それでも私は死にたくない   作:如月SQ

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狛治/猗窩座編も、今回で終わりとなります。




 私の配下の鬼が、人を積極的に食らうようになり……更には黒死牟の提案で十二鬼月という階級を作る事が決まった。

 まず勿論黒死牟は壱だ。

 血鬼術と呼吸を使う黒死牟に敵う鬼は、私しかいない。

 黒死牟よりも長く生きている鬼は他にも多数存在し、そもそも私が初めて鬼にした鳴女もいるが……鳴女はあの時の後遺症で立つ事が儘ならない。

 血鬼術は便利で強力無比ではあるが、直接的な戦闘能力を持たない。

 どうしても決め手に欠けてしまう、という事で鳴女自身が十二鬼月に自分を組み込む事を辞退する形となった。

 これからも基本的には私が関わる際の移動手段として、身を粉にするとの事だった。

 

 ……そんな事を言いながらも、時折黒死牟と喧嘩しているのだがな。

 黒死牟が負ける事はないが、その刃が届くこともない。

 

「歩けぬ小娘一匹斬れないんですかぁ?」

 

「殺す」

 

 ……その度に、戦いの場になった場所はズタズタにされるが。

 基本的に私は喧嘩を止めることはないのだが、黒死牟の刃が資料保管庫に向かった時は流石に止めた。

 殆ど覚えてはいるものの、実際に記した物があるかないかでは天と地の差がある。

 顔を青褪めさせた黒死牟の顔面を陥没させ、鳴女の脳天に拳を叩き込んだ。

 

「仲良くしろとも、最早喧嘩するなとも言わんが、物をみだりに壊すな。

 特に資料保管庫はやめろ。取り返しがつかん物もいくらかある」

 

 二人を正座させ懇々と説けば、流石に反省したようだった。

 申し訳なさそうに俯いていたので、今後に期待という事にしよう。

 

「ごめんなさい……無惨様……」

 

「前が見えぬ……」

 

 ……黒死牟は本当に反省しているか?

 

「申し訳ありませぬ無惨様」

 

 よし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、それでだ。

 十二鬼月の選定の話だ。

 現状、強さは黒死牟以外だと順当に生きてきた年月順、と私は感じている。

 成り立てだと私の血の許容量で強さが前後するが、時間が経てばその辺りは誤差だ。

 とはいえ長い年月を生きていると相応に鬼殺隊にも発見されやすい為、そこまで長生きの鬼はあまりいなかったりするのだが……。

 また、鳴女のような特異な血鬼術を持つ鬼もあまりいない。

 なのでまぁ、順当に鞍馬や酒呑、妖仙三兄妹辺りを続いて弐に選定する予定だったのだが……。

 

「はぁっ!」

 

ドンッ!

 

 今丁度、その五人が狛治だった鬼に殴り飛ばされて、敗北していた。

 血鬼術に目覚め、素流を使う狛治だった鬼は、身体能力が高く血鬼術という超常の力を振るう鬼達を、鬼に成り立ての身で打ち破ってしまった。

 

「はぁー、参った参った……これでもそこそこ長生きしていた自信もあったんだがな……。

 見た目通りの若造にこうも易々と……黒死牟殿のように鬼殺隊だった訳でもあるまい?

 人間の可能性というのも、なかなか見くびれないもんだ」

 

「なんじゃあ鞍馬!さっきまで自信満々じゃった癖に容易く負けおってからに!

 無惨様の御前でみっともないのぉ!」

 

「黙れ酒呑。貴様など俺と比べ物にならないくらい、あっという間にやられていたではないか。

 酒の飲み過ぎで頭までやられたか?」

 

「何?お主こそ見ておらんかったか?互いに最強の一撃でぶつかりあい、それで其奴が競り勝っただけの話じゃ。

 お主のようにちまちまとただ逃げ回っていた訳じゃないわ!

 そのザマで戦った時間など誇りおって。そげな事にも気付かんとは、虚しい奴じゃのぉ!」

 

「……貴様とはやはりここで上下ハッキリつけないといけないようだな」

 

「上等じゃあ!山奥に住み、まるで仙人のように気取りおって!その鼻っ柱へし折ってやるわ!」

 

 ……私が言う前に参と肆は決まりそうだな。

 妖仙達は良いのか?

 ああ、何処かで連続した数字を貰えれば良いと。

 恐らく伍、陸、漆になるだろうから、兄妹で順番を決めておくといい。

 

 さて……それでは。

 

「無惨様……宜しくお願い致します」

 

 狛治だった鬼の瞳に、数字を刻むとしよう。

 ……瞳、か。

 なんとも奇妙な感性なのだが、目の前で黒死牟に『壱』を刻んだ時は、皆何故か羨ましそうであった。

 あまり好戦的ではない妖仙達すら、やる気になっていたからな。

 

 まぁ、望むならそれも良かろう。

 

「では、此方を向くが良い」

 

「はっ……」

 

 跪いたまま顔をあげた狛治だった鬼の瞳へと、指を近付けていく。

 そして……狛治だった鬼が自身で名乗り始めた名を、呼んだ。

 

「励むと良い……十二鬼月の弐、猗窩座」

 

「はい!」

 

 猗窩座……と。

 

 ……知ってか知らずか……なんと惨い名前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無限列車、下弦の壱が引き起こした、人を大量に食らう為の催し……。

 無惨様はあまり良い顔をしていなかったが、下弦の伍、累が討伐された直後という事もあり、強さを求めるその姿勢に免じて許可をなされた。

 ただ、鬼殺隊の柱級の人材が派遣されたという情報もあり、後詰めとして近くにいた俺に援護の要請があった。

 

 また、上弦の壱、黒死牟からはとある剣士を余裕があれば殺す事を求められていた。

 

『花札のような……日の丸の描かれた耳飾り……かつて、それをつけた剣士は……無惨様の命に手をかけていた……。

 間一髪だった……私でも何も出来なかった……その剣士がアレと同じだとは思わないが……憂いは断つに限る……』

 

 その言葉に納得し、俺はその剣士を殺そうと思った。

 実際に俺が現場に辿り着いた時、列車は横転し、下弦の壱、厭夢の気配は消えていた。

 同胞の死を悲しみつつも、練り上げられた闘気を持つ人間の直ぐ側に倒れていた、耳飾りの剣士を見つけた。

 

 列車の横転に対応出来なかったのか、それとも厭夢との戦闘で傷ついたのか、既にボロボロな姿は、正に俺が忌み嫌って仕方ない弱者。

 殺す価値もないそんな存在で、無惨様の命に差し迫るような、そんな存在にはとても見えなかった。

 しかし、黒死牟の言う通り、憂いは断つべきだ。

 そう思い、まずはそいつを始末してしまおうと思ったのだが……それはそこにいた柱、杏寿郎に阻まれてしまった。

 

 練り上げられた闘気、鍛え上げられた肉体、そして弱者を体を張って守る姿。

 気配を探ってみれば、なんとこのような大規模な列車事故だというのに、死者がいない。

 傷を負っている者こそいるが、命に別状はないだろう。

 恐らく、目の前の男が守りきったのだと理解した時、俺が抱いたのは純粋な尊敬と称賛そして身を焦がさんばかりの嫉妬と憎悪だった。

 

 素晴らしい戦いだった、杏寿郎は強かった。

 恐らく俺が鬼じゃなければ競り負けていただろう。

 それ程に杏寿郎は強かった。

 

 黒死牟もそうだが、呼吸の使える剣士は人間の脆弱な体でこれだけ強いのだ、鬼となればもっと強くなれる。

 是非とも鬼となり、共に高めあいたかった。

 ……とはいえ今まで一度も勧誘に成功する事はなかったが。

 当然今回も空振りに終わったが……それならそれで鬼殺隊の戦力を削るだけだと、俺は頭を切り替えて殺す為に杏寿郎との戦いを続けた。

 

 しかし、残念ながら日の出まで持ちこたえられてしまい、俺は逃走を余儀無くされてしまった。

 恥も外聞なく逃げた俺の背中にぶつけられた炭治郎の言葉は、酷く俺を苛立たせた。

 

『逃げるな卑怯者!』

 

 俺は、あいつを必ず殺してやると、そう心に誓った。

 

『猗窩座……無事で良かった』

 

 下弦の壱の援護も、柱の討伐も、耳飾りの剣士の抹殺も、何一つ出来なかった俺に対して、無惨様はただそう言って微笑んで下さっていた。

 そんな心優しい主に、俺は改めて強くなろうと決意出来た。

 ただ、その視線が、俺ではない何かを見ているような気がして、それだけはいつも不服だった。

 

 そして……十二鬼月は、無惨様配下の最強の鬼上弦は、気付けばその数を半数としていた。

 上弦の陸、堕姫と妓夫太郎。

 上弦の伍、玉壺。

 上弦の肆、半天狗。

 皆、やられてしまった。

 

 正直性格や趣味嗜好、人食いの姿勢など、あまり俺にとって好ましい奴等ではなかったが、それでも仲間だった。

 だからこそ、ここ無限城では、奴等の分も、奴等の無念も晴らす為に負ける訳にはいかなかった。

 無惨様を、大事なものを今度こそ守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、だが。

 そうか、黒死牟の懸念は尤もだった。

 

ヒノカミ神楽

 

 耳飾りの剣士は、炭治郎は。

 

斜陽転身

 

 無惨様の頚に届き得る存在だった。

 届き得る存在になってしまった。

 

 俺は、俺の頚を落としたその一撃を、ただただ感心してしまった。

 ……素晴らしい一撃だった。

 俺の一撃を完璧に読み、ギリギリで回転、俺が攻撃を出し切る前に斬り込む……。

 完敗だった、数百年鍛えた俺の武術の粋を、正々堂々真正面から打ち破られた。

 その瞳の中には怒りも憎しみもなく、殺気も闘気もなかった。

 ただ……俺に対する哀れみが、隠しきれない悲しみの刃が俺を打ち破った。

 

 結果的な話だが、復帰し、顔面を血に染めた炭治郎から闘気が感じられなくなったその瞬間、俺は逃げるべきだった。

 いや、今更言っても仕方ない事だ。

 頚を斬られたのだ、俺は……死ぬ……。

 

 ……いや。

 まだだ。

 まだ、まだだ!

 俺は負けた、だがまだ死にきってはいない!

 俺は、鬼は、十二鬼月は無惨様を守り抜く存在だ。

 頚を斬られたからなんだ、体だけでも動け!

 もしくは今この瞬間、その弱点を克服しろ!

 猗窩座、猗窩座猗窩座猗窩座猗窩座!

 役立たずのまま死んでたまるか、今度こそ守るんだろう!

 

『狛……さ……』

 

 俺は、今このまま死んだら……。

 

『狛治……さん……』

 

 誰にも、顔向け出来ない……!

 

『狛治さん!』

 

 ……なんだ、誰だこの女は。

 俺にすがり付く、紅梅色の着物の女は。

 

『狛治さん、もうやめて……』

 

 何故この女を見ると胸がざわつく?

 涙を流して俺を止めようとするこの女は、誰なんだ?

 

『お願い、これ以上……無惨さんを苦しめないであげて……』

 

 ポロポロと涙を流す女は、懇願するように言って……。

 無惨様……を、苦しめない……で?

 何を言ってる?

 俺は、無惨様を守る為に……。

 

『守るにも色々形があるだろう』

 

 気付けばもう一人、白い胴着の男がいた。

 その男を見ても胸が酷くざわついた。

 

『お前のそれじゃ無惨さんの体は守れる……だが心はどうだ?

 お前、無惨さんが人を食らってるお前を見て、喜んでると思ってるのか?』

 

 ……確かに、無惨様は、俺が人を食らう事をあまり良く思ってはいないようだったが……。

 それは……あの方が優しいから、その慈悲を人間にすら分け与えてしまっているからだ。

 あの方は……人を殺した俺に対しても、仕方ないと、そう言ってくれて……。

 

 あの、全てを諦めたような、悲しげな瞳で。

 

 あの人は……優しすぎるから……。

 無惨()()は……優しすぎる……なんで、俺なんかにあそこまで……。

 不意に、頭にずっとかかっていた靄が晴れた気がした。

 

『狛治さん』

 

『狛治』

 

 ああ、恋雪さん、慶蔵さん……。

 ずっと……待っててくれたのか。

 俺の、猗窩座の、ひたすらに強さを渇望していた心の中の鬼が、消えていく思いだった。

 

 俺は結局、あらゆる罪から逃げ出した卑怯者だった。

 全ての罪を無惨さんに押し付けて、強さを求める修羅と化して全てを忘れて、ずっと無惨さんを苦しめていたどうしようもない屑だった。

 

 俺は目の前の、死んでも守りたかった二人を見つめた。

 猗窩座であった時は完全に忘れていた二人の姿。

 今は完全に思い出せる。

 涙を流しながらも、嬉しそうに笑う恋雪さん。

 力強く頷いて、おおらかに笑う慶蔵さん。

 今すぐ、二人のいるところへと向かいたい。

 地獄に落ちて、直ぐにでもこの罪を償いたい……。

 

「……でも、少しだけ待っててください」

 

 二人は、わかっているとでも言うように微笑んだ。

 

『……頑張って、狛治さん。私、ずっと待ってます』

 

『師匠ってのはな、何があっても弟子は見捨てねえ。

 最期まで、見届けるさ。気張ってこい、狛治』

 

「……はい!」

 

 頭のモヤが全て晴れた、清々しい気分だった。

 目を開けた時……目を見開いた炭治郎が着地した瞬間で、俺は現実に戻ってきた事に気付いた。

 

『猗窩座!大丈夫か!?頚を斬られたのではなかったか!?』

 

 辺りを見回し、先程まで相対していた四人が此方を見て目を見開き固まっているのを見ていると、そんな声が頭に響いた。

 

 無惨()()……。

 

『どうした猗窩座、逃げるならば鳴女に……』

 

 今まで、すみません。

 

『……何を』

 

 でも、もう大丈夫です。

 俺は、俺の罪を受け入れます。

 二人が……あっちで待ってるから。

 

『……お前……記憶が…………そう、か。わかった。

 ()()……今までご苦労だったな。ゆっくり、休め』

 

 はい……。

 でも、最後に……無惨さん。

 貴方の友人として、一仕事させて貰います。

 

『…………何をするつもりだ、狛治。お前の体はもう』

 

 大丈夫。

 俺は出来る事をやるだけです。

 今まで……本当にありがとうございました。

 貴方は、最高の友人だ。

 

『……く…………ああ……私のほうこそだ、狛治。

 あの温かい日々は、私にとってかけがえのないものだった。

 ありがとう狛治、あの時私を救ってくれて……』

 

 ……貴方は、本当に……ズルい人だ。

 そんなの全て、こっちの台詞ですよ……。

 

 そのやりとりの後、無惨さんとの繋がりがぶつりと切れた。

 それはきっと、俺の体がもう限界だと指し示していたのだろう。

 ちら、と見た体には猗窩座だった時には全身にあった刺青が消えていた。

 

「髪が……黒く……?」

 

 炭治郎の呟いた言葉から、髪も黒くなっている事がわかった。

 体に満ちていた力も、ほとんど感じない。

 血鬼術も使えない、そんな感覚もあった。

 

 だが、それでもやるべき事がある。

 

「姿が変わってもやるこたぁ変わんねぇ!その頚もう一度ちょんぎってやらぁ!」

 

「もうこれ以上アンタの音は聞きたくない!」

 

 伊之助と善逸……二人が飛び込んでくる。

 その伊之助の突進を……その手元を包み込むように受け止め、するりと受け流した。

 

「うぉっ!?」

 

 そして善逸の神速の抜刀術を、振りに合わせて一歩踏み込み、肩からぶつかって弾き飛ばした。

 

「ぐあっ!?」

 

ベベンッ

 

 吹き飛んだ二人は、体勢を整える間もなく、突然開いた襖へと飛び込んでいった。

 襖は二人が通った瞬間、ピシャリと閉まった。

 ……鳴女さんには最後まで助けられてばかりだな。

 

「なっ、伊之助!善逸!」

 

 炭治郎が焦りを滲ませて俺に対して構えるも……俺は両手を下ろした。

 怪訝な表情の炭治郎へと、俺は告げる。

 

「炭治郎、お前は行くんだ」

 

「何を……」

 

「俺達のような悪鬼を哀れみ、悲しみの刃を振るえるお前のような男がいてくれて良かった。

 お前は、先に進むべきだ。

 だが、杏寿郎、お前は通さない」

 

 炭治郎のほうを全く見ることなく、全神経を杏寿郎へと集中させた。

 俺がするべきは、これだ。

 炭治郎だけを無惨さんのところへと通す。

 そうすればきっと……この優しい剣士ならきっと……。

 

「ありがとう、炭治郎、お前のお陰で悪鬼猗窩座は止まる事が出来た。

 それでも……無惨さんを守る鬼として、最期の役目を果たさせて貰う」

 

 だが、杏寿郎はダメだ。

 この赫い刀は危険だ。

 それを操る杏寿郎がいては、いけない。

 そんな直感がしたんだ。

 

「……成る程……いいだろう!先に行くんだ竈門!」

 

「煉獄さん!?」

 

 俺が構えると、杏寿郎も合わせて刀を構えた。

 先程の戦闘で、炭治郎が来る直前に胸に良い一撃を入れられた杏寿郎は、血を吐いて息も絶え絶えだ。

 それでもしっかりと呼吸を続け、闘志は微塵も鈍っていない。

 

「……だが、最後に一つだけ聞かせてくれ。

 悪鬼猗窩座を止めてくれた、君の名はなんという?」

 

「……!」

 

 そんな不意打ちのような言葉に、俺は思わず目を見開き、構えを解いてしまった。

 隙だらけな姿を晒してしまったものの、それでも杏寿郎は、ただ静かに俺の返答を待っている。

 そんな姿にやや呆れを滲ませながら……俺は、かつていつもやっていた所作で、真っ直ぐな剣士へと、礼をした。

 

「……素流、狛治」

 

「聞いたな、竈門!その名を胸に刻み、お前は先に行け!

 俺は、鬼殺隊炎柱!煉獄杏寿郎!狛治殿!正々堂々、勝負!」

 

「っ……!わかりました!ありがとうございました!」

 

 炭治郎のその礼は、誰に対する、何に対する礼だったのだろうか。

 それはきっと、俺が思い至るような事柄の全てと、俺が思い付かないようなあらゆる事象に対しての感謝なのだろうな。

 炭治郎は背中を向けて無防備に駆け出し、俺と杏寿郎は静かに構えた。

 不意に見えた杏寿郎の顔は笑顔で……俺も釣られて笑みを浮かべた。

 ああ、わかる、そうだな。

 今、俺達がぶつかり合えば、きっと……。

 

 互いに、決着の形がぶつかる前からわかっていた。

 だが、止まる選択肢はない。

 

炎の呼吸

 

 何も守れなかった俺だが。

 

奥義・玖ノ型

 

 無惨さんの最期を、無惨さんが迎えようとしている最期を。

 

煉獄!

 

 守りきろう。

 それが、俺が最期に出来る、無惨さんへの……恩返しだ。

 

ズバンッ!

 

ドシュッ!

 

 頚に通る熱い刃と、肉を拳が貫通する感触。

 それを最後に、俺の意識は闇に溶けていく。

 

 ……少しは、ほんの少しだけは、誇れる最期になっただろうか?

 役立たずの狛犬にしては、上等と呼べるだろうか?

 あの時の、優しく、温かい、四人で囲んだ食卓を最期に思い浮かべ、俺の意識はプツリと途切れた。




鬼滅コソコソ話
鞍馬と酒呑はお伽噺になった本人ではないです。

誤字報告ありがとうございます。
修正しました。
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