このお話での出来事は、本編には一切影響致しません。
「みんなー、今日は朝早くから集まってもらってありがとうねー……ふわぁ」
カードショップ『眠り姫』
そのファイトスペースで、パステルブルーの寝間着に身を包んだ二十歳過ぎの
「それはいいんだけどよ……」
最前列で行儀悪く脚を組んでいた
左隣には、親友の
その後ろには、筋骨隆々の肉体を革ベルトとトゲ付きの肩パッドで武装した後輩のイチニィサンが並んで座っている。
そこから少し離れた席には、巫女装束姿の
ソロの知り合い勢揃いであるが、他にも『眠り姫』の常連であろう見知らぬ顔もちらほら見られた。
そして最後に、右隣にちょこんと腰かけた小さな人影に目を向ける。
「なんでこいつがここにいるんだよ!」
ソロに指さされ、オフショルダーのワンピース姿の少女、八雲アヤメが「なんのことやら」と言わんばかりに、くりんと首を傾げた。癖のある白い髪がふわりと揺れ、男の本能に訴えかけるようないい香りが鼻孔をくすぐる。
「いーじゃん、番外編なんだからー。細かいことは言いっこなしってことでー」
「そうですよ。言っても詮無いことで時間を使わないでください」
ネネとクロエ。最もアヤメと対立していたはずのふたりから批難され、ソロは口をつぐまざるをえなくなった。
「そ、それで今日は何をするのかな?」
分の悪くなってきた友を見かねてか、カケルが話を本題に戻してくれた。持つべきものは気が利く友人である。
「そーそー。先月、店の倉庫を整理していたら、こんなものが出てきてさー」
ネネが合図を送ると、アルバイト店員達がいくつものダンボールを運んできて、彼女の前に並べていく。ネネはその中のひとつにおもむろに手を突っ込むと、何の変哲もない青いカードパックを取り出した。
「あっ!」
それを見たカケルが思わず声をあげた。他にも『眠り姫』常連の多くは、声をあげないまでも目を見開いたり肩を揺らしたりなんらかの反応があるのに対し、ソロやアヤメ、イチニィサンなどはどう反応していいか分からないでいる。
「ソロちゃん達は知らなくても無理ないよねー。このパックは『騎士王降臨』 ヴァンガードのカードパック、その記念すべき第1弾だよー」
「マジか、すげぇ!」
そう言われると神々しく見えてくるから不思議である。
「貴重なものには違いないんだけど売り物にはならないし、いつまでも置いておけるほどウチの店も広くはないからさー。だからこれは交流に使うことにしたのー」
「交流?」
サナエがオウム返しに尋ねる。
「そーだよー。せっかくだからこれを使って皆でファイトしたいなーって。
名付けてヴィンテージファイト!!
……まー、この名前は似たような企画を先にやってた同業者の受け売りだけどねー。
ここには第1弾の『騎士王降臨』から、第5弾の『双剣覚醒』まであるんだけど、学生さんは1000円、社会人は2000円で、これらのパックを剥き放題!
よっぽど偏らない限り、各々が組みたいデッキのひとつやふたつは組めるだけの数はあるはずだけど、そこは適当に譲りあってねー。それができない人は呼んでないつもりだよー」
「ネネちゃんさん……」
ソロはその容姿から不良のレッテルを貼られることも多く、教師などの大人から信用されることはほとんどなかった。だが目の前にいる幼い容姿の大人の女性は、ソロの内面だけを見て、ルールやマナーを守れる人間だと評価してくれている。ソロにはそれがたまらなく嬉しかった。
「へっへっへ。そんな貴重なカードならすべて俺達のものにしてやるぜぇ」
その後ろではイチニィサンが不穏に笑い合っていたが、たぶん口だけだろう。
「午前中にデッキを組んで、午後からはそれらのデッキを用いた大会を予定しているよー。
それじゃー、参加したい人はネネちゃんに――」
ネネが言い終わるよりも早く、もう待ちきれなくなったファイター達がお札を握りしめて彼女に殺到した。
「ちゃんと並べお前らー!」
★彡
「ソロがパックを開けるなら、まずは『歌姫の饗宴』がオススメだよ。リリカルモナステリオの前身となった、バミューダ△のカードがたくさん収録されているんだ」
カケルのアドバイスに従って手に取ったパックを開封すると、どこか古ぼけた香りが漂った。まるでカードと一緒に当時の空気も閉じ込められていたかのようだ。
「僕はやっぱりロイヤルパラディンかなぁ。けどシャドウパラディンも捨てがたいなぁ」
早くもそこそこのパックを開封し終えたカケルは、テーブルにカードを広げてうんうんと唸っている。
「私はやっぱりむらくもかな。けどぬばたまもいいなー。あれ? ぬばたまって、この時はまだクラン単独でデッキを組めないんだっけ?」
ソロ達に合流したサナエも、しきりに首を傾げている。
このふたりはなまじ知識があるだけに、組むデッキを決めかねているようだった。
「あら、かっこいいカード……ふふ、あなたとなら悪いことがたくさんできそう」
アヤメはソロからつかず離れずの位置で、ひとり何やら楽しそうにパックを剥いており。
「生徒会長。私はこのカードでデッキを組みたいので、そのカードとトレードして頂けますか?」
「構いませんよ。それでは、そこのカードとトレードしましょう」
そこから少し離れたところでは、生徒会のふたりが協力しあっている。
「へっへっへ……俺はパシフィカちゃんを使うぜェ!」
「なら俺はリヴィエールちゃんだ!」
「俺はフローレスちゃん!」
イチニィサンもデッキを決めたようだった。
「って、やべぇ!」
イチニィサンが組もうとしているデッキも、ソロと同じバミューダ△だ。カードのイラストを眺めたり、テキストを読み込んでいたり、仲間の様子を確認している隙にめぼしいカードを抜かれてしまっていた。
そればかりかバミューダ△はひとつのパックに収録が集中しているためソロ達のテーブル以外でも需要が高く、在庫もほとんど残っていなかった。
「悪いけど早い者勝ちだぜ、兄貴」
「パシフィカちゃんは俺に使われたがってるんだ」
「俺のリヴィエールちゃんもなぁ!」
ファンに読まれたら(作者が)ブッとばされそうな事を言いながら、イチニィサンが挑発してくる。
「っせーな! わかってらぁ!」
もとよりソロも彼らと同じデッキを使うのはプライドが許さない。
「何かないか、何か……」
高レアリティのカードがことごとく抜き取られた余り物を漁っていると。
『あっ……!』
突然声をあげたのは、カケルでも、サナエでも、ましてやイチニィサンでもない。
ソロの心の中にいるサジッタだった。
『ソロ……』
おずおずとサジッタが声をかけてくる。もし仮に彼女がこの場に実体化していれば、ソロの袖を遠慮がちにつまんでいただろうか。
『私……このカードの歌声を聴いてみたい』
その声音は絶対零度を冠する女らしからぬ熱を帯びていた。
「……これか?」
何とはなしに触れていたカードを目の高さまで持ち上げた、その瞬間――深みのある高い歌声が鼓膜から脳髄へと突き抜け、ソロの意識は真っ白に塗りつぶされた。
空白になったキャンバスを塗りつぶすかのように、ソロの眼前に鮮やかな蒼海が浮かび上がり、岩礁に腰かけた人魚が遠く見える。
歌はそこから聞こえていた。
表情すら伺い知れないほど遠く離れているにも関わらず、音のひとつひとつが明瞭で、枕元で奏でられるオルゴールのように心穏やかにして聞いていられる。
その美しい音色に誘われるようにして、ソロの足は勝手に動き、いつしか半身が海に浸かっていた。
それに気付いたのか人魚は歌を止め、中空に虹のような弧を描いて、ソロから逃げるようにとぷんと海の中へと姿を消してしまった。
『ソロ……? ソロ……!?』
サジッタの声で我に返る。気が付けばそこはいつものカードショップ『眠り姫』だった。
(今のは……歌声、だったのか?)
たったワンコーラス。それだけで意識を失うほどに心を奪われ、心臓は初恋のように今も高鳴っている。
『急にどうしたの? ぼーっとしたりなんかして』
(いや、なんでもねぇ……)
まさかサジッタ以外の歌声に聴き惚れていましたなどと言えるわけもない。
(こ、このカードでデッキを組めばいいんだな! まかせろ!)
ごまかすように心の中で声を張り上げる。
(サジッタが俺におねだりしてくれるなんて初めてだしな!)
『おねだりじゃない。これはおねがい』
本人も熱くなりすぎてしまった自覚はあるのか、少し恥ずかしそうに訂正してきた。
(……待てよ)
デッキを組み始めたソロの手が不意に止まる。
(サジッタ以外の女の子のデッキを組んだら浮気にならないか……?)
『ならない』
(けど……)
『ならない。前にも言ったけど、浮気はまず私とあなたが恋人同士であることが大前提。だからならない』
(それでも……)
『ならない。なるのであっても私が許す』
(
『もうそういうことでいいから、とにかく早くデッキを組んで』
先ほどからのサジッタは、アイドルにのめり込むミーハーな少女のような、どこか鬼気迫るものが感じられ、少し怖い。
ソロは言われるがままにデッキを組み始め――ヴィンテージ環境どころか、サジッタ以外のデッキを組むこと自体が初めての経験であったが、不思議と手が勝手に動く。
そうして、3000年の時を越えた呼び声に導かれるように、ソロはひとつのデッキを組み上げたのであった。
★彡
「みんなー、デッキは組めたかなー?」
お昼休憩を挟んで、再びカードショップ『眠り姫』のファイトスペースに集合したファイター達に向けてネネが呼びかける。
「応ッ!」とソロ達のいるスペースから威勢のいい声があがった。
「元気だねー。それじゃーヴィンテージファイトをはじめようかー。
大会形式はガンスリンガー。制限時間は午後5時まで。時間の許す限りファイトし続けて、一番勝ち数の多い人が優勝だよー。
ネネちゃんはしばらく運営側だけど、トラブルなく進行できそうなら参加者に回ろうかなー」
年季の入った闇色のデッキケースを取り出し、にんまりと笑う。
「あ、当たりたくねぇー」
イチの呟きは、この会場にいるほとんどの本音を代弁していた。
「じゃあまずは一番近くにいる人と対戦していってー、対戦が終わったらさっき渡した用紙に結果を記入して運営卓まで持ってきてねー」
「近くっていうと……やろうぜ、カケル!」
「うん!」
ソロの対戦相手はすぐに決まり、サナエはイチ、ニィはサンと、他の対戦カードも続々と決まっていく。
そしてひとりでいたアヤメにも。
「私と対戦しませんか?」
わざわざ離れた席からクロエが歩いて来て、声をかけていた。
「ふぅん、また私に殺されたいの?」
「ご冗談を。あの時は手加減していただけ。今日こそ私の本気と生徒会の威光を思い知らせてあげようと言うのです」
「わぁ、楽しみ」
両手を合わせ、まったく感情のこもっていない棒読みでアヤメが応えた。
こうしてすべての席で対戦が決まったことを確認すると、ネネが間延びした声を彼女なりに張り上げる。
「準備はできたかなー? それじゃー、ヴィンテージファイトー……」
「「「「スタンドアップ ヴァンガード!!」」」」
この日、遥かなる伝説がそれぞれのイメージする惑星クレイへと再び姿を現した。
★彡
「手札を1枚捨ててライドデッキから……しまった! ライドデッキは無いんだったぜー!!」
「15000要求ぅ? ならトリガーで……何ィ!? トリガーのシールドが10000しかないだとぉ!?」
「手札にライドできるG3が無ぇ! これがライド事故ってやつかー!!」
当時のヴァンガード独特のルールに、イチニィサンのような戸惑いの声が上がる中。
「《エリート怪人 ギラファ》にライド」
昔のルールにも一切戸惑いを見せることなく、涼しい顔でファイトを進めるのは八雲アヤメである。
蒼の甲殻を鎧の如く武装した昆虫怪人が4枚の薄羽を広げ、欠けた月を背に飛翔する。
「《ステルス・ミリピード》のブースト。ギラファでヴァンガードの《伊達男 ロマリオ》にアタック。
アタックがヒットしたので、V後列の《サムライスピリット》をパラライズ。このユニットは、次のターンにスタンドできないよ」
昆虫怪人の手にした槍がゾンビの躰を貫き、虫の大顎に似た左腕の爪で亡霊を絞めあげる。
単独で複数の敵を同時に無力化するその姿は、まさしくエリートの名を冠するに相応しいものだった。
「私のターンですね。《キャプテン・ナイトミスト》にライドします」
対するクロエも負けてはおらず、冷静にファイトを進めている。
「あら、パワー8000? 私のギラファはパワー10000だよ。ブーストできるユニットはスタンドしていないから届かないね」
「それはどうでしょう。《案内するゾンビ》のスキル発動。このカードをソウルに置いて、山札の上から3枚をドロップ……これで準備は整いました」
「?」
「《ナイトスピリット》をコール。そして、ドロップの《スピリットイクシード》のスキル発動」
「……え?」
「《サムライスピリット》と《ナイトスピリット》をソウルに置いて、《スピリットイクシード》にスペリオルライドします」
後に七海を統べる者として陸にまでその名を轟かせる、若かりし頃の
禁忌の術法により生まれしは、右手に妖気纏う刀、左手に怨念宿りし剣を携えた、絶海に君臨せし無双の亡霊剣士。
「先攻の私より先にG3に……」
「2枚の《ダンシング・カットラス》をコール。それぞれの効果で2枚ドロー。
ドロップの《サムライスピリット》のスキルで、カットラスを退却させ、このユニットをスペリオルコール。
ドロップの《キャプテン・ナイトミスト》のスキルで、もう1体のカットラスを退却させ、このユニットをスペリオルコール」
スペリオルライドで失った手札を、増えたソウルを使って取り戻し、パワーで劣るカットラスをドロップからスペリオルコールできるユニットと入れ替えていく。
流れるように美しいコンボは今日の午前中に思いついたものとは到底思えない。
「あなたいつからヴィンテージファイトをしていたの……?」
「もちろん3時間と12分前からです。あなたも相当な天才肌のようですが……世の中には本物の天才がいることを教えて差し上げましょう。
《大幹部 ブルーブラッド》をコールして、イクシードでヴァンガードにアタックします」
「ノーガード……」
「ツインドライブ。
1枚目……
2枚目……これも★トリガー。★はイクシード。パワーはナイトミストに」
「……っ」
紫苑の妖刀と蒼白の魔剣が乱舞し嵐となって、傷ひとつなかった蒼の甲殻を斬り刻む。
「私のターン……」
続くアタックをどうにか耐えきったアヤメがカードを引く。
「さぁ……悪いこと、しましょう?
ライド! 《邪甲将軍 ギラファ》!」
傷だらけになった蒼の甲殻にさらなる罅割れが奔り、真なる巨悪が
半人半蟲の巨体を覆う、黄金色の甲殻。ギラファの名を象徴する大顎は両腕に、すべてを断ち斬る刃となって。
最凶最大の悪意が、惑星クレイの裏から世界を震わす産声をあげた。
「これでパワーは11000。また私が上回ったね。特にナイトミストとサムライスピリットのラインで10000要求ができなくなったのは苦しいんじゃない?」
「些事ですね」
「あら、強がり?」
「強がりかどうか試してみるといいでしょう」
いつぞやのように、ふたりの少女の間に激しく火花が散った。
★彡
「行くよ、ソロ! 僕のターン!」
「来い、カケル!」
なんだかギスギスしてきた一角を後目に、一際楽しそうにファイトを続けているのはソロとカケルだ。
まずは先攻のカケルが先にG3へとライドする。
「ライド! 《ダークメタル・ドラゴン》!」
無数の黒き刃が大地を貫き、砕け散る。降り注ぐ金属片の中から現れたのは、逆立つ黒鋼の鱗で武装した異形の竜。
金属片を踏みしめ、歴戦の剣士が如く深紅の剣を構えるその竜は、四つの瞳を隙無く輝かせた。
「《ファントム・ブラスター・ドラゴン》と違って、カウンターコストに余裕のあるダークメタルであれば、このカードも採用できる!
コール! 《漆黒の乙女 マーハ》!
マーハのスキルはCB2することで、山札から好きなG1をスペリオルコールできる!
僕がコールするのは……《黒の賢者 カロン》!」
(ムダの無い展開をしてきやがる……さすがはカケルだぜ!)
追い詰められているにも関わらず、自然と顔がほころぶ。友達が強いというのは、こうも誇らしいものか。
「《グルルバウ》のブースト! ダークメタルでヴァンガードの《トップアイドル アクア》にアタック!
ツインドライブ!!
1枚目……トリガーじゃなかったけど、シャドウパラディンであればダークメタルはパワー+2000される!
2枚目……これもシャドウパラディンだったのでパワー+2000だよ!」
黒鋼の竜が腕を掲げると、地面から無数の鋼が折り重なるように生成され、それは海にまで浸食し、海上の獲物へと続く道となる。
竜はその上を疾風の如く駆け抜けると、真紅の剣を一閃した。
血しぶきと悲鳴があがり、黒き鋼が朱に濡れる。
「ダメージチェック……トリガーは出ねぇ」
「《銀槍の魔神 グシオン》でヴァンガードにアタック!」
「《マーメイドアイドル ファルーカ》でガード!」
「カロンのブースト! マーハでヴァンガードにアタック!」
「《ガールズロック リオ》と《マーメイドアイドル フリュート》でインターセプト! どうにか耐えきったぜ!」
「うん! じゃあ次はソロのヴァンガードを見せて」
「ああ!」
ソロが掴み取ったのは、サジッタ公認、リリカルモナステリオのトップアイドルである彼女すら憧れる伝説。
「ライド! 《ベルベットボイス レインディア》!!」
海溝の底より響く歌声が、天上へと至り、世界を満たす。
誰もがその歌声に聞き惚れている隙にか、海から生えた黒鋼の頂点にひとりの人魚がいつしか優雅に腰かけていた。
透き通る白い肌に、シャチやイルカを思わせる黒い尾びれ。ふたつに結ばれた、真珠のように輝く髪。
歌って踊れるアイドルの中にあって、歌のみで頂点へと登り詰めた実力派の極み。
憂いを帯びた潤む瞳は、歴戦の勇者すら圧倒する深みを湛えていた。
「レインディア……とってもいいカードを選んだね」
「へへっ、だろ!
《ネイビードルフィン アムール》! 《レインボーライト キャリン》! 《スーパーアイドル セラム》をコール!
《ブレザープレジャーズ》のブースト! キャリンでヴァンガードにアタック!」
「《グリム・リーパー》でガード!」
「セドナのブースト! セラムでヴァンガードにアタック! セラムのスキル発動してパワー+3000!」
「15000要求……!! ノーガード! ……っ、トリガーが出ない!」
これで5点目。
「アムールのブースト! レインディアでヴァンガードにアタックだ!!」
「通さない! 《暗黒の盾 マクリール》で完全ガード!」
「ツインドライブ!!
1枚目……
「うん」
現環境には無いトリガーを引いて、おっかなびっくり処理を行う。
「2枚目……トリガーじゃねぇ……」
カケルは一瞬安堵の吐息をつくが、すぐに「いや!」と思い直す。
「が! 俺が引いたのはG3だ! ドライブチェックでG3を引いた時、レインディアの効果が発動する!!
リアガードを1枚……《レインボーライト キャリン》を手札に戻すことで、手札から1枚をスペリオルコール!
俺がコールするのは《トップアイドル アクア》! キャリンの効果でソウルチャージ&ドロー!」
歌声が波紋となって戦場に広がっていく。
凍てついた心を溶かす美声は、影の騎士団から一瞬にして戦意を奪い、ひとつ、またひとつと武器が地面に落ちていった。
もはやこの戦場を支配しているのは、たったひとりの歌姫だ。
『綺麗……それになんて美しい歌声なの』
うっとりと呟いたのはサジッタだ。この時ばかりは自分がアイドルであることを忘れて、ひとりの
「アクアでヴァンガードにアタック!」
「……マーハでインターセプト」
「これでキメるぜ! セラムでヴァンガードにアタック!!」
「……ノーガード」
唯一、戦意を失わずにいた黒き鋼竜が雄叫びをあげて歌姫に突撃する。
首へと目掛けて奔る真紅の剣。飛び散る鮮血。白い首筋から赤い血がつぅと滴り落ちる。
だが、一切動じることなく歌い続ける歌姫と目が合い、竜はそれ以上剣を振り抜くことはできなかった。
戦うためだけに生み出された鋼竜は戦うことの意味を見失い、大地に剣を突き立て片膝をつくと、そのまま二度と動かなくなることを選んだ。
「ダメージチェック……僕の負けだね」
「っしゃあ!!」
ソロは席から立ち上がって喜びを露わにする。
「……うーん。手札を稼ぐ手段がまだ少ないうえに、シールド値が全体的に低いから、一度押し込まれるとすぐに手札が無くなっちゃうね」
「ああ。俺もギリギリだった。気を付けなきゃなんねーな」
「ともかく、対戦ありがとう。けどガンスリンガーは長期戦。油断していると、僕がすぐに追いついちゃうよ」
「ああ! 望むところだ! どうせなら俺とカケルで優勝争いといこうぜ!」
こうしてふたりの友は固く握手を交わすのであった。
★彡
一方、アヤメとクロエのファイトも決着がつこうとしていた。
「ミリピードのブースト。ギラファでヴァンガードにアタック。相手ユニットがすべてレストしているので、ミリピードのパワー+4000」
「《荒海のバンシー》でガード。ナイトミストでインターセプト。1枚貫通です」
黄金色の昆虫怪人が、右腕から伸びる巨大な刃を亡霊剣士に叩きつける。
剣士は刀と剣を交差させてそれを受け止めた。
「じゃあツインドライブだね。
1枚目……ノートリガー」
めくられたカードを見ても、アヤメの笑顔は崩れず、クロエの眼鏡の奥にある瞳は揺らぎもしない。
「2枚目……
昆虫怪人が右腕の刃の上から、さらに左腕の刃を押し当てる。
交差した刃が亡霊剣士を虫ケラの如く潰し、さらには海賊船ごと×の字に両断した。
「ダメージチェック……私の負けですね」
クロエが目を閉じて、いかにも渋々と認めた。
「これでどっちが強いのかはっきりとしたわね」
「……はい? あなたの引きがちょっとよかっただけでしょう?」
「え? むしろ私の方が引き悪かったと思うんだけど。完全ガードを1枚も引けてなかったんだよ?」
「けれど、あなたの方が2回も多くトリガーを引いてましたよね」
「うるさーい! ファイトが終わったらはよ用紙を持ってこんかーい!」
運営卓をバンバン叩いてネネが叫ぶ。
「……怒られていますよ?」
「ん? 怒られているのはあなたじゃないの」
「どっちもじゃーい!」
運営の立場になると余裕がなくなるネネちゃんであった。
(続く!!)
予告通りの番外編。
テーマはヴィンテージファイト!
ディアデイズ2で遊べる、初代シリーズの1弾~5弾の間に発売したパックのみで対戦するファイトとなります。
当時を知っている人には懐かしく、知らない人にはこんなカッコいいユニットがいたんだと思って頂ければ幸いです。
ギラファはいいぞ。
そしてなんと次回に続きました。
ファイト描写はかなり端折りましたが、それでも全キャラ分のユニットを納得いくまで書こうとすると、文字数がとんでもないことになってしまいます。
(実のところ、風紀乙女の新規が登場するまでの時間稼ぎという側面もあり。このままだと主人公にカードの追加が無いまま完結してしまう)
来月は誰がどのユニットを使うのか。
もうしばらく私の趣味とわがままにお付き合いくださいませ。
感想等もお待ちしております。