「おーし、授業始めるぞー。まずは課題の提出をしてもらう」
先生のその一言で、クラスの平穏は崩れ去った。
「先生、それは横暴だ!昨日は何も言ってなかったじゃないか!」
古門藤右衛門が叫んだ。短い黒髪、つり上がった眉に大きな目、程よく鍛えられた体、と全体的に元気な印象を受ける彼は、このクラス随一のバカだ。
「そーだそーだ!横暴だ!」
「期限をもっと伸ばせ!」
「課題減らせ!」
クラスメイト達も藤右衛門に便乗して、やいのやいのと野次を飛ばしている。これが私が属するクラス、一年三組の日常だ。
いつもの光景を眺め、いつも通りだと納得した私は、机に突っ伏して眠りに入る体勢を取った。こんな騒音の中で眠れるのか、不思議に思う人も中にはいるかもしれない。しかし私にとってこの賑やかな日常は、子守唄の様なものなのだ。
目を閉じて眠りに就こうとしたところで、パシンと頭を叩かれた。
誰だ、私の安眠を邪魔する者は。
気怠げに頭をゆっくりと起こし顔を上げると、そこにはこちらと同じような表情をした先生が立っていた。
彼は時田京二。一年三組の担任で担当教科は社会科。主に世界史を担っている。目の下の大きな隈が特徴の男だ。地味に女子人気が高かったりする。
「……何スか」
寝ぼけた頭を起こして、重たい瞼を必死に持ち上げ先生を見る。恐らく睨み付けている感じになっている。
「俺の授業で騒ぐのは構わないが、寝るのは頂けんな。つか俺だって寝不足なのに頑張って起きてんだから、お前も起きろ」
「ウス。さーせん」
寝起きだからか舌が上手く回らないな。
大きなあくびをして、グーっと大きく伸びをする。たったこれだけでも、かなり目が覚める。先生を見ると、他の眠そうな生徒にも声をかけていた。先生は私だから起こしに来たわけではないのだな、と安心した。
しかし藤右衛門達はまだ抗議をしていた。毎度毎度飽きないな、私なら一瞬で飽きてしまう。
というか本当に彼らはあの試験を突破した生徒なのだろうか。この学校の入試はかなり難しいと評判だ。私も当然受けたのだが、実際かなり難しかった。その難関試験を突破したのだから、かなり頭が良いはずなのに、そういう風には見えないのが何とも不思議だ。
全員を起こし終えた先生が教壇に戻り、提出課題の回収を命じた。私は薄っぺらい鞄の中からクシャクシャになったプリントを取り出した。見てくれは悪いが、ちゃんとやったのだから問題はなかろう。ちなみに藤右衛門達は、ちゃんと課題を提出していた。何であんなに騒いでいたのかは、まあ騒ぎたかったからなのだろう。あれはそういう人間だ。
「んー、まあ後で確認するか。よーし、じゃ教科書四十五ページを開けー」
課題を回収し終えた先生は、何とも眠そうな声で授業を始めた。