私の同級生がまた一人恋をしたそうだ。
恋とはなんぞや、私は恋をしたことがない。いや恐らく遠い昔に初恋を済ませているのだろうが、今覚えていないということは余程つまらないものだったのだろう。
やはり私は色気より食い気。今日も今日とて水筒に汲んだ水道水で腹を満たす。しかし水道水というのはどこもかしこも似たような味だな。
果たしてこれが年頃の乙女の正しい姿なのか。甚だ疑問を抱きつつも、私こそが正解なのだと無理やり自分を納得させる。
「よお、奇遇だな」
「あ?」
私は声に反応して顔を上げた。そこには短髪の男がいた。こいつは私のクラスメイトの古門藤右衛門、私以上のスカスカの頭脳の持ち主であり、学校一のフィジカルを持っている。近頃では元ヤンという噂が流れているそうだ。
「どうしたよこんなところに」
「見回りだよ、トキさんに頼まれてな」
「そうか」
ちなみにトキさんとは担任の時田京二のことだ。顔色最悪隈濃いめ無精髭の不健康なオッサンだが、何故かスタイルが良いので学園七不思議に認定されている。第八十三番目の不思議だ。
「ここってそんな溜まり場になりやすそうかね?」
「まぁそうだな、人目がないし何より不良はこういうボロいのを好むからな」
その感覚は何となく分かるなぁ、と顔も名前も存在そのものも知らない不良に少し共感しつつ、私は非常階段横のプレハブ小屋を後にした。
昼休みもそろそろ終わりそうだが、私はまだ教室に戻るつもりはない。教室に居場所がないとかそんな理由ではなく、校舎の探検を優先したいからだ。そもそも居場所は無いのだから気にしても仕方があるまい。きっと今頃私の席は他のクラスの誰かに使われているのだろう。どうせなら可愛い子に使ってもらいたいものだ。
そんなこんなで私は社会科資料室に辿り着いた。社会科、恐らく時田先生の根城だろうと判断した私はガラガラと戸を開け、「たのもー!」と突入した。
中では時田先生が眼鏡を掛けて資料とにらめっこしていた。手元の資料には『ファシズムの台頭』と書いてあったが、ファシズムとはたしかイタリアのオッサンの言ってた主義だったか。
「どうした。そろそろ昼休み終わるぞ」
「偶通りかかったから挨拶しただけッス」
「そうか、早く教室戻れ」
私はそそくさと退散した。部屋を出る際に、「はぁ」と大きなため息が聞こえたのは恐らく気のせいだろう。
教室に戻ってきた私を待っていたのは嬉しくて悲しい現実だった。つまりは私の席が美少女に占拠されていたのだ。しかもミニスカートではないか。私の視線は彼女の太ももに釘付けになった。そんな私の視線を受けてか顔を真っ赤にしてこちらを睨み付けてきたではないか。
すかさず私も睨み返した。メンチ切られたら切り返すのが礼儀だと大家から教わったのだが、彼女は顔を青くして涙を浮かべながら隣の友人の呉に抱きついていた。
「おーおーそんな泣くな」
「うぅっ……」
私は自分の席へ向かって凱旋した。メンチの切りあいは私の勝利と相成った。しかし私はそんなに強面だろうか。私は呉に疑問を投げかけた。
「私ってそんなに怖い?」
「かなり怖いね」
「どこが?こんな美人滅多にいないぜ?」
「美人なのは認めるけど、髪色とかピアスとか色々いかついからなぁ」
「そっか、それはどうしようもないな」
私はそこで話を切り上げた。最後に「んじゃまた週末に」と残し椅子に座り机に突っ伏し浅い眠りに沈んでいった。五分後に叩き起こされるとも知らずに。