プロ野球選手 モンティナ·フォン·シュトロハイム   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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1968年 惣流院武士という男 1968年シーズン終了

 トレードで来たこの男、惣流院武士という名前は凄そうであるが、パ・リーグの堺トレーズで1軍と2軍を行ったり来たりしていた1.5流の選手である。

 

 ナ・リーグに来て直ぐに通用するかと言ったらそうではなく、吉田監督からトレード直ぐに試験登板として3試合に中継ぎで投げたが、ものの見事に試合をぶっ壊し、2軍に幽閉されることとなる。

 

 これだけ見ると失敗トレードであるが、惣流院は2軍でシュトロハイムがウェイトトレーニングを推奨し、今年のレギュラー陣が実践していると知るとウェイトトレーニングと水泳を行う練習を取り入れた。

 

 更に二軍投手コーチから投げ方が汚いと言われ投げ方の修正にも取り掛かり、竹の棒を短く切った(約30センチほど)棒を体に当たらないように頭の上で回転させて振り下ろすという独特なフォーム修正方法をどこからか仕入れてきて実践。

 

 そのおかげか体の一番高い位置から投げ下ろすオーバースローに変わり、肩の可動域もプールトレーニングと合わせて広がった。

 

 ただ彼自身ストレートとカーブしか投げられないことを気にしており、二軍で色々試してみるが、当時は大きく変化するのが良いとされていた時代なので、大きく曲げるために無理をしてフォームが崩れ、修正するという繰り返しになってしまっていた。

 

 再び1軍に上がったのは8月で、チームは3位と4位を行ったり来たりしていた。

 

 というのも球宴後の夏場にスタミナ切れをチーム全体で起こし、シュトロハイム以外は成績を落としてしまっていた。

 

 1軍の投手を休ませるために惣流院が呼ばれ、フォーム修正によりまずまずの結果を残せたが、このままではいけないと活躍している年下の投手達に土下座をして変化球を教わるというプライドを捨てた行動に出る。

 

 宮永、西園寺、園城寺の3人は変化球を教えるが、どうも握力不足が変化球が上手くいかない原因ではないかと指摘され、シュトロハイムに握力を効率良く鍛える方法は無いか聞いた。

 

 するとシュトロハイムは鉄アレイを惣流院に渡してリストカールのやり方を教えた。

 

 握力は手のひらの筋肉と誤解されやすいが、手首から肘にある前腕筋群という筋肉の集合体の伸縮が握力に反映されるため指を鍛えるという誤ったやり方(一升瓶に砂や水を詰めて指の力で上げ下げする等 指を怪我するだけでなく手首を痛める危険性が高い)が広まっていたが、シュトロハイムは筋肉の付き方について説明をし、変化球を投げるならと色を塗った野球ボールを惣流院に渡した。

 

『変化球は指先の押し出したり抜いたりする感覚と手首押し込み、肘の使い方で球の回転方向と回転数をコントロールすることで曲がります。なのでこの球を使って回転の軌道を確認しながら練習するとキレが良くなりますよ』

 

 とアドバイスを行った。

 

 再び2軍に落とされた惣流院は後輩投手陣やシュトロハイムのアドバイスを聞いてトレーニングを行い、翌年の活躍に活かすことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、前年野手四冠(最優秀遊撃手を含めれば野手五冠)を達成したシュトロハイムは今年も打率4割半ばと出塁率5割をキープしていた。

 

 ホームラン数は前半戦の時点で35と昨年よりは少し劣るものの、特筆すべきは盗塁数と敬遠数である。

 

 シュトロハイムはチームの順位が上がった影響もあり、敬遠数が前年から倍増しており、前半戦だけで55個もの敬遠攻めにあっていた。

 

 これは今までのシリーズ最多敬遠が45なので前半戦で既に超えていた。

 

 それだけシュトロハイムが警戒されていたのだが、シュトロハイムには足もあるし、この時代クイックがまだ導入されていない時期である。

 

 投手の牽制する時の癖さえわかれば盗塁し放題であり、前年に既存の投手の牽制する時の癖はある程度把握したため、盗塁数が激増。

 

 敬遠数を上回る73盗塁(うち3盗10回 三塁への盗塁 二塁への盗塁より遥かに難しい)をシリーズ前半で達成する無双状態が継続。

 

 筋肉の質的にシュトロハイムはパワーバッターよりもスピードタイプであり、規格外のパワーよりも打球を体の一番近い位置で捉える現代のメジャーリーガーの打撃理論に基づいたインパクトとバットの真芯と球を合わせるバットコントロールの両立によりホームランを量産していた。

 

 勿論日本人が付きにくい筋肉が発達しているという民族的特徴もあるが、クイックの無い、牽制も技術的未発達という状態であれば盗塁し放題であった。

 

 他チームもシュトロハイムをどう抑え込むか研究を続けており、ある投手は故意死球覚悟で投げ、萎縮した所に外角低めに投げて三振を取ろうとしたが、故意死球の球を体を開きながら二塁打にされ、時にはホームランにされてしまい失敗。

 

 ささやき戦術を駆使して動揺を誘おうとした選手もいたが、逆に投手が投げる球種を言い当てられてホームランにされるという離れ業をやられ、逆に動揺した所を連打され返り討ち。

 

 極端な外野手4人の守備のシフトを敷こうものならプッシュバントで守備の空いた位置に転がされて悠々とヒットにされたり、普通にホームランを打たれて粉砕されていった。

 

 しかも出塁されれば走者として投手を揺さぶってくるから溜まったものではない。

 

 特に7月7日の七夕の日の最終回に起こったシュトロハイムサヨナラ本盗(ホームスチール)事件が有名である。

 

 敬遠で出塁したシュトロハイムはギャンブルスタート(牽制されないと踏んで投手が動いた瞬間にスタートする技術)で牽制された間に二塁に進む離れ業をやり、投手の動揺を誘うと、暴投で三塁にシュトロハイムは進塁、そして5番打者に投じた4球目、京都側の吉田監督はスクイズの指示を出しており、シュトロハイムはその回二度目のギャンブルスタートを行い、スクイズは失敗したのだが、右打者の外角···打者から見て右、投手から見たら左に逸れた球は捕手が捕ったものの、シュトロハイムが既にホームスチールに成功しており、歩かせた場合でも足だけでシュトロハイムは帰ってくる可能性があることを示すエピソードになった。

 

 苦肉の策として前の打者の大星も四球にして二者連続敬遠で塁を埋める作戦を取ったチームもあったが、そういう時に限って後ろに控える選手が打つ為に、大量失点のリスクが高いと後半戦以降されることは無くなっていった。

 

 ナ・リーグ全チームが出した結論はシュトロハイムに点数を取られるのは仕方がないから、それ以上の得点を取り投手の援護をするというチーム全体の総合力で勝つという野球であった。

 

 怪物打線の北海道はこれに成功し、首位を独走、後半戦で若手ばかりのチームは経験不足とスタミナ不足(シーズン全体を戦うためには力をセーブしたり、どこかで抜く必要があるのだが、全力プレーを行い続けた京都タクシーズはガス欠を起こしてしまった)で、急失速。

 

 4連敗、3連敗、3連敗と間を挟んで小さな連敗を繰り返してしまい、8月中に借金生活に突入。

 

 吉田監督は特に疲労が蓄積していた投手への継投作戦や新人の大星を休ませて控え選手で穴埋めを行ったが、選手層が貧弱な京都タクシーズはそのまま押し切られてしまい、結局このシーズンは4位で終えることとなってしまった。

 

 ただ着実に若手の育成は成功しており、大星を筆頭に終盤からライトに定着した増田はシュトロハイムと同期の2年目で合同自主トレ組、サードに定着した染岡は3年目の21歳の選手であり、分業キャッチャーの安田と三好は二人三脚でシーズンを欠けることなく戦い抜き、安田が75試合、三好は80試合で継投時に捕手交代などで二人が前半後半で同じ試合でマスクを被ることもあり、成功を収めた。

 

 赤羽も大成功であり、シュトロハイムと黄金の二遊間を形成。

 

 ただセンターとファーストがこのシーズンでも固定できず、投手も宮永、西園寺、園城寺の3人が頑張ったが、中継ぎが炎上して試合が壊れる場面があり、中継ぎが信用できないと長いイニングを先発の3人を無理に引っ張って終盤に打ち込まれる展開が多くあった。

 

 チームの最終成績は4位。

 

 62勝65敗3引き分け借金3。

 

 主要メンバーのこのシーズン成績であるが

 

 赤羽 打率.304、2本塁打、15打点、37盗塁 規定打席到達

 大星 打率.297、18本塁打、48打点、10盗塁 規定打席到達

 安田 打率.289、25本塁打、62打点

 三好 打率.301、5本塁打、38打点、6盗塁

 

 宮永 防御率2.14、15勝10敗、120奪三振

 西園寺 防御率2.09、17勝9敗、108奪三振

 園城寺 防御率2.37、18勝12敗、217奪三振

 

 であった。

 

 

 ちなみにシュトロハイムはシーズン最多の189四死球(犠打19)により打率.544、出塁率に至っては.728である。

 

 192安打、68本塁打、219打点、152盗塁と1人だけ別競技をしている。

 

 5割、50本塁打200打点、150盗塁と未来の5倍ニキもニッコリの成績を残したが、契約なのでこんな選手が500万円の年俸である。

 

 京都ではシュトロハイムを神様扱いしてシュトロハイム人形が発売されたり、京都駅にファンが有志でシュトロハイム銅像を建立したりと現人神扱いをされていた。

 

 シーズンを終えて記者から来シーズンに向けてインタビューをされた際シュトロハイムは

 

『来シーズンは優勝以外敗北。2年間···いや、長年低迷し続けてきたチームを応援してきたファンの皆さん、京都の皆さんの為に必ず優勝を届けてみせます! プルス·ウルトラ!!』

 

 と宣言し、会場を沸かせた。

 

 

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