魔転の勇者   作:シーチキン佐々山

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23.ミーテリオン第三騎士団

 ローガンらが宿泊していた宿から歩いて一時間弱。外壁にほど近い町はずれにローガンの姿はあった。周囲は閑散としており、ぽつぽつと住居が立ち並ぶ程度でほとんど何もない。

 

 そんな区画で唯一、存在感を放つ施設がひとつ。見るからに堅牢そうな門を構えた石造りの建物は装飾などは施されず、見る者に無骨な印象も与えるが、その規模や実用的な構造は立派と評するに値するだろう。

 

 そんな建物の門を目前に、ローガンは感慨深げに立ち尽くしていた。

 

 本来、侵入者を拒むために存在するであろう門は解放されており、門番どころか人影すら見えない。

 

 ローガンは腰に帯びた剣に手を添え、深く呼吸をする。そのまましばし瞑目して、

 

「…………っし、行くか」

 

 門の内側へと歩みを進めた。瞬間——

 

「うおおぉぉッ!」

 

「!」

 

 雄たけびと共に横合から飛び出してくる影。剣を構え、襲い掛かってくる若い男に対してローガンは特に焦る様子もなく、素早く剣を抜き放つ。

 

「っと……」

 

「うおっ……!?」

 

 振り下ろされる剣を危なげなく片手で()()()()ローガンは、がら空きになった男の腹に蹴りを放つ。

 

「ぐぶぅッ!?」

 

 もろに食らった男は、吹っ飛んで数回バウンドしたのち動かなくなった。

 

「ふう……おっと」

 

「なっ……!?」

 

 突然の襲撃者を撃退したのも束の間、次なる襲撃者による背後からの不意打ちをローガンは難なく防ぐ。

 

 動揺した男の剣を返す刃で弾き飛ばしたローガンは、相手の喉元に剣を突きつける。

 

「ぐ……参りました……」

 

「おう、その辺で正座してな」

 

 言って、周りを見回すローガン。いつの間に集まったのか、辺りをぞろぞろと武装した男たちに取り囲まれていた。その中からひとりが前に出てくる。

 

 それまで涼しい顔をしていたローガンが顔を(しか)めた。

 

「おい、これひとりずつ相手にするのか? 面倒だからもうまとめてかかってきてくれないか」

 

 ローガンの侮るような言葉に集団は怒りでにわかに色めき立つ。前に出てきた男が顔を引きつらせながら口を開いた。

 

「……さしもの英雄殿でもそれはあまりにも……」

 

「ごちゃごちゃ言ってねぇでかかってこいって」

 

「ッ…………では、遠慮なくッ!」

 

 ローガンの挑発に、一斉に襲い掛かる男たち。四方八方から襲い掛かる剣はしかし、ひとつ足りとてローガンを捉えられない。それどころか、ひとり、またひとりとローガンによって戦闘不能になっていく。

 

 あっという間にその数を減らし、残りは数名となってしまった。

 

「よ、よもやここまで……がっ!?」 

 

「一、二……三人。これで終わり……っとまだ残ってたか、うお!?」

 

 迫る刃を受け止めて、その慮外の鋭さと重さに思わず声を漏らすローガン。崩れかけた態勢で辛くも剣を受け流すが、間髪入れずに次の斬撃が飛んでくる。

 

 それまでほぼ一撃目のカウンターで相手を沈めていたローガンが、ここで初めて防戦に回る。

 

 明らかに今までの相手とは違う長身痩躯(ちょうしんそうく)のその男は、整った相貌に僅かな笑みを浮かべたまま剣を振り回す。長いリーチで十分に遠心力の乗った一撃は、ただの一振りが必殺の威力を持つ。

 

 それでいて、無駄のない体捌きはローガンが間合いの内に潜り込む隙をほぼ完全に打ち消していた。

 

 防戦一方。とはいえローガンもきっちり防御する。時にいなし、時に躱し、決定打を許さない。

 

 一線を画す強者同士の戦いに、周囲に転がっていた敗者達(ギャラリー)が歓声を上げ始める。

 

 永遠に続くのではと思わせるようなその剣戟(けんげき)はあっさりと、呆気なく終わりを迎える。

 

「ぐうッ……!」

 

 ひと際大ぶりの一撃。ともすれば付け入る隙になりうるそれを、疲労故かローガンは見逃してしまう。叩きつけられたその威力に、大きく態勢を崩される。

 

 追撃に防御も回避も間に合わない。ローガンはそれまで剣へ添えるにとどめていた左手を腰元に持っていき——何かを掴むこともなく(くう)を切った。眼前に突きつけられる剣。静まり返る場。

 

 決着。

 

「う……うおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 歓声が爆発した。

 

 男は突きつけていた剣を下ろし、破顔した。

 

「お久しぶりです、隊長」

 

「隊長はよせよ……やれやれ。腕を上げたな、ヨハン。完敗だよ」

 

「光栄の至りです。……ですがやはり私はまだまだです。ハンデを頂いておいて辛勝とは」

 

「ハンデってお前なぁ」

 

 男——ヨハンの謙虚な物言いに苦笑するローガン。別にハンデなど与えたつもりはないし、何なら辛勝でもない。少なくともローガンは今出せる全力を以て戦ったのだ。この結果はそれ以上でもそれ以下でもない。そう思うが、それを伝えたところでヨハンはそれを認めはしないだろう。

 

「しっかし手厚い歓迎だな。相変わらずで安心したよ」

 

「隊長もお変わりないようで、何よりです」

 

「だからその隊長ってのはやめてくれよ。俺はもう団の人間じゃあないんだ」

 

「しかし……いえ、そうですね」

 

 反論を飲み込んだヨハンが居住まいを正した。

 

「ようこそ、ミーテリオン第三騎士団駐屯地へ」

 

 

 

 

「よおログ!」

 

 ヨハンと共に駐屯所内を歩いていると、見知った顔に声をかけられた。

 

「ダリル」

 

「いい勝負だったな! ヨハンの剣はどうだった?」

 

「効いたよ。見ない間に随分強くなったもんだ」

 

「そうだろう!今じゃ団内でも指折りの実力だ」

 

「恐縮です」

 

「だが若いのはもうちょっと鍛えてやった方がいいんじゃないか?」

 

「はは、まあ今日のでちったぁ学んだろうよ」

 

「私が至らぬばかりに、面目次第もありません……」

 

 別にヨハンの責任というわけでもあるまいに。ぶれることのないその真面目な言動に懐かしさを感じてローガンは目を細める。ローガンが第三騎士団に身を置いていた頃、部下であったヨハンはまだまだ未熟な一騎士に過ぎなかった。

 

 最前線へ駆り出されることの多い第三騎士団においてヨハンのような者は珍しい。どうしたって血の気が多くなりがちな団内で彼だけは常に冷静に、そして真摯に騎士としての職務に邁進してきた。

 

 当時から見どころはあったし、だからこそローガンんは自分が退団する際に彼を隊長に指名した。いずれ大成するだろうと思ってのことだが、こうしていざ実際にここまで成長した様を目の当たりにすると時間の流れを実感させられる。

 

 

「そういえば、バージル団長はもう退陣なされたんだよな。今は誰が団長なんだ? 」

 

「ん? おいおい、聞いていないのか?」

 

「あぁ。お前じゃないんだろう? なら……クレイヴかローレンスあたりか?」

 

 脳裏に浮かぶ、特に屈強だった仲間の名前を挙げる。しかし、ダリルは首を振った。

 

「……? あいつらじゃないとなると……」

 

「その調子じゃあ多分当てられないな。よし、ヨハン教えてやれ」

 

 なおも考えようとしたところ、何が面白いのか妙にニヤついたダリルが遮り、ヨハンに顎をしゃくった。話を振られたヨハンが薄く苦笑を浮かべる。

 

「もう団長室ですし、そこで」

 

 ヨハンの言う通り団長室はすぐそこだ。そこで挨拶すればいいかとローガンも頷き返す。

 

 団長室の前、ヨハンがノックもなしにドアノブに手をかける。

 

「お、おい」

 

 らしくもないヨハンの暴挙にローガンが思わず声を上げるが、ヨハンは特に気にした様子もなく無遠慮に部屋へと足を踏み入れる。

 

 団長室には誰も居なかった。留守か、と訝しむローガンをしり目にヨハンが執務用のデスクの前で立ち止まり、振り返った。

 

「では、改めまして。——ミーテリオン第三騎士団団長を務めさせていただいております。ヨハン・ラーゼリオンです」

 

「はっ……!?」

 

 やや芝居がかった調子で言い切ったヨハンは、いたずらが成功した子どものように笑みを零した。

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