ミドガル王国付近の様々な都市において子供の魔剣士大会で何連覇もしているシドはその武勇を評価され、王都に招待された上で将来は王国王都最強の魔剣士になると言われている第一王女、アイリス・ミドガルとも手合わせして勝利をした。
すると向こうから一週間程、王都で暮らしてみないかと国王であるクラウスから直々に言われ、シドにクレアは王都の城で世話になる事になった。
王国の者達と交流し、気に入られれば将来的に成り上がる際に大きな助けになるので渡りに船というやつだ。
そして……。
「シドさんは私よりも努力家なんですね」
城の中ではシドは姉のクレアとアイリスにアレクシアと共に魔剣士としての訓練をしたり、勉強を共にしたりしている。
公の場ではあくまで普通だが、私的な時間になった際、アイリスは『ご褒美』とか何とか言って、シドを膝に乗せつつ抱き締めたり、頭を撫でたりしていた。
「能力を上げるためには何事も努力するしかありませんから……あう、んぅ」
「ここが気持ち良いみたいですね……それはそうですが、シドさんの場合は一才気を抜かずに集中していて凄いと思います」
シドの身体を抱き締めつつ、アイリスは頭を撫でたり軽くマッサージしながら、彼が心地良くなるようにしていく。
「あ、ありがとうございます。お褒めの言葉も今、こうしてしてくれている事も」
「シドさんは将来、我が国の力になってくれる逸材なのですから当然の事です」
そうしてマッサージを終えると……。
「俺もせめて、これくらいはさせてください」
アイリスから解放されるとシドはアイリスの頭を優しく撫でながら、魔力を放出しアイリスの体内へと浸透させ、心身の疲れを癒していく。
「うあっ、ちょ、シドさん……」
アイリスは戸惑いつつも……。
「(頭を撫でられるなんていつ以来でしょうか)」
久しぶりの温かく、優しい感覚を彼女は受け入れた。
今より幼い頃に父に頭を撫でられた事数回のアイリス。彼女はいずれは王になる者として魔剣士の鍛錬に勉強と真面目に打ち込み、幾つも成果を出してきたがその努力の姿勢が故なのか頭を撫でられたり、褒められたりと言った事がいつの間にか無くなった。
真面目な気質である彼女が故に父に甘えたいと思ってもそれが言えず、自分より素直に父に甘えられるアレクシアの事を羨ましく思った事さえある。
「いつも、お疲れ様です」
「ふ……ん……ありがとうございます(気持ち良い……)」
だからこそ、アイリスはシドの魔力による癒しもあるが久しぶりに与えられる甘やかしを必要以上に受け入れ……。
「……すぅ……」
「おっと……寝ちゃったか」
アイリスは心身が蕩けた事で眠ってしまった。倒れようとしたのをシドは受け止め、自分の膝を枕にしてアイリスを寝かせる。
頭を撫でながらの魔力による癒しを続けつつ、アイリスが安眠しているのを見守っていると……。
「う……はっ、寝てしまっていましたか!?」
「ええ、それはもう気持ち良さそうに」
「ご、ごめんなさいシドさん」
「いえいえ、それだけ俺のマッサージを堪能してもらえたという事ですので」
「そうですね。とっても良かったです」
「なら、良かったです。今後も私的なときはしましょうか?」
「……お願いします」
シドの提案をアイリスは受け入れる。
「(シドさん、本当に優しい……)」
アイリスは内心で更にシドへの想いを強くしていくのだった……。
そして、アイリスの妹であるアレクシアの場合はと言うと……。
「シド、王都を散歩したいんだけどエスコートしてくれる?」
「勿論、良いですよ。どうぞ、アレクシア様」
アレクシアはシドに王都を一緒に廻りたいと言い、シドは受け入れ腕を差し出すと………。
「ありがとう」
アレクシアはその腕を取り、シドの方へと身を寄せた。
シドに対し、アレクシアは積極的な交流をすると共に甘えに甘えていた。
「シド、もっともっと名を上げて、早く私や姉様の傍にいられるようになってね」
「勿論です。王国で働けるくらいになれば両親や姉さんにも良い思いをさせられますから」
「シドには私と姉様が良い思いをさせてあげる。だから頑張ってね」
「ええ、頑張ります」
そんなやり取りをするシドとアレクシア、そうして期間はまばらであるがシドとクレアが王都に呼ばれたり、アイリスとアレクシアがカゲノー家の領地視察という建前で訪れるなどしてシド達は交流を続けるのであった……。
二
きっと、父の言いつけを守らなかったから罰が当たったのだ。
今日、父の公務でミドガル王国を訪問したのだが滞在先で父が帰ってくるのを待つだけなのに痺れを切らし、滞在先から抜け出し、王都内を歩くと見つけた平民の子供たちと遊んでいた。
すると視界が暗くなり……。
「良い獲物、発見だぜぇ」
「(ごめんなさい。お父様、お母様)」
その言葉から自分は誘拐される事を悟り、気を失う中で両親へと謝った。
そうして彼女は賊によって攫われ、袋の中に入れられた状態で王都の外に置かれていた馬車へと商人とその護衛だと装って王都へと侵入した数人の賊たちに運ばれ……。
「ふっ」
「っ!?」
しかし、袋を積もうとしていた賊から空気を叫喚させながら爆発的な勢いで走った何かがひったくり、そうして賊たちから少し離れた場所で着地し、袋を開ける。
「危ないところだったな」
「っ、え? あ……」
王都へと家族と共に入ろうとしていたが魔力感知に妙な動きがあったので急行し、人攫いを阻止したシドは蜂蜜色の髪をロールにした美しい容姿に身なりの良い服装を着た少女へ手で触れ、魔力を送って意識を覚醒させた。
「話は後です。ひとまずそこにいてくださいね」
「は、はい」
呼びかけるとシドは賊たちの方へと向き直り……。
「てめぇ、ガキが……良くも邪魔をしたな」
「おいおい、その木剣で相手をする気か」
「所詮はガキだな」
賊たちは邪魔をされた事に怒りながらもシドが佩いている物が木剣であるのを見て取ると嘲笑した。
「いやいや、そちらこそ知らないようだ。刃となるのは鋼だけじゃないという事を」
『訳の分からない事、言ってんじゃねえっ!!』
シドが木剣を抜きながら、言うと賊たちは襲い掛かり……。
「良く練った魔力を緻密に込めれば、木は愚か、紙でさえも肉を切り、骨を断てるっ!!」
『嘘だろぉぉぉぉぉっ!?』
シドは流麗な舞いの如く動きながら剣を振るい、賊たちの剣を次々と破壊しながら賊本人の身体は浅く切り裂きつつ、剣圧の衝撃によって賊たちに『切られた』と錯覚させる事で気絶させるのであった。
「(恰好良い)」
賊と戦うシドの勇姿に少女は姫を守る騎士の姿を幻視しながらも胸をときめかせつつ、見惚れる。
「(それに綺麗……私もあんな風に)」
更に少女はシドの流麗な体捌きと剣捌きによる剣舞が放つ美しさにも見惚れていて、自分もああいう事が出来るようになりたいと強く思うのだった。
「さて、俺の名前はシド・カゲノーと言います。貴女のお名前を聞かせていただけないでしょうか?」
「……あ……えっと、助けて頂きありがとうございました。シドさん……わ、私はローズ・オリアナって言います」
シドが少女へと近づき、自己紹介して名前を聞くと少女は名乗る。
少女の名前であるローズ・オリアナ――それはミドガル王国の同盟国であり芸術方面に力を入れている事から『芸術の国』と呼ばれるオリアナ王国の王女の名であった。
「(本当に間に合って良かった……)」
ミドガル王国王都でオリアナ王国の王女が攫われたとなれば両国間において大きな国際問題になる事必然。それを未然に防げた諸々の幸運にシドは感謝したのであった……。