プロ野球選手 モンティナ·フォン·シュトロハイム   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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1967年夏秋 球宴 1967年シーズン終了 

 夏の球宴···オールスターゲームは特別な試合である。

 

 活躍すれば豪華な賞品が貰えるというのもあるが、ナ・リーグは普段テレビに映らない為、テレビに映って活躍し全国に名を轟かせることができる機会でもあり、パ・リーグしか知らない野球ファンからはナ・リーグにどんな選手がいるのか知る機会でもある。

 

 最も、ここ数年は東京ナインズの長尾と大玉という二人のスター選手(通称ON砲)が目玉とされ、ナ・リーグの選手達は二人を倒すために並々ならぬ覚悟を持って球宴に挑んでいた。

 

「ナ・リーグに物凄い外国人がいるらしいで」

 

「本当か?」

 

「シュトロハイムっちゅうドイツ人らしい」

 

「ドイツ? 野球は強くないよな?」

 

「20歳ながらもう40本超えのホームランを打っているナ・リーグの怪物やな」

 

「球宴でせっかくだから観ようか」

 

 という観客も多く、球宴の球場は瞬く間に埋まっていった。

 

 迎えた東京での第1戦、パ・リーグ投手は大阪タイガーズのエースである村下、ナ・リーグ投手は北の怪物真皿を投入。

 

 シュトロハイムは5番を任されたが、1回は4人で抑えられて出番は無く、1回裏の守備で魅せる。

 

 東京の長尾が放った強打をサードがパスボール。

 

 誰もがセーフだと確信したが、パスボールを右手で拾ったシュトロハイムはファーストの胸にサイドスローからの剛速球でアウトにする。

 

 実況が

 

『これがドイツからの秘密兵器! まるで戦車の大砲のような送球で長尾選手をアウトにします!』

 

 と興奮気味に話す。

 

 三人で抑え、2回表の攻撃。

 

 シュトロハイムが打席に立つと初球外角低めに投げられたストレートをバットを寝かせながら振り抜くと、ライトポールに真っ直ぐ打球が飛んでいき、ポールに直撃。

 

 球宴初出場、初打席初球ホームランという快挙を達成。

 

 ホームベースを踏んで右手を掲げてプルス·ウルトラと叫ぶと球宴は地響きの様な歓声が巻き起こった。

 

 8回の守備でもシュトロハイムからビッグプレーが飛び出す。

 

 長尾が打った長打をシュトロハイムがセンターの定位置付近まで中継プレー(投げる距離を分割することでより早く目的の場所まで投げること、肩が弱い選手には強い選手が負担を分散したりもする行動)に入り、ボールをセンターから受け取るとバズーカの様な送球でホームベースに突入しようとしていた走者が野町のブロック(この時代は普通にキャッチャーにタックルが行われていた)で走者はタッチアウトになるファインプレーを披露。

 

 初戦は先発の2人が試合を作ったが、中継ぎが双方炎上し、ナ・リーグが8点、パ・リーグが5点の乱打戦となり、ナ・リーグが勝利を収めた。

 

 

 

 

 

 続く2戦目、シュトロハイムは最終回5対5の同点の時に代打で出場。

 

 満塁ながら2アウトで、ヒット以上か四球で勝利、打ち取られたら負けという場面。

 

 シュトロハイムは初球を見逃し、2球目のカーブは外れてボール。

 

 3球目の高めのストレートも外れてボール。

 

 ヒッティングカウントと呼ばれる1ストライク2ボール。

 

 投げられたのは少し高めのカーブ。

 

 バゴンと当たった瞬間にシュトロハイムは両手を上げてバットを投げる現代で言う確信歩きをするとレフトスタンドの上段に突き刺さり、サヨナラ満塁ホームランとなった。

 

 ナ・リーグのベンチや球場は大盛りあがりであり、インタビューで打席について記者から聞かれると

 

『止まって見えた。究極の集中状態でしたし、あの場面なら変化球を投げて打ち損じを狙うと山を張ったので当たって良かったです』

 

 とシュトロハイムは答えた。

 

 3試合目ではホームランは無かったものの、猛打賞(3打席ヒットを打つ)で4打点を獲得し、ナ・リーグがパ・リーグを3タテし、勝利を収める。

 

 球宴が終わり、表彰式。

 

 勿論MVPは3試合で2本のホームランを含む11打点を稼いだシュトロハイムであった。

 

 シュトロハイムにはMVPの賞品としてテレビと冷蔵庫が贈られた。

 

 当時はどちらもまだ高く、普及率も50%前後であり、高価な家電を贈られたシュトロハイムは大喜び! 

 

 副賞の金一封(現金10万円)はシュトロハイムの3ヶ月分の給料に匹敵し、シュトロハイムはその金で株の投資の積立を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 球宴でも大活躍であったシュトロハイムの人気と知名度は更に上がり、後半戦、自力優勝が消滅してもシュトロハイムを観るために球場に多くのお客さんが詰めかけた。

 

 そうしたお客さんはシュトロハイムのホームランを観たいので敬遠されればヤジと罵声が飛び交う。

 

 その為敬遠がし辛い環境であったが、8月上旬の岐阜ナイツとの試合。

 

「この試合で打てば日本記録の55本(塁打)だったか? 打たせてやるから三球目のストレートを狙いな」

 

 と野町がボヤく。

 

 シュトロハイムは2球連続でストライクを取られ、迎えた3球目。

 

 投げられたのはフォークであったが

 

『だろうね』

 

 と裏の裏を読んでいたシュトロハイムは掬い上げてスタンドにぶち込んだ。

 

 唖然とする野町に

 

『野町さん、私にボヤきは効きませんよ』

 

 と言ってから塁を回った。

 

 最初は大玉のホームラン記録を抜かせまいと躍起になっていたが、甘い敬遠のボール球をホームランにするという離れ業をやったことやシュトロハイム以外の打線が全く怖くないので8月中旬から再び勝負になることが多くなり、シーズンが終わる。

 

 132試合フル出場し、1番、2番、3番、4番を行ったり来たりしながらもショートの守備は固定され、最終成績は打率4割5分4厘、302安打75本塁打、155打点、出塁率5割4分7厘、72盗塁。

 

 勿論首位打者、本塁打王、打点王、盗塁王の四冠を達成。

 

 守備での失策数もショートだと一番少ない2だった事もあり最優秀遊撃手にも選出された。

 

 打点(当時の最高記録が161打点)と盗塁(最高記録は74盗塁)以外は日本歴代最高の記録であり、そんなシュトロハイムが居た京都タクシーズのシーズン成績は···

 

 40勝88敗引き分け4の借金48の6位で終了。

 

 勝率3割とんで3厘、総得点が歴代最低の285点シュトロハイムの打点を抜くと130点しか入ってないのでお察しである。

 

 孤軍奮闘ってレベルではなくシュトロハイム個人軍であった。

 

 チーム防御率は3.45とまずまずであるが、チーム得点率が2点台なので負けが増えてしまい、2桁勝利をした投手も居なかった。

 

 この時代投手···特にエースは40登板、50登板して当たり前の時代であり、ローテーションという概念も無い様な時代なので2桁勝利投手が居ないのは異常である。

 

 ただ絶対的エースが不在の為、その日調子の良さそうな投手を起用するローテーションの先駆けとも言えるものを図らずとも行った結果比較的まともな防御率に落ち着いたとも言える。

 

 ちなみに優勝は新潟ビートルズであり、2位山口ホエールズ、3位北海道モンスターズ、4位長崎スターズ、5位岐阜ナイツ、6位京都タクシーズであった。

 

 日本シリーズは東京ナインズのV3で終わる。

 

 6位でシーズンが終わった1週間後には秋季キャンプが始まり、日本シリーズ最中でも京都タクシーズは本拠地の船岡山球場で合同練習が行われていた。

 

 前原コーチに1シーズン成績を残せたら越権行為を認めるという約束をしていたので、吉田監督にも許可を取り、同期や年下、仲の良い先輩の野手を中心に技術指導を行った。

 

 ある選手は体の軸、体幹がバラバラなので体幹トレーニングをしながら頭がブレない打撃フォームを模索したり、体重移動が下手で球が飛ばない選手には体重移動のコツを、足が速いがパワーが無い選手には走り打ちを伝授したりもした。

 

 シュトロハイムはキャンプ中に話を聞いてくれる選手を見つけて、彼らとキャンプ後も合同自主トレーニングを行う約束をする。

 

 嫌な顔をする選手も居たが、殆どの選手はシュトロハイムがシーズンで伝説的な記録を作った為に真摯に話を聞き、特に筋力アップの為にウェイトトレーニングをすることを推奨した。

 

 素振りでも筋力は付くが、効率が悪く、成績が死んでるのでこれ以上下は無いのだからとウェイトトレーニングをシュトロハイムが手本を見せながら行ったり、水泳は体を冷やすから野球には向かないという迷信を

 

『幼少期から池で水泳ばかりをしていた』

 

 とシュトロハイムが言い、水泳は体の筋力を故障するリスクを最小にして付けられるし、スタミナや肺活量も鍛えられると温水プールに通って(プールのオーナーが京都タクシーズのファンだった為に入場券を安く譲ってくれた。貸し切りではなかったが)プールトレーニングも取り入れた。

 

 このプールトレーニングは市民と交流する場にもなり、合同練習が終わった夜にプールで一泳ぎというのが選手の間にも広がり、市民と交流の中には応援するファンが多く、来年こそはと意欲を燃やす活力に繋がるのであった。

 

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