魔転の勇者   作:シーチキン佐々山

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22.案内人

「そんなに言わなくてもいいじゃねえか……俺だって……俺だって! 分かってる……分かってるけどよぉ……!」

 

「わ、悪かったよ。いや店主は腕も鎧の質もすごいんだよ? ただ、ちょっと致命的にデザインが悪いだけで……」

 

「え、えっと、ごめんなさいおじさん。鎧、変な形だけれど……じゃなくて、その……あ! あれ! あれなんかはかっこいいと思うわ!」

 

「あれは、俺が、打ったやつじゃねえ……」

 

「んぇっ!?」

 

 咽び泣く大柄ないい大人を子どもがふたりして慰める、異様な光景である。ただ、レシウスは余計な一言のせいであまり慰めになっていないし、シスカに至っては追撃になっている。

 

「えっと……ぼくはそういうデザインもありだと思いますよ……?」

 

 放っておくのも何なので、ファリスもフォローの言葉をかける。自分が着用するのは正直嫌だが、存在する分には別にいいと思う。嘘は言っていない。

 

「本当か……!?」

 

「…………はい」

 

「今なんか間があったね」

 

 レシウスの呟きは黙殺する。幸い店主の耳には届いていないようだ。

 

「嬢ちゃん良い子だなぁ。よっしゃ、将来もし騎士になるんだったら俺が鎧打ってやるからな!」

 

「じょっ……!? け、けっこうです……」

 

「ぐはッ……!」

 

 ファリスの返答によって上げて落とされた店主が呻きを上げて仰け反り崩れ落ちる。

 

「ファリスがとどめを刺したわ!」

 

「なかなかやるね」

 

「え、ちがっ……」

 

 断じてとどめを刺したかったわけではない。女の子と間違われたショックで口が滑ってしまっただけだ。それに加えて、現状ファリスは騎士になるつもりはあまりないというのもある。

 

 子ども達によって心を抉られた店主は膝をついたまましくしく泣いていた。どうしたものかと目くばせし合う三人。

 

「…………それにしても客自体珍しいけど、子どもはもっと珍しいね。何なら子どもだけで来てるのを見るのは初めてだ」

 

 捨ておくことにしたらしい。

 

「それはあなただって同じじゃない」

 

 店内には三人以外に客の姿は見当たらない。自然、レシウスも同様に子どもひとりで来店していることになる。そもそも、レシウスがどうかはいざ知らず、金銭を持ち合わせていないシスカとファリスを客と呼べるかは甚だ疑問だが。

 

「いやまあそうなんだけど……まあいいや。それで、ふたりはどうしてこんなところに? 見たとここを知ってて訪れたって感じじゃなかったけど」

 

「わたし達は宿に戻る途中よ」

 

「へぇ、宿に? 通り道なんだ」

 

「多分!」

 

「多分……?」

 

 シスカの返答に怪訝な表情をするレシウス。

 

「ええ、もうちょっとで着きそうな気がするのよね」

 

「…………もしかして迷子?」

 

「迷子ではないわ!」

 

 迷子である。

 

「いやぁ、俺の記憶ではこの辺りには宿はなかったと思うんだけど……」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。ちなみに何ていう宿?」

 

「それが、宿の名前を憶えていなくて……」

 

 そのまま、ファリスが大まかな経緯を話す。一通り聞き終えて、レシウスが頷く。

 

「なるほど……やっぱり迷子じゃ?」

 

「迷子です」

 

「迷子じゃないわよ!」

 

 紛うことなく迷子だ。何が悔しいのかシスカは頑なに認めたがらないが、残念ながらこの状況は迷子以外の何物でもない。

 

「よかったらこの辺の宿、案内して回ろうか?」

 

「! 本当ですか?」

 

「うん、俺が知ってる範囲にはなるけれど……」

 

「ぜひ!」

 

 このまま姉に付いて闇雲に歩き回るよりは断然いい。ファリスにとっては願ってもない話だった。

 

「むぅ、もうちょっとで付く筈って言ってるのに……」

 

 レシウスによればこの辺に宿はないそうだが。一体何が気に入らないのか、レシウスの提案にシスカは不満顔だ。

 

「もうお昼過ぎだし、さっき聞いた話を考えるとお父さんも戻ってるんじゃない? このまま遅くなり続けたら心配されるんじゃないかなぁ」

 

「むむぅ……」

 

 レシウスの諭すような口調に、渋い表情で唸るシスカ。最初から薄々とは感じていたが、とても同年代と思えないふたりの差に、ファリスは何とも言えない気分になる。

 

 口調や落ち着いた態度から、恐らくそれなりの教育を受けていることが窺える。

 

 それに、改めてよくよく見るとレシウスの身なりはかなり整っている。服装自体は決して煌びやかというわけではないため、ぱっと見では分かりにくかったが、市井を行き交っていた人々のものと比べて生地が上質に見える。加えて衣服は()()()や擦り切れ等も見当たらず、それらが使い古したものではない証左だ。

 

 裕福な家、それこそ大きな商家か、あるいはファリス達と同様に貴族の子なのかもしれない。

 

「もし暗くなっても帰り着かなかったら、いくら王都でも子どもだけで歩くのは危ないよ。それに、もし暗い中無事帰りつけても怒られて——」

 

 言いかけた言葉を途切れさせて、何事か考えるように静止するレシウス。

 

「……?」

 

「——あぁ、いや。きっと怒られてしまうんじゃないかな、普通は……うん」

 

 数舜の(のち)レシウスはハッとしたように言葉を続けた。

 

「そ、それは困るわ!」

 

「だろう? だから少しでも早く見つけられるよう、俺が案内するよ」

 

「う、うぅ……お、お願いするわ……」

 

 ローガンに怒られる未来を想像したのか、にわかに顔色を悪くしたシスカがレシウスの提案に折れた。

 

 今となっては、よしんば暗くなる前に帰りつけても叱責は免れないと思われるが、ファリスはわざわざ口には出さない。

 

「でも、案内するからにはしっかりしてよね!」

 

「はは、もちろん。それじゃあ早速行こうか。付いてきて」

 

 そうと決まれば、行動は当然早い方がいい。三人が武具店を後にしようとした時、

 

 ——ぐううぅぅ……。

 

 ファリスとシスカの腹の虫が同時に鳴り響いた。

 

「…………」

 

「っ…………」

 

 ファリスは気まずげに視線を彷徨わせ、シスカは流石に恥ずかしかったのかほのかに頬を赤くして俯き気味になっている。

 

 朝食も食べずに宿を飛び出し、歩き回ること数時間。空腹のピークは一度超えていたとはいえ、良くここまで鳴らずにもっていたものだ。

 

「あー……そういえば朝から何も食べてないって言ってたっけ」

 

 ファリスが控えめに頷きを返す。

 

「よし、分かった。俺に任せて」

 

 もしかして何か食べさせてくれるのだろうか。食べ物を所持しているようには見えないので、お金を持っていて何か買ってくれるということだろうか。

 

 しかし、出会ってすぐの相手にそこまでしてもらうのは流石に気が咎める。シスカからは不興を買ってしまうかもしれないが、ここは遠慮しておくべきだろう。そう考えてファリスは口を開こうとした。

 

「あの……」

 

「店主、ふたりに何か食べさせてあげて欲しい」

 

「!?」

 

 ファリスは目を剥いた。まさかの他人頼み。それも自分達で打ちのめしておきながら放置していた相手に。

 

 未だに伏したままだった店主が顔を引きつらせながら身を起こす。

 

「れ、レシウス、お前な……」

 

「まあまあ、将来の客の頼みと思ってさ」

 

「いや、どの口が言ってんだよ。散々好き勝手言ってくれやがってからに!」

 

 レシウスと店主のやり取りをはらはらしつつ見守るファリスとシスカ。

 

「どのって……この口さ」

 

「あぁ?」

 

「将来、あなたの打った剣を持って戦う、俺のね」

 

 言って不敵に笑むレシウス。

 

「…………はぁ。本当に口の上手いガキだよお前は……何か持ってきてやるから待ってろ」

 

 最後にもう一度、深く溜息を吐きながら店の奥に引っ込んでいく店主を見送ったレシウスは、ふたりに

 親指を立てて見せた。

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