『獣人の国』に変化が訪れ、それは世界の国々にも伝わっていた。
従来、獣人とは多種多様にではあるが力を重視する。部族間で争うのは当然として争いが治まり、獣人を統一する王が現れたかと思えば人やエルフの国へと争いを仕掛けるのだ。
獣人は身体能力は高く、五感も鋭く、運動神経も良く、魔力も高いと戦闘種族と言っても良い程に強い者が殆ど。
争いにおいても最初は勢い良く勝っていくのだが、しかし兵糧の補給などについては考えておらず補給線が伸びて兵糧が届かずに飢えて撤退するという事を今まで、何度も繰り返していた。
そして獣人の中には商売や産業に手を出し、それを通して人間やエルフと交流する者はいた。しかし、あくまでそれは一部族とか限られた物であった。
支配すればと多くの獣人が考えていたからだ……
それが此処、最近『国』単位で産業や商売を営み、人間やエルフの国と交易などをして交流し始めたのである。
政治というものを営みだしたのだ。
「(くそ、くそくそ……どうなっている。これでは益々、手を出しづらいではないか)」
獣人の国が争い以外の本格的な交流をし始めたのを他種族の国々は歓迎したが世界の裏で暗躍する者達は歓迎しなかった。今までは知恵の無い獣人たちを上手く唆して、利用出来ていたし他種族に対して争い以外の交流をしなかったからこそ好き放題、獣人の国で思い通りに動けていた。
「(い、いったい誰が)」
なにより、戦乱を誘発していた筈が僅か数か月でそれが治まったこと自体がおかしいし、今まで放っていた諜報員たちが残らず始末されている事もおかしい。
「だが、獣人たちが血の気に溢れているのは変わらん。部族の一つでも襲って刺激してやれば……この『
世界にて暗躍する組織、『ディアボロス教団』には『ディアボロス・チルドレン』という者らが存在する。孤児や貧しい平民の中から魔力適性を僅かにでもあれば連れ去り、専門の施設で育てる。
無論、まともな育て方ではなく、厳しい訓練と洗脳教育、薬剤投与を繰り返していくのだ。
そうして精神が壊れているが戦闘能力は一般の魔剣士を上回るチルドレン3rd、精神が安定していて3rdよりも高い戦闘能力を有した2nd、その2つを超えた戦闘能力を有し、世界有数の実力者となっている1stとディアボロス・チルドレンは分類されている。
そして、1stと2ndにおいては組織に貢献する事で2つ名を与えられる『ネームド・チルドレン』はいる。
今回、獣人の国をなんとかするべく『ネームド・チルドレン』であるブラアルと2ndに3rd含めた数十人が夜中にて強硬手段に出ようとしていたが……。
「困るなぁ、せっかく人がまともな国にしようと苦労しているのによぉ……」
『!?』
突如、声がかけられたのとその方向を見れば身長にして190ぐらいの巨体で獅子を模した兜と全身鎧、剣を手にした者が居た事に驚く。
今まで何の気配も無かったのに一瞬で現れたからだ。
「お前たち、あれだろ。『ディアボロス教団』って奴らだろ?」
「殺せぇっ!!」
自分たちの存在を知っている事で即排除をブラアルは命じる。大した魔力も感じさせない事と圧倒的な数の差から余裕と思っていたが……。
「話が早くて助かる」
『ぐああああっ!!』
ブラアル以外のチルドレンたちが並の魔剣士を上回る凄まじい魔力を込めた剣閃を繰り出すも相手が繰り出したブラアルですら感知しきれず、目で追いきれない剣閃乱舞にて剣閃ごと切り裂かれながら、3rdも2ndも斬滅されていく。
「……ば、馬鹿な……ま、魔力は大した事ない筈なのに」
そう、敵対する相手から感知する魔力は自分たちより圧倒的に低いのにも関わらずだ。
「重要なのは量ではなく、使い方という事だ。で、どうする?」
「ふ、ふふ……当然、始末するのみだ。この『暴虐』のブラアルを舐めるなよぉっ!!」
ブラアルは部下たちを遥かに上回る魔力を噴出しながら剣を抜く。
「なんなら、薬を使っても良いぞ?」
「あれについても知っているのか……ふ、だがあれを使うのは下っ端だよ」
「そうか、じゃあ本気でやろう」
すると剣と敵対者の身体が液状に変化し、蠕動しながら融合し変形を始めていく。
「は?」
ブラアルが戸惑う中、190ぐらいの巨体だった相手は10歳ぐらいの身長の獅子を模した兜に全身鎧という姿に変化していた。
「さっきまでの姿はスライムを変形させていたオーバーボディーって奴だ。防御力とか体力の消耗の抑制、やろうと思えば色々と変形させての多種多様な戦いが出来るといった点においては優れているぞ。勿論、剣もスライムを変形させていただけのものでこれもリーチと形状を自由自在に変化できるからいろいろと便利だ。とはいえ、形状を変化させるのも維持するのも高度な魔力制御が必要だけどな」
言いながら、徒手空拳にて格闘の構えを取る。
「来いよ」
「……う、うおおおおおおっ!!」
敵対者の威風からブラアルは死を悟った。故に敵対者の誘いに乗り、全力全開で突撃し、剣閃を振るう。
「ふっ!!」
「がばっ!!」
その剣閃は空を穿った敵対者の拳撃によって砕け散り、それと共にブラアルは胸を貫かれたのであった。
「向かってきただけ、大したものだ」
ブラアルを自分の本領である格闘で倒したシドは言葉をかける。
「……そろそろ戻るときだな」
ふと、夜空を見上げながら自らの領地、家について考える。
そう、シドがこの獣人の国に来て一年になろうとしていたのだった……。