それでも私は死にたくない   作:如月SQ

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 それは、特になんてことのない日の事だった。

 青い彼岸花は未だに見つからず、日々少しずつ研究を進めていた、そんな日。

 妖仙三兄妹が……鬼殺隊に見つかり、そして……やられてしまった。

 その報せが、三人がほぼ同時に頚を切られた事が伝わった時、あまりに突然の事に暫し唖然としてしまった。

 完全な不意打ち……待ち伏せ……しかし、感知能力に優れた妖仙達なら気付けた筈のものだった。

 だがそれは、長兄の視界が完全に途切れる直前に見えた景色が答えを表していた。

 鬼殺隊の人間達の困惑の表情と……それに背後から襲い掛かる見覚えのない鬼の姿。

 私の管理下にない、野良の鬼の姿だった。

 そこで景色は消え、三人のごめんなさいという言葉だけが私に届いて……繋がりはプツリと途切れた。

 

「……やってくれたな」

 

 沸々と怒りが込み上げてくる。

 状況を察するに……そもそも鬼殺隊が追っていたのは野良の鬼だったのだろう。

 妖仙達は暫く人を食べていなかったし、そもそも配下の中でも積極的に人を食う鬼ではない。

 故に突然前情報もなく鬼殺隊にやられた事に驚いていたのだが……。

 

 恐らくは、あの鬼が仕組んだ事。

 どんな血鬼術かはわからないが、鬼殺隊が困惑し、妖仙達の感知を潜り抜けた事から、認識を誤魔化し、幻でも見せる術を持っているのだろう。

 それでわざわざ、自分を追っている鬼殺隊を、妖仙達へと押し付けて……。

 妖仙達が倒れたのを見計らい、鬼殺隊を不意打ち、か。

 

「……卑怯者め」

 

ギリィ

 

 悔しさか怒りか、噛み締めた奥歯から音が鳴る。

 妖仙達の死を悲しむ間はない。

 あのような鬼は、見過ごす訳にはいかない。

 放っておけば、この先もこの世に害を為す。

 ……いつかの私の業が、回り回って形になったものなのだから。

 始末は……私がつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖仙達の最期の記憶。

 その場所に行けば、まだその鬼は鬼殺隊の死体を食らっているところだった。

 ボリボリと音をたて、口元を真っ赤に染めた悪鬼は、死体に夢中のようだった。

 その姿に、怒りが高まっていく。

 私の中の血が沸き立ち……私の中の妖仙達の血が、私に力を与えてくれる。

 形にするは、彼等の血鬼術。

 私の体を風が纏い、手の中に風が渦巻いた。

 そこで漸く、私の事を認識したらしい鬼へと、私は足を踏み出し……。

 

血鬼術 鎌鼬・斬

 

ズバッ!

 

 その鬼の横を通り過ぎ、その四肢を切り裂いた。

 ……浅いな、四肢を切り落とす事は出来なかったようだ。

 

「ギャッ!」

 

 突然噴き出した血に驚きつつも、その鬼は即座に下手人である私に気付いたのだろう、ギロリと睨み付けてきた。

 同時に、私の見る景色が歪み出す。

 

 ……成る程、やはり認知を歪める能力持ちか。

 今目の前で私を睨み付けている鬼も、恐らく既に実体はない。

 辺りを探っても気配は感じないが……。

 

鎌鼬・衝

 

 ならば、こうしよう。

 手の中に集った風を地面へと叩きつけ、表面を滑るように風が迸った。

 

「がっ!?」

 

ドサッ

 

 すると案の定、私の背後でそんな悲鳴が聞こえ、何かが倒れるような音がした。

 姿は見えないが……この辺りにいるようだな。

 ならばその辺り一帯を斬り刻む。

 

鎌鼬・斬

 

 傍目には何もない地面へと、風の刃をいくつも放った。

 そして……地面へと切り傷を刻んでいく筈の刃のうちのいくつかが、何もない虚空を切り裂いた。

 

ズバズバズバッ!

 

「ぎぃいあぁああああ!」

 

 あがる悲鳴と噴き出す血に、朧気にその姿が露になっていく。

 また逃げられても困る……ズタズタにしてやろう。

 

 手の中の風が唸りをあげ、未だ朧気な姿の鬼へと殺到した。

 

「やめ、やめろぉおおおおおおおおおお!」

 

 鬼の悲痛な悲鳴があがったが……私はその手を緩める事なく、その身体を切り裂き続けた。

 

 やがて……その鬼は身体中がバラバラになり、地面で力無くもがくだけの肉塊と化した。

 

「やめてくれぇ……!な、なんなんだお前は……!」

 

「私は鬼の首魁、鬼舞辻無惨。お前が謀って殺した……三人の鬼の主だ」

 

 肉塊は息を飲む。

 私が何の為に来たのか、察したのだろう。

 

「そ、それは……!申し訳ない事をした!だが、仕方なかった!

 鬼殺隊に追われていたんだ!助けを求めたが拒否されたから、仕方なく……そう、仕方なく!

 それに鬼殺隊がやったことだ、俺は何もしてない!」

 

「……お前は私の言葉を否定するのか?」

 

 浅ましい、自分の命が脅かされている事に気付いて、嘘で塗りかためてこの場をどうにかしようとしている。

 その証拠に、少しずつ肉塊となった身体を動かし、私に気付かれないように再生しようと目論んでいる……。

 嘘つきで、卑怯者……血鬼術もそれを表すかのように、他者を騙す事に特化したもの……。

 こいつが生きていれば、人にも鬼にも被害が増えることだろう。

 

「ひっ」

 

 少し凄んでやれば怯え身体を震わせる有り様……。

 そんな中でも体の再生は諦めてないようで、ゆっくり、ゆっくりと動き続けている……。

 

鎌鼬・癒

 

 だが、それは許さない。

 お前は逃がさない。

 先程とは違う、癒しを与える風を吹かせた。

 それは傷付いた目の前の鬼の傷を癒していく。

 ……傷口を、塞ぐ形で。

 

「え、あ……?」

 

 一部の肉塊同士がぶつかり……くっついて治らない事に疑問符を浮かべる鬼を静かに見下ろした。

 

「この期に及んで諦めずに生きようともがく……実に共感出来る。

 だが、だからこそ、お前はここで死ね。

 これ以上、他者を苦しめる事なく……自分を苦しめる事なく……大人しく、死ね」

 

「ひぃいいい!いやだぁああああああ!」

 

 悲鳴をあげる鬼へと……私に残る妖仙達の血、その全てを注ぎ込み、手の中で風が荒れ狂う。

 そしてその手を向け、彼等三兄妹が協力してのみ放つ事が出来た、最大の技を叩き込んだ。

 

鎌鼬・颪

 

スババババババババッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖仙達の仇をうち、食い荒らされた鬼殺隊を埋葬し、無限城へと帰還した私だったが、半天狗の姿を見てしまってひどく気分が落ち込んだ。

 その顔を見た瞬間大きくため息を吐いてしまった。

 妖仙の死を悼む間も無い……。

 

「ヒィイイイイ!」

 

 ビクリと肩を揺らし、逃げていく半天狗に弁明する気すら起きなかった。

 ……半天狗と先刻の奴は同質、同類だった。

 生き汚く、卑怯な、浅ましい鬼。

 ……そんな者が配下にいる事に、辟易してしまう。

 

「……少しだけ会いに行くか」

 

 どうしても癒しが欲しくなった私は、随分と笑うようになったあの子に会いに行こうと思った。

 あの子は基本的に一人で部屋にいる事が多いし、信者と対話するのも昼間が多い。

 きっと今は一人で部屋にいる筈だ。

 あの子が寝てしまう前に、少しだけ話をするとしよう。

 

 ……だがその前に、一応本当に一人か確認しておこうか。

 

パンッ

 

 鳴女の血を活性化させ、その血鬼術で小窓を作り出す。

 あの子の部屋には何度も行ったからな、物陰も把握している。

 そこに窓を出し、音を立てないようにそっと開いた。

 

「……む?」

 

 ところが、予想に反して部屋にはあの子はおらず、人の気配もなかった。

 厠か……?そう頭に過った瞬間、濃厚な血の匂いが鼻についた。

 

「まさか……!」

 

 瞬間、背筋に寒気が走った。

 今まで何度も味わった……悪寒。

 

パンッ!

 

 両の手を強く叩き、私が通れる大きさの窓を作り出す。

 そこに即座に飛び込み、血の匂いのするほうへ、私は走り出した。

 ……幸い、鬼の気配ではない。

 ならば……人か……!

 

 惨劇の気配を感じて、唇を噛み締めた。

 どうか、あの子が無事であるようにと願い、廊下を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私の最も古い記憶は、お腹が空いたよと、誰かにうったえている記憶だった。

 無惨様に鬼にして貰う前の事は、殆ど覚えていないけれど、空腹にずっと喘いでいた事だけは記憶に刻まれている。

 私を抱き締めている誰かは私の口に食べ物だと辛うじて言える物を押し込んでくれていたけれど、到底足りるものじゃなかった。

 夜には眠っていても、空腹で真夜中に目が覚めてしまう。

 それでも……凛とした夜の澄んだ空気と、満天の星に浮かぶ月はいつも綺麗で……その感動で胸を満たしていつも眠っていた。

 私を抱き締める、誰かの腕の中で。

 

 次の記憶は無惨様に鬼にして貰った直後の記憶。

 きっと産まれて初めてお腹いっぱいになった、そんな瞬間の記憶。

 口の中に満ちる、『美味しい味』にひどく興奮して、幸福感に包まれていた事を思い出せる。

 そんな私を、無惨様は悲しげな瞳で見下ろして、私の頭を優しい手つきで撫でてくれた。

 その時に私は、目の前の存在が私を、今の私を作り出した存在で、決して逆らえない完全に格上の存在であると、感覚で理解していた。

 私はきっとこれから、この人と生きていくんだと、そう朧気に感じていた。

 ……この頃の私が、それを言語化して思っていたかは怪しいけれど。

 

 それから私は無惨様について、色んな所を旅した。

 色んな物を見て、色んな経験をした。

 けど、私にとってはただ無惨様と一緒にいれて、見守ってくれてるだけで充分だった。

 身を寄せると抱き締めてくれて、その時に感じる匂いにとても安心した。

 凛として澄んだ、月明かりの匂い。

 まだ私の身長が無惨様の腰くらいしかなかった頃は、その匂いが好きでよく顔を擦り付けていた。

 無惨様はそれを、困ったように笑って受け入れてくれていたから……私も嬉しくていつも笑っていた。

 

 珠世さんと出会って、暫く人の世で過ごすようになって。

 珠世さんの旦那さんや子供を美味しそうと何度も思った。

 でも、同じ鬼になった筈の珠世さんはそんな素振りを一切見せなかったから、私も鬼の先達として頑張って我慢した。

 ……その分、雄月が仕留めていた人間を食べる手はなかなか止まらなかった。

 そしてその後、戻る途中に人を見ると、何故か悲しくて仕方なかった。

 珠世さんの子供に遊びに誘われるのが、苦しくて仕方なかった。

 

 人を食らいながら人の世で生きる、その業がその時初めて理解出来た。

 そして……それをずっと無惨様が苦しんでいた事を……苦しんでいる事を理解出来たのはこの時だったのかもしれない。

 

 無惨様と珠世さん達と聞いた琵琶は綺麗で流麗で、私は憧れを懐いた。

 いずれ、無惨様に聞いて貰って……三人で静かに暮らす事に憧れた。

 人の世で生きるには、私は人を食いすぎた。

 そう、自然と思っていた。

 

 だからこそ、あんな目にあった。

 無惨様から離れて琵琶奏者として人の世で生きると決めた私は、人の醜さという物をこれでもかと味わった。

 昨日まで私の演奏を手放しで褒めてくれていた人達が、憎しみや恐怖に染まった顔で私を叩きのめした。

 ……雄月がいなければ、雄月が盾になってくれていなければ、私はきっと、その時に殺されていたのだと思う。

 人を食らっていた負い目が、人に対して逆らう気力を奪っていた。

 

 ただ結局、それ以上の地獄を見る事になったけれど……。

 その時の事はもう、あまり思い出したくない。

 でも……この時無惨様は後戻り出来なくなったのだと、今になって思う。

 無数に鬼が産まれていき、いくつもの悲劇が巻き起こっていった。

 その引き金を引いた一つの原因として……私も責任を取らなければいけないと、そう思った。

 歩けなくても、私の出来る限りの全力で、無惨様の為に生き続けなければいけないのだと。

 客観的に見た時、変な所で責任感が強い自分に苦笑いが自然と浮かんだ。

 けれどきっと、それも無惨様に似たのだろうと思えば、そう悪い気はしなかった。

 

 ……そう思っていたから、無惨様のその言葉には心底驚いた。

 いつ……言われたんだったか……。

 妖仙達が消滅した後くらいだったような気がする。

 

『いずれ必ずお前を、人に戻してやるからな』

 

 そう言って苦しそうに笑う無惨様に、私は首を振った。

 私が望むのは無惨様の為に生き続ける事なんだと。

 琵琶奏者として、人として生きたい訳じゃないんだと。

 

 そう伝えた時の無惨様の愕然とした顔に、私は、言ってはいけない事を言ってしまったような気がした。

 無惨様の何か、大事な物を折ってしまったような、そんな気が。

 それ以降、無惨様は青い彼岸花をあまり躍起になって探さなくなってしまった。

 ただ、研究室に一人で籠る事が増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珠世さんが無惨様に引導を渡す為に現れて……二人の会話を聞いて……。

 私は心底、珠世さんを尊敬した。

 無惨様が苦しんでいた事は、きっと私達配下の鬼は大体気付いている。

 仕えている時間が長ければ長い程、それは顕著だろう。

 けれど、それで無惨様を殺そうなんて、誰一人思った事はない。

 なにせ私達は鬼だ、その気になればいつまでも生きる事が出来る。

 そんな生を与えてくれた張本人を、その生を捨てて殺そうなんて、誰が思うのか?

 少なくとも私には、そんな事微塵も思えなかった。

 それでも珠世さんは、それが無惨様の救いになるのだと、確信していた。

 そしてそれを……私の勘違いで無ければ、無惨様は受け入れていたように思う。

 

 珠世さんの体はきっと、毒が至る所に仕込まれていた。

 それを無惨様は、躊躇いなく吸収していった。

 互いに理解しあった、一つの愛の形がそこにあった。

 愛する誰かの為に命を捨てる覚悟。

 人が時折、稀に見せる輝きだと思っていた。

 それを鬼の身で見せた珠世さんは……きっと誰よりも無惨様を理解して、誰よりも無惨様の忠臣だった。

 それが……少しだけ悔しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから、という訳じゃない。

 私の見る光景に違和を覚えた瞬間、私は命を捨てる覚悟が自然と出来ていた。

 

 下弦の鬼達が柱を打ち倒す、有り得ない光景を視認して……零余子ちゃんが笑顔で此方に手を伸ばしてるのを見て、自分が正常な状態じゃないと即座に認識出来た。

 ()()を使って客観的に自分を見てみれば、見覚えのない鬼が私の頭に指を突き刺していた。

 変な札をつけられ、認識を歪まされているのだろう。

 接近にまったく気付けなかった……この鬼の血鬼術だろう。

 この時まで隠し通した珠世さんに……完敗だ。

 

 下弦の鬼達を確認すれば、案の定私が支配された事で柱の攻撃をかわす事が出来ず、全員頚を切られていた。

 零余子ちゃんが頚のない体で、手を私へと伸ばしていたのが……物悲しかった。

 

「悪いな、お前を使わせて貰う。珠世様の……最期の願いだ」

 

 私自身には聞こえていない、()()が拾った言葉、そして涙をポロポロと流す歪んだ表情の鬼。

 それに納得してしまう……珠世さんの、なんと用意周到な事だろう。

 私は確かに心の何処かで、もし無惨様の命が脅かされたら、無惨様だけでも何処か安全な所に飛ばそうと、そう考えていた。

 それが、珠世さんの覚悟も、無惨様の思いも全て無視したものだとわかっていてなお、そう思っていた。

 私を支配してしまえば……無限城は自在に動かせる。

 朝日が昇ると同時に逃げ場のない場所にでも無惨様達を打ち上げれば……それで終わり。

 実に理に適っている。

 ……だからこそ、そんな事をさせる気はない。

 

「私は……私の最期は私が決める」

 

「なにっ……!?何故話せる!?」

 

 ()()から得た情報で私の認識は歪まされているとわかった。

 だからどうした?私は無惨様に次いで最古の鬼。

 その最期が無惨様に仇なして終わる事なんて、決して認められない。

 無惨様の為に……この命を捨てる事になんの躊躇いもない。

 たとえそれが……本当の意味で無惨様の為にならなくても。

 鳴女として、納得出来る終わりを。

 

「無惨様の邪魔になるなら……自ら死にます」

 

ベィンッ!

 

 醜い音だった。

 背後に出現した襖から、無数の日輪刀が私めがけて降り注いだ。

 

「なっ……!くそっ!」

 

 鬼は私から離れ……私は降り注ぐ日輪刀にその身を晒した。

 その一本が、私の自慢の髪ごと、頚を通り抜けていった。

 

 ああ……熱い……。

 

 切断面からドクドクと流れていく血の感覚、くるりくるりと回る視界。

 身体中に裂傷が出来、日輪刀がいくつも突き刺さった。

 そしてどうやら彼の術は解けたようで、塵となっていく下弦達の姿と、ほぼ無傷の柱の姿が見えた。

 ……結局時間稼ぎすら出来なかった不甲斐ない自分に、瞳が熱くなる。

 

「ごめんなさい……今まで……ありがとう」

 

 お父さん……。

 

 言葉にせず、心の中で呟いた言葉は、最後に無惨様に届いただろうか?

 まぁ……どっちでも良い。

 無惨様、不出来な娘の最期の我が儘を聞いて下さい。

 

「くそ、まさか自ら死ぬとは……」

 

「いや、よくやったと褒めてやろう。これで他の柱の応援に行ける」

 

「そうね、急ぎましょう!」

 

 どうか、少しでも長く生きて。

 

 その為に、せめて、一人でも多く。

 

ベベンッ!!!

 

ガゴンッ!!!

 

ベキィ

 

 道連れにするから。

 

「なっ……甘露寺っ!」

 

「えっ、これ、天井が落ちてきてる!?」

 

「こいつ……!やってくれるな……!」

 

 折れてしまった思い出の琵琶を抱き締めて、落ちてくる天井を眺めた。

 これが私の選んだ最期。

 全ては、無惨様の為に。

 何一つ後悔はない。

 

 ああ、でも……本当は……。

 

 脳裏に浮かぶのは、無惨様と珠世さん……二人だけを相手に琵琶を奏でた日々。

 私はただ……あの日々が続けばそれで良かったのに。

 そうして静かに暮らしていけたら……それで……。

 

 ポロリと大きな滴が私の一つ目から溢れて……。

 

ドズゥウウウン

 

 轟音と共に全てが闇に包まれた。




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