俺は牢獄から救出した皆を連れて、ボニ村を通り、森の中へ入る。懸念されるのは、やはり道を塞ぐ炎の兵器だ。行きは俺と壺巫女二人だけだったため、炎の兵器に気づかれず通れたが、この大所帯では通ることは難しい。俺は進んでいる際に別の道を探してみたが、結局見つからなかった。
覚悟を決めなければならないときが来たようだ。俺は、未だ意識を失っている巫子たちの介抱をしている、壺巫女に話しかける。
「…俺はやつを倒す。壺巫女殿、火炎壺師殿の製法書を確認させてくれ。」
「承知いたしました。」
預けていた製法書をめくり、火炎壺師の遺産を視界に焼き付ける。一旦視認したら攻撃を止めない、強大な兵器だ。同じく火炎壺師の遺産である解体包丁をもって、苦し紛れの一撃を見舞うことで対処したが、目くらましではだめだ。重い攻撃をもって、兵器を止めなければ。
俺はボロボロになるほど捲られた、「大火炎壺」の説明が書かれたページを見た。記憶の中で覚えた、この世界の言語でびっしりと埋め尽くされている。壺の外見や、必要な素材が書かれており、そして俺に今必要な情報が書かれていた。
炎には炎を。邪魔な焼炉のゴーレムには、やはりこれが効く。
火炎壺師の走り書きを見て、俺は製法書をぎゅっと抱擁した。彼の旅路の一端を見て、心が締め付けられる。
必ず成功させる。未来を待つ同胞と、巫子たちのために。
「壺巫女殿。集めたヒビ大壺を、大火炎壺に変えてやつに挑む。俺には物を多く収納する術がない、共に来てくれ。」
「お供いたします。」
拾ったヒビ大壺は、全部で四つ。作るために集まった素材も四つ分だ。足りるかは分からないが、大幅に耐久度は減らせるだろう。
俺は同胞たちに、声が響かないように言う。
「巫子たちを守っていてくれ。俺がいいと言うまで、決して森の中から出ないでな。」
生き壺たちは頷き、巫子たちを抱きかかえる。俺と壺巫女は、焼炉のゴーレムの動きを見ながら、左にある突き出た足場の方へと進んだ。俺は、地形をよく観察し、そして気づいたのだ。焼炉のゴーレムが徘徊するルートの近くに、足場があると。
大教会まで回り込んでも、大火炎壺を投げ入れるのは難しいだろう。かなりの高低差がある。素材も有限で、一つも外すことは許されない。ならばリスクを冒す必要がある。
蛇綱を使えるでっぱりがないため、岩壁に体を擦りつけながら、岩の腕を固定できる窪みがないか探しながら登っていく。滑る部分では岩を砕き、表面をざらつかせることで抵抗を作る。
焼炉のゴーレムが岩の影に接近したときは、必ず動かないようにし、ようやく足場に辿り着くことができた。今現在やつは後ろを向いている。俺は製作した大火炎壺を、無防備なその炎部分に投げつけた。
大火炎壺が焼炉で爆発し、巨大な火柱を立てる。これによって自身が攻撃されていることに気が付いたようで、音を立てて方向転換をし、火球を上空に浮かべ始めた。
「壺巫女殿、次の大壺を!」
「はい!」
俺は壺巫女から追加の大火炎壺を受け取り、投げ入れた。焼炉のゴーレムは体勢を崩したが、火球は自動で俺たちに降りかかってくる。この足場には障害物がない。ここで防御してしまえば、俺が幾ら壺巫女を庇おうと二人まとめて丸焦げだ。俺は火球を甘んじて受けながら、渡される大火炎壺を投げ入れ続ける。
しかし焼炉のゴーレムは最後の一個を投げ入れても、倒れる様子がない。鉄柵は爆発で溶け、壊れそうになっているのに関わらず、腕を薙ぎ払い、火球を飛ばし続ける。
倒しきるには素材が足りなかった。ならば、最後は俺自身の拳で倒さねばならない。
俺は火球が全て俺に当たって、空中に浮いているものが無くなった瞬間、崖を跳んだ。
壺巫女は俺の策を予想していなかったようで、炎で水分が飛んだ喉を強く震わせた。
「戦士の壺様…!?」
「ゴーレムよ、俺の攻撃を受けてみろ!」
俺は焼炉のゴーレムの顔部分に向かって、金色のタックルをかまし、そのあと蛇綱で鉄柵に左手を固定して、拳を思い切りぶつけた。耐久度が減っていたためか、そのまま焼炉のゴーレムは、地面に倒れ込む。
だが、まだ終わらない。焼炉のゴーレムは、粗雑な造りの動かない手から、俺の体に熱を伝わせ自分もろとも壊そうとしてくる。兵器であり感情がないはずなのに、凄まじい執念だ。
俺の壺の表面が焼け、全てが炭化する。メスメルの火はやはり特別製のようで、俺が粒子で直しても、直ったそばから炭化していく。このまま耐久戦になるかと思ったそのとき。俺の視界の上の方から、丸いものがたくさん近づいてくる。生き壺たちだ。
生き壺たちは、その大きさに関わらず、臆しない心で駆けつけ、焼炉のゴーレムの鉄柵部分を殴り始める。一撃ごとに鉄柵が崩れ、じわじわと熱を失っていく。俺は粒子での回復が、焼炉のゴーレムの熱を上回った瞬間、金色を再び全身に纏わせて跳躍し、渾身のボディプレスを放った。それを何度も繰り返した後、ようやく焼炉のゴーレムは動きを止めた。
俺は生き壺たちに感謝を伝えると共に、勝利の雄叫びを上げる。拳を振り上げると、生き壺たちも続いて喜びのジェスチャーを返した。俺たちはやったのだ!
俺は粒子で、生き壺たちが受けた炎のダメージを回復させると、壺巫女を足場から連れ出した。壺巫女は、俺に対して普段よりも口調を強めに言ってくる。
「戦士の壺様、あまり無茶はなさらないでください…!貴方がいなくなれば、皆が迷ってしまいます…。」
「ああ、承知している。」
俺は道半ばで割れるつもりはない。俺が強く頷くと、壺巫女は口を真一文字に結び、俺とともに森の中に戻った。
俺は自らの壺の体を、軽く掌で叩く。返ってきた感触は、以前の表面よりも柔軟かつ厚みを増していた。焼炉のゴーレムの熱に長く包まれたためだろう、鍛えることができたようだ。より割れない、強靭な体へと。
俺は森の中へと戻ると、少しずつ目を覚まし始めた巫子たちを介抱しながら坂を上っていく。
自身の炎により崩れた焼炉のゴーレムから、その面と、結晶雫、火炎壺師の得物を回収する。
火炎壺師の包丁は柄のみが残っており、その柄も黒ずんでいて、見つけ出すのに苦労した。
回収作業中、巫子を運ぶ要員ではない生き小壺たちが、焼炉のゴーレムの腕などを壊して鉄の棒で遊んでいる。
それを視界の隅に入れながら、俺は心の内で火炎壺師に感謝を告げる。彼の見識が、俺たちを進ませてくれた。
俺は、壺巫女に回収した物の収納をお願いすると、再び影の城から隠された地へと皆で向かった。
水の抜かれた教区や、城の内部を一人ずつ抱えて要所を安全に進み、隠された地に戻ってくる。この数を最初から先導するのは、無い骨が折れた。丸一日かかった行程を経て、巫子の村に向かう。
周囲を守ってくれているツリーガードに感謝を告げると、村の皆に向かって声を張り上げた。
「同胞よ、巫子らよ!また新たに家族を連れてきたぞ!」
俺の声に反応し、村で花冠を作って遊んでいた生き小壺たちが、手を上げてこちらに走ってくる。連れてきた生き小壺も同じ見た目の同胞が他にもいることに喜んだようで、俺を追い越して走っていき、花畑に潜っていった。
俺は一体だけだった大きい生き壺に手を振ると、連れてきた生き壺を鉢合わせる。彼らはゆっくりと近づいていき、互いの拳を合わせると、ぎゅっと握手した。善良な生き壺同士、すぐに気が合うようだ。
俺はこちらにやってくる壺巫女の「妹」に対して、話しかける。
「村の方は問題なさそうだろうか。食料や住処などに困っていたりするか?」
「お早いお帰りでしたね。ええ、ご心配なく。食べられる植物や、家族の壺たちの狩りで得られた肉で生活できております。」
何でも、隠された地には動物が多数繁殖できており、数を減らすことなく狩ることができているそうだ。俺はそれに安心し、この生活を続けられるために、尚更守りを固められるようにしようと思った。
「姉さま、これをお使いください…。」
「ありがとう…これで、あの方を手助けできます。」
俺が守りの案を考えている間に、壺巫女とその妹は話し込んでいた。何やら手に収まるものを渡されているようだ。
草が侵食した民家の煙突からは、白い煙が立っている。巫子たちが言うには、調理を行っているとのことだ。
また戻ると皆に声をかけ、しばらく休んでから村を離れた。
――――――――――――
忙しく「家族」を助けに行った彼らの後ろ姿を見送ってから、巫子たちや生き小壺たちに作業を継続するように言う、壺巫女の妹。
民家には釜が残っており、食材の調理はもちろん、焼き物も作れる設備があった。巫子たちは、じっと大人しくしている生き小壺をよく見ながら、壺をこねる。そして成形した壺を、生き小壺とともに、強度を増すため焼いていく。作られていく壺は、生き壺の造形によく似ていた。
連れてこられた巫子の様子を、壺巫女の妹は見て確信した。彼女らは、神の癒やしに魅入られている。話が早く進みそうだと、そう考えた。
神は、神格化されることを望まない。そのため、壺を花壇に設置したり、食器に使って少しずつ増やしていく予定である。そして最終的には、皆壺を被るのだ。
壺巫女の妹は、姉に渡した掌に収まる大きさの壺を思い返す。これで非力な私たちでも、力になれる。
――――――――――――
俺たちは、影の城のおそらく正門を通って外に出た。水場では、巨大な獣が眠っていたので音を立てないよう慎重にだ。
メスメルからもらった製法書には、一枚のボロ紙が挟まっていた。その紙を広げると、それは影の地全体が描かれた地図であり、三つのバツ印が付けられている。一つは、ボニの牢獄があった場所に。ならば残りの二つも、牢獄だろう。
メスメルの、母に対する愛の深さを感じる。俺たちは、影の城から比較的近くに付けられた、バツ印を目指すことにした。
道中、焼炉のゴーレムが徘徊しているのが見えたが、回り込んで先に進めるため、戦闘は避けていく。坂を下ろうとしていると、崩れかけの教会が見えた。
巫子の村で休みはしたが、影の城を往復するだけで精神的な疲れは溜まる。あそこで一旦休憩しようと壺巫女に言い、そちらに寄っていく。
すると、教会の外れに倒れ込んでいる何かがいた。
「これは腐敗の眷属か…?」
「とても、弱っているようです…。」
腐敗の眷属は、小さな人間の手のようなそれを組み、俺に対して祈るように、じいじいと弱々しく鳴く。
モニター越しには苦汁を舐めさせられたが、確か腐敗の眷属は文明を持っていたはずだ。話が通じる可能性もあるだろう。
壺巫女に攻撃してきたら応戦することにし、俺は掌に粒子を込め、腐敗の眷属に触る。
すると、みるみる元気を取り戻し、腐敗の眷属は立ち上がった。そして俺に紙を渡してくる。これは、拙い字で書かれてはいるが製法書だ。
俺が礼を言うと、腐敗の眷属は何やら紙を取り出して、文字を書き始めた。見せられた紙には、こう書かれていた。
ありがとう やさしいつぼ もっと おれいわたす ともだちにあってほしい
彼は心優しい眷属のようだ。拙い字が何とも愛らしい。
俺たちは頷くと、一先ず腐敗の眷属を連れて、教会内で一緒に晩を明かすことにした。
「壺の聖印」
巫子の村の「家族」たちが、特殊な方法で焼き上げた聖印
金色の祈祷を強化する
旅の安全が願われた金色の小壺
また無事に戻ってきますように