戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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謁見

 火の騎士は俺の宣言を聞き、剣を構えた。俺は両拳に粒子を纏わせ、火の騎士の元へ走る。

 騎士は長剣を虚空に向かって突き刺す。すると俺に向かって鋭い火の槍が飛んできた。俺はそれを岩の腕で受けると、左拳を突き出す。火の騎士は俺の攻撃を剣で受けると、カウンターで左に薙ぎ切る。俺は体を回して攻撃しながら、一旦距離を取った。

 この攻防で分かる。やはり相当な手慣れだ。盾を持たない戦法であるのに、攻撃を受け流す技量を持ち、現にダメージを食らった様子はない。

 火の騎士は俺に考える時間を与えるつもりはないようで、火球を空中に二つ飛ばし牽制をはかってくる。俺はそれを壺の体の真ん中に当てられ、少し後退する。火の騎士はその隙を狙って剣に炎を纏わせ、俺の体を切りつけた。俺の体にキズが入る。

 

 

「流石だ、騎士殿…!ではこれを食らってもらおう!」

 

 

 激しく切りつけられ、防戦一方になっているためここで覆す。俺はその傷を素早く粒子で直すと、仮面を付けた火の騎士に使ったタックルを使う。溜め無しの一撃だったため、怯むのみにとどまったが、まだ終わらない。俺は全身を金色に光らせたまま、両拳までその光に包んで跳躍し、ボディプレスをかました。壺の表面を直せるからこそ躊躇いなく使える技だ。

 勢いよく潰したため、ぐうと火の騎士から呻き声が出る。剣で切り上げられるが、俺は体勢を立て直し火の騎士の腕を掴んで、空いた腹に肘打ちを食らわせた。腕ごと掴めば剣は使えない。守ることもできないのだ。

 しかし火の騎士には、炎の技がある。剣を持っていない方の手から、炎を放射し俺の表面を焼く。少し黒ずむが、俺はずいと体を近づけ、腕を火の騎士の足に向かって薙ぎ払う。それを火の騎士は剣で防ぎ、じりじりと左拳と剣を疑似的な鍔競り合いに持ち込む。そのまま、炎の技を俺に使われるが、右手から粒子によって回復し、相手が動くのを待つ。その隙を狩れば、俺の優位な状況に少しは持ち込めるはずだ。

 

 拳と剣を噛み合わせていると、扉の奥から声が聞こえてきた。厳かでありながら、どこか優し気な男性の声だ。

 

 

「クード、もうよい。我の元に案内しろ。」

 

 

 クードと呼ばれた騎士は、俺から剣を離した。そして剣を納め、扉の横に立つ。どうやら試練を乗り越えることができたらしい。俺は立ち上がった壺巫女と、生き壺たちに向かって手を振り、こちらに来てもらう。

 俺は扉の横で不規則な呼吸を繰り返しているクードに、掌を近づけた。光の力がない状態であればまともに戦うことは不可能な強さだった。粒子によって傷を癒すと、顔は見えないが不思議そうに手を握ったり開いたりしている。

 

 

「騎士、クード殿。凄まじい強さだった。俺は、修行が必要だな。」

 

 

 戦士の壺であるアレキサンダーの修行を思い出す。決して割れぬようにゲルミア火山や、巨人たちの山領にある火の窯で焼きを入れる。俺はキズを粒子で回復できるが、回復の間もなく割られ続ければ何もできずに負ける。

 俺は守る力が欲しい。中途半端な力では、壺巫女や生き壺、巫子たちを守ることは出来ないのだから。

 

 クードに連れられ、メスメルの暗室の前にたどり着く。案内を終えたクードは剣を抜き、扉の方へ歩いて行った。メスメルのいる場所へと通さないために、自分の役割を全うしているのだ。

 俺は少しだけ開けられた暗室の扉を、ぐぐとこじ開けた。

 

 

「訪問者…こちらに見えよ。」

 

 

 よく通る声で、暗室の奥から男性の声が響く。言葉に従い、俺を先頭にして部屋の中へと入る。ずしりと音がして、部屋の扉が閉まり、小さな蝋燭がぽつりぽつりと点いていく。

 完全に明るくなると、目の前には深紅の蛇がいた。翡翠の目を大きくして俺たちを覗き込んでいる。

 見ると、深紅の蛇は奥に座る男性から伸びていた。俺はその男性こそがメスメルだと理解した。

 頭部には黒い兜を被り、体には紋章の描かれたマントが巻かれている。ここからでも、手足がすらりと長く、整った相貌をしていることが分かる。俺は岩の手を壺に当てて、言葉を発した。

 

 

「謁見を許してくださり、感謝を。俺は、戦士の壺。今回は貴殿にお話ししたいことがあり、参った次第。」

「そうか。我はメスメル。母マリカの命に従い、この地を火で焼いた者だ。牢獄の壺よ…申してみろ。」

「メスメル公…流石、素晴らしき君主だ。ありがたい…では早速ここからお話しさせていただく。」

 

 

 メスメルは玉座に肘をつき、俺の話を聞く。まず隠された地に行きたいこと。巫子や同胞を助けたいため、どこに巫子がいる可能性があるかおしえてほしいこと。俺たちの目的について細かに話し、何故二つのことを望むのかを包み隠さず話した。

 

 

「長くなって申し訳ない。これがメスメル公にお話ししたかったことだ。」

「貴公、戦士の壺。お前が抱えている女性は、本当に我の城に連れてきた、壺の中身なのか。」

 

 

 じっくりと俺の話を聞いてくれたメスメルは、手で俺の脇に抱えた巫子を指し示す。その顔は遠く離れて動きが見えにくいが、声の中に震えが見られた。俺は、巫子が治っても付いていた額の紋様を、メスメルの蛇にじっくりと見させた。

 

 

「ご覧いただきたい。これが証拠になる。」

「術師の治癒であっても、こうはならない…貴公、何者だ。」

「俺は戦士の壺。横の壺巫女殿や、巫子たち、同胞のために戦うつもりだ。」

 

 

 俺が返答すると、メスメルは顔をうつ向かせて、何かを呟く。そして勢いよくこちらへ跳躍してきた。風圧で体が揺られる。

 メスメルが、がっと俺の体の側面を掴んできた。何かがメスメルを刺激したのかと、俺は謝罪を言葉に出そうとする。そのとき、壺巫女がまた付けていた壺をゆっくりと脱ぎ、メスメルに話しかけた。

 

 

「メスメル様、私を見てください。」

 

 

 俺の体を掴んだメスメルが、壺巫女の方を向く。するとメスメルの手の力が弱まり、一歩、一歩と後ずさる。

 

 

「…母の顔だ。どういうことだ。」

「私たちは、マリカお姉さまと同じ母から産まれたのです。ですから私の知っている家族は、容姿が似ている姉妹が多かったのですよ。」

 

 

 壺巫女が、俺とメスメルに向けて微笑みながら話す。確かに美しい顔立ちをしていると感じていたが、まさか神マリカに似た顔立ちだったとは。メスメルが声を震わせながら呟いた。誰に向けたわけでもない自分に言い聞かせるための言葉だった。

 

 

「都合が良すぎるではないか…こんなことが。」

 

 

 メスメルは壺巫女に対して、ぽつりぽつりと今までのことを話した。実の子が見間違えるほどに似た顔に、心のタガが外れたようだった。自身をマリカが捨てたこと、自身が蛇であることから、戦友に反旗を翻され苦悩のままに地下墓に幽閉したこと。焼き払った角人たちからの怨嗟を、ずっと受け止めてきたことを。

 

 メスメルが項垂れる中、壺巫女は彼の翼が生えた蛇を撫でながら、背中をさすっていた。やはり甥となると、初対面であっても親のように接することができるのだろうか。

 しかし壺巫女に話し合いをお願いしたいと思っていたが、ここまで効果があるとは想定外だった。

 メスメルが出来事を吐露する中で、信仰とは厄介なものだと痛感した。生まれのせいで、黄金律に仇なす者だと判断される。俺は難しい感情を抜きにして助けたい。壺巫女は元々黄金樹がない時代の人間であろうから、そういった思想を持っていない。俺たちはある意味フラットに物事を見れるはずだ。

 

 

「こちらは、私の以前からの家族です。腹違いですが、少し似ているでしょう?」

「ああ、似ている。母に…。」

 

 

 壺巫女が、背負っていた巫子の顔をメスメルに見せる。先ほどまでの威厳を残しながらも、心あらずといった様子だ。壺巫女の衝撃は相当なものだったのだろう。彼の鮮やかな赤髪は萎びているように見える。

 しばらくして立ち上がったメスメルは、俺たちに対する疑問も、気分についても解消されたようで、彼の相貌は厳かに戻っている。

 

 

「取り乱したな。戦士の壺、壺巫女…貴公らの目的はよくわかった。我の名によって、ここを通ることを許そう。」

「メスメル公…!」

「だが、貴公。その壺巫女、巫子たちを守るための力…持てるのか。」

 

 

 メスメルは俺の方を向いて聞いてくる。鋭い口調だ。やはり、メスメルにとって血縁に近い存在。治療しようとしていたことからも、個人的な感情があるのだろう。傷なく村に戻ってほしいという願いが。

 

 

「そうだ…俺にはまだ力が足りない。メスメル公、壺は焼きを入れることでひび割れなくなるのだ。炎によって鍛錬はさせてくれまいか?」

「…貴公、これを預ける。」

 

 

 メスメルは頷くと、俺の方に何かの蔵書と紐のような物を投げる。受け取ると、蔵書には火脂の製法が記されていた。メスメルは続ける。

 

 

「我はお前が、教区の水を抜いたときから聞いていた。壺が城を歩き回っているのを。元々壺とは、火を求めているものだと思っていたのだ。」

「なんと…渡りに船だ。ご厚意に感謝する。」

 

 

 これがあれば、簡易的であっても体を焼き強くなれる。俺は製本書をぎゅっと握りしめた。

 紐のようなものはメスメルの私物であり、蛇の力を秘めた綱になるそうだ。足場の悪い帰り道をこれを使って帰るように言われる。

 

 

「俺は、必ずメスメル公の小さな助けになると誓おう。貴殿は、最高の君主だ。」

「行け。言葉を交わす暇があるならば。」

 

 

 メスメルは、ふいと顔を背け玉座へと戻る。そして俺たちが出て行くと、メスメルの間は、再び暗闇に満たされた。

 




メスメルの蛇綱

メスメルの蛇の脱皮した革で作られた、紐のような物
一度柱に投げつけると、巨大な蛇の形となり柱に食らいつく

これはメスメルが幼き頃、母に向けた愛であるという
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