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縁壱の死を見届けてから……どうにもやる気が起きなかった。
ただ無為に日々を過ごしていた。
ポッカリと胸に穴が空いてしまったような……そんな感覚だ。
そもそも60年引き込もっていた時点で、縁壱とはもう会えないと覚悟していた筈なのに……。
偶然か運命か……最期のその時に出会ってしまった。
そして……縁壱は残った僅かな命の灯火を、私の為に使い、そして……死んだ。
人は死ぬ、私達鬼より遥かに早く。
珠世の夫も、その子も見送った私は、それを知っていた筈だった。
友を見送ること……その思いに応えなかったこと……それがこれ程辛いとは思わなかった。
自分で思っていたよりもずっと、友との別れは辛かった。
うたの死体を抱えた時も、縁壱の死体を抱えた時も……ただただ悲しかった。
鬼の本能すら顔を出さなかった。
そして……自分自身の浅ましさにひたすら嫌悪していた。
縁壱の死を共に見届けた黒死牟も何やら思うところがあったらしく、最近は特に鍛練に力をいれているようだった。
鍛練用の空間からさえ出なければ、好きにして良いと言っているが……かなりズタズタにされているようだ。
それとなく鳴女には監視も頼んでいるが……変なことをしなければいいが。
そんなことを考えながら、私はとある町の橋の上で、手すりに肘をついて川を眺めていた。
川の流れを見ていると嫌な事を忘れられる……などと言われているが……。
なかなかどうして、忘れること等は出来ないが、悪い気分ではない。
月光に照らされる水の流れはその時々で光り方が変わり、見ていて飽きない。
ぼう、と無為に時間を潰すのにはもってこいだ。
ポチャンッ
……お?魚が跳ねた、か?
ちらりと見えた銀色の影に、少しだけ身を乗り出した。
その時だった。
「駄目ぇー!」
「やめろぉー!」
「おぶふ」
突如として横っ腹に衝撃を受け、そのまま突き倒されたのだった。
「はぁっ!はぁっ!
何が起きたか知りませんが、思い直してください!」
息を切らせ、涙を浮かべた瞳で懇願する女。
「この馬鹿野郎!」
それと、私の横っ腹に体当たりをした、倒れた私に馬乗りになって胸ぐらを掴む、憤怒の表情を浮かべた男……。
「なん、なんだ……一体……?」
私は突然の事に混乱する頭で、そう言うだけで精一杯だった。
「ご、ごめんなさいっ!わ、私の勘違いでっ……!」
「申し訳ない!その……怪我はないですか……?」
「大丈夫だ、これでも体は丈夫なのでな」
暫くして……二人は並んで此方に頭を下げていた。
少し落ち着いてから話を聞けば、なんでも私が川に身投げをすると思ったらしい。
ずっと何をする事もなく、目立った荷物もなく、ただ川を眺めているから、と。
……まあ、確かにそう思えなくもないか。
時間を忘れすぎた。
「……本当にごめんなさい……でも、なんだかひどく疲れているように見えたので……。
その、失礼ですけど、今にも死にそうなお顔で……」
「む……」
女は顔を悲しげに歪め、私を見つめている。
その言葉に続けて、男が口を開いた。
「俺も……本当にひどい顔色をしていると思いました。
だから少し身を乗り出した瞬間、止めなきゃ、と思ってしまって……」
……しまったな、そんな酷い顔をしていたか……。
こ奴等の接近にも、ずっと見られていた事にも気付かなかった……悪意がなかったのもあったのだろうが。
ここは外だ、完全に安全という訳でもない……もう少し警戒しなければな。
「そうか……迷惑をかけた。私は、大丈夫だ。
お前達はもう帰るといい、年若い二人が長く暗い夜道を歩くものではないぞ」
私は出来る限り、二人を安心させるよう笑みを浮かべた。
もう日が落ちて長い……帰るべきだ、と。
大体私は鬼だ、仮に自殺するとして川に飛び込んだところで死にはしないんだがな。
そもそも、自分から死ぬような度胸もないがな……。
そう内心で自嘲していると、目の前の男女は互いに顔を見合わせた。
そして同時に私の顔を見ると、また互いに顔を合わせ……力強く頷いていた。
「え」
気付けば、その男女に挟まれ、両手を掴まれていた。
がしり、と掴まれた手に……そのまま二人に引っ張られて連行されていく事に……妙な既視感を感じる。
なんとなく抵抗する気も起きず、私は大人しく連れていかれるのだった。
「ははは!それは災難でしたな!」
連れていかれた先、そこそこ大きな敷地の屋敷で、ガタイの良い男に迎えられる事となった。
男は慶蔵と言い、女……恋雪の父親なのだという。
そして先程の男は狛治、慶蔵が開いている道場、素流道場の門下生なのだという。
「ですがまぁ、俺から見ても貴方は疲れているように思う。
一先ず今日は泊まって行ってください」
……なんでこう、私が関わる善良な者達は、こうやって人を拾うのだろうな?
それで痛い目を見る事もあるだろうに……。
「……お言葉に甘えよう」
だがまぁ……こういう類いの者達は拒否しても引かないからな……甘んじて受け入れるしかない。
内心でため息を吐きつつ、私は受け入れるしかなかった。
「それじゃ狛治、悪いが客間の用意をして貰ってもいいか?恋雪、お前も手伝ってやってくれ」
「俺一人で大丈夫ですよ、恋雪さんは座っててください」
「いいえ、狛治さん、私も少しは動けるようになってきましたから!こういうところから少しずつやって行きたいんです!」
「……わかりました。でも無理はしないでくださいね」
二人の仲睦まじい様子を眺めていると、つい笑みを浮かべてしまう。
初々しく、なんとも微笑ましい。
甘酸っぱい雰囲気を醸し出した二人が部屋を出ると同時に、慶蔵が私を見て、口を開いた。
「うちも家内を、狛治も父を、自殺で喪っていましてね。
少々、その方面に敏感なんです。改めて迷惑をかけたようで申し訳ない」
……どちらも肉親を自殺で……か。
それはなんとも、悪いことをしてしまったようだな。
「いや……此方も紛らわしい行いだったと思う……。
あまり、謝らないで欲しい。逆に申し訳なくなる」
「それもそうか。ではこの話はこれにて!
ところで、あー……お名前は?」
おっと……名前をまだ伝えてなかったか。
「私は鬼舞辻無惨という。しがない旅人だ」
「無惨さんか……旅先で余程色んな事を経験してきたんでしょうな。
……その旅の疲れが癒えるまで、ゆっくりしていってください!」
そう言って慶蔵は、おおらかに微笑んだ。
……これは、私は連泊させられるのか……?
困……りはしないか。
そもそも私が川を見ていたのも、なんだかやる気が起きなかったからだ。
無限城で引きこもり、黒死牟を始めとした鬼達にへりくだった態度でひれ伏され続けても、面白くはないからな。
気分転換……か。
またこうして人と関わるのは……あまり好ましいとは思えないが……。
「……少しだけ、その言葉に甘えようと思う」
人の良い彼らの発する空気と雰囲気は好ましい。
その私の言葉に、慶蔵はより笑みを深くしていたようだった。
「慶蔵さん、寝床の準備出来ました」
と、そこで狛治と恋雪の二人が戻ってきたようだ。
改めて見てもこの二人は……なんとも初々しい雰囲気だ。
うたと縁壱の二人はなんというか、若い癖に熟年夫婦のような空気だったからな……この二人の互いに思い合いつつ、踏み切れない様子は新鮮だ。
「おお、お疲れさん。ああ、この人鬼舞辻無惨さん、というらしいんだが、暫く泊める事にしようと思うが、いいか?」
「無惨さん……って言うんですね。宜しくお願いします」
「ここは慶蔵さん達の家ですから、慶蔵さんが決めた事に俺が何か言う事はありませんよ」
恋雪は恭しく頭を下げ、狛治は一歩引いた態度で小さく頭を下げた。
そんな狛治へと、慶蔵はニヤリとした笑みを浮かべた。
「おいおい、いずれ俺の跡を、道場を継ぐんだから、意見の一つや二つ言って良いんだぞ?」
ん?と笑う慶蔵に、二人は分かりやすく頬を染めた。
「なっ!いや、俺は、まだ、その!」
「まだ?ふっふっふっ……否定はしなくなってきたな狛治!
俺の義息として自覚が出てきたか?」
「もう!お父さん、あんまり狛治さんをからかわないであげて!
お父さんと違って狛治さんは繊細なんだから!」
「なに?まるで俺が図太いみたいじゃないか。その通りだが」
がははは、と笑う慶蔵はとても幸せそうに見えた。
いや、頬を染めながら苦笑する狛治も、真っ赤な頬を膨らませる恋雪も、この家族は皆幸せそうだ。
まだ会って間もないが……この三人にはいくつもの不幸の影が見て取れた。
様々な苦労があったのだと察することが出来た。
それでも彼らは今前を向き、幸せへと向かっている……。
更には見ず知らずの私のような得体の知れない相手にも、手を差し伸べて……。
ああ……やはり善良な人間の生きざまは……。
「ふふ……」
美しいな……。
私は気付けば、自然と笑みを浮かべていた。
うたと縁壱との出会いを思い起こさせる出会い。
二人とは性質のまったく違う……けれど善良な家族。
良き出会いだった……。
どれだけ時間が経とうと、それだけは確かだった。
――――――――――――――――――――――――――
リィン……
振るった刀が静かな音を奏でる。
その刀の延長線上には、幾人もの鬼殺隊の剣士が日輪刀を構えていて……。
唐突にその全ての上半身がズレた。
ドシャアッ
夥しい出血、辺りに散らばる内臓、その場にいた鬼殺隊は例外なくその一瞬で絶命していた。
誰一人として反応する事もなく、何故死んだのか気付いた者もいない。
黒死牟は、そんな鬼殺隊の死体を眺め、やがて興味を失ったように視線を切った。
「……鍛えては……いる……見たところただの平隊士……。
それでも下弦の鬼に……抵抗出来る程の実力は……あるか……。
これ程に……実力を底上げ出来るとは……現代の鬼殺隊は……優秀らしい……」
そう呟く黒死牟の視線の先、そこには三人の……先程の彼等とは格段に雰囲気の違う三人が刀を構えていた。
駆け付けてきたようで僅かに肩を上下させ、隊士達の死体を見て顔を歪ませていた。
「てめえみてえな鬼に、褒められたところでこれっぽっちも嬉しかねェんだよ!」
身体中に傷痕の残る男が、その凶悪な顔を歪めて叫んだ。
「容赦なく皆を殺しておきながら言う事じゃないよね」
小柄な、静かな雰囲気の少年が、その瞳に確かな怒りを乗せて黒死牟を睨み付ける。
「南無阿弥陀仏……身も心も鬼に支配されておるのだ……哀れな……」
そして、あの時、私の頭を日輪刀……?で粉砕した男が、黒死牟を哀れむように念仏を唱えた。
……なんというか、この言葉が適切なのかわからないが……濃いな、こ奴等。
小柄な少年は羽織を身に付けていないが……実力は間違いなくある。
この三人ともが柱である筈なのだが……。
他もそうだが、柱は特徴的だな……本当に。
童磨が相対している二人が、普通に見える。
いや、ここの少年もかなり普通に見えるが……。
「これは……異なことを……」
……っと、くだらない思考は打ち切るとしよう。
「お前達鬼殺隊は……我々鬼を……ひいては無惨様を……滅ぼさんとする集団……。
相対した以上……殺すか……殺されるか……どちらかしかない……。
私は……十二鬼月……上弦の壱……黒死牟……。
無惨様の為……お前達鬼殺隊は……一人残らず切り刻む……」
柱達は増した黒死牟の圧に、ぐ、と体に、力を込めた。
今すぐにでも飛び出せるような三人へと、黒死牟は再度口を開いた。
「だが……お前達のような……強者を失うのは……損失だ……。
見ればわかる……お前達は皆、鍛え上げられている……。
そんなお前達が……鬼となり……無惨様の力になると……誓うのならば……私のほうから……無惨様へと……」
「「「断る!」」」
そんな黒死牟の誘いを、柱の三人は即座に切って捨てた。
……まぁ、当然か。
柱に上り詰めるような輩達だ、鬼になるという誘いを受ける訳もない。
「鬼となれば悠久の時を……生きる事が出来る……鍛練を続け……強さを磨く事が出来る……時と共に技が風化することもない……。
それに……今のお前達には……理解出来ないかもしれないが……無惨様は支え甲斐のある主だ……そのような道も、ある。
今一度―――」
「ゴチャゴチャうるせェ!
俺達が柱になった時、刀に刻むこの文字!鬼になったら読めねェか!?」
傷跡だらけの男は、自身の刀の根元、そこに刻まれた『悪鬼滅殺』の文字を指差した。
「悪鬼滅殺!鬼は滅ぼし、殺し尽くす!全員、その思いで戦ってんだよ!それが、俺達の進む道だ!
くだらねぇことほざいてんじゃねぇ!」
黒死牟は少しだけ眉をひそめると、他の二人にも視線をやった。
少年も大男も、思巡する間もなく、首を横に振る。
わかってはいたが……という思いで黒死牟はそれを残念に感じているようだ。
けれど同時に……思う存分力が振るえると、楽しみにも思っている様子だった。
「そうか……しかし……もし、鬼になり考えを改めるとするなら――」
「「「ない!」」」
「……そうか。ならば」
ギロリ
黒死牟の刀、その中心部の無数の瞳が蠢いた。
黒死牟の肉から作られたこの刀は……黒死牟の力を受け止め、十全に力を発揮する事が出来る。
どうやら……本気で戦うようだ。
ギョロギョロと動く瞳を、柱達は気持ち悪そうに眺めていたが、やがて覚悟を決めたように刀を再度構えた。
それを見て、黒死牟もその不気味な刀を手に、ゆっくりと構えをとった。
強い殺意と闘志が柱達を襲う。
流石は柱というべきか、その表情が変わる事はなかったが……一筋の冷や汗が流れることまでは止められなかった。
「かかってくるが良い、鬼殺隊よ。
無惨様にかかる火の粉は、この私が全て振り払おう」
誤字報告ありがとうございます。
修正しました。