフラッグバーグ。
「マジで!? それにしてはルールも知っているようだったし、テキストも把握されているようでしたけど」
「我が知らずとも、この肉体が覚えている」
「はあ……?」
「ヴァンガード……よい遊戯だ。たかが玩具と侮っていたが、戦場の基礎が単純なルールに凝縮されている。新兵の教材として採用したいぐらいだ。我がアクアフォースの得意とする波状攻撃もよく再現できている」
「でしょー?」
寝間着少女が嬉しそうに相槌を打つ。
「ところで人間の娘達よ」
「なにかなー?」「いやあなたも人間じゃ……」
「君達はこれまでファイトをしてきて、惑星クレイを感じたことはあるか? もしくはまるで惑星クレイが見えているような、イメージの強いファイターと出会ったことはないか?」
少女達が揃って顔を見合わせた。
「心当たりがあるようだな」
フラッグバーグはこの旅行中にひとつの目標を立てていた。
それは惑星クレイとの繋がりが強い人間を見つけ出すこと。
かつてヴァンガードファイトを通して惑星クレイにまで影響を及ぼすほどのイメージ力を持った地球人がいた。その存在はふたつの星に様々な事件を引き起こし、あわや滅亡寸前にまで陥ったことすらあるという。
今はそういった地球人は見つかっていないようだが、少しでもそのような可能性がある者がいるのであればマークしておく必要がある。
陸海問わず星の秩序を守ることはアクアフォースの使命であり、今それを成せるのは惑星Eにディフライドしたフラッグバーグだけなのだ。
この決意をカリオペイアが聞いたら「そんな旅行中にまで仕事を持ち込むようなことをして……」と呆れられるだろうが。
「ひとり、すごいのがいるよー」
「うん。まるでカードを通してユニットとお話しているみたいな」
「それはただの変な人ではないのか?」
「お前が言うなー」
寝間着少女に、辛辣にツッコまれた。
「あの子、今日は昼過ぎに来るって言ってたから、もう少し待っていれば来るんじゃないかなー?」
「そうか。では待たせてもらおう」
フラッグバーグは腕を組んで待ちの姿勢を取った。
よくよく落ち着いてみると、目の前にいるふたりの少女からも惑星クレイの気配が感じられる。
寝間着姿の少女からは、濃い闇の気配がふたつも。
巫女装束姿の少女からも、帝国の東方に住まう鬼の気配がうっすらとだが感じられた。
(こんなにも早く候補が見つかり、なおかつこれよりすごい者がまだ控えているとは。この店はイメージの強い者が惹き合う特異点なのかも知れぬな)
思えば、フラッグバーグ自身も真っ直ぐこの店を目指していた。より近場にもカードショップはあったと言うのに。
(楽しみだ)
フラッグバーグは目を閉じ、期待して待った。
★彡
「どうもはじめまして。私が副会長です」
10分後、寝間着少女に紹介されたのは副会長と名乗るメガネの男だった。
「えっ、違っ……」
巫女少女は何かを言いかけていたが。
「ファイトですか? もちろん構いませんよ。よろしくお願い致します」
ファイトを申し込むと、副会長は快く同意した。
さらに10分後――
「やられちゃったぴょーん!!」
奇声をあげてバネのように吹き飛ぶ、半裸の副会長の姿があった。
「……これは違う」
フラッグバーグは重々しく声をあげる。
「えー? 絶対エレドグレーマに乗っ取られてるもんだと思ってたんだけどー」
寝間着少女が不満そうに口を尖らせた。
「そんな気配は微塵も感じられない。彼はただの変態だ」
「そっかー。変態だったかー」
むしろ副会長(そもそも何の副会長なのだ)とやらを憐れむように見下しているメガネをかけた女の方が、氷に閉ざされた世界に住まう研究者の気配を感じさせた。
「まあ後で対抗馬も来るから、もう少しだけ待っててよー」
「私ははじめっからそっちが本命だったんだけど!?」
そんな少女達の勧めもあって、フラッグバーグはもう少し待つことにした。
★彡
「おっす! ネネちゃんさん! サナ! お、生徒会長達も来てたのか」
それから10分後、カケルにイチニィサン、最近すっかり懐かれた蝶野アリスら仲間達を引きつれた御導ソロが『眠り姫』に来店した。
「おっすー、ソロちゃん」
それに応えてネネがひらりと片手を挙げる。
「ソロちゃんにお客さんが来てるよー」
「お、挑戦者か? 俺も有名になったものだぜ」
「フラッグバーグちゃん、紹介するねー。この子がソロちゃんだよー」
それを合図に、ネネの対面にいた褐色肌の男がソロの前に立ちはだかる。本人はそんなつもりなど無いのかも知れないが、ソロより上背もあり、なおかつ異常に姿勢がよいので必要以上に威圧感を与えてしまうような男だった。
「我が名はアクアフォース第一大隊所属、旗艦竜フラッグバーグである! 階級は中将!」
男はその姿勢を一切崩さず高らかに名乗る。
「へえ、変わった名前だな。外国の人?」
ソロも男を見上げながら不敵に微笑んだ。
「え……? フラッグバーグって……」
「たぶんソロはそれがユニットの名称だって気付いていないんじゃないかな……」
その後ろではアリスとカケルが囁き合う。
「ソロちゃんと言ったな。我とヴァンガードファイトをしていただきたい!」
「ああ、いいぜ! ケンカはお断りだが、ファイトの申し込みならいつでも大歓迎だ!」
「感謝する、ソロちゃん」
「いや、ソロ
サナエの指摘は誰も聞いておらず、ソロとフラッグバーグは空いている席にどっかりと腰かけた。
「気を付けてねー、ソロちゃん。挑戦者とは言ったけど、ソロちゃんが胸を借りるつもりで挑んだ方がいいと思うよー。
ネネちゃんが5点のダメージを受けて勝ってしまうほどの実力者だよー」
「いや勝ってるんかい」
奇しくもサナエと同じツッコミを入れながら。
「けど、ネネちゃんさんにそこまで言わせるとは、あんた只者じゃねーな」
ソロはフラッグバーグを睨みつけた。
「いかにも。我はカードファイトにおいては新兵なれど、手加減は無用に願いたい」
「もとよりそんな言葉は知らねーな」
「結構。君の素質、見極めさせてもらおう」
フラッグバーグに睨み返され、百戦錬磨のソロをも戦慄させた。これまで戦ってきたどんな相手とも違う、アヤメすら越える本物の殺気。
体つきはまったく鍛えているようには見えないのに、もし本気で戦り合うことになれば成すすべなく蹂躙されるだろうと直感してしまうほど。
(面白れぇ。けど、戦いとファイトは違うってことを教えてやるぜ……!)
ソロが他のファイターと違う点を挙げるとするならば、それを誰よりもよく知っているということだ。
「「スタンドアップ! ヴァンガード!」」
「《士官候補生 カリクレス》!」
立ち昇る水柱から、小綺麗な純白の軍服を身に着けた少年が姿を現し。
「《Absolute Zero リックス》!」
フクロウの
★彡
「!?」
気が付けばソロは大海の真っ只中にいた。
動揺するソロであったが、まるでヴァンガードの盤面のように6つの木片がぷかぷかと浮いていたので、そのうちのヴァンガードサークルと思しき場所に恐る恐る着地する。
「我がターン。スタンド&ドロー!
忠勇なる我が部下《インロード・シューター》にライドする!
我はこれでターンエンドなり」
「俺のターン! スタンド&ドロー!」
「やっちまってくだせぇ! ソロの兄貴!」
「へへへ……あいつも馬鹿なやつだぜ。ソロの兄貴に挑むなんてよぉ!」
「負けたらどうなるかわかってんだろうなぁ?」
「俺が小物に見えるような野次を飛ばすんじゃねぇ!」
イチニィサンを叱りつけ、ソロはライドデッキのカードをヴァンガードに重ね合わせる。
「ライド! 《Absolute Zero クラウ》!
リックスのスキルで1枚ドロー!
ライドコストとして捨てられた《安らぎの天色 風紀乙女 アルハ》のスキルでエネルギーチャージ!
クラウのスキルで山札の上から7枚を確認……俺は《Absolute Zero サジッタ》を手札に加えるぜ!」
誇らしげに公開されるサジッタの
「バトルだ! クラウでヴァンガードにアタック!」
「《戦場の歌姫 ドルセア》でガード」
「ドライブチェック……ノートリガー。
俺はこれでターンエンドだぜ」
「我がターン。スタンド&ドロー!
忠勇なる我が部下《アセンダンス・アサルト》にライドする!
アセンダンスにライドされたインロードをスペリオルコール!
ライドコストとして捨てられた《海鳴のブレイブ・シューター》のスキルで1枚ドロー!
バトルフェイズへと進行する!
アセンダンスでヴァンガードにアタック!」
「《青空を舞う翼と アンティア》でガード」
「ドライブチェック!
インロードでヴァンガードにアタック!」
「ノーガード! ダメージチェックはノートリガーだ!
俺のターン、スタンド&ドロー!
《Absolute Zero カシュア》にライド!
ライドコストとして捨てられた《随喜竜 プリストロ》をスペリオルコール!
手札から《小悪魔的メソッド ヴァレフル》をコールし、ソウルチャージ&1枚ドロー!
バトルだ! カシュアでヴァンガードにアタック!」
「ノーガード」
「ドライブチェック……
「ダメージチェック……2枚ともトリガーではない」
「プリストロでヴァンガードにアタック!」
「インロードでインターセプト」
「な!?」
「インロードはG1だが、ヴァンガードがアセンダンスであるならインターセプトを得る」
「も、もちろん知ってたぜ! ヴァレフルでヴァンガードにアタックだ!」
「ドルセアでガード」
「俺はこれでターンエンドだ!」
「我がターン! スタンド&ドロー!
吼えよ、我が分身! 《旗艦竜 フラッグバーグ・ドラゴン》にライドする!」
大海が渦を巻き、その中心から規格外の巨体を誇る水竜が浮上する。
それは全身に装備された砲塔を空へ向けると、全軍を鼓舞するべく高らかに
「手札のフラッグバーグを公開することにより、アセンダンスをスペリオルコール!
《ティアーナイト アリックス》、《戦場の歌姫 エレフテリア》をコール! エレフテリアのスキルでエネルギーチャージ!
バトルフェイズへと進行する! バトルフェイズ開始時、エレフテリアのスキルでアリックスのパワー+5000!
アセンダンスでヴァレフルにアタック!」
「プリストロでインターセプト!」
「アリックスでヴァンガードにアタック! リアガードのアタック時、アセンダンスはスタンドする!」
「《密かな祈り 風紀乙女 クラーリ》でガード! ヴァンガードがAbsolute Zeroなので、シールド+5000!」
「2回目のバトル終了時、アリックスはスタンドする!
エレフテリアのブースト! アセンダンスでヴァンガードにアタック!」
「《サリーアルボイス ヒルベルタ》でガード!」
「フラッグバーグでヴァンガードにアタック! フラッグバーグのスキル発動!
このターン4回目のアタックなので1枚ドロー! さらに相手リアガードを2枚まで退却させる! インターセプトの機会を逸したな」
「つっ……! ヴァレフルは退却するぜ。そのアタックはノーガードだ」
「では……ツインドライブ!!
1枚目、★トリガー! ★はフラッグバーグに! パワーはアリックスに!
2枚目、引トリガー! 1枚引き、パワーはアリックスに!
放てっ!!」
合図と共に放たれた無数の砲弾が炸裂し、爆風が大海を炎と鮮血で朱に染め上げる。
「うがああああああああっ!?
ダ、ダメージチェック……」
2回目のダメージチェックで★トリガーを引くが。
「アリックスでヴァンガードにアタック!」
パワー40000のアタックは防ぎきれず、早くも4点目のダメージを受けてしまう。
「我はこれにてターンを終了する」
「お、俺のターン……スタンド&ドロー!
……へっ! 海が舞台ならこの衣装で文句はないだろ!
唄え、我が最愛の人! ライド! 《Absolute Zero サジッタ》!!」
突風が逆巻く炎を吹き飛ばし、澄んだ海面に1羽の少女が水着姿で降り立った。
白い肌が水滴を弾き、漆黒の翼は濡れ羽となって艶を増す。
普段より露出の多い衣装でありながら、清楚に仕立てられた純白の水着と、少女の上品な仕草によって、それはどこか女神の如き荘厳さすら感じさせた。
「それが君のヴァンガードか。リリカルモナステリオのアイドルグループ、Absolute Zero。そのリーダーであるサジッタ。戦場で生きてきた我ですらその名は聞いたことがある。我が隊にもファンは多い」
「ならあんたもファンにしてやるぜ! なぁ、サジッタ!」
『…………』
ソロが呼びかけるが、サジッタは無言だった。水着姿を恥じらっているのかと思ったが違う。真剣な表情でじっとフラッグバーグを名乗る男を見据えている。
「……サジッタ?」
「君にはサジッタの姿が見えているのか?」
男が問いかける。
「ああ! あんたには見えなくとも、サジッタはここにいるぜ」
ソロが自らの心臓を親指で突き付けながら答えた。
「では、それを我に証明して欲しい。君のイメージを我に見せてみろ」
「よくわかんねーが、やってやるぜ!」
『……ソロ』
これまで黙っていたサジッタが、ようやく口を開いた。
『この男の人……ものすごく嫌な気配がする』
(嫌って……変なやつだけど、悪いやつじゃなさそうだぜ?)
『それは私も思う。けど、彼は悪意もなしに私達が大切にしているものを粉々にしていきそうな……』
(つってもファイトを中止するわけにはいかねーだろ。やつの言う通り、ここは俺達の全力を見せつけてやるしかねーぜ!)
『ええ……』
(安心しろ。何かあっても俺がサジッタを守ってやる)
なおも不安そうなサジッタを勇気づけるように、ソロは声を張り上げた。
「待たせたな! ファイトを続けるぜ!
カシュアのスキルで、カシュアとクラウをソウルからスペリオルコール!
《待ちわびた手紙 風紀乙女 プリュケ》をコール!」
「出たぜ! 兄貴の新戦力だ!」
イチニィサンのいずれかが叫ぶ。
「プリュケのスキル発動! 山札から《光に心おどらせて 風紀乙女 ルシル》をドロップに置いて、パワー+5000!
クラウのスキルで手札を1枚捨て、前列パワー+5000のスキルを得る! サジッタのスキルで1枚ドロー!
そして、ドロップのルシルをバインドしてスキル発動!
このターン、4回目のアタックでサジッタの永続効果を無効にする! これで俺は連パンしても手札を捨てる必要はねぇ! これぞ風紀乙女特別権限!
大切なものを守るためなら、ルールなんざ破ってやるぜ!」
ソロが
「サジッタのスキルも起動して、バトルだ!
プリュケでヴァンガードにアタック!」
「アリックスとアセンダンスでインターセプト」
「ここからが本番だ! サジッタでヴァンガードにアタック!
アタック時、ドロップからアルハをプリュケのサークルにスペリオルコール!
プリュケは退却し、さらなるスキルが発動するぜ! プリュケはソウルに置かれ、1枚ドロー! さらにCB1で前列のパワー+5000だ!」
「ノーガード」
「トリプルドライブ!!!
1枚目、ノートリガー!
2枚目、
3枚目、★トリガー! ★はサジッタに! パワーはカシュアに!」
水着姿の歌姫が飛翔し、形のよい唇から厳かなメロディが奏でられ、蒼海に波紋が幾重にも広がっていく。
彼女が頭を巡らすたび、その黒髪に添えられた白い花の髪飾りが星のように瞬いた。
「ダメージチェック……」
フラッグバーグは2回目のダメージチェックで★トリガーを引いた。これで4点目。
「アルハでヴァンガードにアタック!」
「2枚の《晴朗の乙女 レェナ》でガード」
「クラウのブースト! カシュアでヴァンガードにアタック!」
「ノーガード」
フラッグバーグのダメージゾーンに5枚目のカードが置かれる。
「カシュアを退却させ、1枚ドロー!
どうだ! 俺はこれでターンエンドだぜ!」
「なるほど。よく理解できた」
フラッグバーグは重々しく頷いた。
「ようやく分かったかよ! 俺とサジッタの絆が……」
「残念だが、君からは惑星クレイの気配が感じられない。君のイメージはただの妄想だ」
「な!?」
断罪するかの如く告げるフラッグバーグ。ソロは死刑を宣告された罪人のように目を見開いた。
「で、でもサジッタはこんな近くに……」
「妄想だ」
「今だってサジッタの歌が聴こえて……」
「妄想だ」
「昔、サジッタに叩かれたことだって……」
「妄想だ」
「サジッタと手を繋いだのも……」
「妄想だ」
「サジッタと見つめ合ったのも……」
「妄想だ」
「妄想の割にピュアすぎませんか?」
ピンと挙手をして、どうでもいいことを指摘したのはクロエだ。
「男子高校生の妄想って言ったら、もっとドロドロのグチョグチョだよねー」
ネネが同意する。
「私はソロ君がもう少しエッチでも気にしないから遠慮しないでよ?」
サナエからは変な気の使われ方をされてしまった。
「うるせえ! サ、サジッタでそんな変な想像できるかよ!」
盛り上がる女性陣にソロが怒鳴り返すが。
こういう破廉恥な話題に過剰反応しそうな
(サジッタ……?)
見ると、サジッタの姿が今にも消えそうな半透明になっていた。
『ソロ……』
その瞳には宝石のような涙が浮かんでいる。
『ごめんなさい……』
(サジッタ!!)
手を伸ばした瞬間、サジッタの姿はソロから逃げるようにふっとかき消えた。
(……なんでだよ)
男の言葉こそ妄想だと笑い飛ばしてやりたかった。
だが、できなかった。
男の目はあまりにも真剣で、嘘や妄言を言ってるのではないことが理解できてしまったから。
そして何よりも……。
(サジッタが俺の妄想の産物であることに薄々と気付いてしまっている自分がいる……)
孤独な魂が1枚の美しいカードと出逢うことで生み出された寂しい妄想。
それはソロが“孤皇”ではなくなったことで、役目を終えようとしているのだ。
「口で言っても理解はしきれまいな」
手を伸ばした体勢のまま動かなくなったソロを突き放すように、フラッグバーグは言った。
「では、その身に刻み込んでくれよう。惑星クレイに属する者が生み出す真なるイメージを!
スタンド&ドロー! ペルソナライド!
今こそ我とひとつに……《旗艦竜 フラッグバーグ・ドラゴン》!!」
そのカードから放たれる嵐にも似た蒼い闘気は、もはや否定のしようがないほど彼自身とよく似ていた。
「《賢明のブレイブ・シューター》をコール! スキルでドロップから《蒼昊竜 シェリングカノン・ドラゴン》をスペリオルコール!
レガリスピース《魂魄封ぜし禁忌の形代》の効果を発動! 山札から《蒼砲竜 インレットパルス・ドラゴン》と《巨海竜 ボートペラジック・ドラゴン》をスペリオルコール!
バトルフェイズへと進行する!
さあ、君の
ソロはいつの間にかカードを取り落としてしまっていた。
「ソロ!」
カケルの呼びかけもあって、ようやく我に返る。
「バトルフェイズ開始時、シェリングカノンのスキル発動! このカードは後列からアタックでき、パワー+10000! エレフテリアのスキルで、インレットパルスのパワー+5000!
インレットパルスでヴァンガードにアタック! 1回目!」
「《柔らかな光 プルエル》でガード! アルハでインターセプト!」
「1回目のバトル終了時、インレットパルスはスタンドする。
エレフテリアのブースト! ボートペラジックでヴァンガードにアタック! 2回目!」
「クラーリとベトレアでガード!」
もはや戦う理由も分からぬまま、ソロは必死にカードを繰り出し、足掻き続ける。
「2回目のバトル終了時、ボートペラジックはスタンドし、パワー+10000。
シェリングカノンでヴァンガードにアタック! 3回目!」
「アンティアでガード!」
10枚あった手札が、押しては返す波状攻撃によって次々と削られていく。
「サジッタのスキルで手札を1枚捨て、ボートペラジックでヴァンガードにアタック! 4回目!」
「ノーガード!
ダメージチェック……ノートリガー」
これでソロの受けたダメージは4点。
「ここから先は……嵐だ!
手札を1枚捨て、フラッグバーグでヴァンガードにアタック! これで5回目! よって我がスキル、そのすべてが適用される!
1枚ドローし、クラウを退却! パワー+10000し、このアタックをガードするには3枚以上同時にコールしなければならない!!」
「う、あああああああ!!
ヒルベルタ、プルエル、ベトレア、ルシルでガード! これでそのアタックは通らねえ!」
「それはどうかな? ツインドライブ!!
1枚目、ノートリガー。
2枚目……
ただでさえ強大な海竜に竜神が宿り、その蒼き雄姿が翠緑の輝きを纏う。
「あ……」
「少年よ。抱きたる妄想もろとも泡沫となり、母なる海へと還れ!」
一斉発射された全身の武装が波濤となってソロを呑み込み、視界が真っ白に染まったかと思うと、直後にブツリと暗転した。
★彡
ソロが目覚めたのは闇の中だった。
だが、しばらくすると空に星が瞬きはじめ、足元では清流がさらさらと流れだす。
そこはサジッタと初めて会った空間だった。
ただサジッタだけがそこにいない。
(俺は、死んだのか……?)
まるで天国(いやサジッタがいないから地獄だ)のような光景に、ソロは自問する。
(いや、そんなはずはない……)
フラッグバーグのイメージは確かに強力だったが、アヤメのような害意は感じられなかった。
恐らくは気を失っているだけで、意識を取り戻したらせいぜいファイトに負けているぐらいだろう。
だがきっとそこにサジッタはもういない。
二度と会えることもない。
フラッグバーグが狙い撃ちにしたのは、自分の貧困な妄想だ。
(ふざけんなっ……!)
はじめはフラッグバーグの迫力と、突然の出来事に為すがままになっていたが、こうして落ち着いてみると、負けん気が沸々と燃え上がる。
(妄想の何が悪い! 妄想だってイメージのうちだろうが!)
いつか自分もサジッタのことを忘れてしまう日が来るのかも知れない。
それが大人になるということならば。
だがそれは今ではない。
サジッタといつかお別れする日が来ようとも、それはもっと劇的であるべきだ。
少なくとも……。
「ポッと出で見ず知らずのおっさんに指摘されてじゃねええええええええっ!!!!」
★彡
「……
無意識のソロが最後のダメージチェックで引いたのは、再生を司るカードだった。
「蘇れ、サジッタ!!」
妄想だけでなく、この1年半の思い出をイメージへと変えて。
楽しかったこと。
悲しかったこと。
嬉しかったこと。
悔しかったこと。
カケルからヴァンガードのルールを学び。
イチニィサンと部活を立ち上げて。
クロエに部を認めさせ。
サナエという彼女公認の女友達ができて。
ネネの強さに圧倒され。
副会長なんてのもいて。
アヤメと心を通わせ。
アリスとも出逢い。
実力者が集う大会で優勝までできた。
そのすべてにサジッタがいた!
それらひとつひとつをパズルのピースとして新たなイメージが構築され、最愛の人が姿を取り戻していく。
『ソローッ!!』
翼を広げて飛来してくるサジッタを、ソロは力強く抱き止めた。もう二度と離してしまわぬように。
『ソロ! ソロ……私は……』
「何も言わなくていい。サジッタの気持ちはすべて伝わっているから」
『ソロ……』
「俺も愛してるぜ、サジッタ」
『ごめんなさい。私の気持ちは何も伝わっていないみたい』
「冗談はともかく、まずはこのファイトを終わらせようぜ!」
『ええ。私達の関係にズカズカと踏み込んで来た無粋な男にはお説教をしてやりましょう』
寄り添い合ったまま、ふたりしてキッとフラッグバーグを睨みつける。
「生き残ったか……」
サジッタの復活に気付いていないのか無視しているのか、男は淡々とした調子を崩さない。
「だがまだ嵐は止まぬぞ。手札を1枚捨て、《賢明のブレイブ・シューター》のブースト! インレットパルスでヴァンガードにアタック!」
「サジッタにはもう指一本触れさせねぇ! 《暖かいうちに召し上がれ ウォルミア》で完全ガード!」
海底に潜み、死角から飛び出してきた水竜に肉まんの袋をぶつけてお引き取り願う。
「我が嵐を耐え凌ぐとは、見事なり。
我はこれでターンエンド。インレットパルスをソウルに置き、1枚ドロー。
だがまだ勝負は決まっておらぬ」
「いいや、俺の勝ちだね。サジッタがあんたの手札を3枚も削ってくれたからな!」
「む……」
眉をひそめるフラッグバーグの手札は7枚。
「後はサジッタが作ってくれた花道をふたりで悠々と進むだけだ!
俺のターン! スタンド&ドロー!
ペルソナライド! 《Absolute Zero サジッタ》!!」
いつものホワイトドレスにドレスアップしたサジッタが天高く飛び立つ。
「《花園を巡る光 風紀乙女 ルリーニア》をコール! 山札の上から5枚を見て……カシュアを手札に加えるぜ!
カシュア、クラウをコールし、これで俺の手札は無くなったが……ドロップにいるルシルのスキル発動!
このカードをバインドして、クラウのスキルで捨てる手札コストは1枚減るぜ!
俺は手札を捨てずにクラウのスキル発動!
サジッタのスキルも発動して、バトルだ!
ルリーニアでヴァンガードにアタック!」
「《ティアーナイト コスタス》とエレフテリアでガード!」
「クラウのブースト! カシュアでヴァンガードにアタック!」
「2枚の《デュアルプレッシャー・ドラゴン》でガード!」
「あれ? リアガード2体ともでアタックしちゃうの? いつもはリアガード1体を残してヴァンガードでアタックするのに」
そう指摘したのはサナエで。
「あー、そういえば
いち早くソロの狙いを看破してしまったのはネネだ。
「カシュアを退却させ、1枚ドロー!
サジッタでヴァンガードにアタック! ドロップからアルハをスペリオルコール!」
「《プラナプリベント・ドラゴン》で完全ガード!」
「トリプルドライブ!!!
1枚目、ノートリガー。
2枚目、ノートリガー。
3枚目……俺が引いたのは超トリガー《夜天の精霊王 ニクラスゼリア》!!」
「!?」
そのカードがめくれた瞬間、宵闇の帳が世界を覆う。
「俺はダメージゾーンからカシュアを手札に加え、手札からカシュアをスペリオルコールし、パワー+10000! パワー1億はアルハに!」
Absolute Zeroが、風紀乙女が、星屑となって降り注ぎ、暗闇で歌い舞うサジッタを煌びやかに引き立てた。
「!?」
そして、フラッグバーグが驚愕に目を見開く。その光景がまるで彼にも見えているかのように。
「あんたの手札は1枚。治トリガーも超トリガーもすべて公開されている。
……俺の勝ちだ」
ソロが静かに勝ち誇り、行儀も悪く人差し指をその眉間に突き付けた。
★彡
「どうやら我が間違っていたようだ」
残るリアガード2体のアタックでファイトは決着し、6枚目のカードをダメージゾーンに置き終えたフラッグバーグは重々しく告げた。
「イメージとは限られた異能者が扱える能力に非ず。誰しもに等しく与えられた
少年よ。君の中にも確かにサジッタは在る。
我が非礼を詫びよう。どうか謝罪を受け入れてほしい」
「よくわかんねーけど、いいってことよ」
深々と頭を下げるフラッグバーグに、ソロは鷹揚に頷いた。
「それよか
「いかにも」
「なら俺の目標は決まったな。俺は惑星クレイへ行く! Absolute Zeroの生ライブを観に行くんだ! 俺のサジッタとふたりでな! 目指すは宇宙進出だぜ!」
「「「どえええええええええええええええええっ!?」」」
悲鳴のような声をあげたのはカケル、サナエ、アリスの常識人で。
「あははー、面白くなってきたねー」
とネネは笑い。
「さっすがソロの兄貴! ロックだぜぇ!」
イチニィサンは盛り上がり。
「我が校の生徒なら、そのくらいのことはしていただかなければ」
クロエはさも当然とばかりに頷いている。
「クロエ様のおっしゃる通り」
副会長は熱心にゴマをすっていた。
「この星の技術力では不可能だ」
フラッグバーグは冷静に指摘するが。
「が、我すら打倒したお前になら、それすら成し遂げてしまえるかも知れぬな」
すぐさま発言を翻した。
「ああ! その時にはお前にも会いに行くぜ、フラッグバーグ!」
「ふ、楽しみにしていよう」
男はその鉄面皮に初めて微笑を浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
「あ、もう行っちゃうのー?」
ネネが声をかける。
「うむ。騒がせたな」
「いいってことよー」
「さらばだ、異星の者どもよ。そして――また会おう、ソロちゃん」
「ああ、またな!」
去り行く男に、ソロは大きく手を振った。
その背には漆黒の乙女が、まるで彼の翼であるかのようにそっと寄り添っていた。
★彡
憑依している男の家に帰宅するなり、フラッグバーグは崩れ落ちるように片膝をついた。
惑星クレイに近しい存在である彼は、ファイトのダメージがそのまま魂にフィードバックする。負けたとあらばそれはさらに深刻で、負け方によってはディフライドが強制解除されてしまうとも聞いていた。
(もはや限界か――)
何かやり残したことはないか。そう思いながら狭い部屋を見渡し。ふと閃いた彼は、手近なメモ帖から紙をむしり取り、ペンを走らせた。
我が先導者よ。
我もヴァンガードなるものをやってみた。
実に愉快な遊戯であった。
君が如何にして現在のような状況に陥ってしまったのか、我は知り得ない。
だが無心でヴァンガードを楽しんでいた時間が君にもあったのではないかと思う。
どうかその日のことを思い出し、もう一度君と共に闘えることを心から願う。
文末にサインを記そうとして――彼は手を止め、デッキからフラッグバーグのカードを抜き取ると手紙の傍らに添えた。
(これでいい……)
もう思い残すことはない。
フラッグバーグは男に憑依した時と同じ体勢で壁にもたれかかった。
(楽しい旅であった。願わくば、あの少年に風の導きがあらんことを)
星屑に祈るように目を閉じ、高潔なる水将の魂は静かに惑星クレイへと還っていった。
Vanguard stardust
星屑の光すら届かぬ闇の中。
白い蜘蛛糸だけが淡く浮かび上がり、まるで檻のように周囲を取り囲んでいた。
無数の八つ目に見張られる中、平然と古ぼけた椅子に腰かけているのはひとりの少女。
手の中で黒光りする鉄の塊を弄び、頬に薄く奔った傷跡を愛おしそうに撫でる。
「さあて。新しいオモチャも手に入ったし、次はどんな悪いことをして遊ぼうかしら?」
&dust
End
これにてヴァンガードスターダスト&ダストは完結となります!
1年で完結させるつもりが早1年半。
長い間お付き合い頂いた読者の皆様に感謝です。
好きなキャラや好きな話がありましたら、今後の励みにも参考にもなりますので、教えて頂けますと幸いです。
私自身としては当然アヤメなのですが、特にフラッグバーグの人(仮)との歪な関係性が好きでした。
今回のフラッグバーグ(本人)も書いていて楽しかったです。
マジメが行き過ぎていてボケの域に達してるの好き。
印象的だったのはイチニィサンと副会長。
イチニィサンは自然とフェードアウトさせるつもりだったし、副会長は1話限りの出番だったはずが、その濃ゆいキャラで最後まで出張ってきました。
イチニィサン、まさかサブタイトルまで持っていくとは。
ただ好きな話になるとネネちゃんさんがファイトした回3つになるんですよねー。
段階的に本性が暴かれていって、そのたびに怖気とかっこよさが増していく演出は上手くできたと思っています。
もちろんソロ&サジッタの主人公コンビも大好きです。
サジッタの設定すら分からぬまま、イラストに一目惚れしてサジッタを主人公にすると予告してしまったこの作品ですが、サジッタの設定が公開された時には勝ったと思いました。
不良少年と風紀乙女のバディとか面白くならないはずがない。
こんな感じで好きなキャラ、好きな話を挙げ連ねていけばキリがないほど。
私にとっては忘れられない物語になりました。
応援してくださった皆様に重ねて御礼を申し上げます。
今後の私の予定につきましては、来月あたりに活動報告を書く予定ですのでそちらで。
そんなのいちいち見てられないよという方向けに軽く予告だけしておきますと、4月~6月あたりで新作の連載をスタートする予定です。
あくまで予定ですので、スタートしない可能性もありますがご了承くださいませ。