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誤字報告も助かっております。
「……やはり私が直接鬼にした訳ではない鬼は、人柄もわからんし動きが読めんな……」
頭が悪い輩ならば直ぐに鬼殺隊に処理されるが……その過程でもかなりの被害を生み出してしまう。
そして……頭が良い個体は……真に賢しい者というのは身を潜めるものだからな。
「そう、ですな……この辺りなどは……鬼のものらしき被害はありますが……無惨様の支配下の鬼は近場にはおりませぬ……。
更には鬼殺隊の剣士も……多数被害が出ている模様……。
それでいて……その鬼の特徴は……まったくわかっておりませぬ……余程初見では対応出来ぬ力を持っているようですな……」
「……ああ、そういえば人間の可能性もあるな」
「人間が……?」
ふと漏らした言葉に、黒死牟は首を捻った。
ふむ……黒死牟もそうだが、鬼は皆人を下に見て嘗めてかかる節がある。
元が人で、その無力さを痛感した事があるからだろう。
彼等の中で人というのは非常に価値が低いのだが……あまり良い傾向ではないな。
私は人の醜さをよく知っている。
「人の悪辣さを嘗めるな黒死牟。人は人でないものを平気で食い物にする……同じ人ですら例外ではない。
そもそも侍も私からすれば、一部の人間の身勝手な都合で人を殺し続ける、醜い生き物でしかない」
む、と黒死牟が口元をへの字にするが、思い当たる節はあるのか不満をそれ以上形にすることはなかった。
「人が複数消えた時、それを実行出来るのは強い鬼か、自然災害……そして人間の組織だ。
その中でも人間は強かだぞ、流す情報すら操作し、世論すら操る。
鬼のせいにされた出来事も、いくつかはあったのではないか?
まぁ……私も人を食うな、とまでは言っていないからな、鬼の被害者がいないとまでは言わないが……人の悪辣さを忘れてしまえば、思わぬ所で足を掬われるかもしれんぞ?」
「…………胸に、刻みまする……」
黒死牟はそう言って頭を下げた。
納得は……してくれたようだな。
「まぁ……今回は普通に鬼のような気もするがな」
と、ここまで言ったがそれはもしも、可能性の話であって、今回は恐らく鬼だろう。
あまりにも情報がなさ過ぎる。
となるとまぁ……出向かねばなるまい。
「どうなされる……おつもりで……?」
「話し合いだな、以前も言ったが、別に私の意にそぐわないからと殺すつもりもない。
何せ私が間接的にとはいえ鬼にしたのだ、その責任を負わねばならない。
それでも変わらぬならば、それはそれで仕方ないことだ」
もっと人を食いたいと思っていた鬼はいくらでもいたからな……。
繋がりがあった頃はある程度抑制出来ていたが……私が縁壱に切り刻まれて途切れてから60年……私の前に姿を現さないということは、そういうことだろう。
「無惨様の意に……刃向かう者など……切り捨てるべきでは……?」
「これだから侍は野蛮だと言われるのだ……。
私が絶対的に正しい訳もない、そ奴等にはそ奴等なりの思いがあるのだ。
それを無視して私の思いを押し付ける気はない。
さて……既にあれから60年は経った……無限城も完成したのだ、そろそろ私も外に出る事にしよう」
「……はっ……では護衛は私が……」
鬼の捜索だ、夜に行うつもりであるし、黒死牟がいるのは心強いか。
目がいっぱいあるのだから、見つけるのも早いだろう。
「ああ、任せる」
そう言ってやれば黒死牟は小さく笑みを浮かべて再度頭を下げていた。
人は、醜い。
そして、悪辣だ。
けれど、同時に光り輝いている。
その命の輝きは私には持ち得ないものだ。
「……縁壱」
「……お労しや……兄上……無惨……」
例えば……お前のような奴の輝きがな……縁壱。
長い髪の全てが白く染まり、深い皺が刻まれた顔、枯れ木のような腕と脚……。
それでもなお、まったく衰えないその輝きが眩しかった。
「無惨様……!お下がりください……!」
六つの目を目一杯に見開いた黒死牟は、即座に刀を抜き放ち技を放とうと大きく踏み込んだ。
ザッ
ズバアッ!
「なっ、がっ!」
「…………」
だがその次の瞬間には先に縁壱の刀が振るわれていた。
縁壱は老いている、体は間違いなく老い、衰えている。
黒死牟はこの60年鍛練を怠っていなかった。
血鬼術も使いこなし、間違いなく強くなっている。
それでもなお……縁壱には及ばなかった。
縁壱の剣技には、一片の衰えも感じられなかった。
カランッ
黒死牟は一瞬で四肢を切り落とされ、バラバラと地に刀と肉片が落ちていった。
首だけはどうにか守れたようだが……暫くは動くことも出来ないだろう。
「縁壱ィ!」
黒死牟の血を吐くような叫びが響くなか、老人となった縁壱は刀を構えたまま、私をじっと見据えた。
……偶然の出会い……二度と会えぬと思っていた友との再会……。
様々な感情が私の中を駆け巡る。
歓喜、憤怒、悲哀、悦楽……あらゆる感情が浮かんでは消えていく。
この思いをどう形にしたものか、わからなかった。
「無惨……」
力のない声だった。
嗄れた、老人の掠れた声。
それでもなお、その瞳は真っ直ぐ私を見据えていた。
あの頃の輝きのままで。
「ああ……そう、か」
縁壱の握った刀がギチリと音をたて、赫く染まっていく。
その真っ直ぐな視線は、強い思いと共にゆっくりと見開かれていく。
「友として……引導を……渡す……」
縁壱……お前は、その一心で……生きてきたのか。
風の噂で、鬼殺隊から追放されたと聞いていたのに、それでもなお……鬼を狩り続けていたのか。
……私を、止める為に。
「……まだ、私を友と呼んでくれるのだな……」
思わず笑ってしまう。
私のせいで、縁壱はいくつもの苦しみを味わっただろうに。
そんな友の心遣いを無為にして、私は逃げたというのに。
それでも縁壱はあの時の眼差しのまま、為すべき事を為す為に私に刃を振るうというのだ……。
瞼を閉じれば、うたと縁壱と……あの狭い家で鍋をつついた時の事が鮮明に浮かび上がる。
あの暖かな空間が……あの穏やかな雰囲気が……私の荒んでいた心を癒してくれたあの時間が……。
「日の呼吸……」
縁壱が一歩、踏み出した。
私は瞳を細めたまま……気付けば空を見上げて、柔らかく微笑んでいた。
まるで、あの頃に戻ったような気分だった。
「
「無惨様っ!」
黒死牟の声が何処か遠くに聞こえる。
縁壱が一気に加速したのがわかった。
不思議な……気分だった。
頭の何処かでは逃げろと、逃げねば死ぬと強く訴えかけてきているというのに、私はその場で立ち尽くしていた。
縁壱は……命の灯火が消えかけていた。
心臓の鼓動も弱く、立って刃を振るおうとしている事が信じられない程に。
それはきっと……自惚れでなければ……私の為に。
友の私を、この呪われた生から救う為の刃を振るう為に。
ああ……私は、こんな友を持てて、幸せ者だ。
それだけで……これだけ罪深い私でも……少しはマシな終わりだと思える。
死にたくない、死にたくない。
それでも……生きたくも、ない。
「晴天の―――」
縁壱の刃が、私の頚に、振るわれた。
「…………縁壱?」
刃は、私の頚の直前で止まっていた。
動かぬ刃から、すぅっと赤みが少しずつ消えていく。
そして……気付く。
目の前で、縁壱は刃を振るった姿のまま……死んでいた。
老衰……その最期の瞬間まで……刃を持ち……。
私を本当の最期の瞬間まで、救おうと足掻いてくれていた……。
……バカな、奴め……先に死んでは……私に引導を渡す前に死んでは……何の意味もないだろう……。
顔をしかめて下を向けば、縁壱が落としたのか巾着袋が落ちていた。
見覚えのある……柄……うたのよく身に付けていた着物で作っただろう袋から……不恰好な小さな笛が飛び出していた。
「……あ、あぁ……縁壱…………」
その笛を認識した黒死牟の瞳が見開かれた。
左右六つある瞳、真ん中の瞳だけからじわりと涙が浮かんだ。
まるでそれは……黒死牟が……いや、人間の巌勝が……泣いているように感じた。
体の再生は終わっているのに、はらはらと涙を流す巌勝は、ただその場にうずくまり続けていた。
こうして……私は真の友を亡くしたのだ。
縁壱は……その最期の時まで……私の友達であり続けてくれた……。
「ありがとう……すまない、縁壱……」
私の謝罪の言葉と、溢れた涙は、地面に吸い込まれて消えていった。
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「おや、来たみたいだね」
睡蓮の浮かんだ池、そこに設けられた足場という特徴的な部屋で、童磨は佇んでいた。
へらへらと笑みを浮かべて、複数の鬼殺隊の剣士と、その先頭に立つ羽織を着た女を見て、その笑みを深めた。
「ようこそ、俺は童磨。万世極楽教という宗教で教祖もしている……上弦の弐だ。宜しくね」
「上弦の、弐……血を被ったような……頭……」
先頭の柱であろう女は童磨を見ると、その顔を険しいものへと変えていく。
憎しみ……鬼に対してそう思うのは不思議ではないが、そこには私怨のようなものが感じられた。
「……おや、その羽織……何処かで見たことがあるなぁ」
と、そこで童磨はその女をマジマジと見つめていた。
何かを思い出すように、その首を傾げて。
「あぁ、思い出した。鬼と仲良くしたいだなんて事を言ってた、女の子だったかな?」
と、不意に思い出したのだろう、手をポンと叩き、にこりと笑みを浮かべた。
「……!やっぱり!あなたが……!」
女はそれに反応し、日輪刀に手を掛けた。
その顔に浮かぶのは怒り……恐らくは肉親だったのだろう。
しかし、鬼と仲良くしたい……か。
本気で思っていたのだろうか?
人食いの化け物と人が、仲良くなれるなど……。
「……実に不愉快な女の子だったから、よく覚えているよ」
突然その笑みが消えた童磨に、女を含んだ鬼殺隊が息を飲んだ。
「無惨様は優しいんだ、そんな儚い夢を持っている愚かな女がいたら……きっと放っておかなかった。
でもね、無惨様の優しさが俺達以外に向くのは、本当に不愉快なんだよ。
それに、鬼になろうとしない存在が無惨様と仲良くなれば、それはいずれ必ず、無惨様を傷つけることになる。
……わかるかい?人間が上から目線で仲良くなりたい、なんて言うのは勝手だけど、その行為の全ては無惨様の害になりえるんだ」
童磨はそう言うと、すくりと立ち上がる。
その手に鉄扇を構えながら、その瞳を細めて。
人と仲良くなれば傷つく……か。
童磨が鬼となってから人と仲良くなった事などないが……的を射ている。
私の事を理解されているようで、多少業腹だが。
「本当に……あれは不愉快な子だった。
だから救ってあげようとしたんだ、そんな愚かな彼女を。
食い損ねて、苦しめてしまったのが残念だよ。
……もしかして、君もそう思ってるのかな?
なら今すぐ、その考えは改めたほうが良い」
童磨はそこでニンマリと笑みを作った。
目を細めて、扇をひらりと振るう。
「改めないならここで死んで行って欲しいな。
無惨様の害悪になるような存在は、この世に存在している価値がない。
無惨様は俺達鬼の神様だ。この世で最も貴い存在だ。
そんな無惨様を害そうとする鬼殺隊は、消えてなくなればいい。
ただそれじゃあまりにも可哀想だ、だからせめて食べて供養してあげる。
……あれ、なんだか支離滅裂な気がするなぁ。
ごめんね、上手く言葉に出来なくてさ」
苦笑を浮かべた童磨は、ひらひら、ひらひらと扇を振るい続ける。
その様子を、鬼殺隊は気味が悪いとばかりに顔を歪めていた。
……まあ、鬼殺隊の気持ちはわかる。
この状態の童磨は……正直気色悪い。
「えっと、話が逸れたね……ああ、そうか、あの不愉快な女の妹さんかな?
仇討ち……成る程ね、まぁ良いんじゃないかな?
家族が殺されたら、殺した相手を恨むのは当然だよねぇ。
うんうん、良いと思うよ。勝てるかどうか、望みを果たせるかどうかは別としてね。
無謀なことに挑戦するのも、人間の素晴らしさだろう?」
そう言ってにこりと笑った童磨に、鬼殺隊の女の肩がピクリと跳ねた。
……いや、肩どころではないな、額に青筋が浮かんでいる。
「随分と上から目線ですね……姉さんを殺しておきながら、その言い草……。
まだ戦ってもいないのに、もう勝った気ですか……?
お前は私が、この手で……!」
ひらり、ひらり。
童磨の扇が弧を描く……。
ああ……なんと哀れな。
「え?いや、もう勝負はついてるよ」
「何――ゴホッ!?」
「ガフッ!」
「ゲホッゴホッ!ゴプッ!」
鬼殺隊の女が、胸を押さえて苦しそうに咳き込んだ。
いや、その場にいる鬼殺隊の全員が突然咳き込み出したのだ。
口から血を出すものまでいる。
それは、先程から童磨がしきりに扇を動かしていた事に起因する……。
粉凍り
童磨の血鬼術……凍らせた自らの血を極小の氷の粒として空気中に散布し、吸い込んだ相手の肺をズタズタにする技……。
呼吸をする生物である人間に対して非常に有効であり、呼吸が生命線である鬼殺隊にとって、致命的な技だ。
「ごほっ……これは……皆さん!口元を押さえて!呼吸を最小限に!
一体、いつの……ごほっ……間に……」
女は胸を押さえながら、口元を布で覆う。
それ以上吸い込まないように、周囲の鬼殺隊の剣士達にも声をかけて……。
素晴らしい洞察力だ、空気中に仕掛けがある事を見抜いたか。
だが……既に手遅れだ。
童磨の氷を吸い込んでしまった肺はズタズタだろう。
鬼殺隊の使う呼吸には痛みを鎮める効果や、治癒能力を高める効果もあるが……その呼吸自体が阻害されてしまえば……もうただの無力な人間と変わらない。
「話し始めた時には仕掛けてたよ。
というか、君達随分と悠長なんだね。
君達の目の前にいるのは、十二鬼月上弦の弐だよ?すべての鬼の中で上から数えて三番目の鬼だ。甘く見すぎじゃないかな?
それに君のお姉さんの仇だよ?それを……悠長に話なんか聞いてさ……」
童磨は呆れたように笑って、扇を大きく振るう。
身動きもろくに取れない鬼殺隊へと、止めをさすつもりだろう。
振るった扇から氷の花が無数に放たれ、鬼殺隊へと殺到した。
「だから死ぬんだよ」
蓮葉氷
触れたものを瞬間的に凍結させる花、呼吸も使えず、痛みにもがいている現状では……これで決着だろうか。
それでも、蝶の髪飾りの女は諦めてはいないようだった。
姉の仇か、柱としての責任感か……見上げたものだ。
「ひゅーっ……諦めて、たまるものですか……。
姉さんの仇が目の前にいるのに……良いようにされたままでいられるものですか!」
刀を抜き放ち、構えるその姿は勇ましいが……寒さに震え、呼吸も使えぬ状態で、抗えるものか……。
そう、思っていた。
水ノ呼吸 拾壱ノ型 凪
氷の花が剣士達の体に触れる直前、その瞬間、全てが霧散した。
「……おや?」
いつの間に現れたのか、そこにはもう一人、羽織の人物……柱らしき男が立っていた。
しかも……あの数の童磨の血鬼術をかき消した……?
なんとも……体を喪おうと戦意を昂らせていた煉獄といい、そこの女といい、今の柱は随分と粒揃いだ。
「胡蝶、無事か」
「冨岡さん……」
「上弦の弐か……やれるか?無理なら下がっていろ」
「……なめないで下さい。この鬼は姉さんの仇……私が殺します」
「そうか」
男は言葉少なに童磨に向き直ると……その刀を突如振り回した。
胡蝶と呼ばれた女は気付いていないかもしれないが、童磨が再度粉凍りを改めて散布していたからな……冨岡と呼ばれた男はそれに気付き……切り捨てたのだ。
吸い込んでしまう程小さな氷の粒を切り捨てるとは……凄まじい技量だ。
「……気付くんだ、凄いね。
まあ、いいや。それなら直接叩くだけ。
……君も柱かな?柱を2人も倒したってご報告すれば、無惨様は褒めてくださるかなぁ……?」
それは……褒めるさ、童磨。
私は……お前の事が好きではない。
だが、そうして私の事を慕ってくれるお前を嫌いにもなれない。
……また会えると信じているぞ。
童磨は破顔して、刀を構える柱二人へと軽やかな、まるで踊るような足どりで前に出た。
ひらり、ひらりと扇が舞う。
「あはっ……よし、じゃあ改めてやろうか。
……無惨様に刃向かう愚か者ども……一人残らず凍らせて砕いてあげよう」
誤字報告ありがとうございます。
修正しました。