カゲノー男爵家の長男として生まれたシド・カゲノーのやる事は一流の魔剣士になる事だけではない。貴族としての地位は一番低い男爵であるが、それでも辺境という領地を任されている。
シドにはいずれ、父の後を継ぎ、領主として領民たちの平穏を守る使命がある。
だが、それとは別にシドにはもう一つ、使命としているものがある。
ミドガル王国は魔剣士が栄えている国であり、地位よりは実力がそのまま評価される国だ。だからこそ、将来的に実力によって成り上がっていく事でカゲノー家の評価も上げていく。
それがこの世界での自分が出来る家族への孝行だからだ。
だからこそ、強さの探求に励みながらも貴族として必要な勉強に励み、礼儀は勿論、処世術を磨き、更に……。
「こんにちは」
「これはシド様、この前はありがとうございました」
領地の街をクレアと共に巡回しながら、領民たちに話を聞いて自分の力で解決できる事ならそのままやったり、資材や設備が必要な時は父親に相談したりして解決にも励んだ。
「父さん、今回も色々と改善するべき事を纏めておいたよ」
更には父親に領地において交通不便なために整備すべき場所やら領民が不満に思っている事等々、そうしたものを纏めて父親に提出したりしている。
「ああ、ありがとう……ふふ、本当にお前は自慢の息子だな。これは父さん、隠居する日は早いな」
「アホな事言ってないで、シドよりもっと働けやっ!!」
呑気な事を言うオトンを妻であるオカンはしばきまくった。
「うふふ、今日もシドは偉いわね」
「あう、お、お姉ちゃん。気持ち良い」
「それはなによりだわ」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして」
シドはオトンの部屋を用件を済ませた時点で瞬時に出るとクレアの誘いに応じて部屋に行き、そのまま揉んだり、摩ったりなど彼女の愛と甘やかしによるマッサージを受け、その心地に身を任せる。
シドの気持ち良さげな表情にクレアは満足げな表情を浮かべ、マッサージをしばらく続けるのであった……。
二
ミドガル王国王都に二人いる王女の一人にして第一王女であり、ミドガル王家の長女の名はアイリス・ミドガル。赤い長髪をツインテールにしている麗しい美貌を有する今年で十二歳の少女だ。
しかし、その見た目とは裏腹に魔剣士としての実力は『天才』と称すべきものであり、才気に溢れている。
現に騎士団の大隊長を魔剣士としての訓練を始めて僅かな年月で一撃で倒してしまう実力に到達さえしてしまったのだから。
このまま成長すればかの『武神』と並ぶほどの魔剣士になる事、間違いなしとさえ言われていた。
そんな彼女は最近、あらゆる大会で七歳という幼い年齢ながら子供の魔剣士の大会で優勝をし続けている将来有望なシド・カゲノーと出会った。王国王都がカゲノー家を評価したからである。
「よろしくお願いします、アイリス様」
「こちらこそ、よろしくお願いしますシド・カゲノーさん」
シドの実力を実際に見るため、アイリスは彼と手合わせをする事になり、城の中庭で対峙する。自分より五歳も年下ながら礼儀がしっかりしているシドに凄いなと思いながら、礼儀を返しそうして木剣を構え合って対峙する。
そして……。
「ふっ!!」
「っ!?」
シドが先手を仕掛け、アイリスが対応をする事で始まった二人の剣舞による応酬が始まった。
「しっ、やっ!!」
「くっ、うう……」
シドの剣舞にアイリスは対応こそ出来ていたが、それは辛うじてで追い詰められ続けていた。
「(こんなにも……)」
彼の剣舞が繰り出す技の一つ一つはアイリスも習得している王都ブシン流のものであり、だからこそアイリスはシドに驚愕する。
模倣自体なら王都ブシン流の門下なら簡単に出来るものだが、彼と同じ精度やタイミングで使うのは不可能であるからだ。
極めるとはこういうものだとばかりに技の一つ一つが恐ろしい程に無駄無く、隙無く、正確無比なものに仕上がっている。
教科書通りという言葉があるが、本当にやってしまえる者の真似は誰にも不可能だ。
しかもシドの剣舞は限界など知らぬとばかりに鋭く、速く、研ぎ上げられて流麗となり魔性の冴えを放っていく。
「(魔力も使わないで……)」
そう、シドは魔力を使っておらずアイリスにも使わせないように駆け引きさえ仕掛けている。必然的に技量勝負となり、そしてアイリスは追い詰められる事となったのだ。
「(お見事ですよ、シドさん)」
その中でシドの技量、それを手にするために積み上げてきた努力の結晶に剣士として敬意すら抱きつつも……。
「ふっ!!」
アイリスは無理やりに魔力を放出し、シドを威嚇しながら後ろへと勢いよく後退した。
「すみませんが、勝たせてもらいます」
そうしてアイリスは剣を構えながら全力で魔力を練り上げる。
「いえ、勝つのは俺です」
シドは静かに木剣を構え……。
「はああっ!!」
アイリスが一気にシドの間合いへと踏み込み、剛閃を振り下ろす。
「ふっ!!」
アイリスが剣を振り下ろした刹那、シドも魔力を練り上げながら木剣に魔力を込め、剣閃を振り上げた。
必然、二つの剣閃が衝突し……。
「……私の負けです」
アイリスの剣閃がシドの振り上げた剣閃に切断された事により、息を吐きながらアイリスは降参した。
「驚きました。本当に強いですね、シドさん」
「光栄で嬉しいお言葉、ありがとうございます。アイリス様」
「っ~~~~!!」
アイリスは本心から敬意や賞賛を込めた言葉を送ったのだが、するとシドは本当に嬉しそうで年齢相応、あどけない純粋な笑みを浮かべながら礼を言ってきた。
剣士としての勇姿を見たかと思えば急に微笑ましく、可愛らしい姿を見せられたアイリスは強烈なギャップにより、心を激しく揺さぶられる。
「アイリス様?」
「ぁ、す、すみません……その、私はもっともっと強くなります。その時は又、手合わせ願えますか?」
「喜んで……それだけでなく、将来はミドガル王国の繁栄のために尽くしますのでよろしくお願いします。アイリス様」
シドは今度は王国に仕える騎士の如き態度で手を差し出し……。
「……っ、は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
また、心を揺さぶられたアイリスは顔を赤らめ、胸を激しく鼓動させながらシドの差し出した手をしっかりと握ったのだった。
「(う、うぅ……なんなんでしょうか、これは)」
アイリスは自分の意識に反して顔が熱くなり、胸の鼓動は抑えられず、シドの顔をまともに直視できない状態に戸惑う。有体に言って、アイリスはシドに恋をしてしまったのだ。
また……。
「凄い……」
ミドガル王国の王女の一人であり、第二王女にしてアイリスの妹であるアレクシア・ミドガル。
長い白銀の髪をツインテールに可愛らしい少女である彼女はシドと同じく七歳であるが、魔剣士としての才能は常人よりは優れているが姉よりは劣っていた。だからこそコンプレックスがあった。
しかし、才能ではなく尋常ならざる努力の結晶で構成されたシドの剣技がアイリスに勝ったのを見て、努力で姉を超えようとしていた自分の理想は正しかったのだと確信。
「ありがとう」
証明してくれたシドにアレクシアは感謝に敬意を抱く。
「大好きよ」
シドの勇姿に見惚れてもいたアレクシアは姉と同じくシドに恋をしたのであった……。