ヴァンガード・スターダスト&ダスト   作:栗山飛鳥

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第二想「私は生徒会長です」

「ううーん。今日は人でいっぱいみたいだね」

 栗色の髪に、丸メガネをかけた優等生然とした少年が残念そうに言った。

「くそっ! 改良したデッキを試したかったのによ!」

 場末のカラスのようにボサボサで艶の無い黒髪に、二筋の赤いメッシュを入れた、ガラの悪い少年が拳を手のひらに当てて悔しがる。

 それに気付いた近くのファイトスペースでファイトしていた人が「ひっ」と小さな悲鳴をあげ、「あの……代わりましょうか」と涙目になって言ってくる。

「いや、すまねぇ。脅したわけじゃないんだ」

 とガラの悪い少年は慌てて断った。

「もー、ダメだよ、ソロ」

 優等生然としたメガネの少年が呆れたように言い。

「違げぇよ。向こうが勝手に勘違いしやがったんだ」

 ガラの悪い少年が憮然とした表情で返す。

 優等生然とした少年の名は水無月(みなづき)カケル。

 ガラの悪い少年の名は御導(みどう)ソロ。

 決して相容れそうにない容姿のこのふたりは、世界でもっとも遊ばれているカードゲーム『ヴァンガード』を通して意気投合し、学校が終わるとすぐふたりして学校から一番近いところにあるカードショップ『シンデレラ』に駆け込み、閉店時間までファイトするのが日課となっていた。

 夏休みに入ってからもたびたび『シンデレラ』でファイトしようとはしていたのだが。

「やっぱりこの季節にもなると、すぐ人でいっぱいになるよねー」

 さすがにファイトスペースで立ち話は邪魔になるので、店の近くにある公園に移動し、そこのベンチでジュースを飲みながらカケルが呟いた。

「でもおかしいじゃねぇか? 学校もやってないのに、どこからこれだけの人が集まってくるんだよ」

 カードショップ『シンデレラ』は、ふたりの通う星灯(せいとう)学園近くに建てられた、学生をターゲットにした店だと思っていたのだが。

「違うよ。『シンデレラ』の近くにはもうひとつ学校があるんだ」

 とカケルに否定された。そこはカードファイト部が強いことで有名で、夏休みでも部活動をしているらしい。

 店のターゲットも主にそこで、今いる客の9割はその高校の関係者か、彼らとの対戦を望むファイターなのだとか。

 星灯学園など、たまたま近くにあっただけにすぎないのだ。

「だからヴァンガードが好きな人はみんなそっちに行っちゃうし、星灯学園にはヴァンガードで遊んでいる人がほとんどいなんだよね」

「そう言えば、高校生になってから対戦相手がいなかったって言ってたな」

「うん。僕はヴァンガードが大好きだけど、大きな大会に出場して結果を残したいとかは考えてなかったし、家の都合もあって星灯に入学したんだ。

 それでもまさかカードファイト部すら無いとは思わなかったけどね……」

 と気弱に苦笑するカケル。だがその言葉から、ソロに天啓が舞い降りた。

「カードファイト部……ヴァンガードの部活……そうだ! 無ければ作ればいいじゃねぇか!」

「えっ!? えええええええっ!!」

 拳を握りしめて提案するソロに、カケルは悲鳴にも似た驚きの声をあげる。

「部活があれば部室もある! 部室があればわざわざカードショップに行かずとも対戦ができる! どうだこのアイデアは!」

「い、いや! 大前提を忘れてるよ! そもそも星灯学園にはヴァンガードで遊んでる人がいないんだよ! うちの学校で部活動として認められるには5人の部員が必要なんだ!」

「5人か……」

 顎に手を当てブツブツ呟きながら、しばらく何かを考えていたソロだったが。

「それなら俺にアテがあるぜ」

 勢いよく顔を上げ、本人は自身たっぷりだが、他人が見るとどこか不安になるドヤ顔でそう言った。

「ア、アテ……?」

「まあ楽しみにしてなって! 1週間時間をくれ! 次に会う時は星灯学園カードファイト部の部室だぜっ!!」

 言うが早いがソロは駆け出し、あっという間にカケルの目の前からいなくなってしまった。

 

 

★彡

 

 

 それからきっちり1週間後。

 ソロから学校に呼び出されたカケルは、これまで空き教室だったはずの教室の扉に、汚い字でデカデカと「カードファイトぶ」と書かれた紙が貼られているのを見つけた。彼は本当に部活を作ってしまったのだ。

 それはそれとして「部」くらいは漢字で書いてほしかった。

「し、失礼します……」

 恐る恐るカケルが扉を開ける。

 中では3人のヤンキーが俗に言うウ○コ座りをしてたむろしていた。

「……失礼しました」

 カケルはゆっくり扉を閉めた。

「おいおいおい! それはないんじゃないのぉ!?」

 扉が閉まりきる直前、ヤンキーのゴツい手に阻まれ、強引に開かれる。

「へっへっへぇ。礼儀のなってない子猫ちゃんには躾が必要だなぁ!」

「いっちょもんでやるか」

 口々に言いながら拳を鳴らし、悪そうな笑みを浮かべたヤンキー達がカケルに迫る。

「やかましいぞ、お前らっ!!!」

 次の瞬間、部屋の奥から怒号が響き、ヤンキー達を硬直させた。

 声の主はもちろん御導ソロである。

「驚かせて悪かったな」

 部屋の奥から現れたソロが、玩具を片付けるようにヤンキー達を部室に放り込む。

 それを追ってカケルも部室に入ると、ヤンキー達は綺麗に正座をしていた。

「こいつらが俺の集めたカードファイト部の部員達だ。

 おい、お前ら! カケルに自己紹介しろ!」

一ノ瀬(いちのせ)イチ!」

 スキンヘッドのヤンキーが名乗る。

二階堂(にかいどう)ニィ!」

 リーゼントのヤンキーが名乗る。

三井(みつい)サン!」

 モヒカンのヤンキーが名乗る。

「名前が雑!!」

 カケルが思わずツッコむ。

「ちなみに全員1年生っす!」

「しかも年下だった!!」

「こう見えて気のいい一般人だから安心してくれ。不良と間違われて他校の不良に絡まれてるところを、俺が助けてやったんだ」

「間違われるのも無理ないんじゃないかな!?」

 ヤンキー改め部員達はいずれも筋骨隆々で、トゲの生えた肩パットや、錨付きの革ベルトで制服を改造している。不良どころか、核の炎に包まれた世紀末の住民と間違えられてもおかしくなかった。制服を着崩しているだけのソロが優等生に見えてくる。

「ソロの兄貴は俺達にとって命の恩人なんだ!」

「舎弟にしてくれって頼んでも『そんなモンが欲しくて助けたんじゃねぇ!』の一点張り! カッコいいぜェ!」

 部員達が口々にソロを褒めそやす。

「誰ともつるまず孤独に戦い続けるその姿からついた異名は“孤皇”!」

「今や“孤皇”の名はこの界隈で最強の不良の総称『三凶(さんきょう)』にも数えられるほどで……」

「三凶?」

 聞きなれない単語があったので、思わず聞き返す。

「知らねェのか? “孤皇” “群王” “女帝”からなる3人の……」

「うるせぇぞ!! 俺はもう足を洗ったんだ! 勝手にそんなもんに数えんじゃねぇ!」

 ヒートアップしてきた部員達の無駄話を、ソロの怒声が遮る。

「そんな“孤皇”が初めて俺達を頼ってくれたんだ!」

「俺達にできることならなんだってするぜェ!」

「さァ、命令してくれ、ソロの兄貴! 俺達は何をすればいい? カチコミか!?」

「だからしねぇよ!? 最初に説明しただろうが! お前達にして欲しいのはカードゲーム! ヴァンガードだ!」

「ヴァンガードってチームをブッ潰せばいいんだな!?」

「ダメだ! こいつらバカすぎる!!」

 ソロが頭を抱えて絶叫した。

 

 

★彡

 

 

 それからさらに1週間が過ぎた。

「へっへっへ……俺はハーゼリットちゃんを使うぜェ!」

「なら俺はキョウカちゃんだ!」

「俺はリルファちゃん!」

「どうにかルールは覚えてくれた……かな?」

 思い思いのデッキを手に取る部員達を見て、カケルは机に突っ伏しながら大きくため息をついた。

「お疲れさん。カケルがいてくれて助かったぜ」

 ソロが買ってきたばかりのスポーツドリンクを手渡す。

 部員にヴァンガードのルールを教えるのは主にカケルの役目だった。ソロは人に教えられるほど慣れてはいないし、ぶっちゃけ教えるのも下手だ。彼が何かを言うと皆すぐに曲解してどこかに殴り込もうとしてしまうのもあったが。

「みんな、ヴァンガードを気に入ってくれてよかったよ」

 国家がリリカルモナステリオに偏ってしまった感はあるが、ソロはサジッタのために『ほしがきらきらっ』を買い続けているし、カケルもそれに付き合ってしばらく同じパックを買っていたので、譲れるカードがそれしかなかったのである。

「ヴァンガードを気に入ってもらえるかについては、まったく心配してなかったけどな」

 ソロが言いながら、自分のジュースのキャップを開ける。

「……そうだね。こんな楽しいゲーム、一度知ったらやめられないよ」

 カケルもペットボトルの封を開け、ソロの差し出してきたペットボトルと軽くぶつけ合った。

「二学期から本格的に星灯学園カードファイト部は活動開始だ――」

 そんな希望を打ち砕くかように。

「失礼します」

 女性の声がしたかと思うと、ノックもそこそこに一人の女子生徒が部室にズカズカと入り込んできた。

 腰まで真っ直ぐ伸びた艶のある黒髪に、分厚い黒縁のメガネ。まるで昨日に仕立てられたかのようにパリッとした、塵ひとつ見当たらない制服。

 その姿を見て、カケルが戦慄する。

 それはある意味、“孤皇”と呼ばれるほどの不良であるソロ以上に学園内外から恐れられている人物だった。

「お、さっそく入部希望者か?」

 その“孤皇”は呑気なことを言っていたが。

「ち、違うよソロ! この方は……」

 何か言いかけたカケルを、女子生徒は片手で遮る。

「私の事を御存知無い無礼者がいるようなので、自己紹介から始めましょう」

 メガネの奥、黒曜石の如き黒い瞳が危険な知性を帯びて光る。

「私はこの星灯学園の生徒会長。鏑木(かぶらぎ)クロエと申します。以後お見知りおきを」

「ヒュウ! 生徒会長さんが入部してくれるのなら百人力だぜ!」

 部員達(イチニィサン)の誰かが口笛を吹いた。

「そんなことのために来たのではありません。馬鹿なのですか、あなた達は?」

 それはピシャリと否定され。

「私が赴いたのは生徒会に多くの陳情があったからです。この夏休み、不良が空き教室にたむろしているのでどうにかしてほしいと」

「んだと?」

 人の好い笑みを浮かべていたソロの気配が、まさしく“孤皇”のそれに変わった。

「俺達がしているのはれっきとした部活動だ! 教師からの許可も得てる! 生徒会だか何だか知らねぇが、どうこう言われる筋合いはねぇよ!」

 汚い字で書かれた部の証明書を握りしめながらクロエに詰め寄り、まくしたてる。

「脅しても無駄ですよ」

 彼女はそれに一切動じず、一回り体格の大きいソロを見上げるようにして言い返した。

「あ、悪い……そんなつもりじゃ――」

「あなたが優しい人であることを私は知っていますから」

「あ!?」

「あなたは“孤皇”として恐れられていますが、一般人に手をあげたことはない。そうでしょう?」

「…………」

 二の句が継げなくなったソロに、法務官を思わせる事務的な口調で淡々と続ける。

「御導ソロ。生まれついての強面により、中学生の頃から不良と間違えられ抗争に巻き込まれる。幸か不幸か闘いの才能があったため、売られた喧嘩をすべて返り討ちにしてしまい、不良グループから一目置かれるようになってしまった。

 どうにか進学こそできたものの、敵の気配を感じた際は登校せず、学園から遠く離れた場所で喧嘩をするようにしている。それもすべて無関係の生徒を巻き込まないため。無断欠席が多いのもそれが理由ですね」

「……何でそんなこと知ってんだよ」

「私は生徒会長です」

 理由になっていない理由を真顔で答えながら、クロエは几帳面にメガネの位置を整えた。

「私は生徒のことなら何でも知っています。

 5歳の時、親に買ってもらったぬいぐるみが傍にいないと寝られないことも。中学2年生の時に購入したエッチな本をベッドの下に隠していることも。お風呂に入る際、最初に股間から洗う派であることも」

「本当に何で知ってるの!?」

 ソロは思わず股間を押さえて飛び退いた。

「あなただけではありません」

 今度は他の部員を見渡しながら、クロエは語る。

「一ノ瀬イチ。遅刻の常習犯。

 されどそれは、困っている人を見かけると放ってはおけない性格であるが故。

 この前も、登校中に見かけた、信号で立ち往生していた高齢者を助け、荷物まで持って家まで送り届けてあげていましたね」

「い!?」

「二階堂ニィ。補導歴あり。

 3人兄弟の長男。父親は早逝し、母兄弟を少しでも楽にさせるため日夜アルバイトに務めており、補導されたのも怪しい深夜バイトに引っかかってしまったが故」

「う!?」

「三井サン。校則違反の常連。

 その特徴的な髪型は、スタイリストを志す姉の実験台にいつもなってあげているが故。姉思いの優しい弟です」

「え!?」

「あなた達は不良などではありません。皆、我が星灯学園が誇る自慢の生徒達です」

 とクロエが締めくくった。

(いや、最後のエピソードだけちょっと弱くない?)

 カケルは声には出さずツッコミを入れていたが。

「……ちょっと待てよ! そこまで分かってんのなら、何で部室に乗り込んでくるんだよ! わざわざそんなこっ恥ずかしいことを言いに来たわけでもないんだろ?」

 気を取り直したソロが、再びクロエに詰め寄る。

「はい。それでも生徒から多くの陳情があったのも事実。生徒会として、私個人の感情であなた方を無罪放免とするわけにもいきません。

 あなた達が真剣に部活に取り組んでいるのだという証明が欲しい」

「証明? どうすりゃいいんだよ」

「私と対戦して頂けますか? あなた達の得意とするこれで」

 どこからシンプルなデッキケースを取り出し、クロエはそれをソロの心臓あたりに突き付けた。

「対戦……? まさかヴァンガードか!?」

「それ以外にありますか?」

 クロエが機械のように小首を傾げた。

「つまりあんたに勝ったらカードファイト部を認めてくれるってことだな? 面白ぇ! 買ったぜ、そのケンカ!」

 サジッタが描かれたデッキケースを取り出し、ソロも構える。

「ちょ、ちょっと、ソロ! 大丈夫なの!?」

 カケルが慌ててソロを静止しようとする。

「優等生のカケルがファイトしても仕方ねぇだろ。試されてるのは問題児組の俺達だ。なら奴らを誘った俺が代表してファイトするしかねぇ。

 なぁ、生徒会長さんよ! そういうことだろ!?」

「そういうことです。成績はよくありませんが、頭は悪くないようですね」

 言いながらクロエが先に席につく。

「……わかった。ここはソロに任せる。ファイトの前にこれを渡しておくよ」

 丁寧に分厚いスリーブで保護された1枚のカードをカケルが手渡した。

「これは?」

「ソロが前々から欲しがってたカードだよ。この前、ようやく当たったんだ。ぶっつけ本番になってしまうから使うかどうかは……」

「サンキュー! 大切に使わせてもらうぜ!」

 カケルがすべてを言い終わるよりも早く、ソロはカードを受け取りデッキに混ぜた。あのカードなら、使い方は幾度となくイメージしてきたし、何より友人(ダチ)が自分のために用意してくれたカードを、この大一番で使わないことなどありえなかった。

 準備は万端。クロエの対面、サジッタのプレイマットが敷かれている席につく。

「それにしても……知りませんでした。まさか生徒会長がヴァンガードファイターだったなんて」

 ふたりがファイトの準備を進めている中、カケルがクロエに話しかけた。

「ヴァンガードファイター……? それは違いますね」

 準備の手は止めず、クロエがそれをきっぱりと否定する。

「私はあなた達を試すためにルールを覚えただけにすぎません。始めてまだ1週間くらいですよ」

「な!? イチ達と大して変わらねぇじゃねぇか!」

 ソロが声を荒げた。話題を振ったカケルも啞然としている。

「そうなります。ですが油断されては困りますね。私は生徒会長ですよ? 一般生徒のあなた達――カケルさんも含めて――とは頭の作りがまったく違うのですから」

 シミひとつ無い額に細い指を当てながら、表情は一切変えず挑発するような事を言ってくる。

「ああ!?」

 それにソロはあっさり乗ってしまい。

(一般生徒って何……?)

 カケルはどうでもいいことが気になっていた。

「そんなことよりも早くして頂けませんか? 私はもう引き直しまで終えていますよ。生徒会も暇ではないのですが」

「あっ……くそっ、ちょっと待ってろ!」

 手が留守になっていたソロが、慌てて引き直しまで終える。ファイトが始まる前から手玉に取られていた。

「待たせたな。始めようか、生徒会長さんよ」

 サジッタが描かれたスリーブに包まれた手札を握りしめながらソロ。

「はい。ですが、『生徒会長』とは他人行儀ですね。生徒会は親しみやすく、生徒と距離の近い存在であることを目指しています。どうか親愛を込めて『クロエ様』と呼んでください」

「そっちのが距離遠くない!?」

 カケルが思わず指摘する。

「まさか生徒会長を敬称も無しに呼ぶことが許されるとでも思っているのですか?」

 怒っているというよりかは、純粋な疑問と共にクロエが首を傾げた。

「……ああ、よく分かったぜ。改めて始めようか、クロエ()()よ」

「負けん気が強いですね」

 クロエが小さく肩をすくめる。

「私個人としては嫌いではないですよ。そういう己の立場を弁えない愚民に威光を示すのも生徒会の務めです」

「やってみろよ! スタンドアップ!」

「ヴァンガード」

「《Absolute Zero リックス》!」

「《憩いのひととき アルキテ》」

 

 

★彡

 

 ふたりが霊体として降り立つは、白銀と鋼鉄の大地、ブラントゲート。

 凍土に覆われた、太陽の昇らぬ極寒の国。

 されどその科学力は五大国家随一で、宇宙へと至る玄関口となっている他、吹雪の奥、隠されるように建てられたドームの奥には研究者達の秘奥が眠っているという。

「俺のターン! スタンド&ドロー!

《Absolute Zero クラウ》にライド! 山札から7枚見て……《密かな祈り 風紀乙女 クラーリ》を手札に加えてターンエンドだ!」

「私のターンですね。スタンド&ドロー。《怪獣の魂を探して アルキテ》にライド。《憩いのひととき アルキテ》の効果で1枚ドロー」

「後攻ドローを忘れなかった!?」

「俺達があれを覚えるのに2日かかったって言うのに!」

「やるぜあいつ!」

 部員達がしょうもないことを口々に騒ぐ。

「さらにアルキテの効果で山札から《奔流エネルギーの研究》を手札に加えます。すぐさまこのカードをセット。山札から5枚公開……《竜巻怪獣 サイクロガーデ》を手札に。《火山怪獣 ゴウカテラ》をドロップに。さらに奔流エネルギーをレストすることで、ゴウカテラをオーダーゾーンに置きます。

 バトルフェイズに入ります。

 アルキテでヴァンガードにアタック」

「ノーガードだ!」

「ドライブチェック……トリガーはありません」

「俺もトリガーは無しだ! 今度は俺のターンだな! スタンド&ドロー!

《Absolute Zero カシュア》にライド! カシュアでヴァンガードにアタックだ!」

「《警邏ロボ デカルコップ》でガードします」

「ドライブチェック! (クリティカル)トリガー! ……くそっ! ヴァンガードにパワーを与えても届かねぇ。……俺はこれでターンエンドだ」

「私のターン。スタンド&ドロー。

《微睡みの守り人 アルキテ》にライド。奔流エネルギーを手札に加え、セット。《巨岩怪獣 ギルグランド》を手札に。《雷爪怪獣 レランガーラ》をドロップに。奔流エネルギー1枚目をレストしてレランガーラをセット。2枚目で《光芒怪獣 レイヴィリス》をセット。サイクロガーデをコールし、ドロップから《甲鋏怪獣 フォルヴェクス》をセット」

 オーダーゾーンにユニットが置かれていく。そこにあっては何の意味も成さないカード達。

 その様子は薄暗い研究所の地下室、微かな輝きを放つ鉱石の中で眠る怪獣達を想起(イメージ)させた。

(いったい何を狙ってやがる……)

 ソロが訝しむ間も、クロエの展開は続く。

「《電波怪獣 ウェイビロス》をコール。ソウルブラスト2で1枚ドロー。

 バトルに入ります。

 アルキテでヴァンガードにアタック」

「ノーガードだ!」

「ドライブチェック……★トリガー」

「うげっ!?」

「★はアルキテに。パワーはサイクロガーデに」

「ダメージチェック……★トリガー! パワーはカシュアに与えるぜ! 2枚目はトリガー無しだ!」

「ウェイビロスのブースト、サイクロガーデでヴァンガードにアタック」

「クラーリでガード! ヴァンガードがAbsolute Zeroなので、こいつは10000ガードだ!」

「ええ、知っています。私はこれでターンエンド」

 当然のように頷きながら宣言する。

「俺のターン! スタンド&ドロー!

 唄え、我が最愛の人! ライド! 《Absolute Zero サジッタ》!!」

 ヒィィと風を切る音と共に猛禽類(ヘビクイワシ)のワービーストが飛来する。

 それは大きな翼で常夜の空を抱くように覆い、世界の最果てを優雅に舞った。

「ソウルからカシュアとクラウをスペリオルコール!

 手札から《花園を巡る光 風紀乙女 ルリーニア》をコール! ルリーニアのスキルで山札の上から5枚見て……もういっちょクラーリを手札に加えるぜ!

 そして、EB4してサジッタのスキルを発動! パワー+10000! ドライブ+1!

 バトルだ!

 ルリーニアでヴァンガードにアタック!」

(駄目だ! サイクロガーデにアタックしないと……!)

 カケルが心中で叫ぶ。

「手札のウェイビロスでガードします」

「サジッタでヴァンガードにアタック!」

「ノーガードです」

「トリプルドライブ!!!

 1枚目! ……トリガー無し!

 2枚目! ……くっ、こっちもトリガー無し!

 3枚目! ……よしっ! ★トリガーだ! ★はサジッタに! パワーはカシュアに!」

「ダメージチェック……」

 クロエのダメージゾーンに1枚、2枚とカードが置かれていく。2枚目は(ヒール)トリガーで、ダメージ回復はできないが、パワーはアルキテに与えられた。

「もらったぜ! クラウのブースト! カシュアでヴァンガードにアタック! カシュアのスキルで、パワー+5000!」

「《アメリオレート・コネクター》でガード。スキルでシールド+5000……」

「それじゃ足りねえぜ!」

「サイクロガーデでインターセプト。オーダーゾーンに研究オーダーが2枚あるのでシールド+5000。これでアルキテのパワーは40000。カシュアのアタックは通りません」

「!?」

 1回目のアタックはサイクロガーデにアタックすべきだったとようやく気付いたのか、ソロが目を見開く。

(……無理もないよ。ソロはヴァンガードを始めて1か月なんだ。すべてのカードを覚えられるわけがない)

 だが、対するクロエは、ヴァンガードを始めて1週間だと語る彼女は、自分のカードの扱いはおろか、相手のカードへの対処も完璧だった。まるですべてのカードを把握しているかのように。

(けど、この人なら……それすらもありえるんじゃないかと思えてしまう)

 鏑木クロエ。今から2年前、1年生でいきなり生徒会長に就任するや、不良生徒を軒並み更生させ、悪質な教師を一掃し、底辺だった星灯学園の評価を一変させてしまった、生きた伝説。

 テストの成績は副教科も含め、常に満点。学園トップを独走し続ける彼女であれば、現レギュレーションに存在するたかだか数千枚のカードなど、1週間もあればすべて記憶してしまえるのではないか。

 

 ――ズン!

 

 カケルの物思いを地響きが断ち切った。

「《怪獣の創造者 アルキテ》にライドします」

 薄翠色の髪を吹雪に遊ばせた少女が一歩を踏み出す。

 それを真似るように、彼女の背後に控えた怪獣も大地を踏みしめ、まっしろな世界に傷跡を刻み込んだ。

 白の研究所(ブラン・ラボ)天才少女(バケモノ)にして、惑星クレイにおける怪獣研究の第一人者、アルキテ。

 彼女とその親友が生み出した最高傑作(レイヴィリス)が夜を仰ぎ、獲物を捉えた無数の瞳がまるで星のように瞬いた。

「まずはエネルギージェネレーターで1枚ドロー。

 3枚目の奔流エネルギーをセットします。……ギルグラントを手札に。フォルヴェクスをドロップに。3枚の奔流エネルギーをレスト。サイクロガーデ、ウェイビロス、フォルヴェクスをそれぞれオーダーゾーンに。

 これで準備は整いました。

 手札からレランガーラをコール。アルキテのスキルでオーダーゾーンの同名カード……今回の場合はレランガーラを山札の下へと戻し、レランガーラのパワーを+10000します」

 内側から黄金色の輝きを放っていた鉱石がひび割れ、そこから全身に電流を纏わせる(しろがね)の怪獣が姿を現した。

「いっ、いちまんんん!?」

「フォルヴェクス、ゴウカテラをコール。これらも同様に、オーダーゾーンのカードを戻し、パワー+10000」

 残る鉱石も次々と砕け、生まれた怪獣達が地上を蹂躙していく。

「さらにゴウカテラのスキル発動。クラウを退却させます」

「……マジかよ」

 茫然としながら、ソロはカードをドロップゾーンに置く。

「バトルフェイズに入ります。ゴウカテラでヴァンガードにアタック。スキルでパワー+5000」

「《朗らかな陽の下で ウォリス》でガード! ルリーニアでインターセプト!」

「ウェイビロスのブースト。レランガーラでヴァンガードにアタックします。レランガーラもスキルでパワー+5000」

「ノーガード! ……くそっ! トリガーがでねぇ……」

 これで早くも4点目。

「レランガーラは退却し、1枚引きます。

 アルキテでヴァンガードにアタック。アタック時、アルキテのスキル発動。ゴウカテラをオーダーゾーンに置き、山札の上から7枚を見て……サイクロガーデをスペリオルコールします。アルキテのスキルで、サイクロガーデのパワー+10000」

「……っ、《トーカティヴ・アワー タンムーズ》でガード! 2枚貫通だ!」

「ツインドライブ。

 1枚目……引トリガー。1枚引いて、パワーはサイクロガーデに与えます。

 2枚目……トリガーはありません。

 フォルヴェクスのブースト、サイクロガーデでヴァンガードに……」

「おっと! 4回以上のアタックは校則違反だ! サジッタのスキルで、手札を1枚捨ててもらおうか!」

「はい。私は手札からレランガーラを捨て、ヴァンガードにアタック」

「そのアタックはノーガード……よしっ! 治トリガーだ! ダメージ回復させてもらうぜ!」

「バトル終了時、ブーストしたフォルヴェクスを手札に。私はこれでターンエンドです」

「よっしゃ! 俺のターン! スタンド&ドロー!

 ペルソナライド! 《Absolute Zero サジッタ》!! ……!?」

 ペルソナライドで引いたカードを見て、ソロは笑みを浮かべる。

「カケル! 来たぜ!!」

 カケルに向かって拳を突き出すと、その少年も小さく頷いた。

「まずはルリーニアをコールして山札の上から5枚確認……よしっ! 俺はクラウを手札に加えるぜ。クラウをコール! さらに《きちんとふわっと 風紀乙女 マリエリス》もコール!

 クラウのスキル発動! 手札を1枚捨て、前列ユニットのパワー+5000の効果を得る! 手札を捨てたので、サジッタのスキルで1枚ドロー!

 もうひとつのスキル(エネルギーブラスト4)も発動して、行くぜ! バトルだ!

 マリエリスでヴァンガードにアタック!」

「フォルヴェクスでガード。サイクロガーデでインターセプト。いずれもスキルでシールド+5000」

「これで終わりじゃねえ! マリエリスを退却させ、スキル発動! ウェイビロスを退却だ!」

「はい」

「サジッタで……」

 ヴァンガードに触れると、羽毛にも似た柔らかな温もりが返ってきた。

「アルキテにアタックだ!!」

 

 

★彡

 

 

 次の瞬間、ソロは狭い部室でも、極寒の大地(ブラントゲート)でもない、水面がどこまでも広がる不思議な空間に立っていた。

 鏡のような水面が、夜空に瞬く星々を反射させ、まるで宝石箱の中にいるような感覚。

 そのずっと先にサジッタがいた。

 いつもピンと伸びている背筋が今は丸められており、凛々しく広げられていた翼もどこか遠慮がちに小さく折り畳まれている。

「サジッタ!?」

 そのただならぬ様子に、ソロは派手な水音を立てながら慌てて彼女に駆け寄った。

 それに気付いたサジッタがのろのろと顔をあげる。

「ごめんなさい。私はあなたを誤解していた」

 そして、ソロに向かって大きく頭を下げた。

「へ?」

「あなたの身なりと言動から、あなたのことを不良だと勘違いしていた。――けど違った。あなたはあなたなりの方法で、秩序を守ろうとしていただけだった」

「ああ、そんなことか」

 クロエとの会話を聞かれていたのだろう。ソロは寂しげに肩をすくめた。

「俺を見直してくれたのは嬉しいけど、それは違う。俺は間違いなく不良だった。暴力に対して暴力でしかやり返せなかったクズ野郎だ」

「けど、やり返さなかったら、あなたが傷つけられていたのでしょう」

 リリカルモナステリオとは言え、自衛に必要な力まで否定しているわけではない。実際、戦いに巻き込まれて命を落とした歌姫も多いのだ。

「そうかも知れない。けど、やり返すことに快感を覚えていた自分がいたことも事実なんだ。もっと早くに足抜けするタイミングもあったはずだ。それなのに、ヴァンガードと……サジッタと出逢うまで、そんなこと考えすらしなかった。辞めたい、でも仕方ないと言い訳して、平穏から目を逸らし続けてた。

 だから――たとえサジッタの言葉であっても、自分が不良だったことにまで目を逸らすわけにはいかねぇんだよ」

「ソロ――」

「初めて名前で呼んでくれたな」

「……そうだったかしら?」

「そこから先の言葉は――慰めも謝罪も――必要ない。俺にはそれだけで充分だ」

 そう言って、ソロが朗らかに笑った。

「なあ、サジッタ。俺がサジッタに憧れたのは、サジッタが綺麗で美人でスーパー美人でウルトラ美人でウルトラミラクルスペシャルデラックス美人だったからってだけじゃない」

「真剣な話をしている最中にボケないでちょうだい」

 ボケたつもりなどなかったのだが。

「争いを歌とダンスで終わらせる。そんなリリカルモナステリオの理念にも憧れたんだぜ。俺だってそうなりてぇ。だけど戦うことしか知らなかった俺ひとりじゃ絶対に無理だ。

 だからもしサジッタがまだ俺に負い目を感じているのなら……また力を貸してくれねぇか? どうしてもこのファイトは勝たなくちゃならねぇ。それで貸し借りはゼロだ!」

「……ええ、そうね」

 サジッタが俯かせていた身をピンと起こす。背丈こそソロの方が高いが、姿勢が悪いため、そうするとぴったりふたりの目線が合った。

「私でよければ、いくらでも力になりましょう。それに――」

 絶対零度の歌姫が、冗談めかした微笑を不敵に浮かべる。

「風紀委員として、生徒会に負けるわけにはいかないものね」

 

 

★彡

 

 

「サジッタ! 今日はハメをはずすぜ!」

 現実に戻ってきたソロが、サジッタに呼びかける。

『ほどほどにね』

「アタック時、ドロップゾーンにいる《安らぎの天色 風紀乙女 アルハ》のスキル発動! マリエリスのいたサークルに、こいつをスペリオルコール! このターン、俺も4回アタックだぜ!」

 サジッタが風紀乙女において最も信頼する右腕、疾風の如く駆けつけた白狼のワービーストと視線を交わして頷き合う。

「アルハ……クラウのコストであらかじめドロップに送り込んでいましたか。美しい連携です。ファイト前、水無月さんから手渡されたカードもそれですね」

「ああ! これが俺達の友情パワーだ! さあ、サジッタのアタックはどうする!? 生徒会長さんよ!」

「……いいでしょう。ノーガードです」

 クロエが手札を下ろして宣言した。

「トリプルドライブ!!!

 1枚目、★トリガー!! ★はサジッタに! パワーはルリーニアに!

 2枚目も★トリガー!! ★はサジッタ! パワーはアルハに!」

「ぴくり」

 鉄面皮を保っていたクロエの眉が僅かに動く。

「3枚目……!! ……引トリガー!! 1枚引いて、パワーはルリーニアに!」

 クロエのダメージゾーンに、3枚、4枚、5枚とカードが置かれていく。しかもそのいずれにもトリガーは無し。

「トリプル★じゃなかったが悪くねえ! ルリーニアでヴァンガードにアタック! 相手がG3なので、ルリーニアのパワー+5000! 合計パワーは50000だっ!!」

「ギルグラントで完全ガード」

「クラウのブースト! アルハでヴァンガードにアタック! ……といきたいところだが、4回以上のアタックをする場合、俺もサジッタのスキルで手札を捨てなきゃならねぇ。それが規則だからな。俺が捨てるのは《休息の羽衣 風紀乙女 クルノール》! クルノールは手札から捨てられることで、他のユニットに力を与えることができる! スキルでアルハのパワー+5000! アルハのスキルも発動して、これで合計パワーは58000だぁ!!」

「ギルグラントで完全ガード」

 しかし、少女の星の魔法も、人狼の鋭い爪も、鉄壁の甲殻を誇る怪獣に阻まれる。

「ちっ! 俺はこれでターンエンドだぜ!」

 勝ち切ることこそできなかったが、引トリガーのおかげで手札は9枚。対するクロエの手札はドローフェイズを経て4枚。

「まずは《怪獣の創造者 アルキテ》にペルソナライドします。奔流エネルギー3枚をレストして、ウェイビロス、フォルヴェクス、ギルグラントをそれぞれセット。

 ゴウカテラをコールして、ルリーニアを退却。アルキテのスキルでパワー+10000。

 ウェイビロス、フォルヴェクス、ギルグラントを後列にコールして、それぞれパワー+10000」

 これでクロエの手札は尽きた。

(完全ガードまでコール!? このターンで終わらせるつもりか!)

「バトルフェイズ。行きましょう、すべてを破壊(こわ)しに」

 クロエとアルキテの淡泊な表情が重なり合う。

「ギルグラントのブースト。アルキテでヴァンガードにアタックします。アルキテのスキルで山札の上から7枚を見て……」

 クロエがふっと微笑んだ。彼女が笑うのは……どころか彼女の表情がこうまで変化したのはこれが初めてだった。

「《光芒怪獣 レイヴィリス》をコール。レイヴィリスは自身のスキルでパワー+10000、★+1。さらにもうひとつスキルを得ます。アルキテのスキルでもパワー+10000」

「させるかよ! 《暖かいうちに召し上がれ ウォルミア》で完全ガード!」

「ツインドライブ。

 1枚目、トリガーはありません。

 2枚目……★トリガー。効果はすべてゴウカテラに」

 アルキテの背後に控えたレイヴィリスが首をもたげ、大きく開かれたあぎとから視界を真っ白に染め上げるほどの熱線を放つ。

 サジッタはかん高い声をあげて空気を震わせると、音を壁に変えてそれを遮断した。大気の扱いに長けた鳥類のワービーストであり、鍛え抜かれた声帯を持つ彼女だからこそ成し得た妙技である。

「ウェイビロスのブースト。レイヴィリスでヴァンガードにアタック」

 だが、レイヴィリスはその巨体に似合わぬ俊敏さで跳躍すると、氷河を踏み砕きながらサジッタに迫り。

「アタック時、レイヴィリスのスキル発動。サジッタのパワーを-5000します」

 全身から無数の光線が放たれ、空気の壁を打ち砕く。

「なっ!? レ、レイヴィリスのパワーは?」

「61000。ちなみにゴウカテラも61000です」

(ふ、防げねえ……リアガードのパワーがこんなに高くなるとは。貫通にビビって、ヴァンガードのアタックに完全ガードを使った俺のミスだ……)

「……ノーガード」

 唇を噛みしめ、悔しさを滲ませながら宣言する。

 レイヴィリスが腕を振り上げると、黄金色に輝く尖爪が幾条もの三日月となって常闇を斬り裂いた。

 

 

★彡

 

 

「……俺の負けだ。すまねぇ、みんな」

 ダメージゾーンに6枚目のカードを置き、ソロが力無く項垂れた。

「ふむ。健闘はされましたが、やはり私が本気を出すまでもなかったですね」

「なっ!? 手加減していたっていうのか!?」

「生徒会長の言う通りだよ。このデッキには、アルキテデッキなら入っているべきカードが入ってなかった。僕達にレベルを合わせてくれていたんだ……」

 食って掛かろうとしたソロに、カケルが補足する。

「……なら、俺の完敗か」

 カケルへの信頼もあり、負けず嫌いのソロも認めざるを得なかった。

「素直でよろしい」

 クロエが満足そうに頷く。

「そして、ミスこそ多くありましたが、あなた達が真剣にヴァンガードに取り組んでいるかも理解できました。合格です」

「……へ?」

「星灯学園生徒会も、正式にカードファイト部の設立を認めましょう。以降、部や部員に対する陳情や偏見は生徒会が対処します」

「え? あんたに勝たないとカードファイト部は認めてくれないんじゃなかったのか……?」

「誰がそんなことを言いました? あなたが勝手に勘違いして言い出しただけですよ。本気のあなたを見たかったので、正さなかった私も私ですが」

「そ、そう言えばそうでしたね……」

 その時のやり取りを思い出しながら、カケルがほっと胸を撫で下ろす。

「な、なんだよそれ……」

 全身から力が抜けたソロは、へにゃへにゃと机の上に崩れ落ちた。

「まさかたかが一生徒ごときが、この生徒会長たる私に勝てると本気で思っていたのですか?」

「当たり前だろ!」

 ソロは即答した。

「次にやれば俺が勝つ! だからこれでヴァンガードはおしまいにするだなんて言うんじゃねぇぞ!」

 その言葉にクロエは小さく目を見開き、テーブルに置きっぱなしになっていたレイヴィリスのカードを取り上げた。

「……ヴァンガード。あなた達を試すためにルールを覚えただけでしたが、たしかにこれで終わらせてしまうのは少しもったいない気もしますね」

 生徒会長の堅い表情がふっと緩む。

「わかりました。時間ができたら、また対戦して差し上げましょう」

「ああ! 今度は負けねぇぜ!」

「……それとも、生徒会権限で、全校生徒にヴァンガードを義務化しましょうか」

「そ、そこまでして頂かなくても大丈夫ですっ!」

 とんでもないことを言い出したクロエを、カケルが慌てて止めた。

「冗談ですよ。では、私はこれで失礼します。先程も言いましたが、生徒会は忙しいので」

 手早くカードを片付け、すぐさま退室するかと思われたクロエだったが、彼女はすうっとソロに近づくと、頬と頬が触れ合いそうな距離で囁いてきた。

「最後に確認です。あなたが喧嘩を止めたことで、学園に他校の生徒が乗り込んでくる可能性は?」

「え? あ、ああ……。めぼしい不良チームはほとんど壊滅させてるし、残ってるチームも部を設立する前にさんざん脅してきたからしばらくは大丈夫……だと思う、ぜ」

 艶のある黒髪から香るいい匂いに少しドギマギしながらソロは答えた。

「結構。もし今後、荒事に巻き込まれることがあれば、生徒会に相談してください。生徒会にあなたほどの武力はありませんが、あなたより打てる手はたくさんありますので」

 そう言って頷くと、迫ってきた時と同じように、静かにソロから離れた。

「あなたはもう普通の学生として生きるべきです」

「……うす」

 クロエが今度こそ踵を返し、部室を出ていく。

 偉そうで、何を考えているのか分からなくて、何故かプライバシーまで握られている。気に喰わないところも多々ある女だが。

 その背中だけは、少し尊敬してやってもいいかなと思えた。




ブラントゲート枠にして永遠の生徒会長。
鏑木クロエの登場回です。
使用デッキはアルキテ!!
前々から書いてみたいユニットだったのですが、いかがでしたでしょうか?
感想等お待ちしております。


でも書いていて一番楽しかったのはイチニィサンです。

それでは次回、また9月のはじめにお会いできれば幸いです。
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