それでも私は死にたくない   作:如月SQ

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「無惨殿は神を信じておられないのですか?」

 

「神か……半々だな。実は私は大悪党でな、こんな私に罰を下さないような神仏はいないと思っているよ」

 

「貴方が大悪党……?変な事を言いますね。

 それならば、ここに集まっている人間は皆極悪人となってしまいます」

 

「悪党だと言う者に対しての反応がそれで良いのか……?

 ……だからまぁ、あまり神を信じてはいないんだが……ただ、時折神仏に愛されたとしか表現出来ないような、そんな人間が産まれる事もある……君のように」

 

「私は所詮、髪と瞳が物珍しいだけです」

 

「まぁ……そうかもしれないが、その容姿に神秘性を感じるのもわからなくはないさ。

 それに、その歳で君程聡明な子供もいないだろう。

 個人的には……もっと子供らしく振る舞っても良いとは思うがな」

 

「無惨殿は変わっていますね。私に神の声を聞けと仰らないのですか?」

 

「ふむ……もし神仏とやらがいて、君が本当に神仏の声が聞こえているのならば、君に教祖などやらせていないだろう。

 そして、君のような子供が教祖として祭り上げられているのを良しとするような神仏ならば、そんな外道の言葉など聞きたくもない。此方から願い下げだ」

 

「……本当に変わっていますね」

 

 この子は、ただ空っぽなだけだ。

 本来ならば家族にただ愛されて生きる時間を、大人に聞こえもしない声を求められて歪に成長している……。

 それがただの子供であったならば、何処かで破綻しただろうに幸か不幸か、この子は歳不相応に賢く聡明すぎた……。

 更に、感情が未発達なのに哀れみだけは覚えてしまった。

 自分が求められている事を理解して、その通りに振る舞えてしまった。

 

 ……本来の目的、神仏と話すという事は不可能だとわかったが……知ってしまったからにはこの子を見捨てたいとは思わない。

 このままこの子をここで同じように過ごさせれば、歪みきった人間になるだろう。

 空っぽなまま、人として何処か欠落したような……それこそある種の現人神のような存在に。

 この子の両親とも話したが、明らかに期待出来るような人間ではなかった。

 信者の女に手を出している父親に、入ってくる金に目が眩んでいる母親……。

 この子が緩やかに人に絶望していくのも当然だろう。

 

 だが幸い、まだやり直せる。

 空っぽならば……そこに様々な体験を詰め込んでやれば良い。

 それに、完全に空っぽという訳でもない。

 

「それでは……私はそろそろお暇しよう」

 

「……はい」

 

「また……話をしにきてもいいだろうか?」

 

「……!はい!お待ちしております、無惨殿」

 

 僅かに、ほんの僅かばかりだが、確かに嬉しそうに煌めいた瞳に、私はこの子の心を感じた。

 この子の奥底には、ちゃんと感情が眠っているのだ。

 ……それを引き出し、この子には子供らしくなって貰おう。

 

 余計なお世話どころか、万世極楽教からしたら迷惑以外の何物でもないだろう。

 金を生み出す人形にそんなもの()は必要ないだろうからな。

 だが、たかが宗教がぶっ壊れるのと、子供が健やかに成長して生きていけるようになる事……そんなものは比べるまでもない。

 私なら救えると自惚れている訳ではないが、私が救わなければ潰れてしまうのは目に見えている。

 それならまぁ……大悪党らしく、子供を親の望まぬ道に引き摺り込んでやろう。

 

 まぁ……両親が変われば一番早いんだが……。

 

「これはこれは月岡様!お帰りですか。教祖様とのお話はどうでしたか?」

 

「貴方様には沢山のお布施をして頂きましたからね、神様も喜んでおられたでしょう!」

 

 欲に目が眩んだこの有り様では……望み薄だろう。

 

「ええ。有意義な時間でした。

 是非ともまた二人きりでお話する時間を設けて貰いたいものです。

 あ、これは今日の時間を設けて頂いた、心ばかりの礼で……」

 

「まあまあまあ、そんなの良いですのに……ですが、神様へのお礼を断るのも失礼ですから、有り難く……」

 

「またいつでもいらっしゃって下さい!お待ちしております」

 

「ええ、ではまた」

 

 微笑みを浮かべて恭しく礼をする。

 そしてそのまま踵を返して……目を細めた。

 救いを求めて集まる信者と金に……完全に腐らされている。

 金を払う度にニヤニヤと厭らしく笑う二人に、心底呆れ果てる。

 あの子の奥底に眠る純朴さから察するに、彼等も半天狗のような生来の屑ではなかったのだろうが……。

 ……あの家族全てを救うことは出来ないだろう。

 ああまで醜い姿を見せられると、苦労して救おうという気にはならない。

 

 私は建物から出て、一度だけ背後を振り返った。

 ここで、幾人もの人間が破滅していった。

 そして、これからも破滅していくのだろう。

 何かに救いを求めて……救われたような気になって、言われるがままにその身も心も捧げていく……。

 ……宗教とは、こうも人を腐らせるのだな。

 少し疲労感を覚えながら、深く息を吐いて……私は改めてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実は私は旅人だったんだ。色んな所を旅したものだ」

 

「どんな場所を旅したのですか?」

 

「そうだな……緑豊かな山、荘厳な滝、穏やかな川、静かな草原、美しい花、月夜に照らされた海……。

 町に村に様々な人の営み……色んなものを見てきたよ。

 どれも……素晴らしかった」

 

「人の営みが……ですか?」

 

「ああ……君は人の醜い、哀れな部分しか見ていないから実感が湧かないかもしれないが、人はそれだけの存在ではないよ。

 時に目が眩む程の輝きを放つ、そんな美しさを人は持っているんだ。

 ……全然信用していない目だな。まぁ、君の今までを思えば仕方の無いことか」

 

「……むぅ」

 

「ははは、まぁ今は信じられなくて良い。

 ただ、君の人生はまだ始まったばかり……全てに見切りをつけるのは早い……そうは思わないかな?」

 

「でも、僕が会った人達は……」

 

「そこは君より長生きしている私の顔を立ててみないか?

 結論を出すには君はまだ人を知らなすぎる。

 君が会った人間なんて、この世に生きる人間のほんの一部なんだよ」

 

「……無惨殿がそこまで言うなら……。

 結論は……特別に先伸ばしにしても良いですよ」

 

「ふふ、ありがとう。君は良い子だな」

 

 そう言って頭を撫でてあげれば、きょとんとした顔になった。

 パチパチと何度も瞬きを繰り返して、私を見返してくる。

 そっと手を離せば、撫でられた部分を自分で押さえ……にへらと顔を綻ばせた。

 

「てへへ……」

 

 そこに……年相応の幼さを感じて、私は思わずその頭を撫でくりまわすのだった。

 

「よーしよしよしよし。良い子だなぁ、よしよしよしよし」

 

「あぅあぅあぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私は実は人ではなくてね」

 

「あ、はい、そうですね」

 

「そうですね……?」

 

 双六でボコボコにされた後、不意にそう口にしてみると、なんとも予想外の反応をされてしまった。

 賢い子だからもしかして薄々……?とは思っていたが、そんな反応されるとは……。

 ……いや、まあ良い。話が早い……という事にしておこう。

 

「こほん……それでだな、私には実は拠点にしている居城があってな。そこに君を招待したい」

 

 咳払いし、気を取り直して言葉を続ける。

 

「む……ですが、僕がここから出る事を二人が許可するとは……」

 

「そこは大丈夫だ」

 

パンッ

 

 少し格好つけて手を鳴らす。

 同時に私の意図を酌んだ鳴女が、目の前に襖を作り出した。

 私がこれをする必要はないのだが……目を丸くするこの子の顔を見れば、掴みとしては悪くないようだ。

 

「ほらこの通り……ここを潜れば我が居城だ」

 

スパンッ

 

 手も触れずに独りでに開いた襖を示しながら、手を差し伸べた。

 彼の視線が私の顔と襖を何度も行き来する。

 そこには恐らく初めて見ただろう超常への驚きと、それを成した私への畏れ……そしてそれ以上の期待に満ち溢れていた。

 

「……はい、無惨殿を信じます」

 

 差し伸べた手に重ねられた、少しだけ震えた小さな手を掴み、その体を引っ張り起こした。

 

「さあ、案内しよう……我が居城、無限城へ」

 

 無駄に裾の長い、見た目だけ豪華な衣服を踏まぬよう、その小さな体を抱き上げて、私に身を任せる幼い体を優しく抱き締めた。

 口を引き結び、襖の向こうの景色に釘付けになっているのを微笑ましく眺めながら、私は足を進める。

 一歩進む毎に虹色の瞳が輝きを増していって、非常に美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳴女殿の瞳は綺麗ですね……見ていると吸い込まれそうです」

 

「ふふ……そうですか?ありがとうございます」

 

 鳴女の腕の中で、その瞳をじっと見詰めるその微笑ましい光景に、私は顔を綻ばせた。

 鳴女の大きな一つ目は、彼女にとってあまり良くない思いがある……。

 けれどそれを晒しても、純粋にその瞳を褒められ嬉しそうな鳴女に、私も嬉しくなってしまう。

 

 いつも抱えている琵琶を置いて、優しい手つきで頭を撫でるその姿には、母性すら感じる。

 まぁ、鳴女は子供の鬼に対しても面倒見が良く、かなり慕われているからな……。

 こうなるのも宜なるかな。

 微笑んでその手に頭を擦り付ける幼い姿に、この子も甘えられるようになって良かったと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼さんこちら」

 

パンパン

 

「手の鳴るほうへ」

 

パンパン

 

「何処だ何処だー?」

 

パンパン

 

「兄さんそっちじゃないよー」

 

パンパン

 

 妖仙三兄妹に交じり、目隠し鬼をさせているのだが……うん、楽しそうだ。

 無邪気に手を叩き、長兄から逃げている。

 妖仙達は皆、素早い動きと高い感知能力を持っている為、目隠しなど本来意味をなさないのだが……。

 

「このへんかー?」

 

「あははは!惜しい惜しい!もうちょっと右手側です!」

 

 妹にあと少しで触れそう、といった様子を見せる長兄に、楽しそうに教えている姿があった。

 ……こいつらを連れてきて良かった。

 ああまで楽しそうな姿は、初めてみる。

 

「……成る程、ああやって目に頼らない感知能力を鍛えるのか。

 血鬼術をあえて使わず、耳だけで相手の位置を探る……良い鍛練になりそうだ」

 

「……いや、あれは子供の遊びだぞ、鍛練では……」

 

「ふむ……確かに……良い鍛練に……なりそうだ……。

 次の鍛練では……交互に目隠しをして……試してみるか……」

 

「それは良い案だ、黒死牟殿。是非とも頼みたい」

 

「目隠しを……用意しておかねば……ならないな……」

 

 六つ目用のか?

 

「…………もう、好きにしてくれ」

 

 鍛練バカの二人には呆れ果てる……。

 肩を竦めてその二人に意識を向けるのを止めて、目隠し鬼をしている四人を眺めた。

 ……と、丁度長兄に捕まってしまったようだな。

 

「捕まえたー!」

 

「捕まったー!あははは!」

 

 嬉しそうに、心から笑う姿に、年相応のその表情に、私は安堵の息をついた。

 本当に良く感情を表に出すようになった。

 あの子は賢いから、本当は思っていなくても装う事は出来てしまう。

 私が求める子供らしさ、もあの子は直ぐに察して演じる事が出来てしまっていた。

 だが今は……最近は、あのように心そのままを表に出してくれるようになったと思う。

 ……本当に、良かった。

 

 後はこのままこの関係を続けて……この子が独り立ち出来るくらいまで見守っていけば良い。

 あの宗教で祭り上げられ続けていても、この子にはなんの得もない。

 だが、今何も考えなしに飛び出しても、連れ戻されるか、野垂れ死ぬのが関の山。

 私が保護し続けるにも限度がある。

 人間の世に返せなくなる、という危険性もある。

 故にこのまま……いずれ成長したこの子が自分であれらを捨て去る判断をするまで……それとなく、支えていこう。

 

 鳴女も、妖仙三兄妹も、あの子への印象は悪くない。

 きっと……良くしてくれるだろう。

 

「次は僕が鬼かぁ。何処ー?」

 

 目隠しをしてふらふらと彷徨うあの子の姿に、自然と笑みが溢れる。

 

 あの子の未来は明るい……そう思った。

 ……この時は。

 

 ……半天狗と玉壺?

 あの二人をこの場に連れてくる訳がないだろう、教育に悪い。

 積怒と可楽に頼んで、無限城内で拘束監禁中だ。

 絶対に顔を合わせさせんぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「強くなったな、炭治郎」

 

「私は、お前の存在を知ってから、ずっとお前を見てきた」

 

「お前が順調に強くなって、我が配下の鬼達をその慈悲の刃で下すのを、ずっと」

 

「少し前まで何も知らぬただの子供だったお前が……よくぞ猗窩座を下すまで強くなったものだ」

 

「だが……それで終わりか?炭治郎」

 

 私が天へと突き出した槍の穂先。

 そこに腹部を貫かれた炭治郎が、掲げられていた。

 全身がボロボロな姿で、瞳は閉じられている。

 その四肢に力はなく、ぶらりと揺れ……カランと音をたてて日輪刀が床に落ちた。

 

「……縁壱の痣、縁壱の耳飾り、縁壱の技、縁壱の呼吸、縁壱の見ている世界……そこまで到達しても……お前はまだまだ縁壱の足元にも及ばなかった」

 

 意識のないその体を、ゆっくりと降ろし、その身を抱き抱えた。

 ……まだ幼さも感じられる、小さな体だった。

 こんな体で戦って来たのだな……。

 まだまだ庇護されるべき少年が……。

 改めて……私の罪深さを感じてしまう。

 

「お前の家族の事は……すまなかったな」

 

「あんな事になるとは、思わなかったんだ」

 

「禰豆子も、放っておく形になってしまった……本当にすまない」

 

「そして……太陽を()()()()()()()()禰豆子を……私は放置しておく事は出来ない」

 

「すまない炭治郎、お前の覚悟の全てを、否定してしまう私を、許してくれ」

 

 鼓動の弱まっていく炭治郎の額を撫で、その体をそっと横たえた。

 全てが終わった後で、家族と同じ場所へと埋葬しよう。

 そのくらいは……せめて。

 

 炭治郎に背を向け、鳴女へと言葉を伝える。

 

「鳴女……禰豆子の位置は……わかっているか」

 

「柱級の人材が複数……か」

 

「前線を退いた者達が何人いようと問題はない」

 

「開け。禰豆子を確保し……この戦いを終わらせる」

 

「…………どうした?鳴女?」

 

 鳴女……?

 襖が、現れない。

 鳴女との繋がりは……そのままだが、なんだ……?

 下弦が……柱を打ち倒している?

 そんなバカな、奴等に柱を倒せる力量は……。

 いや、それ以前に鳴女の声が……よく聞こえない。

 

 ……何が起こっている?

 

……カチャリ

 

 ふと、背後から音が聞こえた。

 思わず振り向けば……腹部を押さえた炭治郎が、刀を構えて此方を見据えていた。

 凪いだ、瞳で。

 

「……まだ、立つのか。炭治郎」

 

パシャン

 

 手の中の槍が、音をたてて血へと還る。

 ……疾風迅雷も……鞍馬も終わりか。

 ならば、次はこれか。

 懐から鉄扇を取り出し、血を凍てつかせて……。

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!

 

 そこで、突然の揺れが私達を襲った。

 そして唐突に私に伝わる……悲痛な、最期の言葉。

 

『無惨様の邪魔になるなら……自ら死にます。

 ごめんなさい……今まで……ありがとう』

 

「鳴女……!」

 

 鳴女が……一体何が……いや、だが、喪失感に呆けるより前に……!

 

パンッ

 

 鉄扇を持ちながら、手を叩く。

 これで無限城の支配権が、崩壊する前に私へと移ったが……。

 

 ……やはり、衝撃で目覚めてしまった……か。

 対処は……童磨に任せるしかないな。

 

 一先ず一段落……だが。

 

「フゥ……フゥ……」

 

 目を覚ました炭治郎の対処もしなくては……な。

 既に傷付いていない場所がないくらいにボロボロだが……戦意は衰えず……いや、増しているか。

 

「仕切り直しだ、炭治郎。行くぞ」

 

パンッ!

 

 両手に鉄扇を持ち、打ち鳴らす。

 ガコンと音がして、私達の立つ床がせり上がっていく。

 此方を見る炭治郎には、狼狽は見られない。

 随分と、落ち着いているな。

 ……何か、見たのだろうか。

 

「……俺は、まだ、折れない」

 

 自分に言い聞かせるように呟いた炭治郎が、床を蹴る。

 それに呼応して、私も扇を振るった。




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