それでも私は死にたくない   作:如月SQ

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リクエストにあった、十二鬼月のお話です。
時系列としてはかなりふんわりしております。
それと、区切りよくあと一話だけかこうと思っています。
活動報告での意見を参考にしたお話の候補のアンケートを設置しましたので、是非投票してください。


月光の集い

ベンッ

 

 琵琶の音が響く。

 広い空間のあちこちに乱立した無数の建築物。

 日の差さない空間に灯る幾つもの灯り。

 そして……私の前に跪く、十二の配下達。

 

「揃ったようだな。ならば……始めるとするか」

 

「はっ……無惨様におかれましても、ご壮健なようで何より……。我ら十二鬼月一同、無惨様の益々のご多幸の為、身を粉にする所存でありますれば……」

 

 代表してか、黒死牟が言葉を紡ぐ。

 いつもの事だが、まったく堅苦しい。

 もう少し肩の力を抜いて接してくれないものだろうか?

 

「……そうか。ああ、面を上げ、楽にしろ。ではこれより、十二鬼月定期報告会を始める。良いか?」

 

『はっ!』

 

 ……誰一人体勢を楽にせず、跪いたままだった。

 何故だ……解せぬ……。

 私は楽にしろと言ったのだがな……。

 

 ……まぁ、いいか、お前達に支障がないなら別に良い。

 そう自分に言い聞かせ、私が最初に視線を向けたのは、下弦の陸、響凱だった。

 

「まずは下弦からだ。響凱、報告を頼む」

 

 この報告会では下弦の数字が大きいほうから順に話して貰うことになっている。

 基本的には命題となっている青い彼岸花の捜索状況、また、それぞれに任せている仕事の経過等の報告をして貰っている。

 とはいえ上弦に遠慮してか萎縮してか、下弦がこの場で話すことはあまりないのだが……響凱は果たしてどんな話を持ってきたのか……。

 

「はっ!とはいえ小生からは特には……ただ今度の入れ替わりの血戦では、小生の負けが濃厚かと……負ける気で挑むつもりはありませぬが、この場に顔を出すのは今回が最後かもしれませぬ。

皆様にはこの場を借り、挨拶を……」

 

「そうか……長年ご苦労だったな響凱。とはいえ演奏会は続けるのだろう?」

 

「はっ、無惨様並びに鳴女様が御許しになられるのであれば」

 

「許す。これからもお前の素晴らしい鼓の音を聞かせてくれ」

 

「ははぁっ!勿論でございます!先程は弱気な言葉を吐いてしまいましたが、此度の戦いたとえ負けたとしても、必ずやまた十二鬼月に返り咲いてみせましょう!」

 

 最後に深く頭を下げ、響凱の話は終わりとなった。

 しかし、響凱が負けを覚悟しているか。

 小説と鼓で手一杯となってしまったからとの事だが……響凱の血鬼術は鬼の中でも稀有な空間に干渉する術、その分本人の戦闘力は控え目ではあるが、有象無象では対処も出来ぬ程に強力な血鬼術だ。

 そんな響凱が負けるか……まあ趣味に傾倒しての結果では致し方ない。

 自分のしたい事をして過ごすのが一番だ。

 折角鬼となり寿命から解放されたのだから、な。

 だが、お前ならまた這い上がることが出来ると信じているぞ。

 

 響凱はそんなところか……次は……。

 

「はい、無惨様。僕から特に報告はないです。迷い込んだ鬼狩りを数人始末したくらいかな」

 

 視線を向けた累から、そんな返答がある。

 その言葉遣いに一部の鬼が肩を揺らすが、私が許可している事を知っているからか態度には表さない。

 ……偉いぞ、誰とは言わんが。

 その真ん中の左目の皺は見なかった事にしておこう。

 

 そうして、下弦の鬼の報告は続いていく。

 とはいえ特に何もない、という報告であるが。

 下弦の肆、轆轤。

 下弦の参、厭夢。

 下弦の弐、佩狼。

 下弦の壱、姑獲鳥。

 

「はい無惨様、私からも特に報告はありません」

 

 最後に姑獲鳥が微笑みを浮かべて、下弦の報告は終わった。

 

「……成程、やはり青い彼岸花は見つからんか」

 

「はっ、申し訳ありません、無惨様」

 

 率先して頭を下げたのは佩狼。

 内心では自身の至らなさに辟易しているようだった。

 

「いや、良い。私や上弦が長年探して見付かっていないのだ。そう簡単に見付かるとは思っていない。あまり気負わなくて良い」

 

「おぉ……ありがたき御言葉……ですがその御言葉に甘えることなく、精進を続けます。必ずや、無惨様のお役に立ちましょうぞ」

 

 生真面目な佩狼らしい答えに、頬を緩ませる。

 あまり無理はして欲しくはないが……自分らしさを取り戻していくのは良い事だ。

 

「はぁい無惨様、私も趣味を楽しみつつ探したいと思います」

 

「姑獲鳥……貴様、無惨様のご命令を無視する気か……?」

 

「そんな事言ってないじゃない。ちゃんと探すわよ。けど、無惨様も言っておられるように、上弦の方々や無惨様が長年探し求めた物を私達のような木っ端ががむしゃらに探しても徒労に終わるだけよ。まったく……頭の硬い野良犬はこれだから困るわ」

 

「……数字がたった1つ上なだけで随分な物言いじゃないか、鳥頭の分際で……」

 

「そのたった1つ上の鳥頭に無様に負けたのは誰だったかしら? 貴方が今生きてるのは私の……延いては無惨様のご慈悲なのを理解していて?」

 

「貴様……!」

 

 ピクリと佩狼の顔が歪んだ。

 確かに以前佩狼は入れ替わりの血戦を姑獲鳥に挑み敗北したが……私から見れば紙一重に思えたがな。

 現に姑獲鳥も強気な態度はとっているものの、内心は荒れているな。

 ……まったく、姑獲鳥の()()は度しがたいが、私に対しては忠誠を誓ってくれている故に、その心配は徒労なのだが。

 佩狼にも困ったものだ、此方も私への忠誠心故の行動だから言い咎めるのも少し躊躇ってしまう。

 

 そうこうしているうちに二人の視線が交わり、その瞳が細められ……二人の間に一触即発の雰囲気が漂い始める。

 やれやれ……実力の拮抗している二人が争えば、無駄に長引き被害が増すか……ここは止めるとしよう。

 

「……お前達」

 

控えろ。無惨様の御前である

 

 そう思って口を開いたが、先に動いたのは黒死牟だった。

 私に首を垂れたまま、瞳だけをにらみ合う二人に向け、大きな声ではないが良く通る圧を感じる声がその場に響いた。

 二人はビクリと肩を跳ねさせ、即座にその場に改めて跪いた。

 

「「ッ! も、申し訳ありません、無惨様!」」

 

 二人は頭を床に擦り付けながら、揃って謝罪の言葉を口にした。

 その内心は黒死牟の発した圧……殺気に怯え、屈してしまっている……。

 ……直接向けられた訳でもない轆轤が、かわいそうなくらいに顔を青くしているな。

 

「黒死牟、もう良いぞ。二人とも充分反省しただろう? 佩狼、姑獲鳥の忠誠心を私は疑っていない。大丈夫だ。姑獲鳥、お前は一言も二言も多い。わざわざ余計な波風をたてるな。わかったな?」

 

 同時に、黒死牟の放つ殺気も霧散していく。

 姑獲鳥と佩狼の二人も圧から解放されたようで、顔色を多少マシにしつつすかさず口を開いた。

 

「「はっ! 承知致しました!」」

 

 よし。

 

「なに、安心しろ。お前達が何をしようと、どうなろうと、私の言い付けを最低限守ればそれで良い。お前達の全ては私が肯定する。好きに生きろ」

 

「「ハハーッ! 」」

 

 感極まった、という様子で二人は更に床に頭を擦り付けた。

 そこまでしなくても良いのだがな……。

 

 なんだ、どうした厭夢。

 ……何? 自分も叱責して欲しいだと?

 お前……頭がおかしいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい! 無惨様、次は私が報告します!」

 

 下弦の報告が終わり、続いて上弦の陸、堕姫と妓夫太郎の二人の番となる。

 いつもは妓夫太郎は堕姫の中で眠っているのだが、この時は堕姫の隣で不安そうに妹を眺めていた。

 

「えーっと、鬼殺隊5人を「6人だ」あっ、6人を始末しました! こっちを疑ってきた訳じゃなくて、客として来たみたいでした! それでそいつら……ふふふふふ……「笑ってんじゃねぇ」あっ、えと、そいつら私を本当に抱けると思ったらしくて……クスクス、無防備になったところを仕留めました!」

 

 妓夫太郎に所々諌められながら、堕姫は報告を終える。

 ふむ……哀れな鬼狩り達だ……。

 鬼殺隊は表沙汰になっていない組織という事で、廃刀令が下っても帯刀し続け、命懸けで事に当たる者達。

 その代わりと言って良いのか、鬼殺隊の金払いは相当に良いらしい。

 そして、人は金を手に入れたら何に使うのか……。

 

 人が生きる為に必要な物は衣食住だと言われている。

 そこに不満がなければ、次に何を求めるのかと言えば『欲』であろう。

 三大欲と呼ばれる、人が生きる上で求めてしまう欲望、食欲、睡眠欲、そして性欲だ。

 堕姫が住み処にしている吉原は色街、女が性を売る街。

 その中でも最高級の遊女、それが堕姫だ。

 金をもて余した鬼殺隊がそんな堕姫を求めるのも……宜なるかな。

 姫は美人だからなぁ……。

 

「私を前にすれば鬼狩りなんて、みーんな骨抜きになっちゃうから、本当に簡単。その首をはねた時のあの阿呆面ときたら……クスクスクス……」

 

 美人なのになぁ……何故こう育ってしまったのか……。

 

「うふふふ……あんな醜い男が私を抱ける訳ないじゃない。鼻息荒くしている様は本当に無様で汚らしくて、あの盛り上がった股――」

 

ベンッ

 

 どうしてこうなったと、姫の育て方について悩んでいると、唐突に琵琶の音が響いた。

 

コンッ

 

「あいたっ」

 

「こら、堕姫ちゃん。はしたないですよ」

 

「あぅ……ごめんなさい、鳴女さん……」

 

 得意満面な堕姫の頭上に小さな窓が出現し、そこから鳴女の拳が飛び出した。

 小突かれた堕姫はその表情をしょぼくれさせ、のそのそとその場で身を正す。

 そして、正座をして俯いた堕姫の頭を、窓から伸びた手が優しく撫でた。

 

「よしよし、良い子ですね」

 

 堕姫は鳴女の手を目を細めて受け入れていた。

 

 鳴女の言う事は大人しく聞く……というか、堕姫に面と向かって注意するのが鳴女しかいないが正しいか。

 どうしても私は可愛がってしまってな……妓夫太郎は勿論、猗窩座も女には甘い。

 童磨や黒死牟はやり過ぎてしまうし、玉壺はそんな殊勝な事は出来ん。

 半天狗は論外だ。

 積怒と可楽……鞍馬と酒呑として生きていたならば注意したかもしれんが、あ奴等は自分達はもう鬼ではないと一歩引いているからな……。

 そして、自分より格下の鬼の言う事など、姫は聞かんだろう。

 甘やかし過ぎたのだろうなぁ……まったく、自分が嫌になる。

 悪いな、鳴女……私は子を育てる才能はないようだ。

 

 視界の端で鳴女が首を傾げ、苦笑しているような気がした。

 

「えー……無惨様、大体は妹の言うとおりです。これからも捜索は続け……鬼狩り共は殺し続けます。妹はバカだからたまに油断して逆襲される事もあるが、俺がいれば大丈夫、です。なんせ俺達は二人で一つ……無惨様の配下十二鬼月の上弦の陸として、負けることはねえです」

 

「ああ、信用している。お前達は立派になった……堕姫の性根は兎も角、お前達の受けた仕打ちは感情のままに色街を壊滅させても致し方無いものだと思っているからこそ、そこに潜み続け活動を続けているお前達を誇りにも思っている」

 

 そこで一度言葉を止め、微笑みを浮かべて二人を見つめた。

 

「私はお前達を信じている。きっと私の夢を叶えてくれると。……とはいえ必ずしも私の為にだけ生きろとは言わんがな。何度でも言おう、好きに生きろ。私はお前達を肯定し続ける」

 

 そう告げて、視線を次に報告する筈の玉壺へと移した。

 ……ん?なんだか二人の顔が真っ赤だったような……まぁ、良いか。

 

「ひょひょひょ……それでは、今季の売上の上納から致しますぞ……取引内容はまた別途纏めた資料に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃいいいい……十二鬼月の集まり……きっと苛められてしまう……ひぃいいい……苛めないでくだされぇえ……」

 

「えー……申し訳ありませぬ無惨様、本体が話にならぬので、我々からお話しさせていただきたく存じます」

 

「とはいえ、特別無惨様のお耳に入れたい情報はありませぬがな。精々がまた鬼殺隊を不意をついて討ち取ったくらいじゃろうか? まったく、本体はまともに戦わせてくれぬから面白くないわい」

 

「黙れ可楽、無惨様のお力になるには本体が危険に晒されぬに越した事はあるまい。そのような顔をわざわざお見せするな」

 

「なにを無惨様の前だからと格好つけとるんじゃお主は。その時先に不服を口に出しておったのは、積怒のほうじゃろうが! 変わらんのぉ、積怒! このええ格好しいが!」

 

ベンッ

 

ガコンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バチバチと視線を交わし、一触即発となった積怒と可楽、ついでに半天狗が鳴女に何処かに落とされた後、続いて猗窩座、そしてそのまま童磨の報告となる。

 

「はっ。いつも通り無惨様の配下にない鬼達の捜索は続けております。その過程で無惨様と繋がりがなく、此方に従う意図もなく、徒に暴れまわる鬼や、理性の無くなった鬼を7匹処理致しました。また、その最中鬼殺隊に襲われた為に3人返り討ちに致しました。炎、風、水の剣士でした。以上です」

 

 簡潔に纏められた猗窩座の報告。

 いつも通りだな……しかし、在野の鬼を処理した数が多いな。

 まぁ、仕方ない……徒に悲劇を振り撒く鬼を看過は出来ん。

 

「ああ、良くやった猗窩座。ご苦労」

 

 流石は猗窩座だ。

 しっかりとそつなくこなしてくれたようだ。

 鬼殺隊とも衝突したようだが、怪我もなく……。

 

 ……頼りになる男だが……また猗窩座の拳を血で染めさせた事が、ふとした拍子に胸に重くのし掛かる。

 今更言ってもどうしようもない話だというのに……まったく、自分自身に呆れてしまう。

 

「はっ、勿体無き御言葉……恐悦至極に存じます」

 

 頭を深く下げる猗窩座を眺めて、私は密かに目を細めた。

 

「はい、次は俺ですね」

 

 そんな猗窩座に続いて、童磨は頭を垂れながらふわりと微笑んだ。

 

「信者を救ってあげる、と言って寿命を迎えた者や寿命間近の者を此方で埋葬するからと、死体を回収する目論見は上手く行ってますね。それ以外は……うん、特にはないですね」

 

 ……ん?

 なんだか童磨の雰囲気が少し柔らかい……か?

 確か、最近は女を一人傍に置いているんだったか?

 何かしらの変化が――。

 

「いやぁ、それにしても流石は無惨様はお優しい! 無惨様配下の力無き鬼達にもこうして人間の血肉を分配されるとは……! 俺の愚かな可愛い信者達もきっと喜んでいますよ! そうだ、回収する年齢をもう少し引き下げても――」

 

「いや、そのままで良い。死にかけている者だけで充分だ」

 

 ……気のせいか。

 いつも通りだったな。

 

 だがまぁ、童磨には助けられている。

 現状存在している配下の鬼達がある程度穏やかに暮らせているのは、童磨による血肉の提供が大きい。

 研究が進み、鬼達の肉体維持の為の食人もその衝動も少なく弱くなってはいるが、ゼロではない。

 故にある程度安定して血肉を確保出来る童磨の宗教という都合の良い存在は有り難かった。

 ……人を家畜にしているようで、不快感は残るが、致し方無い。

 そうしなければ、もっと人の被害は増えるのだから。

 

「二人にはいつも助けられているな。感謝している。これからも宜しく頼むぞ」

 

「ハッ!」

 

「勿論でございます、無惨様」

 

 猗窩座は言葉少なに改めて首を垂れ、童磨は笑みを浮かべてからゆるゆると頭を下げていった。

 ……そう言えば二人は定期的に二人きりで話しているらしいな。

 相性の悪そうな二人であるが、中々どうして、仲良くしているようで何よりだ。

 二人に負担を強いている自覚はある……故にそうやって気分転換が出来ているのであれば一安心だ。

 

 さて……報告会自体は、これで終わりだ。

 後の黒死牟と鳴女は私の右腕と左腕……直属の護衛のような立場だ。

 黒死牟は時折猗窩座と共に出張る事や、鍛練に顔を出す事もあるが、報告会では纏め役をこなしてくれている。

 故に二人はこの場で報告することはなく、ここで報告会は締めに入る事だろう。

 

「以上で……各自の報告は……終わりだ。何か……改めて報告のある者は……いるか……?」

 

 黒死牟はこの場の全員を静かに見渡す。

 先程の威圧と良い、最近は落ち着きを持った言動を心掛けてくれている。

 問答無用で一先ず首を切り落とす、等という前科を持つ黒死牟がそうなってくれたのは有難い。

 鳴女との衝突も減っているようだし、この調子で成長して貰いたいものだ……。

 

「…………ないよう……だな。では……これにて……十二鬼月定期報告会を……終了とする……各自、これからも……無惨様の為に励むが良い」

 

 その言葉と共に、全員が改めて深く深く、私へと頭を下げた。

 皆から感じるのは、心からの忠誠……。

 それを心強く感じつつも、少し居心地悪くも感じていた。

 

 皆の生を歪ませ、私に従属する事を半ば強制し、私の夢の為に利用する日々……。

 それでも私を慕い、尊重してくれている……。

 不自由を強いている自覚はある。

 にも関わらず皆は私にとって都合の良い存在であり続けてくれているのだ。

 本当に……私には勿体無い者達だ。

 

「ああ……皆。改めて、これからも宜しく頼む」

 

 穏やかな心のまま、小さく頭を下げた。

 心からの感謝を込めて。

 

 そうして、定期報告会は解散となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無惨様ー……」

 

「なんだ? 姫」

 

 玉壺の渡した資料を読んでいると、堕姫が私の膝に頭を乗せて横になった。

 特に咎めるものでもないと思い資料を読み進んでいたが、ふと声をかけられ視線を落とした。

 

「撫でてー……」

 

「ああ」

 

 可愛らしいお願いだ。

 資料を左手で持ち、自由になった右手で優しく姫の頭を撫でる。

 艶のある白く長い髪を乱さないように、静かに、ゆっくりと。

 心地良さげに目を瞑るのを見届け、資料へと目を戻した。

 ふ……甘える時は昔と変わらず可愛いものだ……。

 

 さて……それで何処まで読んだか。

 売られた壺の詳細がいちいちかかれているのが鬱陶しいな……えー……この壺は艶が上手く出せて……一度読んだな。

 

「無惨様がお仕事中なのに邪魔するなんて、ガキだね」

 

「は?」

 

 そこでふと、そんな声が聞こえて堕姫の穏やかに細められた目がカッと見開かれた。

 

「あんたには言われたくないんだけど! あんたも無惨様の背中に寄り掛かってるじゃない!」

 

 堕姫は体を起こすと私の背後を指差した。

 

「無惨様のお手を煩わせる君と違って、僕は一人遊びしてるから邪魔してないし」

 

 その先には私と背中合わせに座る、累がいる。

 堕姫が私の膝を枕としたのと同じくらいの時に、そそくさと累もこの場所に座り込んでいたのだ。

 一人で大人しくあやとりをしていたし、そもそもがこれも咎めるものでもないので放っていた。

 

「屁理屈捏ねてばかりねあんたは! もうちょっと私を敬いなさいよ!」

 

「堕姫を敬う……? 何処に敬える部分があるのかわからないな。妓夫太郎様はご立派だと思うけどね」

 

「な、ん、で、私は呼び捨てで、お兄ちゃんは様づけなのよ! 私も上弦よ! 上弦の陸! あんたより格上なんだけど!」

 

「格上……? 僕君に負けたことあったっけ……? 妓夫太郎様が出てきたら負けるけど、君毎回僕の事なめくさって頚切られて泣いてるじゃん。それで偉ぶられてもなぁ……」

 

「ッ……! ッ……!」

 

 累に言い負かされて涙目の堕姫は、口をへの字にして累を震える指で指し示しながら、此方を見つめてくる。

 そんな目で見られてもな……。

 

 入れ替わりの血戦ではない、堕姫と累の模擬戦については累の言う通りの推移だった。

 堕姫は帯を、累は糸を操るという似たような攻撃方法の二人であるが、流石に直接ぶつかりあえば堕姫に軍配があがる。

 そうして有利になった堕姫は調子に乗り、高笑いし、累の罠にかかって頚を落とされてしまったのだ。

 残念ながらその後は妓夫太郎に一方的にやられてしまうのだが、そんな事が複数起きれば出てくる妓夫太郎も段々と堕姫に呆れ始め……直近では妓夫太郎は出て来ても累とまともに戦わず、鍛えるかのようにじゃれあう光景が見られた。

 そう言えば、累が毒持ちの『兄』を増やしたのは妓夫太郎の態度が軟化した頃だったか……?

 

「おいおい……何また泣いてんだあ?」

 

 そこで猗窩座との手合わせを終えた妓夫太郎が怪訝な表情で此方に近寄ってきていた。

 昔なら堕姫が泣いていれば血相を変えて走ってきた妓夫太郎だが……余裕が出来たからか、この場で堕姫を真の意味で害する存在がいないという信頼からか、その足取りはゆっくりとしたものだった。

 

「お兄ちゃん! あいつが! 累が!」

 

「あー……またお前から絡んだんだろ。しかも無惨様をあんまり煩わせるんじゃねえよお前よお……。すみません、無惨様」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる妓夫太郎に、私は手を上げて気にするなと応えてやる。

 実際に気にすることではないからな……資料を読まねばならんとはいえ、甘えられて悪い気はしないからな。

 姫は、なんとも言えない表情で口をもごもごさせている。

 妓夫太郎が全面的に自分の味方でないという事に、衝撃を受けている様子だった。

 

「妓夫太郎様」

 

 すると累がすくりと立ち上がり、妓夫太郎に向き合った。

 背中に感じていた温もりがなくなり多少の寂しさを感じるが……まあ資料を読むのに集中するとしよう。

 さっさとこんなものを読むのは終わらせて、姫を甘やかすのを再開したいからな。

 

「よお累。うちの愚妹が悪いなあ」

 

「別に……妓夫太郎様こそお疲れ様。今回も鍛練?  精が出るね」

 

「ああ、まあ当然だなあ、強くなるに越した事はねえ。お前もやるか? 俺で良いなら相手になってやるぞ?」

 

「……妓夫太郎様が言うならやろうかな」

 

 資料を読み進めながら横目で様子を伺っていたが、妓夫太郎と累は穏やかにやり取りを交わしている。

 ……ふむ、やはり二人の関係は良好か。

 妓夫太郎も存外面倒見が良い……いや、既に立派に姫の兄をしていたのだから、余裕が出れば兄としての面を他の皆に見せるのも宜なるかな。

 互いに認めあっているようだし、良い事だ。

 

「ちょっとちょっと! お兄ちゃんと戦いたいならまず私を先に倒してからよ! ま、今回は? もう? 油断しないけど? さあやるわよ累! 吠え面かかせてあげる!」

 

「……はいはい、わかったよ。堕姫は仕方ないなぁ……」

 

「呼び捨てにしないの! ほら、行くわよ!」

 

「自分で歩けるよ……引っ張らないで」

 

 二人を遮るように堕姫が体を挟み、そのまま累の手を引いて駆け出してしまう。

 ……此方も……態度程仲が悪い訳ではないな。

 ふふ……可愛らしいものだ、子供らしく意地の張り合いといった所か。

 二人の後を呆れた様子でゆっくりとついていく妓夫太郎も合わせて……まるで兄弟のようではないか。

 

 よし、さっさと読み終えよう。

 彼等の勇姿を見学でもさせてもら――。

 

ベンッ

 

スパンッ

 

 その時突如として、開いた窓から飛び出した月の刃。

 あっ、と思う間も無く、手に持つ資料は気付けばズタズタだった。

 窓の向こう、向かい合っていた様子の六つ目の鬼と一つ目の鬼と目があった。

 二人とも目を見開きやってしまった、と言いたげな表情で固まったまま冷や汗を流している。

 私は、手に残った資料の残骸をその場に落とし、ゆっくりと立ち上がった。

 

バサバサバサ

 

「ふぅー……」

 

 ゆっくりと息を吐き出した私は、両手を開き、窓が閉じようとするのに合わせてその手を打ち鳴らした。

 

パンッ

 

 そして、黒死牟と鳴女のいる部屋と繋がる窓が出現し、私はそこに足を踏み入れる。

 顔をひきつらせる二人へと、私は拳を握り締め、それぞれ叩き込むのだった。

 

ゴンッ

 

ドカッ

 

 ……まったく、鬼の中でも最上位である筈の二人がそのようなザマでどうするというのだ……。

 喧嘩こそ止める気はないが、周りに被害を出すんじゃない。

 

 だがまぁ、これが私達の日常。

 騒がしく賑やかで、時折困った事も起きる、そんな日々。

 それでも私達なりに穏やかに、平和に過ごしている。

 

 だが、平和を嘯きながらもその陰で私達は幾人もの人々の命を奪い、糧にしている。

 ああ、やはり私達は、鬼は……罪深い。

 けれどこの穏やかな時間も喪いたくはない。

 

「願わくば……」

 

 この日常がいつまでも続くように、という言葉は口には出せなかった。

 

 遠く、離れた場所で累と堕姫が向かい合ったのが見えて、私は一歩踏み出した。

 資料はもう読める状態ではないし……後で改めて玉壺に提出させるか。

 今は、二人のじゃれあい……模擬戦の応援をするとしよう。

 

 さて……今回はどちらが勝つかな?

 糸と帯を展開し始めた二人を眺めながら、ゆっくりと歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう、あんたが」

 

 目の前に立つ鬼狩り。

 花札のような耳飾りをした鬼狩り。

 猗窩座さんから逃れた鬼狩り。

 ……累を、殺した鬼狩り。

 

「不細工な面ね、自分達が正しいって心底信じている、忌々しい顔……そんな奴等の肉は不味いのよね」

 

 累にはまだまだ借りを返しきれてないのに、この鬼狩りのせいで……。

 ……絶対に許さない。

 

「でもその瞳だけは綺麗ね、殺した後ほじくってその目だけ食べてあげる」

 

 無惨様を悩ませる忌々しい鬼狩り。

 本当にイライラする、見ているだけでムカムカする。

 

「あんたの妹ごと擂り潰してやる! この、十二鬼月上弦の陸がね! 光栄に思いなさい! 不細工な鬼狩り!」

 

 鬼は、みんなあたしの家族みたいなもの。

 だから、あたしの家族を……弟を殺したあんたを、これ以上生かしておけない!

 

「さあ、死んで!」

 

 絶対にここで殺してやる!

 耳飾りの鬼狩り!




誤字報告ありがとうございます。
修正しました。

本当の本当にあと一話だけかきます。

  • 鬼殺隊関係のその後(水、蟲や、霞と日等)
  • オリ主が無惨様の地雷を踏み続けるお話
  • 映画鬼滅の刃完結編地上波同時視聴生放送
  • キメツ学園―悪徳政治家鬼舞辻無惨―(仮)
  • 描写されていない過去(花、風、炎、岩等)
  • 原作黒死牟と今作黒死牟が入れ替わったお話
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