戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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遺跡

 壺巫女の「妹」は丘の上から、己が神と腹違いの姉が連れ立って遺跡へ入っていくのを見る。この地での約束を果たした後、彼らはまた家族を救いに行き、ここに戻ってきてくれる。

 彼女らの家族であったマリカが残した、小さな黄金の樹。その根元に挟まれていた、祈りが書かれた紙を強く握りしめる。その祈祷と、見慣れない若樹から壺巫女の妹は推測できた。大母の像の前にあった髪の束も、マリカのものであると。

 これは姉マリカの、決別の証だ。しかし、私たちには未来がある。神と姉が帰ってくる前に、形にしなければならない。

 

 

「守り人様。あなた方も手伝っていただけませんか。祈りの果てに、私たちが見出す信仰の準備を。」

 

 

 黄金の鎧で身を包んだ騎士は、小さく頷いた。この騎士たちはマリカと黄金樹というものに、信仰を捧げていると、かの神は言っていた。ならば、自分たちが思う信仰にも迎合できるはずだ。

 癒しの黄金。かつて一つだった原初の生命と、この瞬間を生きる神への祈り。金色の祈祷を。

――――――――――――

 

 

 俺たちは、橋を渡り終えると、何かぬるりとした黒いものが、とぐろを巻いているのが見える。

 俺は腕を組むと、ゆっくりとそれに近づこうとした。すると、ヨラーンが俺を制止する。

 

 

『こいつらは、言葉が通じない。獣に近い存在だ。不用意に近づくな。』

「おお、感謝する。してヨラーン殿。これらは一体何なのだろうか。」

『…ヤツメと、ユミル卿は呼んでらっしゃった。ユミル卿が研究されている指の魔術の祖たちだ。』

 

 

 そう説明し、しばらくヨラーンは雄弁に語る。やはりユミル卿のことになると、話したい気分になるのだろう。俺たちがヨラーンの説明を頷きながら聞いていると、はっとして口を閉ざす。

 

 

『貴様らあ…。…こいつらは数が多い、一匹ずつ処理する。』

「一旦、話しかけてみても良いか。魔術の祖なのだろう?知性がある可能性も高い。危険には晒したくないが、一応な。」

『一匹連れ出せ。それで分かる。』

 

 

 ヨラーンが深く息をつくと、一番近くにいるヤツメを剣で指し示す。俺の性質は、先程ツリーガードに呼びかけた時点で何となく理解したらしい。俺としては、話が通じる相手は殺したくない。見た目が異形であっても、それが知性を持たない理由にはならないのだから。

 

 俺はとぐろを巻いたヤツメにそっと近づき、あまり衝撃を与えないように橋の近くに持ってくる。

 そして、俺はヤツメの顔辺りに向けて話しかけた。

 

 

「お休みのところ失礼する。俺は…」

 

 

 最後まで言い終わる前に、ヤツメはその尖った歯を見せつけ、俺の表面をかじった。引きはがして話そうとするが、鳴き声を上げるのみで理性を感じない。これは俺に怒っているというよりは、目の前に動くものがあるから攻撃しているようだ。これでは、あったとして野生の知性だろう。

 挙句の果てには壺巫女にまで噛みつこうとしたため、俺はヤツメの頭部を強打する。

 

 

「魔術の祖とは言うが、随分原始的なようだな…!」

「このような生物もいるのですね…。私がいたときは村の近くに作られた遺跡など、ありませんでしたから…。」

『ふ、だから言っただろう。奴らが起きる前に始末するぞ。』

 

 

 ぐったりとしたヤツメを橋の下に投げると、壺の表面を直す。ヤツメの歯はだいぶ鋭い。肌が見えている壺巫女が齧られれば、深く傷がつく。なるほど危険だと、俺はヨラーンの後に続き、とぐろを巻いたヤツメを倒していった。

 ヨラーンの夜の剣士という名にふさわしい動きのお陰で、静かにヤツメたちの掃討を終えた。

 俺は壺巫女を庇うようにして、遺跡の奥へと進んでいく。

 

 しばらく歩くと、ユビムシたちの群れが列を組んで歩いていた。大きな二匹のユビムシが、大量にいる小さいユビムシを守るように挟み、不規則に進んでいる。

 何か目的があって動いているというよりは、散歩をしているかのように緩やかな進行だ。前を歩いている大きなユビムシが時折振り返り、小さいユビムシの様子を確認している。

 このどこか和やかな姿に、生き壺たちと少し前まで列を組んでいた様子に似ていると感じた。意志疎通ができるならば、生き壺たちと仲良くできそうだとも思う。

 

 

「ユミル卿が愛する彼らだ。刺激しないように迂回しよう。」

「ええ。刃を向けたと知ったら、司祭様は悲しんでしまいそうです。」

 

 

 俺たちは、じりじりと彼らの進行方向から離れ、別の道を進み始めた。

 

 視界に、先程とぐろを巻いていたヤツメとは違った色の個体が、多数うろついているのが見えた。

 彼らには目がないはずだが、すぐさま俺たちに反応し上空に魔術を放った。問答無用というわけらしい。俺はまずその魔術を腕で受けようとした。

 

 

「な、なんだ!」

 

 

 飛んできた光は、俺の周りにリング状になって張り付き、体を拘束した。もがいていると、その拘束は外れたがとめどなくその魔術は放たれる。受けてはならないなら、壺巫女ごと避けるしかない。俺は壺巫女を抱き上げると、横に跳んだ。

 

 

「壺巫女殿、突然すまないな。」

「いえ。性質を知ってすぐ対応できる…流石戦士の壺様です。」

『やつらは魔術の祖だと言ったろう…。うかつだったな。』

 

 

 四方八方から飛んでくる拘束の魔術に、絶えず体を動かしながらヨラーンは軽口をたたく。まずい状況ではあるが、ヨラーンがだいぶ心を許してくれたようで嬉しい気持ちが勝った。

 俺は壺巫女を抱えながら、金色のタックルをヤツメたちに繰り出し、その軟体を吹き飛ばす。質量をぶつけることは、それだけで重い一撃になるのだ。ヨラーンも素早い動きで、ヤツメの懐まで走り喉元を切り裂く。

 一度ヨラーンも拘束され、虚空から表れたヤツメが齧りつこうとしてきたが、無理やり俺がヨラーンを引っ張り事なきを得た。近づいたときに放ってきた指の魔術は、不規則に宙を舞って強襲してきたため、厄介な敵であった。距離の離れた敵には、メスメルから貰った蛇綱がとても役に立ったので、これが無ければもっと手間取ったことだろう。

 

 一旦辺りの白いヤツメを倒し終えると、俺は少し体を落ち着けた。ヨラーンも霊体ではあるが、ダメージを受けたようで脇腹のあたりを押さえている。俺はヨラーンの受けた傷の部分に触れると、粒子を込めて治療する。ヨラーンは治る傷に反応し、俺に言う。

 

 

『ユミル卿の子らに使った技か…。貴様この金色といい、巨大な蛇といい面妖な技ばかり使う。』

「偶然でも、手に入れた力だ。しっかり使わなければ、守れる者も守れないからな。」

 

 

 ヨラーンは、礼は言わんと告げ、指遺跡の奥へ進んでいく。壺巫女を見ると、相貌を緩ませて微笑んでいる。ユミル卿の話では、ヨラーンとその妹は牢獄から引き取った子だと。同じく牢獄に入れられた壺巫女は、共感を覚えているのだろう。もしくはメスメルに対する親心に似た何かか、その両方か。

 俺はすくりと岩の足を立たせると、ヨラーンに続いた。目の前には巨大な指に囲まれた穴だらけの鐘が見える。これこそが吊り鐘だろう。恩を返すまでには、もう少しだ。

 

 白いヤツメが、指紋に似た紋様の壁に齧りついているのを警戒しながら、俺たちは吊り鐘の前に来る。これもまた壺巫女に持たせていた穴石を渡してもらい、どうするか考える。

 しばらく考えて、穴石をヨラーンに渡した。押し付けてくる俺の手に怪訝そうに反応する。

 

 

『どういうつもりだ。ユミル卿は、貴様らに吹くことを託したのだ。これを吹け。』

「ヨラーン殿、ここまでほぼ無傷で来れたのも貴殿の助力あってこそだ。貴殿こそが、吹くべきだ。」

 

 

 ヨラーンはじっと黙ると、少し手を震わせながら、俺の手にある穴石に触れる。そうだ。これはユミル卿に家族として認識される第一歩だ。俺が催促するように手を更に押し付けると、ヨラーンはぐっと穴石を握った。

 

 

「戻ってユミル卿に何か言われたとしても、俺がわがままを言ったと話せば良い。それが話のタネになるだろう?」

『ふん…押し付けてきたから、私が吹く。それだけだ。』

 

 

 ヨラーンは兜を脱ぎ脇に抱えると、鐘に顔を近づけて鳴らした。低い重低音が遺跡中に響き渡る。どうやら成功したようだ。

 霊体は音を出せるかは考えていなかったことに気づいたが、こうして出せたことだから良しとしよう。

 目的を果たした扱いになったのか、ヨラーンの霊体は穴石を手に持ったまま消滅しようとしていた。

 俺たちは、消えていくヨラーンに声をかける。

 

 

「改めて助力感謝する。ユミル卿によろしく伝えてくれ。」

「また、一緒に旅しましょう。ヨラーン様。」

 

 

 ヨラーンは穴石をじっと見たまま、こくりと頷き、そして完全に消えた。

 彼女には、近い内にまた会うだろう。その時は、ユミル卿ともっと気安くなっていればと、俺は願った。

 

 

 俺たちはその後、城の中へと戻った。道中であったツリーガードや、城内を守る火の騎士、影の霊体たち、卑兵に感謝を伝えながら道を進んでいく。

 蛇綱を使って城を下り、影の城の教区から、俺たちは外へ出た。ここから、再出発だ。俺は壺巫女と面を見合わせ、救いを求めているはずの巫子と同胞のもとへと向かう。

 まずはボニの牢獄から救助するため、炎のゴーレムに遭わないようなルートを考え始めた。

 




金色(こんじき)の癒し 祈祷
消費FP 30
使用スロット 1
必要能力値 知力:0 信仰:15 神秘:0

戦士の壺(パチモン)と、それに酷似した坩堝、黄金樹を信じるものたちの祈祷
黄金の若樹の幻影を表しながら、全身を金色に輝かせ祈る
周囲を含めて膨大にHPを回復し、あらゆる状態異常を消し去る

戦士を騙る生き壺は、しかし生ける伝承となり、それ故に祈ることに難しさを必要としない
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