それでも私は死にたくない   作:如月SQ

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感想返信のほうは……本当に申し訳ないのですが、暫く見送らせてください。
自分のキャパシティの無さに絶望しそうですが、その分頑張って更新を早めていきたいと思います。
何せ、もう少しでかきたい所なので……。




 私は兎に角鬼を増やした。

 出来る限り見込みのある輩を。

 今までのように野盗を返り討ちにして鬼にして。

 死にかけている人間を拾って鬼にして。

 ……ただそこにいた人を、鬼に、した。

 そうして増やした鬼に、青い彼岸花の捜索を命じ続けた。

 

 そんな折、数を増やした事でわかってきた事なのだが、鬼には時折妖術のような力が宿るのだ。

 その力はまさに千差万別。

 鬼達はその力を活用し、捜索を続け……人を、食らい続けていた。

 

 その力を血鬼術と名付け、研鑽をするようにとも命じた。

 どのような術になるかは鬼次第だが……もしかすると鬼を人に戻す力なんかが……。

 いや、高望みし過ぎだ。

 そんな都合の良いものが、ある訳がない。

 

「……珠世、どうだ?」

 

「無惨様……申し訳ありません……糸口すら……」

 

「そう、か……やはり、青い彼岸花を、見付けなければ……。

 珠世、何か必要な物があれば言え。必ず用意する」

 

「それなら!」

 

 此方を勢いよく振り返った珠世は、悲しげな顔だった。

 そして、私の顔を見ると目を見開いて、口を閉じた。

 

「……いえ、なんでも、ないです」

 

 珠世はそう言って、また研究に戻っていった。

 何か言いたげではあった。

 けれど何も言う事はなかった。

 

 珠世はいつも、私を悲しげな顔で見つめてくる。

 私は確かに変わったのだろう、人を平気で犠牲にするようになり、その犠牲も省みる事はなくなった。

 そんな私を、珠世はもう……何処かで見限っているのかもしれない。

 それでも、良い。

 

「頼む、珠世……鳴女に、明るい未来を……」

 

 珠世の研究室を出る直前に、そう、懇願した。

 私自身がどう思われようと、どうでもいい……。

 だが、鳴女は、救われなければいけない。

 あの子はまだ眠っている……目を覚ましたらどうなっているかはわからない。

 だから、早く……鳴女を、救って欲しい……。

 

「ズルい……人……」

 

 小さく呟かれた言葉に珠世を振り返れば、その小さな肩は震えているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある時、真夜中にも関わらず鬼が死んだ。

 

「……何だと?」

 

 何故かはわからなかったが、今際の声も届かなかった為に一先ずはその死んだ鬼の周辺の鬼達にも注意を呼び掛け、様子を見る事にした。

 そうしてみれば、なんと、刀、という刃を持った人間に頸を落とされ、塵となっていた事がわかった。

 鬼の退治屋という訳だろうか……面倒な。

 

 しかしながら、私達鬼は本来、その程度で死ぬ事はない。

 ……頸を落とされても生きている存在を、生き物と呼べるかは置いておく。

 兎に角、ただの刃物で切られても、死ぬ筈もないのだ。

 だが、その鬼の退治屋達は、闇夜の中で鬼を殺す事に成功していた……。

 鬼が闇夜で人を見つけ、襲おうとした所で、姿を隠していた複数の人間が襲い掛かる。

 そしてそのまま鬼の腕や足を切り落とし、再生させる間も無く頸を切り落としていた。

 

 ……忌々しいが、実に理にかなった戦法だった。

 鬼の力は普通の人間と比べるべくもなく強い。

 更に、個体によっては血鬼術という妖術すら使う。

 人間が抗う事など、許されないような……それだけの格差がある。

 

 それを……恐らくは刃に秘密があるのだろうが、人間が生身で打ち破ったというのだ。

 青い彼岸花の捜索がそれだけ遅れるのは業腹だが……称賛せずにはいられなかった。

 複数人が連係していた事から、恐らくは組織的な物なのだろう。

 

「何処の誰かは知らんが……やるではないか」

 

 顔も知らず会ったこともない存在へ、私は称賛の言葉を漏らしていた。

 だが、その頃はあまり重要視はしていなかった。

 どうせ時の流れと共に衰退するのだろうと、この国の時代の移り変わりを眺めながら、そう思っていた。

 ……だが、結果的にそれは誤りだった。

 彼らの思いは……数百年、受け継がれていったのだ。

 ああ……素晴らしい、な……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『無惨様……鳴女ちゃんが、目を覚ましました』

 

「なんだと……!今すぐに向かう!」

 

 研究と並行し鳴女の看病を任せていた珠世から連絡があり、私は私を襲ってきた炎のような髪の男を投げ飛ばした。

 まだ若く、使命に燃える男……特殊な刀を携えた、鬼を殺す組織の一員だろう男だった。

 

 こやつに殺された鬼も多く、忌々しい思いも強いが……その炎のような闘志に魅せられていた。

 その熱い思いには、無辜の民を守るという、強い思いが込められていたが故に。

 それに……私の手に残ったのはその男が使っていた刀、これの詳細も知りたい。

 ……それと、このような真っ直ぐな男であるなら……間違った鬼を止めてくれるかもしれない。

 

「命までは取らぬ。その駄賃代わりにこの刀は貰っていくぞ」

 

「くっ……待て!」

 

 男は私を引き留めるも、顔を歪めた男は膝をついた。

 当然だろう、恐らくは肋がいくつか折れている。

 痛みで当然動ける訳もない……が、きっとこの男は動けてしまう。

 それでは見逃した意味もないだろう。

 私はそれ以上その男が無茶をしないうちに、足早にその場を立ち去るのだった。

 

「よもやよもや……鬼に見逃されるとは……!何たる不覚!

 皆に合わせる顔がない!穴があったら入りたい!

 しかし、あの鬼……いや、今はお館様にご報告するが先決!そうと決まr……痛っー……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました鳴女は、表面上は今まで通りだった。

 既に髪は再生し、美しい黒髪で顔の殆どを隠していた。

 体にも特に傷は残っていないようだった。

 

「鳴女……すまなかったな」

 

「……?何故謝るのですか、無惨様」

 

「いや、辛い思いをさせた……」

 

「いえ、私が正体を露見させてしまったのが原因ですから。

 無惨様が謝る事等、何一つありません」

 

 鳴女は朗らかに微笑んだ。

 ああ……情けない、私が慰められてどうする。

 ちら、と見えた鳴女の脚は……傷は治っているのに形がぐちゃぐちゃで……。

 まともに歩けるようには見えなかった。

 

「脚の事なら心配なさらないでください」

 

 それでも気丈に笑う鳴女の姿が、より私を苛む。

 

「琵琶を……取って貰っても宜しいですか?」

 

「む……ああ」

 

 あの場所でもずっと抱えていた琵琶。

 弦は全て切れていたように思うが……珠世か、もしくは誰かが張り直したのか、立派な姿を見せていた。

 それを手渡すと、指で軽く弦を弾いていく。

 細かく何かを調整している様子の鳴女を、私は黙って見守っていた。

 

 やがてその手が止まると同時に、奏でられる素晴らしい音色。

 私は音楽には詳しくないが……淀みないその音色は私をあっという間に魅了していた。

 

 そして、突如として私の横の空中に、襖のようなものが現れたのだ。

 

「……は?」

 

 ガラリと音をたてて開いた向こうでは、同じように突然の出現に驚いたのだろう、珠世が目を丸くして此方を見つめていた。

 

「え……?あれ?お二人はそちらの部屋に……」

 

 本来ならば今いる部屋へと繋がる扉を見て、此方を見て、パチパチと瞳を瞬かせていた。

 ……空間を繋げている、のか。

 これが、鳴女の血鬼術……なんと強力な術だ。

 

 ……だが、そんな事よりも、だ。

 

「珠世、こっちへ来い。共に鳴女の演奏会……楽しもうじゃないか」

 

 その襖から身を乗りだし、その手を掴んだ。

 目を白黒させ戸惑っていた珠世だったが、聞こえてきた琵琶の音色に耳をすませ、その瞳を細めた。

 

「良い、音色……」

 

 うっとりと聞き入り始めた珠世の手を引き、強引に隣に座らせると、私も改めて鳴女の琵琶の音色に耳をすませた。

 美しく、流麗で……けれど何処かもの悲しい旋律……。

 伝わってくるのは、亡き恩人への思いだ。

 鳴女を、必死の思いで助けようとした、雄月への、鳴女のせめてもの感謝の気持ち。

 せめて安らかに眠って欲しいという、鎮魂の唄。

 

「美しい、音色だ……素晴らしい。腕をあげたな、鳴女……」

 

 私は、心からの称賛を鳴女へと送った。

 全てが美しかった。

 音色も、旋律も、鳴女のその思いも……今は亡き、雄月も、何も言わず隣で、静かに聞き入っている珠世も……。

 私は……恵まれている。美しい物に囲まれて生きている。

 

 花が咲いたような笑顔を見せた鳴女は、演奏を続けていく。

 鳴女の、私達二人に……三人にだけ贈る演奏会は、夜が更けるまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴女を人に戻す。

 鳴女の演奏を聞いて、その思いを改めて強めた私は、自らもその脚で青い彼岸花捜索に当たっていた。

 鳴女の血鬼術によって様々な場所へと一瞬で移動出来るようになった為に、あまり人のいない長閑な場所にも捜索の手を伸ばす事が出来た。

 

 珠世と鳴女に声をかけ、襖を通り、今回の捜索場所へと降り立った。

 

「「いってらっしゃいませ、無惨様」」

 

 背後から二人の声が重なって聞こえて、即座にスパンと閉められた襖はすぅ、と宙に解けて消えていった。

 

「……いってくる」

 

 届かないと知りつつ、小さく呟いて……私はその場を後にした。

 

 現状だが、鳴女が目を覚ました事は喜ばしいのだが、まったくと言って良い程進展はなかった。

 鬼にした者達は自らの力に酔うばかりで、人を食らい、人を鬼にし続けているようだった。

 一応、私の言い付け通り青い彼岸花を探そうとする素振りはあるのだが……しらみ潰しに探すしか方法がない為に、その捜索も遅々として進んではいなかった。

 

 一方で、鬼狩りの組織……あれに鬼は殺され続けているようだ。

 先日手に入れた刀……あの刀の解析は珠世に頼んでいる。

 なんらかの特殊な鉄である事はわかっている。

 集団の強さを生かし、連係をとって行うそれは……まさに狩り。

 私達鬼には肉体の強さに加え、血鬼術という優位性がある。

 故に一度目はまず返り討ちにする事が出来る……。

 だが、もしそれを逃したり、その戦闘を誰かに観察される等をすれば……その優位性は脆くも崩れていく。

 そんな戦闘を二度、三度と集団で行い……一人ずつ、確実に殺されているのだ。

 実に人間らしく……素晴らしい(忌々しい)

 

 私が血を分けた同族達が死んでいく事は、常に私に伝わってくる。

 その痛み、恐怖、絶望……その全てが。

 死は辛く、悲しい……その恐怖は筆舌に尽くしがたい。

 それでも最期まで足掻く同族を……私は誇りに思う。

 だからこそ……犠牲に報いる為に……必ず青い彼岸花を探し出さねばならない。

 

 痛みを堪えながら、闇夜の中歩いていた、その時だった。

 

「そこなお兄さんや」

 

 ぽぅ、と私の顔が灯りに照らされた。

 その灯りのほうを見れば、闇の中浮かび上がる、素朴な女の姿があった。

 

「もう日は沈んでおるぞ。夜道を行くのは危ない。すぐそばに家がある。泊まっていくと良いぞ」

 

 素朴な女の……いや、まだ少女とも呼べるような若い女は、穏やかな笑みを浮かべ、灯りを掲げながら手を差し伸べてきた。

 

「い、いや、私は……」

 

 突然の申し出に怪訝な思いを顔に出すより前に、困惑が上回った。

 闇夜を歩く男に、女が一人で話し掛け、あまつさえ泊まれ、と……?

 こいつ、危機感がないのか……?

 

「良いから、遠慮するな!夕餉も食べていくのじゃ!」

 

 女はそう言うと私の手をぐいぐいと引っ張ってくる。

 灯りに照らされた、黒曜石のように輝く漆黒の瞳が、私を真っ直ぐ見つめていた。

 ご、強引な女め……しかし、明らかにひ弱な女……耐えてしまえば怪我をさせてしまうかもしれん。

 

 ……仕方ない、今日の捜索は諦めよう。

 はぁ、と息を吐き出して苦笑を浮かべ、引っ張られるがままに直ぐそばにあるあばら家へと足を踏み入れた。

 

「ただいま縁壱。この人、夜中に灯りも持たずにフラフラしておったのじゃ。飯でも食わせようと思ってな。

 ええと……なんと言うたか」

 

「……私は、無惨と言う」

 

「そうか、無惨殿か、まぁ適当な所でくつろいどくれ!」

 

 そう言ってにこやかな笑顔のまま、女は背中を向けた。

 その家の中には、1人の男が静かに佇んでいた。

 額に浮かぶ炎のような痣が特徴的な男は、凪いだ瞳で此方を見つめていた。

 ……何とも、不思議な迫力を持つ男だった。

 

「……初めまして。私は、縁壱という。あちらは妻のうた。

 無惨殿、狭い家ですまないが、こちらに……」

 

 それが、縁壱とうた、二人の夫婦との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 彼を一目見た時から、彼が人ではない事はわかっていた。

 彼を一目見た時から、彼の背負う業には気付いていた。

 彼を一目見た時から……。

 

 私は、彼を倒す為に生まれてきたのだと思っていた。

 

 

 

 うたに手を引かれ苦笑を浮かべた彼は……うたに気遣いながら後を追う彼は、とても人らしかった。

 無惨と名乗った彼は、俺なんぞより人らしかった。

 

 傍目に見ても酷く憔悴した様子の彼を、うたは放っておけなかったのだろう。

 彼の身に何が起きたのかは知らないし、察する事も出来ない。

 ただ、彼が此方に気を遣っている事は伝わってきた。

 明らかに彼にそんな余裕はない。

 にも関わらず他人を思いやれる彼は、とても優しい()なのだと思った。

 

 差し出された具のない粥を恭しく受け取って、微笑んで礼を言う彼が。

 うたの粥を頬張った彼が不意に流した一筋の涙を、俺は忘れる事はないだろう。

 

 それが、鬼の首魁、鬼舞辻無惨との……初めての出会い。

 俺の……私達の初めての友達、無惨との出会いだった。




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