感想、評価、ここすき、毎回嬉しく思いながら確認させていただいております。
誤字報告も、助かってます……ありがとうございます。
その深夜、案内された客間にて。
空中に現れた襖ごしに、鳴女と会話をしていた。
「という訳だ、暫く……厄介になろうと思う」
「はい、わかりました。
その近くに鬼は配置されておりませんし……暫くゆっくりしてください」
「いや……だがそうだな、暫く人を食わなくて良い状態の、比較的善良な鬼を近くに配置してもいいか……?
私の管理下にいない鬼を警戒するよう伝えてくれ」
「ああ……でしたら妖仙三兄妹に申し伝えておきます」
「助かる。ではな鳴女、留守を頼む」
「お任せください」
ベンッ
ピシャッ
消えていく襖を見て思うのは、あの場に黒死牟がいなくて良かった、だった。
あやつがいれば、なんだかんだとぐだぐだとごねるのは目に見えていたからな……。
鳴女はその辺り、色々と察してくれてありがたい限りだ。
改めて、鳴女に感謝を伝えておこう。
ありがとう、鳴女。いつも助かっている。
『ぐふ……当然です、無惨様』
……なんか気持ち悪い声が漏れたようだが、気にしない事にしよう。
さて、明日はどうするか……一先ず私が日光に当たれないという事の説明をしなければならないか。
彼等に合わせるのであれば、日中の活動が必要になる……ならば笠でも買ってきて貰うか……幸い銭はある。
まぁ、朝まで暇だ……折角寝床を用意して貰ったのだ、久し振りに寝るとしよう。
私はゆっくりと、用意された布団に横になった。
微かに埃くさく、お世辞にも柔らかくもない。
けれど不思議な温もりに包まれているようだった。
私はその温もりに身を任せ、そっと目を瞑った。
そして今日の出会いを噛み締めながら、ゆっくりと眠りに落ちていった……。
その日見た夢は……もう顔も思い出せない父上と母上と……食卓を囲む夢だった。
目を覚ました時、ただ一人薄暗い部屋にいた事に、ひきつるような頬の痛みを自覚した時に、心底死にたいと思った。
「おはようございま、うわ、凄い顔。
井戸で今狛治さんが水汲みしてますので、顔を洗ってきたほうが良いと思います……」
まず、恋雪と出会った。
ぽやぽやとした笑顔が私の顔を見た瞬間固まったのを見るに、相当酷い顔をしているらしい。
……言われるがままに、井戸のほうへと向かう事にする。
「おや、無惨さん、早いですね。おはようございま、うわ、凄い顔。
丁度水を汲んでいたところですから、顔でも洗ってサッパリしてください」
次に水汲みをしていた狛治にも、顔が合うなりそう言われてしまった。
そこらにあった器に適当に水を汲んで貰い、その場にしゃがみこんだ。
パシャパシャと顔に水をかけていく。
冷たい水がとても気持ち良かった。
変に火照っていた体が鎮まっていき、気持ちが晴れていくようだった。
「おはよう狛治!おや、無惨さんもいたの、うわ、凄い顔。
随分と夢見が悪かったようですな」
……起きてきた慶蔵にもそう言われてしまった。
余程、余程酷い顔をしていたようだが……いや、三人が三人とも顔を歪めて言わなくても良くないか……?
言われた通り夢見は悪く、頭がモヤモヤしているのも確かだが……。
「はぁ……」
ちゃぽん
色々とモヤモヤとした思いを吹っ切るように、頭ごと水のはられた器に突っ込んだ。
冷えた水が私の頭を包み込む。
はぁ……気持ちが良い……。
気分がサッパリするな……。
「ぷはっ……ふぅ……む、なんだ二人とも身構えて」
冷たい水を頭から被ったおかげだろう、かなり気分が良くなった。
髪を後ろに撫でつけながら顔をあげたのだが……狛治と慶蔵が此方を見て似たような構えで身構えていた。
何事かと問い掛ければ、二人は顔を見合わせた後、同時に首を横に振っていた。
「「なんでもないです」」
仲の良いことだな。その動作の意味はよくわからないが……。
「……なんなんだ一体」
っと、そろそろ空が白んできたか……。
ここでいきなり燃える訳にもいかないな。
手拭いで濡れた髪を軽く拭いてから包んで、と。
「まぁいい、部屋に戻らせて貰う」
そう伝えて踵を返した。
「あ、はい。朝食が出来たらお呼びしますね」
背中に狛治の言葉がかけられ、それを後ろ手に手をあげて応えて、その場を後にしたのだった。
「はぁー、良かった。無惨さん、あのまま溺死しようとするんじゃないかとヒヤヒヤしたなぁ」
「ですね……そうしてもおかしくないような雰囲気でした……」
「あの人に何があったかはわからんが……ここでは心穏やかに過ごして欲しいもんだな」
「俺も……そう思います」
とまあ、私のここでの生活が幕を開けた訳だ。
ここはそこそこの敷地の広さを持っていて、庭には池まであり、錦鯉が優雅に泳いでいる。
更には生活する母屋だけではなく、道場まであるのだ。
慶蔵が開いている道場で、素流、という素手で戦い、人を守る事に重きを置いた武術なのだという。
慶蔵は勿論、狛治も一般人から見れば相当強いが……。
「人を守る為の武術とは、良い志だな」
その掲げる題目がとても素晴らしく思えた。
狛治が庭の手入れをしているのを手伝いながら、そう呟いた。
「そうですよね、慶蔵さんは本当に素晴らしくて……」
手入れの手を止めず微笑む狛治は、何故か他人事だった。
「……?いや、お前も素流なのだろう?私はお前の事も褒めたつもりだったのだが……」
そう言うと狛治は、見るからに動揺しているようだった。
想定外の言葉に、困惑していた。
「え、あ、いや……俺は、褒められるような人間じゃないんですよ」
私の視線から逃れるように、狛治は俯きながら、ポツリポツリと話し始めた。
腕をまくり、私にその入れ墨を見せながら。
「俺はかつて、人の物を盗み、喧嘩に明け暮れる、どうしようもない人間だったんです」
その腕には罪人の証だという入れ墨がされていて、それをなぞりながら狛治は顔を歪めた。
「俺の父は病気で、そうでもしないと薬が買えなかった……なんてのは言い訳にしかならない。
俺が人に迷惑をかけ続けたという事と、そんな俺を見かねて父が死を選んだという事……それが全て。
それでも変われず自棄になって喧嘩に明け暮れた……どうしようもない屑だったんですよ」
そう自嘲する狛治は、悲しげに顔を歪めた。
「そこを慶蔵さんにボコボコにされて、そのままの流れで素流を学んで身につけただけ……人を守る為に、なんて高尚な事を思って身に付けた訳じゃない。
褒められるようなものじゃ……」
「そうか?私の事を助けようとしてくれたのではなかったのか?」
そう言うと、狛治は虚をつかれたような顔で、私を見返していた。
「今回は勘違いだったが、あのような場で飛び降りようとしている人間がいたら、お前はそれを止めないのか?」
「止めます。馬鹿な事をするなと、場合によってはぶん殴るかもしれません」
間髪いれずに答えた狛治に、思わず笑みを浮かべた。
「それも人を守るための、一つの形ではないか?
本人から本人を守るという、歪な形ではあるが。
お前の身には、素流の教えがしっかり身に付いているのだと、私は思う」
狛治は、私の言葉に何か考え込んでいるようだった。
自分の中で、何かを納得しようとしているのかもしれない。
「……人を救うというのは難しい。救ったところでそれが直接、何か形になるのは稀だからな。
けれど、だからこそ、お前がしてきた事で救われたものは、何かあるんじゃないか?
自覚がないだけで、きっと……お前は人を救い、守る、立派な素流の人間と言えるのだと思う」
「……俺が」
狛治は、自分の手のひらを眺め続けていた。
彼に何が見えているのか、何を感じているのかはわからないが……。
善良な人間が過去の自身の行いに苛まれ続けているのも……哀れだ。
特にどうも狛治は、自身のその過去からか、自罰的というか、自分に自信がなく、自分を軽く見すぎているというか。
自分は罪人だから、と一歩引いて物事を見ているのだろう。
「……まあ、何も詳しい事は知らない男の戯れ言だ。
聞き流してくれても構わない。だが……少なくとも私はお前達が救おうとしてくれた事、そして現在、救おうとしている事に感謝しているぞ」
そう言って微笑んでやれば、狛治も困ったように笑みを浮かべた。
「ふふ……ズルいな、そう言われたら何も言えませんよ」
その笑顔は、自惚れて良いならば、何処か憑き物か落ちたように見えた。
「はぁっ!」
「おっ、良いぞ狛治!今日はどうした、いつにも増してはりきっているな!」
バシイッ!
ドガッ!
道場で、狛治と慶蔵が手合わせしているのを、恋雪と並んで見学をしていた。
二人の動きは力強く、鋭い。
鬼狩り達と比べても、遜色ない程だ。
素手同士がぶつかっているとは思えない音を響かせながら、二人は汗を流していた。
ニコニコと笑みを浮かべ、二人を……狛治を見つめる恋雪は、幸せそうだった。
ふむ……そういえば慶蔵の言い草だと狛治と恋雪は恋仲にはなりきれていないような、そんな言い方だったか?
まあ、狛治もあの自己肯定感の低さだ、それも已む無しか……。
しかしまあ、傍目には互いに想いあっているというのに、恋仲ですらなかったのは驚きだったな。
「ところで、狛治とは正しくはどんな関係なのだ? 直接聞くのも少々憚られていたが、少し気になってな」
そう問い掛けてみれば、恋雪は少し視線を彷徨わせた後、静かに語りだした。
「えと……正しくは狛治さんは私のお世話係……みたいな感じだったんです。
その、数年前まで私は今より体が弱くて、ほとんど寝たきりだったので……。
そこで、お父さんが狛治さんを連れてきてくれたんです。
いつも甲斐甲斐しくお世話してくれて……ずっと感謝してて……」
「それで好きになった、と」
ぽぽぽ、と恋雪の頬に紅がさした。
その初々しい反応が微笑ましい。
「そう照れる事もあるまい。
傍目に見ていてもお前達は想いあっているように思う。
……夫婦ではないのが不思議なくらいに、な」
「夫婦だなんて!無惨さんたらもう!
……でも、いずれはそうなりたいなぁ、って思うのも本音ですけど……。
ただちょっと……踏み込み切れないなぁっては、思ってますけど……」
胸の前で手を組んだ恋雪は、歯切れ悪く呟いた。
ふむ……互いに負い目があって踏み込み切れない、そんな所か。
まぁ、これならば……そうなるのも時間の問題だろうな。
互いに想いあっている自覚はありそうだ……。
ふふふ……このような男女を端から見ているのも、悪くないな。
「あ、手合わせ終わったみたい。狛治さん!お父さん!お疲れ様!」
ふと見れば二人の衝突は終わりを迎えていて、互いに距離をとって礼をしている所だった。
そこに恋雪は手拭いを手に、ぱたぱたと小走りで駆け寄っていった。
「ありがとう、恋雪さん」
恋雪が手渡す手拭いを受け取り、狛治は嬉しそうにはにかんだ。
暫し仄かに頬を染めて見つめあう二人は……本当に微笑ましかった。
――――――――――――――――――――――――――
恋の呼吸 壱ノ型!初恋のわななき!
……恋?
鳴女の眼下で、二人の羽織を纏った、柱らしき剣士が暴れていた。
相対するは十二鬼月下弦の鬼達だが……柱達にとっては取るに足らない相手でしかないようだ。
「ぐぁあああっ!」
今も下弦の弐ですら女の放つ技を受けきる事も出来ず、体を切り裂かれている。
戦っているのは下弦の壱と伍を除いた四人で、相手は柱二人、人数有利はあるが……。
「くそっ、この女ァ!」
柱の女がその特徴的な、大きくしなる日輪刀を振り切った瞬間で、下弦の陸がおどりかかるも……
蛇の呼吸 弐ノ型……挟頭の毒牙
「ぐぇええっ!」
もう一人、口元を隠した、これまた特徴的なうねった刃の日輪刀を振るう男に阻まれる。
人数有利はあれど、間違いなく鬼狩り二人のほうが上回っており、下弦の鬼四人の頚は程無く落とされてしまうだろう。
「とった!」
現に今、陸が迂闊な攻めで反撃を食らい、態勢を立て直した女の刃が、今にもその頚を落とさんと迫っていた。
ベンッ
その瞬間、足元に現れた襖に陸の姿は吸い込まれ、女の刃は空を切った。
この戦闘が始まり、何度となく起きた光景だ。
下弦の鬼達が致命傷……つまり頚を切られそうになると、襖が現れ、なんらかの形でそれを防ぐ。
絶好の機会をまたふいにされた女は、顔を歪めてその場で地団駄を踏んだ。
「あっ!また……!くぅ~っ!伊黒さん、やっぱり先に!」
「ああ……あの琵琶女を始末しなければならないな……」
柱の男女は、目の前で身構えている四人の鬼から視線を外し、その奥、少し高い所で座り込んでいる琵琶を持つ鬼……鳴女を睨み付けた。
鳴女の血鬼術にて翻弄され続けていた二人は、少し苛立っているように見える。
……鳴女相手に冷静さを欠いて勝てるとは思えないがな。
「鳴女さんは今や上弦の肆!下弦のあたし達を殺さずにやれると思わないでよね!」
「黙れ。あの女がいなければとっくの昔に頚を切られている分際で囀ずるな。
既に何度庇われている?何度死を免れた?囀ずるにしても言葉を選べ雑魚が。
身体能力も低く血鬼術も弱く刃を向ければ体が硬直するような戦いの場にも相応しくない塵芥が。
肉壁にもならぬ存在で喚く姿は滑稽を通り越して哀れだ、消えろ」
「い、言い過ぎでしょ…………」
下弦の肆があまりの暴言に涙目になって震えている。
……いや、まぁ、凄まじくネチネチとした言葉だったが、言ってる事はそう間違ってもいないからなぁ……。
私としてもなんとも言えん……。
「ひぃん……」
「やることは変わらない!鳴女さんの所には行かせない!それだけで良いんだ!」
情けない声をあげた肆を気にする事なく、下弦の参が柱の男女へと勇猛に駆け出した。
傷を癒した弐と陸も、それに続く。
鳴女はその援護を最低限に、無限城内の状況を管理していく。
それをわかって柱の男女も鳴女へと向かうが、躍りかかってくる下弦の鬼達を完全に無視する、という訳にもいかない。
柱の二人は思うようにいかない状況に歯噛みし続けていた。
「……そのまま、時間を稼いでください。
そうすれば……他の上弦が他の柱を片付けてくれる筈……。
それまで耐える、それだけを貴方達には求めます」
「「「はい!」」」
「はい……」
一人元気のない返事があったが、下弦と柱の戦いはそうして続いていった。
「……全ては、無惨様の為に」
鬼滅コソコソ話
妖仙三兄妹とは黒死牟が仕切ってるのに困惑していた三兄妹の鬼達の事。
裏設定で鎌鼬モチーフの血鬼術を使う、と決めていただけのキャラだったのに感想で鎌鼬って名前出てかなりビックリしました。
誤字報告ありがとうございます。
修正しました。