それでも私は死にたくない   作:如月SQ

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 時は流れ、時代は移り変わる。

 上弦の面子は変わらないものの……入れ替わりの血戦にて、猗窩座を童磨が下し、その序列が入れ替わる事となった。

 童磨は頭が良いからな……猗窩座の癖を読み切っている事を覚らせず、最後の最後に不意をついた、素晴らしい勝利だった。

 

「もう越えられるとはな……予想外だ。

 ……今度は俺が挑戦者だな。次は負けんぞ」

 

「はははっ……結構ギリギリだったから、少し時間置いて欲しいなぁ……なんて」

 

 お互いにズタボロの状態で、片膝をついた猗窩座へと手を差し伸べる童磨。

 二人は不敵に笑い合い、その手を互いに握り合っていた。

 

 ふむ……相性は良くないと思っていた二人だったが、仲良くしているようで良かった。

 血戦の見届け人の黒死牟も満足そうに頷いている。

 

「二人とも、良い戦いだったぞ」

 

 私の膝を枕に昼寝をしている堕姫の頭を撫でながら、心からの称賛を送った。

 猗窩座はその場に跪き、童磨は腰を曲げ、頭を垂れた。

 ……本当に、良い勝負だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時代は移り変わろうとも、私はあまり変わらない。

 青い彼岸花は見つかっていないし、鬼の研究もそこまで進んでいる訳ではない。

 下弦の面子は移り変わりが激しいものの、その中でも実力者はそのまま残っていたりもする。

 姑獲鳥や厭夢、累、響凱辺りが固定化されているだろうか。

 響凱は少し押され気味だが……物書きに力を入れている結果だろう。

 まぁ……好きに生きるのが一番だ。

 十二鬼月でなくなったからとて、死ぬ訳でもない。

 私はどんな生き方だろうと肯定するさ。

 

「さて今日は……」

 

 何をするか、と口にしようとした時だった。

 

ズンッ

 

 不意の揺れが私を襲った。

 

「……!?なんだ、地震か……!?」

 

 いや、無限城が地震で揺れたことなど……鳴女!何が起きた?

 

 心の中で鳴女に話し掛ければ、少し焦った様子の鳴女の声が聞こえてくる。

 

『な、何かが無惨様の研究室から飛び出しました……。

 既に私の感知範囲外ですが……地上へと向かっているようです』

 

「……なんだと?」

 

 私は即座に自身の研究室へと向かった。

 そして扉を開けて辺りを見回した。

 部屋中に散乱した資料やガラス片に、ポッカリと天井に空いた穴を見て……目覚めてしまった事を確信した。

 

『無惨様、一体何が飛び出して行ったのですか……?こんな真似を出来る存在がいるのですか……?』

 

 鳴女の震えた声が聞こえる。

 無限城は……地中深くに存在する鳴女の作り出した空間だ。

 それを恐らく力業で強引に突き進んだ……そんな存在に畏怖を覚えているのだろう。

 

 だが私はその問いに答える事なく……次の指示を出した。

 

「……外に繋げろ、鳴女。後を追う」

 

『っ……!危険です!あれは無惨様の支配下にないのでしょう!?

 あれが何なのか、私には測りかねますが、危険である事だけは間違いないでしょう!?

 そんな相手を無惨様一人に追わせる訳には!』

 

「……良い、私が繋げる。良いか、他の誰にも知らせるな。

 誰一人として、知る事は許さん。鳴女、お前も忘れろ」

 

『そんなっ……!』

 

 鳴女の悲痛な声に胸が痛むが、このような問答をしている時間も惜しい。

 今は最悪な事に日没の時間だ……外へと飛び出してしまえば、自由に動くことが出来てしまう。

 

パンッ

 

 手を打ちならし、襖を作り出す。

 独りでに開いたその先は、遠くの空が赤く染まった薄暗い外。

 私はそこへと足を踏み出していく。

 

「なあに、心配するな。私を誰だと思っている」

 

 鳴女の泣きそうな思念を感じながらも、私に向かわないという選択肢はなかった。

 

「私は鬼舞辻無惨。お前達鬼の首魁だぞ?何も心配することはない。いつも通りにしておけ」

 

『……どうか、無事で』

 

 すがるような、祈るような鳴女の思念を受けた後、振り切るように私は襖をくぐり抜けた。

 ……これは、私がしなければいけないことなのだ。

 

 私自身の、弱さと罪の証なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上に出て、辺りの気配を探り始めて私は気付く。

 ここは……この山には覚えがあった。

 かつて珠世と立ち寄った、花の咲き乱れていた山。

 かつて友と過ごした、小さなあばら家のあった山……。

 

 何故ここなのだ、という思いを抱きながらも気配を探っていけば、山の麓で少年が老人に呼び止められているようだった。

 ……そして……やはりというべきか、山中に……気配を感じた。

 同時に、複数の人間の気配も。

 複数の幼い気配、女性の気配、それと……。

 

 私は即座に山中へと足を踏み入れた。

 感じる気配に、まだ何も事が起きていないことを安堵しつつ、何も起きない事を願いながら。

 

 雪の降り積もった道無き道を突き進み……覚えのある場所に覚えのない家が建っているのが見えた。

 かつてのあばら家とは比べようもない程に立派な家……。

 ……間違いない、ここだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 白い息を吐き出し、気配を探れば、まだ確かに中にいる。

 間に合った……その思いで戸を叩いた。

 

ドンドン

 

「こんばんは、どなたかいらっしゃいますか?」

 

「あ、はーい、今出ます。……ちょっと待っててね」

 

 戸の向こうから女性の声が聞こえ、気配が近付いてくる……どうやらこの家に住む唯一の大人のようだ。

 恐らくは母親だろう。

 

「はい、どうなされました?」

 

 そして戸が開いた瞬間に感じた微かな血の匂いと、うっすらと感じる気配に……血の気が引いた。

 戸を開けた女性の向こうで、その姿を見付けて、その瞳が私を捉え……。

 その口元が弧を描いたのを見て、私は思わず―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「小僧……答えろ……。

 小生の血鬼術は……凄いか……」

 

「凄かった……でも。人を殺したことは……許さない」

 

「そうか……」

 

 下弦の陸の地位を失い、それでもどうにか返り咲こうと、無惨様の意にすら反して人を、稀血を食おうとした。

 小説を否定され、入れ替わりの血戦で負けて、無惨様が褒めてくださった鼓すらバカにされた。

 小生にはもう、何も残っていないと思っていた。

 

 ……けれど、この小僧にとっては違ったのだ。

 小生の血鬼術は凄かったと、戦いの最中にも関わらず小生の小説を踏まないようにしてくれた。

 

「……ありがとう……小生を認めてくれたのは……二人目だ」

 

 敵対しているというのに、ただの人食い鬼に成り下がっているというのに、小僧からは哀れみの念を感じる。

 既に顔の殆どが塵と化し、話す事も出来ないが、残る瞳で最期まで小僧の顔を見つめていた。

 涙でボヤけた視界で、小僧は辛そうに顔をしかめていた。

 

 ……こんな小生のような外道にも同情してしまうとは……この小僧はきっとこれから苦労することだろう。

 小僧は、無惨様のように優しすぎる……だが、その優しさに救われる者は確かに存在する……小生のように。

 どうか……この優しすぎる鬼狩りに、幸あれ。

 

 ああ……良い話が浮かんだ。

 目が覚めたら……形にするとしよう……。

 ……小生は……少し、疲れた。

 

 申し訳ありませぬ、無惨様……。

 お先に……失礼致します……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 頚を切られて、消滅する間際、背に温もりを感じた。

 繋がってもいないのに変だけど、確かにそう感じたんだ。

 

 変な奴だった。

 僕より弱っちいのに、妹を寄越せって言っても渡してくれなくて、刀を折ったのにまだ逆らってきて……危うく頚を切られそうになった。

 何処にそんな力があったんだろう?

 妹も僕に逆らってきて、意味がわからなかった。

 僕のほうが強いんだ、強い奴に従うのが当然だろう?

 だってそうじゃなきゃやられて死んじゃうんだから。

 

 でも、あいつらは僕に逆らって、それで生き残ったんだ。

 あと少し、僕の頚を切った柱の登場が遅れれば、二人を切り刻むことなんて容易かったんだ。

 

 ああ……でも、なんだろう……温かいな。

 あいつは、耳飾りの剣士は、僕を憎んで、怒っていた。

 けど同時に哀れんでもいたんだ。

 今、それがわかった。

 

 不思議だ……怖くない。

 背中から伝わる温もりが、心地好い。

 まるで、無惨様に抱き締められた時みたいな安心感がある。

 

 …………ああ、そっか。

 これが愛か。

 僕が欲しかったのは、上っ面の絆じゃなかったんだ。

 僕は……ずっと……これが欲しかったんだ……。

 

 ぼやけた瞳を閉じて、滴が落ちて……何も見えなくなった。

 温もりを胸に抱えたまま、僕の意識は闇に落ちていく。

 

 ……ごめんなさい、無惨様。

 そんな簡単な事にも気付けない僕を、最期まで見守ってくれて……ありがとう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 負けた。

 負けちまった。

 

 とるに足らない奴等の筈だった。

 柱は一人、普通の隊士が三人、よくわかんねえ女どもが三人に、鬼が一匹。

 それでも俺と妹が……いや、俺が頚を切られても妹さえ無事なら俺達は負ける筈がなかった。

 

 でも……耳飾りの剣士の執念に、してやられた。

 全員大なり小なり俺の毒を食らっていた筈なんだ、立ってるだけでも激痛が走る筈なんだ。

 なのに……俺は頚を切られた。

 しかも、妹も同時に。

 

 切られた頚同士がゴロリと転がって、地面で向かい合った。

 信じられない思いで目を見開き、同様に目を見開いた妹と目があった。

 

 ああ……そこで互いに心にもねえ事を言い合っちまった。

 醜いだとか、出来損ないだとか、役立たずだとか……。

 いつもみてぇに顔をくしゃっとして泣くんじゃない、呆然とした顔で涙を流す妹を見ても、苛立ちが収まらなくて、言っちゃいけないことをまで口走りそうだった俺を止めたのは……俺の頚を切りやがった鬼狩りだった。

 

「……嘘だよ」

 

 俺の口を塞いだ鬼狩りは、言葉を続ける。

 

「本当はそんな事思ってないよ。全部嘘だよ」

 

 ……こいつ、なんて顔してやがんだ。

 俺は、鬼だぞ。

 お前を今本気で殺そうとしていた、散々痛め付けた鬼なんだぞ?

 

「君達のしてきたことは誰も許してくれない。

 殺してきたたくさんの人に恨まれ、憎まれて、罵倒される。

 味方してくれる人なんていない、だからせめて二人だけは……互いを罵りあったらダメだ」

 

 なんてそんな、悲痛な顔をしてやがる。

 まるで……無惨様みたいに……。

 

「う、うぅうううう……!五月蝿い五月蝿い!そんな顔で私達を見るな!そんな、無惨様みたいな顔で……!

 悔しい!悔しいよぉ!お兄ちゃぁああああん!」

 

 堰を切ったように泣きわめく妹はもう、殆どが塵と化していた。

 ポロリ、大粒の涙を溢して、口元が塵になる直前。

 

「ごめん、なさい」

 

 俺を真っ直ぐ見つめて、妹は、梅は最期に謝って逝った。

 

「梅!」

 

 そんな妹に、こんな今際で責任転嫁して妹を罵っちまったような屑の兄に、先に謝ってくれた妹に。

 俺は謝り返すことしか出来なかった。

 

「……俺みたいなのが兄で、ごめんなぁ……」

 

 何か言いたげな梅は、もう一粒滴を溢して消滅した。

 俺は……兄失格だ……これまで、ずっと守ってきた妹を、俺の命より大事だと思っていた筈の妹を、最後の最期で傷つけちまった。

 

 ……ああ、畜生……この鬼狩りも、その妹も……わかってんのかよ。

 俺も、梅も、人を何人も食らった鬼なんだぞ。

 なんでそんな悲しい顔で俺達を見られるんだよ……。

 

「おまぇはよぉ……妹を、最期まで守りきれよ…………なぁ」

 

 思わず口から出た言葉に、自分でも驚いた。

 鬼狩りは一瞬驚いて目を見開き、口を引き結んで力強く頷いた。

 ……なら、いいか。

 

 もう口も消えた、もう話す事も出来やしねえ。

 ……でも、不思議と気持ちは穏やかだった。

 

 後悔はある、結局妹を守りきれなかった。

 最期に罵倒しちまった。

 鬼狩りの言うとおり全部が嘘ってわけじゃねぇ。

 でも、それも全部ひっくるめて愛してたんだ。

 最期まで兄でいられなかった事が、悔しかった。

 だから……妹が鬼になっても守り続けてきた目の前の鬼狩りには、ダメな兄である俺を打ち倒したこいつには、最期まで立派な兄であって欲しいと思った。

 

 ああ……でも、くそ、悔しいなぁ、羨ましいなぁ……。

 俺は、なんでああなれなかったんだ……。

 

 視界が闇に包まれていく。

 その最後の瞬間まで、鬼狩りとその妹は、悲しげな目で俺を見つめていた。

 

「……君は、立派な兄だったよ」

 

 最期にぼそりと聞こえた言葉に、ひどく救われたような気分になった。

 そして、俺の意識は闇に閉ざされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……なかなかやるな。儂ら二人が更に分裂させられるとはな」

 

「かかかっ!哀絶に空喜か!奴らが出てきたのはそれこそ百年ぶりかのぉ!かかかかっ!」

 

「だが、分裂した身ではこの鬼狩り達の相手は怪しいな……かなりの手練れだ。陸を倒したのもこの鬼狩り……重なる事も考えておけ」

 

「おおっ!?そりゃ久方ぶりに儂の力を使えそうじゃのう!

 楽しみじゃなぁ、ええ、積怒よ!」

 

「黙れ、何も楽しくない」

 

「そう邪険にするな!かかかっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……む、そうじゃな、儂らの本体は悪鬼じゃな!ぐうの音も出んわ!」

 

「……だが、お前達鬼狩りはどうだ?お前達が手を下した鬼達は、本当に悪鬼だったか?」

 

「かかかかっ!悪鬼の口車には乗らんか?だがこちらからすれば貴様ら鬼殺隊こそが極悪人よ!」

 

「お前達にどれほど、日々を慎ましく生きる鬼を殺されたか。

 ……自覚などないのだろうな」

 

「まぁ、なんだ。

 上弦の肆、悪鬼半天狗を滅したいのであれば!」

 

「まずは儂らを止めてみせろ、鬼殺隊」

 

「「極悪人共め、覚悟するが良い」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「む、無惨様ばんじゃぁあああい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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千本針 魚殺

 

ズバババババ

 

刻糸輪転

 

ギュルギュルギュル

 

 壺から飛び出した金魚から放たれる無数の針。

 竜巻の如く襲い掛かる糸。

 それらを炭治郎は一瞬たりとも足を止める事なく、避け、切り捨て、見切り続けた。

 逃げ場などない飽和攻撃のつもりだったが……まさか無傷で切り抜けられるとは思わなかった。

 

ダンッ!

 

 一際強く床を踏み締めた炭治郎が、一息で此方へと近接してくる。

 素晴らしい動きだ。

 日の呼吸……いやヒノカミ神楽だったか。

 先程よりもより洗練されている。

 

ヒノカミ神楽

 

 だが、まだ甘い。

 

 手の平に小さな鼓を作り出し、打ち鳴らす。

 

ポンッ

 

「なっ!?」

 

 ぐるん、と部屋が回り、炭治郎の姿勢が一瞬崩れる。

 そこを見逃さず、即座に手に作り出した鎌を振るった。

 

飛び血鎌

 

「ぐあっ……!」

 

 振るった血の刃は、炭治郎の右目を切り裂いた。

 そうして怯んだ炭治郎へと、背から帯を伸ばす。

 少しでも躊躇えばそのまま拘束してしまおうとしたが……。

 

幻日虹

 

 即座に身を翻した炭治郎は、見事に殺到する帯を避けてみせた。

 そこで仕切り直し……かと思えば。

 

ギンッ

 

炎舞

 

 残った左目を見開き、逆に私の懐へと潜り込み、刀を振り下ろした。

 それは私の体を捉えた。

 

ガキンッ!

 

鉄鋼身

 

「硬……すぎるっ……!」

 

「当然だ、この世で三番目に鬼になった男の血鬼術だぞ」

 

 服を切り裂くだけに終わった炭治郎の剣戟、その後の隙だらけとなった炭治郎を即座に蹴り飛ばした。

 

ズドンッ

 

「ごっ……!がはっ……!」

 

バキバキッ

 

 手応えあり……あばら骨が砕けたか。

 だが、ギリギリで身を翻したか?肺に刺さるまではいかなかったようだ。

 

 それにしてもまさか、雄月の血鬼術まで使わされるとはな。

 私の中に感じる皆の気配も……随分と目減りした。

 

ゴゴゴゴゴ

 

ズゥウウウウン……

 

 と、どうやら外に着いたようだ。

 動きが止まったと同時に崩壊した壁と天井。

 離れた所で踞る炭治郎は、突如露になった夜空を見上げた後、右目から流れる血を乱暴に拭い、私に向かって日輪刀を構えた。

 

 ……未だ、戦意は衰えず、か。

 

「まだやるのか、炭治郎。血鎌を受けた筈だ。そう間もなく……その毒はお前の体を蝕み、死に至らせる。

 わかっているだろう……?お前では私に勝てん」

 

「勝てる勝てないじゃないんだ……。

 俺は、貴方を、止めなければいけない」

 

 剣先が震え、立っているのもやっとの様子で、それでも炭治郎を私を真っ直ぐ見つめている。

 

「……何故だ。もう、限界の筈だ。何故自らの命を懸けてまで……」

 

「それが、縁壱さんの願いなんだ……止める、必ず、俺が!」

 

 ピタリと止まった剣先、震えの止まった体。

 その一方で、私の体はビクリと震えた。

 

 ……何故、そこで縁壱の名が出てくる。

 何故……今更縁壱の姿が……重なるのだ。

 強い罪悪感に、胸が締め付けられるようだ。

 

 ……良いだろう、わかった、縁壱。

 お前がそうやって、こんな子供にその思いを託してまで私を止めようとするならば……最後まで抵抗させて貰う。

 

血鬼術

 

 ボコリ、右腕が脈動し、手の平から刃が突き出してくる。

 それは、刀の形を取り、刀身にぎょろりと目玉が並ぶ。

 

「……炭治郎、夜明けまでまだ数刻はある。今のお前で、それまで耐えられるか?私を止められるというのか?」

 

「止める……絶対に!それに俺は、一人じゃない!」

 

 その啖呵に、変わらぬ闘志に、強い覚悟に、つい破顔してしまう。

 本当に……この子は強いな……。

 

「そうだな……私は、存在してはいけない生き物だ……。

 きっと、何処かで死ななければいけなかった……」

 

 自嘲しながらも、私は作り出した刀を腰だめに構える。

 俯いて、独特の呼吸音を響かせながら。

 

月の呼吸

 

 炭治郎も呼吸音を強く響かせていく。

 赫く染まった刀、色濃くなっていく痣、増していく存在感。

 月明かりの下、私達は静かに向かい合う。

 

「それでも私は死にたくない。すまない、炭治郎(縁壱)

 

 顔をあげて呟き、刃を振るった。

 

壱ノ型・闇月 宵の宮

 

ヒノカミ神楽 円舞

 

 無数の月の形の刃が追随する居合いを、炭治郎は真正面から迎えうった。




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