感想、評価、ここすき、毎回本当に励みになってます。
感想返信については、本当に申し訳ないのですが暫く見送らせていただきます……。
その代わり、出来る限りの毎日更新を目指していきたいと思います。
皆様の暖かいお言葉に甘える形となりますが……頑張って更新して行きたいと思います。
掲示板回……あれですか、よくある「もしこの鬼滅の刃がジャンプに連載されていたら」みたいな奴。
うーん、他作でも掲示板やってみた事あるんですが、苦手なんですよね、掲示板。
上手いことかける気がしませんね……どなたかやっていただいても構いませんよ……?()
うたという女は、とても口数の多い女だった。
常ににこにこと表情を輝かせて笑い、今日は畑に芋虫が何匹いただの、今年はおたまじゃくしが比較的少ないだのと、どうでも良い話を口にしていた。
一方で縁壱という男は寡黙……と思いきや、うたの話を穏やかな表情で聞き、優しげな表情で相槌をうち、所々で言葉を挟んでいた。
「おたまじゃくしならば少し離れた池に大量にいた。
きっと、卵を生む場所が変わっただけだろう」
「そうか!それは良かったのう」
身を寄せあいながら、おだやかな雰囲気で言葉を交わす二人は、とても幸せそうだった。
穏やか過ぎる空気は、まるで時間がこの家だけゆっくりと進んでいるように感じられた。
「ずず……」
渡された具のない粥……申し訳程度に塩っけを感じる程度の粥の最後の一口を啜る。
……不思議だ。何の変哲もない、いや素朴な……粗食と言って差し支えないようなものなのに……。
鬼である私にとっては、腹の足しになるものでもないのに。
「……馳走になった。美味かった」
食べた時、不思議と胸が温かくなった。
この家と彼等の雰囲気も合わせて……久し振りに心の底から穏やかな気分だった。
うたは私から器を受け取り、嬉しそうに笑みを浮かべていた。
隣にいる縁壱も、穏やかに目を細めて私を見ていた。
なんだかその温かな目線がむず痒く、私はふいと視線を逸らした。
二人は私を見て、笑みをより深めていた。
そんな、仲睦まじい夫婦に……気付けば私も笑みを浮かべていた。
うたが寝静まった後、私は家を出ていた。
この家は狭く、三人で並んで寝てしまえばそれだけで足の踏み場がなくなってしまう。
縁壱の体格は良い、私も悪いほうではない。
「わしは縁壱の腕の中で寝るでの。無惨殿はそこで普通に寝てしまって大丈夫じゃよ」
うたはそう言っていそいそと縁壱の胸元に入り込んでいたが……やはり迷惑には違いあるまい。
起こさぬように気を付け、慎重に身を起こし……外へと出ていった。
外は淡い月光に照らされ、長閑な田畑と点在するあばら家が神秘的に輝いていた。
静かな月夜だった。
……何故かその時、私はそれをとても美しく思った。
「……む」
暫しその光景に目を奪われていると、背後に気配を感じた。
……少し、夢中になっていたらしいな、こうまで接近されても気付けぬとは。
「無惨殿、眠れないのか?」
そこに立っていたのは、縁壱だった。
寝起きとは思えないしっかりとした足どりと表情であった。
「縁壱と言ったか……私はこのまま去らせて貰う。
うたには、世話になったと伝えてくれ」
まぁ、良い機会だろう。
そもそもうたに強引に連れられただけ……。
探索を再開しよう。
既に夜は深いが、まだ多少の時間はある。
さらりと周辺の探索をして帰還するとしよう。
そう思って視線を切ろうとした。
しかしながら、縁壱はそれを咎めた。
「……夜道は危険だ」
そう言ってじっと私を見つめる縁壱の瞳は、まるで私の全てを見通しているような気がした。
ぶるりと、反射的に寒気が走った。
……見透かされている、本能的にそう思った。
「私は……貴方が人ではない事をわかっている。
それでも、私が見ている限り貴方は心優しい人に見えた」
「……なに……?」
いや、なんだと?意味がわからない。
私を鬼……だと理解しているかはわからないが、人外だと言っておきながら……私が、心優しい人、だと?
首だけで振り返っていたのだが、思わず体ごと向き直っていた。
言葉に出来ない苛立ちが、私の胸に浮かんでくる。
「なんと見当違いな……私は」
「うたは、貴方が今にも死にそうに見えたらしい。
放っておいたら死んでしまいそうな、追い詰められ、思い詰めているように見えたと言っていた」
意味がわからない、私はそんな状態ではない。
そう、答えたかったのに、私の口はその言葉を紡いではくれなかった。
「貴方が抱えているものは、私のような人間にはわからない。
けれど、うたの話を聞いていた貴方の優しい笑みを、嘘だとは思えない。
……こんな所で申し訳ないが……もう少し休んで行ってはどうだろうか?
貴方には休息が必要だと、私はそう思う」
「っ……バカな!私にそのような時間は―――」
「おー?縁壱ぃ……?無惨殿ぉ……どうしたのじゃー……?」
顔を歪めて吐き捨てたその時、寝ぼけ眼のうたが、家から顔を出した。
眠そうに瞳を瞬かせて擦り、口をもごもごさせていて……非常に眠そうだった。
「……ふぅ、丁度良い。うた、私はもう去らせて貰う。世話になっ――」
「無惨殿ー」
ぎゅっ
ふらりと私に近付いたうたは、そのまま私の正面に抱き着いてきた。
ぎょっ、と目を剥く私を気にする事もなく、うたは言葉を続ける。
「そんな死にそうな顔したおんしを、放っておけぬのじゃ。
さぁさぁ大人しく、わしらと朝まで寝るのじゃよ」
「くっ……!?うた、貴様やはり警戒心が足りないのではないか……!?私達は初対面だぞ!」
「おー?傍目にもわかる程に優しげな雰囲気出しておいて、よく言うのぉ。ほんに、いらん気苦労背負って死にそうな奴じゃ!」
「くっ、縁壱!貴様の妻だろう!」
縁壱に視線を向けるも、クスクスと笑うだけでうたを止めようともしない。
「貴方ならば容易くうたを振り払えるだろうに、されるがままなのが貴方の優しさを証明しているように思う。
ふふ……観念して朝まで休もう。うたはきっとてこでも動かないぞ」
「くぅー……くぅー……」
「動かないというか、もう寝ているではないか!ああ、もう、わかったわかった!」
私に抱き着いたまま、寝息をたて始めたうたを、慌てて背中に手を回して抱き止めた。
……いや、寝ているのにしっかり掴まっていて、落ちる気配もないな。
はぁ……仕方ない……本当に、しようがないな……。
微笑みを浮かべた縁壱に先導され、うたを抱いて家へと私は戻っていった。
そしてそのまま……朝まで三人で並んで寝る事になってしまったのだった。
まるで幼子のように私の胸に顔を擦り付けるうたを、思った以上に幼い寝顔で寝息を立てる縁壱を、眺めていた。
……きっとその時、私は笑っていたのだろう。
穏やかに、柔らかく。
「ふぅ……ただいま」
「おかえりなさいませ……あれ?」
「……む、どうした」
「何か、良い事でもありましたか?
なんだか、昔に戻ったみたいに、表情も雰囲気も柔らかくなってますよ。
最近いつも追い詰められていたようにお顔が険しかったですからね」
「……なに……?」
「私は、そんな貴方のほうが好きですよ。
ふふ……研究、頑張りますね。貴方の夢、叶えてみせます」
「あ……ああ…………」
珠世はそう言って研究に集中し始めてしまった。
頬に手を当てて、私はその口元が自然と弧を描いている事に気付いた。
……自分では気付かなかった。
うたと縁壱の言う通り、私はそんなに酷い顔をしていたのだろうか。
珠世は……気付いていたのか。
何処か機嫌良さそうに研究に没頭する後ろ姿を暫し眺めてから、私も動き出す事にする。
やる事は変わらない、青い彼岸花を探す、鳴女を元に戻す方法を探す。
……けれど、たまには休んでもいいのかもしれない。
その時頭に浮かんだのは、あの仲睦まじい夫婦の姿だった。
「おお、無惨殿!」
あれから、私は何度かあの夫婦の所へと顔を出した。
今では大分仲良くなれたのではないだろうか。
「ああ、今回の土産は猪肉だ」
「むおお!ありがたい!今夜はご馳走じゃな!」
その温かな空気が、穏やかな雰囲気が、私の心を癒してくれているように思う。
故に休みたいと思った時は、ついここに足が向いた。
「いつもすまない、無惨殿」
「気にするな、私が好きでやっている事だ」
二人とは色んな話をした。
うたが常に話をすると言う事もあるが、話題には事欠かなかった。
「縁壱!今日は牡丹鍋じゃぞー!ご馳走じゃー!」
「ああ、私も楽しみだ。ただ、あまりはしゃぐな」
うたは流行り病で両親を失い、縁壱は訳あって親元を飛び出したのだという。
「それにしても、もう直ぐか?」
「そうじゃな、そろそろじゃとお医者様には言われとる」
幼い身で天涯孤独となった二人は身を寄せあい、十年もの間を共に生きて……そうして夫婦となったのだという。
十年……既に数百年を生きてる私からすればたった、と言って差し支えない時間。
だが、力のない子供二人が生きるには苦労も多かった事だろう。
「ふふふ……きっと可愛いややこが生まれてくるぞ。
小さい頃の縁壱はほんに可愛かったでな」
「そうだな……うたのように可憐な子かもしれない。
私は……どちらでも嬉しい。ただ無事に生まれてくれれば、それで」
それでも、こうして幸せを手に入れた二人が……本当に輝いて見えた。
優しさを失わず、強く、真っ直ぐに生きる二人の生きざまが眩しかった。
大きく膨らんだお腹を撫でる二人の瞳は優しく、その穏やかな雰囲気に私も自然と笑みを浮かべていた。
「ほれ、無惨殿も、触ってみるかの?」
ふい、と二人の優しい視線が私へと向いた。
その申し出にたじろぎ、手を前に出して軽く振る。
「あ、いや、私は……」
「遠慮するでない!付き合いは短いが、もうわしらは友達じゃろ!ほら」
強引にうたに掴まれてその腹に手を当てる事となる。
頭にはいくつもの考えが浮かんでいた。
私のような化け物がとか、血塗られたこの身でとか、呪われた生だとか。
けれどそのぬくもりに、触れた瞬間に腹の奥から響いた衝撃に。
私は、呆けてしまった。
「おっ、蹴ったな、こやつめ。無惨殿にご挨拶したようじゃぞ」
「元気な子だ……無惨殿、どうだろうか、この子の名前……考えてはくれないだろうか」
「……私、が……?」
「おお!よき案じゃ!無惨殿、どうか考えてはくれぬか?」
二人の顔を呆然と見上げてみれば、二人は慈愛に満ちた目で私を見ていて……。
本当に良いのか、そう言葉もなく問うても、二人は頷くだけだった。
私は呆然としたまま……けれど直感のままに、口を開いた。
まだ腹の奥にいる、祝福されるべき新たな命へと。
元気に産まれるようにと、無事に産まれるようにと、願いを込めて。
「こく……よう……お前は、黒曜だ」
そう、絞り出すように告げた。
「こくよう……よき名じゃ!良かったのう、黒曜!
ありがとう、無惨殿!その名、大事にさせて貰おう!」
「黒曜……ありがとう、無惨殿」
「……殿、はいらん。友達、なのだろう……?」
あまりに喜ばれる事がむず痒く、照れ隠しにそう言えば、二人はきょとんと目を丸くした後に、にこりと、幼い笑みを浮かべた。
「「ありがとう、無惨」」
重なった二人の言葉は、私の心に深く、染み入っていった。
悲劇とは唐突にやってくる。
特になんて事ない日でも、辛く苦しい日でも。
幸せの、絶頂の日でも。
だが、それでも、それでもこれはあんまりではないか。
私は先日願ったばかりではないか。
心から、祈ったばかりではないか……。
「……………………」
腹から血を流し、目を見開いたままのうた。
うたの黒曜石の瞳は、もう何も映すことはない。
うたは、死んでいた。
腹をかっさばかれて死んでいた。
誰に?
鬼に。
私が、作り出した鬼に。
「あ、あぁ…………」
血の臭いの充満する小さな家の中で、私は顔を両手で覆った。
うたの血の臭いのする両手が、酷く、おぞましかった。
「あぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」
――――――――――――――――――――――――――
「……家族を作る?」
「うん、僕家族が欲しくて。
無惨様、鬼同士徒党をあまり組まないように、って言ってたでしょ?
だからその許可が欲しくて」
……成る程、累は両親の愛に飢えているのだろうな。
今累は、実の両親を本当の家族じゃなかったと思い込んでいる。
親が子を殺すような、そんな事は起きてはならないのだと。
自分を守ってくれるような、そんな家族の形を欲しているのだろう。
「……そうか、良いだろう。好きにするといい。
累、お前が徒党を組む事を許可する。
だが、それならもう少しお前は強くなったほうがいいな……。
せめて十二鬼月になれるくらいには」
「……わかった。頑張る」
私はその思いを否定しなかった。
きっと歪んだ形になるとわかっていた。
ろくな結果を生まないだろうとは察しがついた。
けれど、幼くして深く傷付いたこの子には……形だけでも庇護する存在が必要なのだ。
「ああ……頑張れ」
ポン、とその頭に手を乗せ、軽く撫でてやる。
その仕草に、累は物欲しげに私を見上げるが……何かを言葉にする事はなかった。
その視線に、多少の察しはついた。
時折、死に際を拾った子供の鬼からは、よくあのように見られるからだ。
けれど、私はその思いに、願いに応えることはない。
少しだけ残念そうにしながらも、気合いをいれた様子の累を見送り、私はふい、と上を見上げた。
「私なんぞが……父代わりなど烏滸がましい……そうだろう?」
黒曜……。
自分に言い聞かせるように呟いて……私も静かにその場を後にした。
胸の痛みは、気にしない事にするしかなかった。
誤字報告ありがとうございます。
修正しました。