感想、評価、ここすき、誤字報告、全部執筆の力となってます。
「この、大馬鹿!」
ボカッ
「痛い!いきなりどうしたんだ善逸」
「どうしたもこうしたもあるかぁ!お前、お前お前お前なぁ!
時と場合を考えろよ!今!俺達は決戦を終えて、しかも鬼達の想定外の本質を知って、その最期を看取ってしんみりしてるところなんだよ!
そこをお前……いきなり色ボケかまして、結婚とかさ!?お前いつの間にカナヲちゃんとそんな関係になってたんだよ!?」
「?いや、カナヲには初めて言ったよ」
「はぁ!?」
「黒曜を育てないといけないけど、見てわかる通り黒曜は赤ん坊みたいな感じだろう?
赤ん坊育てるのは大変なんだぞ、善逸。俺一人じゃ不安だ。
それに、親になるって言っても男親だけじゃ良くない、女親も必要だ。
なら一番信用出来て一番好きな女の子に手伝って欲しいって思うのは当然だろう?
だから俺はカナヲに結婚を申し込んだんだ!」
「アーッ!判断が早い!」
パァンッ!
「痛い!」
「このバカ!バーカッ!カナヲちゃん、ちょっと待ってて!
このバカとっちめてくるから!このバカ!もう少し考えて――」
「えと……炭治郎……その……ふつつかものですが!」
「カナヲ!受けてくれるか!ありがとう!絶対に幸せにするよ!」
「…………キェエエエエエエエエエエエ!!!」
その後、いろいろと騒がしかった。
善逸が甲高い声をあげながら何度も俺に襲い掛かってきたり、柱の皆さんや、無事だった隊士達、隠の皆さんなんかが集まってきたり。
そんな中で見知らぬ子供である黒曜と、鬼になってる俺を囲んで、ざわざわとてんやわんやと。
俺を見て青筋をたててる不死川さんと、その間に挟まってくれてる玄弥とか、しのぶさんに結婚の報告に行って、甘露寺さんに捕まってるカナヲとか、悲鳴嶼さんに並んで、無惨さん達がいた場所で手を合わせる伊之助とか、まだ俺の頭をポカポカ叩き続ける善逸とか……。
辺りを囲う隊士達や隠の皆さんも、俺をどうしたら良いのかわからないみたいで、困惑の表情を浮かべて、日輪刀も構えられていない様子だった。
他の柱の人達……伊黒さんと時透くんは重傷みたいで治療中で、唯一立っているのは……。
「…………」
冨岡さんだけ。
隊士達が指示を欲しそうにちらちらと冨岡さんを見ているんだけど……冨岡さんは気にした様子もなくただそこに佇んでいた。
……いや、なんか俺をじっと見てる……?
……えっと……なんだろう。
相変わらず感情が読みにくい。
そんな、なんとも言えない空気が壊れたのは、皆知っている……けれどもう聞こえる筈のない声が響いた瞬間だった。
「やぁ皆。壮健かな」
そのよく通る声が響いた瞬間、一瞬辺りが静まり返った。
そして、色んなことが感情が爆発したかのように、悲鳴のような声が響き渡ったのだった。
『お、お館様ぁああああああ!?』
そこからは正にてんやわんや。
死んでしまったと思っていたお館様が宇髄さんに担がれて現れて、暫くその騒ぎは収まらなかった。
柱の皆さんは治療中だった、下半身が動かない伊黒さんまで飛び起きて、
お館様の側には、お館様を運んできた宇髄さんが直ぐに手助け出来る位置を維持して佇んでいた。
「無理はしないで欲しかったけど……それでも皆とまた会えたのは嬉しいよ」
お館様はしっかりとこっちを見据えて、嬉しそうに微笑みながら言葉を紡いでいった……。
まず、屋敷の爆発は自分で引き起こした事、それを……鬼の首魁である無惨さんに救われたのだと。
その救われた、という言葉に皆がざわめきだす。
……まぁ、皆無惨さんの事を悪の親玉としか見ていなかっただろうから、その反応も当然だろう。
俺も結局、あの人の慈悲で生き永らえているだけ……。
だからこそ、最期の時まで生き抜かなければならない。
「……色々な思いがあるだろう、考えることもあるだろう。
だけどまずは……炭治郎……無惨を止めた君に、心から感謝させて欲しい。
そして、君が鬼から人に戻ることで……此度の戦いを終わりとしたいと思う。」
どうかな?
そう笑顔で問われてしまえば、否と言える剣士は誰一人としていなかった。
朝陽に照らされながら、珠世さんとしのぶさんが作っていた最後の薬が、俺に打ち込まれていく。
お館様、柱の皆さん、隊士達、隠の皆さんが固唾を飲んで見守るなか、俺の体から何かが抜けていく。
意思はなくとも、仄かに感じていた無惨さんの気配が、ゆっくりと消えていく。
それと同時に右側の視界が薄らと暗くなっていくけれど……仕方ないと目を瞑って小さく頷いた。
やがて、俺の中から無惨さんの気配は完全に消え、右側もほとんど見えなくなってしまった。
そんな俺の前に立っていたしのぶさんは俺の口を開けさせたり、瞳を覗いたりした後、小さく頷き、お館様を振り返った。
「人に戻ってます」
わっ!
その宣言と共に、一部の隊士や隠の皆さんからわっと歓声があがった。
見れば、柱稽古を共に受けた人達や、個人的に関わりのあった隠の人達のようだった。
そんな人達に笑いながら軽く手を振って、小さく頭を下げた。
「……よし。なら、以上をもって……」
少しだけ騒がしかった周りも、お館様が話し出せば即座に静まり返る。
朝陽が差し、鳥の囀りが響く中、微笑みを浮かべたお館様は、ゆっくりと口を開いた。
「鬼の首魁、鬼舞辻無惨の討伐を……完了とする。
私の自慢の子供達よ、よく戦ってくれた……よく、生き残ってくれた。
産屋敷先代当主として……心から礼を申し上げる」
そこで一度言葉を切ったお館様は、眩しそうに目を細め、朝陽を見つめた。
「これからの事は……一度体を休めてから話そう。
だが一先ずは……その長きに亘る君達の献身に、感謝しよう。
これまで……ご苦労だった。最後に君達の顔をこの目で見れて……良かったよ。」
その言葉に俺は、改めて終わったという実感を得た。
あの爆発でお館様が生きていたことはビックリしたけど、感じた無惨さんの性格を考えれば、それも当然と言えるかもしれない。
……ただ、それでも。
この戦いで失った物も多い。
つい先日の柱稽古を共に潜り抜けた隊士達全員がこの場に揃っていない。
何より……煉獄さんの姿がない。
それに、お館様と悲鳴嶼さんは、くっきりと死相が出てしまっている……。
人に戻る前には見えていた透き通って見えた肉体を見るに、あの二人は限界だ。
近く……その命の灯火は消えてしまうだろう。
柱の人達の中には、もう戦えない程の負傷をしてしまった人もいるし、悲鳴嶼さん同様に痣を出してしまった人もいる。
俺もそうだけど、そう長くは生きられないだろう。
……それでも、失って、この先そう遠くない未来で失うとしても。
俺達は歩き続ける、繋げ続ける。
喜びに沸く皆を眺めながら、そっとカナヲの手を握った。
側で体を寄せてくれているカナヲと、俺を涙目で見上げる黒曜……。
二人を抱き締めて、俺は改めて思う。
最期まで、生き抜こう、と。
そう、胸に刻み込んだ。
それが、俺が終わらせた彼等に対して出来る、最後の手向けだと、そう思った。
もう殆ど見えない右目から、つうと一筋の滴が流れた。
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私は、炭治郎が何かに引き上げられていくのを、静かに見上げていた。
不思議な気分だ、私の体は既に黒死牟……巌勝達と共に陽光に照らされ塵に還ったというのに、まだ私の意識は残っていた。
だがそれは、炭治郎の体に注がれた私の血に残っていた、残留思念……炭治郎の体が人に戻るにつれて、私の意識は消えていく。
ただ不思議なもので、炭治郎の体から私が消えていくというよりは、炭治郎が引き上げられていく、私の前から消えていく形で、私は消滅するようだ。
……なんとも、まぁ、変な終わりかただ。
だからだろうか、炭治郎の体に僅かばかり巻き付いた触手、私の体から伸びたそれが、酷く見苦しい。
まだ生きたいというのか、炭治郎を苦しめたいというのか。
まだ、心の何処かで死にたくないと叫ぶ私がいる事実に、呆れてしまう。
ブチッ
ぎゃぁああああ
無造作に千切れば、私の中から悲鳴が響く。
まったく……最期まで煩わしく、見苦しい。
だがまぁ……それも、最期まで生き汚い姿も、私らしくはあるか。
やがて何かに引き上げられていく炭治郎の姿が、何かに埋もれて消えていく。
あの子はこれで人に戻れただろう。
ついでに……。
スゥ……
炭治郎の顔に浮かぶ炎のような痣、それが消えていく。
痣を出した事による寿命の前借り……その負担を取り除いてやろう。
その代わりに右目の視力は戻らんが……寿命と視力、比べようもあるまい。
炭治郎には、黒曜を立派に育て上げ……それを見守り続けて貰わねばならんからな。
……しかしまぁ、あの場で結婚を申し込むとはな!
予想外だが、傑作だ、なんとも突飛な子だ。
黒曜を頭突きで止めた事と良い、炭治郎にはいつも驚かされる。
黒曜を救ってくれたこと、突飛な行動で楽しませてくれたこと、鬼達を皆慈しんで哀れんでくれたこと……それらの礼として、普通の人間の寿命を与えよう。
その人生、我らの分まで謳歌するといい。
炭治郎はカナヲという少女と結ばれ、黒曜と共に温かな家庭を築くだろう。
その温もりと愛はいずれ二人の間に出来る子供に注がれ、その溢れんばかりの愛はまた新たな家庭を築く。
子から子へ、更に子へ……人の想いは受け継がれ、温もりと共に繋がっていくのだろう。
それを見守れないことに一抹の寂しさを覚えなくもないが……繋がっていく確信もあるからか、それ以上に安心感が強い。
私の役目はきっと、炭治郎を生かした時点で終わったのだろう。
満足だ。
炭治郎に斬られてからずっと、暖かな日だまりにいるような温もりに包まれていて、満たされている気分だ。
自らの命を懸け、次に繋ぐ……その気持ちがずっとわからなかったが……漸く、わかったような気がする。
遅すぎたが、それでも……知れて終わりを迎えられて……満ち足りた思いで終われて……よかった。
やがて炭治郎の姿は何かに呑み込まれ、見えなくなっていった。
私は改めて内心で炭治郎に礼を告げて、その姿を見送り、その生に幸あれと願ったのだった。
……ところで、私はいつまで意識があるのだろうな?
そもそも炭治郎に全てを託した時点で意識が消える覚悟をしていたのだが……。
まぁ、黒曜が無事に人に戻ったのを知ることが出来たし、炭治郎の愉快な未来も感じ取れたが、いつまでも意識があると心変わりしてしまうかもしれない。
この清々しい思いのまま消えたいのだが……。
まさか、それを狙っているのか?神仏とやらは。
だとすればあまりにも悪趣味だろう。
耀哉達産屋敷がとばっちりで受けた呪いを考えれば、まぁ、あまりまともな存在ではないかもしれんが、流石にあんまりではないか?
まったく、最期くらいスッパリと終わらせて貰いたいものだが……。
そう思った瞬間、辺りが突然獄炎に包まれた。
私を囲う、辺り一面の激しい炎。
……これが地獄の炎とやらか。
罪人を焼き尽くす……いや、焼き続けてその罪を償わせる炎か。
私を迎えに来たのだろうか?ならば丁度良いか。
このまま地獄とやらに連れていって貰うと……。
「無惨……久し振りだ」
突然の懐かしい声に、思わず振り向いた。
そこには、私の友が……私がかつて背を向けた友が、若い頃の姿のままで立っていた。
獄炎の向こうで立つ縁壱は、穏やかな笑みを浮かべて、嬉しそうに微笑んでいた。
「縁壱……ああ、久し振りだ。……待っていてくれたのだな」
自然と、そう思えた。
縁壱が私と同じ地獄に落ちる訳もない。
きっとあの世の分岐点……そこで縁壱は待っていてくれたのだ。
「見ていた、ずっと……黒曜の事、感謝する。ありがとう無惨」
その言葉に、私は俯いた。
「……いや、元々私が蒔いた種だ、お前が礼を言うことじゃない……それに、お前にはひどく迷惑をかけた……お前のお陰で終われたのだ、礼を言わねばならぬのは私の――」
……そうだ、そもそも私のせいでうたと黒曜は……。
そう懺悔をしていたのだが……。
「煩いのぅ!無惨!お主はなーんも変わっとらんのぅ!
いつまでもぐずぐずうだうだうじうじと!蛞蝓かお主は!」
そんな私を切り捨てたのは、生前と変わらぬ快活さを見せる、うただった。
「……!うた……!」
懐かしい姿に言葉も出ない私に対して、うたは怒りを滲ませて言葉を続けた。
「礼の一つくらい素直に受け取らんか!大の大人がみっともない!儂らはお主に感謝しとる!お主は礼を言われるような事をやった!それでええじゃろうが!」
ぷりぷりと怒るうたの姿に、懐かしさと申し訳なさを感じ、顔をしかめてしまう。
長年このように言われることがなかったからか、どうにも狼狽えてしまうな……。
「し、しかしな……」
どう返したものかと悩み右腕を彷徨わせていると、その腕が絡め取られ、温もりに包まれた。
「無惨様、謙遜も時には人を傷つけるのですよ」
私の腕を抱き込むように、珠世がその身を寄せていた。
「……!珠世……!」
「貴方は……本当に自罰的過ぎます。私達はこのまま地獄に落ちるのです。縁壱さん達とは、これでお別れなんですよ?
彼等の礼くらい……しっかり受け取ってあげてください」
その言葉に、ハッとする。
よく見れば、縁壱とうたの瞳には涙が浮かび、何かを耐えるようにある一定の場所から近付けていない。
私と彼等を獄炎が遮っているが……きっとそれだけではないのだろう。
縁壱達は、ただ待っていてくれただけ……これが本当に最後、か。
そう思えば少し頭がスッキリしたような気がする。
最後、なら……ああ、そうだな。
二人に対して、あまりにも悪い。
「……礼を、受け取ろう」
そう答えれば縁壱は柔らかく笑み、うたは胸を張って朗らかに笑った。
「縁壱、うた……ありがとう。お前達と友になれたことは、私の長き生において、かけがえのない宝物だ。
二人との友情を胸に……私は、私の罪を償おう」
ゴウッ
辺りの獄炎が勢いを強める。
縁壱とうたの姿が揺らめいた。
「ああ、無惨。私もだ。お前と友になれて良かった。
私自身は大した事のない、何も成せない人間だったが……残したもの達が繋げてくれた。
本当に……ありがとう、無惨」
「まったく、悪い所ばかり似たものじゃのぅ。
二人とも自虐的過ぎるわ……じゃがそれも見納めか。
……楽しかったぞ無惨!また会おう!全てを忘れても、また友となろうぞ!」
二人は、大きく手を振った。
揺らめく獄炎に負けないように、大きく、大きく。
満面の笑みを浮かべて、二人は最後に声を合わせた。
「「輪廻の果てで、また会おう」」
ゴオッ!
その言葉が聞こえると同時に、私達を囲む獄炎の勢いが更に増し、縁壱達の姿と声は聞こえなくなった。
私が感じるのは……傍らにいる珠世だけだ。
私達はゆっくりと進んでいく。
縁壱達がいた場所に背を向けて、獄炎が激しくなる方向へ。
「……お前は人をそう喰らっていないだろう。
その気になれば、あちらにいけたんじゃないのか?」
身を焦がす炎に苦悶の表情を浮かべる珠世へ、そう問い掛けた。
その問いが、無粋だと知りながらも。
「ふふ……私の中では貴方を終わらせる手伝いをしたことが重罪ですから……大丈夫。これからは……ずっと一緒ですよ」
その答えに、ほんの僅かに存在していた、獄炎の中を進んでいく恐怖が和らいでいった。
見限られた、そう思った時は逆恨みすらしたものだが……珠世はずっと、私のことを想ってくれていた。
そうわかってしまえば、心が満ちていく思いだった。
「そう、か……ありがとう、珠世」
珠世は笑みを浮かべて、その身を寄せてくる。
獄炎に包まれ熱い筈なのに、そこだけは不思議と心地好かった。
「輪廻の果て……か。私達のような悪鬼にもあると思うか?」
「ありますよ、きっと……」
「……ならば、その果てに辿り着いた時も……共にいてくれるか?」
「……ええ、勿論。ずっと、ずっと共にいますよ」
そう言って、珠世は花が咲くような笑みを浮かべた。
それで、その言葉でもう十分だった。
この期に及んで未だに僅か存在していた死への恐怖が、解けて消えていく。
ああ……ありがとう、縁壱、うた……ありがとう、珠世。
最期に、見苦しい姿を見せずに済んだ。
私は全てを受け入れよう……。
ずっと恐怖し、拒んできた……死を。
ブワアッ!
獄炎が舞い上がり、私達の体を包み込んだ。
もう……恐怖は感じなかった。
次回エピローグ
誤字報告ありがとうございます。
修正しました。