『獣人』――読んで字の如く、獣の因子を有する人間の種族だ。獣に様々な種族がいるように獣人にも犬族や猫族といった形で様々な種族というよりは部族がいるのだ。
基本的に獣の特性も有するのでフィジカルは高いし、五感も鋭いだけでなくエルフに負けず劣らず、魔力も高く、寿命も長い。更にはなにより、繁殖力も高かった。
もっとも基本的に弱肉強食が絶対の価値観である。なので人やエルフの国に戦争を仕掛けもするのだが、基本攻める事しか頭にないので補給の事を考えておらず、そうした面で撤退に陥る事が殆どである。
一応、戦闘能力は低いが知恵はある種族もいたりしてそうしたものが産業に力を入れたりして獣人の国は一応、法治国家として成り立っているのだ。
実はそんな獣人たちの領域はカゲノー家の領地にある山を越えたところにある。なので獣人たちがカゲノー家領地に侵入する事もままあるのだ。それに最近、獣人たちの国が荒れているが故か落ちぶれた者やら野盗化した者が現れるので要警戒していたのだが……。
『どうやら獣人たちが騒がしいようなので修行がてら、鎮圧しに行ってきます。一年くらいで帰ってきます』
九歳となったシドがその書置きを残して消えた……。
「ふふふ、うふふ……シド、帰ってきたら……アイリス様とアレクシア、ローズにも言わないと……」
書置きには一生のお願いだから旅に出る事を許して欲しい事と帰ってきたらお仕置きなり、命令なり出来得る限り、なんでもする事を誓うと書いてあった事でクレアはとりあえず許したが、その分帰って来た時にどうするか想いを馳せていた。
しかもアイリスにアレクシア、ローズとも共有するつもりであるため間違いなく大変な事になるし、それはシドの予想を遥かに超える事は間違いないのであった……。
二
獣人の国には戦乱が訪れていた。獣人の国を纏めていた大英雄シヴァが倒れたからであり、力のある部族は他の部族を侵略し、シヴァの英雄としての座を勝ち取ろうとしていたからだ。
そんな中でそれぞれ違う部族どうしで繋がり、力のある部族からの侵略に対抗し、戦乱の世を生き抜こうとしている部族もいた。
力は無いが、知恵のある妖狐族と知恵は無いが力のある大狼族もそうであった。
しかし、大部族の衝突に巻き込まれどちらかに味方するよう選択を迫られてしまう。だが、妖狐族と大狼族はこれにどちらにも味方せず、敵対しない選択をする。
結果……。
『殺せ、殺せぇっ!!』
『うわああっ!!』
大部族は妖狐族と大狼族を標的とし、侵略を開始した。そうして蹂躙されていき、滅ぼし尽くす勢いだったが……。
『……っ!?!?!?!?』
大部族の獣人と妖狐族、大狼族は獣人特有の勘により途轍もない強者としての気配を察知し、動きを止める。
「……来い、相手をしてやる」
そうして小柄な体型に獅子をそのまま兜としたものを被り、全身鎧を纏った者が凄まじい戦意を放ちながら王者の如く歩き、止まって大部族たちへと告げる。
「ぐ……うがあああっ!!」
大部族の獣人たちは獅子の戦士へと向かっていき……。
「ふっ!!」
縦横無尽に動き回りながら、拳と蹴りによる戦舞を繰り出し次々と自分に向かってきた獣人を破砕する。
「がはっ!!」
『ひ、ひいいっ、こ、降参する。貴方に従う』
侵略部隊のリーダーもあっけなく、腹部を穿たれながら吹っ飛んだ事で部下たちは戦意を喪失、弱肉強食の理に従い獅子の戦士に従う意思を示した。
「……良いだろう。なら襲っていた者達の救助をしろ」
『は、はい』
そして獅子の戦士の指示に応じ、行動を開始する。
「話は後だ。生き残った者達で治療に専念しておけ」
『はい』
呆然としていた妖狐族と大狼族の生き残りは自分たちを救った存在の指示に従った。
そして、次の瞬間には地面を大きく砕くと同時、凄まじい衝撃波を発生させながら、姿を消すのだった……。
三
妖狐族と大狼族を大部族の侵略から救った獅子の戦士の装備は魔力を流し操る事で姿形は自由自在に変化させられ、纏っても液体なので重量は無く、しかし魔力を伝導して強化すれば硬度や強度が幾らでも増大するスライムを兜と全身鎧へと変化させたものだ。
「(想像以上に使い勝手が良いな、本当に)」
そして、それを使っているのは獣人の国における戦乱の世を鎮めつつ、信用の出来る獣人をトップにして良い関係を築こうと計画しているシドである。
彼は魔力感知で逃げている者を追っていたのだが……。
「不味いっ!!」
逃げていたのは大狼族の男と妖狐の女性であったが、何かあったのだろう。大狼族の男が妖狐族の女を剣で切り裂こうとしていた。
「ふっ!!」
籠手に包まれた右拳に緻密に魔力を込めて拳撃を放つと共に魔力を解放。これにより、空間を貫きながら拳撃が射出される。
「ぶぐぅあっ!?」
大狼族の男は顔面に拳撃を直撃され、顔に深い損傷を受けて吹っ飛びながらも受け身を取り、そのまま逃走を開始した。
「……あ、貴方は」
呆然としながら、白い毛並みに狐の耳と尻尾を持つ美しい女性がシドへと尋ねる。
「俺はこの獣人たちの国から山を越えた所を領地にしているシド・カゲノーです。危ないところでしたね」
「人間のこ、子供……いえ、危ないところを助けていただきありがとうございました。シドさん。私はユキメと言います」
ユキメは兜を変形させて素顔を露にしたシドに戸惑いながらも礼を告げ、名乗った。
「ユキメさん、一先ず村に戻りましょう。まだ貴女の同族とさっきの男と同じ種族がいますよ」
「そ、それじゃあ私に似た人……母上は?」
「残念ながら……」
「……母上……月丹、どうして……う、く……」
「……」
シドはひとまず、悲しみに暮れるユキメの傍にいて出来る限り、慰めたのであった……。