魔転の勇者   作:シーチキン佐々山

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16.再訪

 結論から言って、翌日になってからシスカはファリスにきちんと謝れたし、ファリスも当然の如く快くそれを受け入れた。これでいつもの日常が戻り、何ならわだかまりも解けてより絆が深まる——

 

「あ……お、おはようファリス」

 

「お、おはようございます……姉さん」

 

 ことはなく、とてもぎくしゃくしていた。ファリスはまだ平時とそんなに変わらない気もするが、シスカは明らかに意識してしまっている。

 

 朝食の場でそんなぎこちない挨拶を交わす子ども達を渋い顔で見守るローガンとヘレナ。ここ数日はずっとそのような感じだった。

 

 当初こそ、すぐに元に戻るだろうと思っていたのだが、思っていたより二人の心の傷は大きかったらしい。ローガンもヘレナもそれとなくフォローを入れて、何とかその気まずさを解消しようとしているのだが今のところはあまり上手くはいっていなかった。

 

「あー……そういえばカトレナ先生が不思議そうにしてたぞ。二人とも何だか元気がないって……」

 

「え……そう、かしら。別に……」

 

「い、いつも通りです」

 

「う……」

 

 覇気を感じない返答にたじろぐローガン。

 

「ちょっとローガン……」

 

「いや、すまん……」

 

 話題選びに失敗したローガンを小さな声で責めるヘレナ。家庭の雰囲気の落差にローガンはちょっと気が滅入り始めていた。

 

「あー……。あ、そういえば、ダリルとユースティアちゃんが近いうち来るって言ったろう? 今日か、明日には顔を見せるらしいんだが……」

 

「……ユティが来るの?」

 

「あぁ。だから、あれだ……元気に迎えてやろうな。その方がユースティアちゃんも嬉しいだろうから。な?」

 

「うん……」

 

 ローガンの慎重に選んだ言葉に微妙な返事をするシスカ。ファリスに至っては無言で頷くのみである。全くもって元気に迎えられそうにない。

 

 ローガンは渋面を作って小さく溜息を吐いた。

 

 

 

 

 その日の昼過ぎにダリルとユースティアはやってきた。

 

「!」

 

 ファリスらが出迎えに出ると、それに気づいたユースティアが小走りで近づき、ぺこりと小さくお辞儀する。

 

「ファリス、シスカ、こんにちは」

 

「こんにちは、ユティ!」

 

「お久しぶりです」

 

 いつもの様に元気なシスカの声。ふたりの様子に、ローガンは内心で安堵した。なんだかんだといっても、やはり友人が遊びに来るというのは気分を持ち直すのにいい影響を与えたようだ、と。

 

「……?」

 

 一方でユースティアは小さく首を傾げたが、本当に微細な動きだったため誰もそれには気づかなかった。

 

「早速部屋に行きましょ!」

 

 そう言ってシスカはユースティアの手を取って歩き出し、ファリスが後に続く。

 

「また、後で様子を見に行くよ」

 

「わかったわ!」

 

 ローガンの呼びかけへ普段通りの快活さで返事をするシスカ。ダリルも特に違和感を感じた様子もなく、三人の様子を微笑ましそうに見ている。

 

 そんな中で。

 

「…………」

 

 ユースティアだけが、やはり小さく首を傾げていた。

 

 

 

 

 前回と同じくシスカの部屋に招かれたユースティア。さてまずは何をして遊ぼうかといったところで、シスカがあることに気が付いた。

 

「そういえばユティ、その背負ってるのは?」

 

「ん……」

 

 今日のユースティアはその背にやや大ぶりな鞄を担いでいた。ユースティアは鞄を下ろして、中身を取り出して見せた。

 

「わあ! これって……」

 

「私のせいで、燃えてしまったから……」

 

 出てきたのは真新しい争棋盤と駒のセットだった。それも、以前ファリス達が持っていたものより数段作りがしっかりしている。盤や駒には細やかな意匠が施されており、樹液か何かでコーティングされているのか艶めいている。一目で高級な品と分かる造りだった。

 

「すごい! かっこいいー!」

 

「お父様が、用意してくれた。ふたりにって……」

 

「貰っていいの!?」

 

 こくこくと頷きながら争棋盤と駒箱を差し出すユースティアに、シスカが目を輝かせる。

 

「ありがとう、ユティ!」

 

 受け取った盤に駒を並べるシスカ。

 

 早速リベンジの為にユースティアに挑むのかと思いきや、シスカは盤の正面からは移動してしまった。

 

「ん」

 

「え……」

 

「わたしは……後でいいわ」

 

 その言葉にファリスは戸惑う。シスカの性格上、こういう場面ではまず我先にと動く筈だ。

 

「あ、ありがとうございます……?」

 

 そう言っておずおずとファリスはユースティアと盤を挟む。ユースティアもユースティアで、ファリスとシスカの顔を交互に見比べ、落ち着かなさげだ。

 

「えっと……どうかしましたか?」

 

「………ううん」

 

 何とも微妙な空気感のままにふたりの対局が始まった。

 

 序盤は前回同様にお互いに地盤を固める手堅い立ち回り。だが、前回とは違い先に仕掛けたのはユースティアだった。

 

「……っ」

 

 定石を考えれば仕掛けるにはやや早い奇襲じみた攻め手はしかし、確かな効果を持ってファリスを追い詰める。

 

「ん……」

 

「ま、まいりました……」

 

 そのままファリスが巻き返すこともなく、あっけなく対局は終了した。

 

「次はわたしの番ね」

 

 勝敗の余韻に浸る間もなくシスカがファリスと入れ替わる。

 

「負けないわよ!」

 

 そう意気込んで臨んだシスカはこれまでの最短手数であっさり詰まされて負けた。

 

「んあー!」

 

 後ろに倒れ込むシスカ。その後も勝ち残りの形式で交互に挑むも、ユースティアの全戦全勝。敗北を経験したユースティアは以前よりも更に数段強くなっていた。

 

「ユティ、強すぎるわ……」

 

「ですね……」

 

「………………」

 

「……? あの、ユティ。どうかしましたか?」

 

 別に勝負に勝ったからといってはしゃぐ様な性格ではないことは理解しているが、それにしても先程からユースティアの反応が希薄過ぎる気がした。前髪の隙間から覗く表情は心なしか難しい形を作っている様にも思える。

 

「…………ふたりとも、変」

 

「え?」

 

「……っ」

 

 ユースティアのその指摘に、動揺が走った。

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