『聖地リンドブルム』には壮麗な聖教会が建設されている。
英雄の一人、オリヴィエが魔人ディアボロスの左腕を切り落とし、聖教会からさらにその先、切り立った山肌にある遺跡が『聖域』に左腕を封印したという伝説がある。
そして夏の時期にはその聖域の扉が開き、『女神の試練』が開催されるのだ。
故に聖教会はその準備も含めて夏の時期は大忙しである。だが、今回はもっと忙しい。
「今回、査察を担当する『紅の騎士団』です」
「王女様直々の査察とは……怖いものですな」
なにせ何度か行われるミドガル王国の騎士団による査察もこの時期に行われるからだ。
しかも今回はミドガル王国の第一王女であるアイリスが団長であり、副団長はグレンという最近出来たにしても少数精鋭な騎士団こと『紅の騎士団』である。
この聖教会を任されているのは大司教のドレイクであり、いつも査察は騎士団に賄賂を贈ったりなどしてしのいでいたが、今回はそれが通じそうにもない。
そもそも、今回は自分が色んな悪事をしているのが噂になってしまった。そうならないように徹底していたのにも関わらずだ。
急いで悪事がばれないように証拠の秘匿などを裏では行っているがアイリスたちは油断できない人物であるため、更に気をつける事を誓った。
ただでさえ、ドレイクにとってはストレスがかかる要因があるのだ。だが、それに加え……。
「今回も『女神の試練』楽しませてもらいますね。ドレイク大司教」
「え、ええ……聖女様を満足させられるよう、尽くしますとも」
異端審問を務める『テンプラー』を束ねる主にして『聖女』と呼ばれる程のカリスマやそれに伴う実力を有しているウィクトーリア達とも交流しなければならない。
「ドレイク大司教も大変ですね、良からぬ噂が出てきて……私は貴方の立場を妬んだ者の仕業だと思っていますよ」
「あ、ありがとうございます」
やはりというか、噂については聞いているようでドレイクはウィクトーリア達『テンプラー』から異端認定されないようにしなければならないので、『紅の騎士団』と含めて気を付けなければならない事が山盛りである。
「くそ、どうしてこんな事に……うあ、か、髪の毛が抜け……」
どうしてこんなしんどい目に自分が遭わなければならないのか愚痴を吐きつつ、堪らなくなったので頭を描いたのだが、何と髪が抜けてしまった。
一瞬、補佐にやって来たネルソンの様にハゲてしまうのではないかと恐怖しつつ、ふと部屋の周囲を見渡せば……。
「うあ、お、お前は!?」
近づく気配も、存在感も無く、剣を構えた処刑人ともいうべき存在がドレイクの部屋の中にいた。
「や、止めろぉぉっ!!」
ドレイクへと処刑人が迫り、刃を振るったが……。
「流浪の剣士、ヴェノム……本来ならこの世界に名を残す剣士になれたろうに処刑人をさせられるとはな」
『っ!?』
その処刑人が振るった刃を黒い獅子の仮面と全身鎧を纏ったシドが一度受け止めつつ、そのまま押し返し、吹っ飛ばした。
処刑人であり、かつては流浪の剣士ながらに名を馳せたヴェノムは吹っ飛ばされながらもうまく態勢を整えて着地する。
「来い」
シドが剣を自然体で構えて誘うと……少しして、ヴェノムがシドへと迫り……。
「……ありが……」
「礼には及ばない」
シドが魔力の残滓と剣気を浴びせながら、一閃を振るいつつヴェノムの身体に掠らせる。ヴェノムは『斬り殺される』感覚を経験しつつ、シドの超絶技巧によって一瞬、正気を取り戻しながらも強烈な感覚の衝撃によって死んだのであった。
「……た、助けて「別に助けたわけじゃない。お前に役に立ってもらう必要があるからな」」
ドレイクはシドに感謝するものの、シドは冷酷に告げてその手をドレイクの頭へと魔力による光を発しながら、伸ばすのであった……。