俺と壺巫女、そして腐敗の眷属は、教会内の触れても燃え移らない炎を囲むようにして、休息をとる。
腐敗の眷属は鳴き声を上げることしかできないが、筆談という形で、俺たちに色々な情報をくれた。
腐敗の眷属には仲間がおり、自分も含めて「拾い虫」という名称で呼ばれていること。友人が行っている調達に協力して、影の地のあらゆるところに散らばっていること。俺たちが影の城から出てきたことを話すと、教区の周囲にも拾い虫がいることなど、俺たちが興味をもって聞いたことを返してくれた。
特に、友人であるムーアという人物を、拾い虫は高く評価していた。心優しく、ムーアが行っている調達も、「同志」と呼ばれる彼の仲間たちのために行っているそうだ。ムーアは商人ではなく、利益を度外視で仲間のために献身しているらしい。
俺は拾い虫の筆談で、ムーアにとても興味を持った。何より護身のために壺を使うそうだ。元々壺人が大好きな俺としては、壺を使うというだけでも、「同志」だ。
夜が明けたら、その彼の元に連れて行ってくれるそうなので、俺は期待に胸を膨らます。
「素晴らしい御仁だな、貴殿の友人であるムーア殿は。」
「そうでございますね。拾い虫さんに、同志と呼ばれるお方たち…広く友誼を結んでいらっしゃる。私たちも良い関係を築きたいですね。」
「全くだ、壺巫女殿。拾い虫殿、俺がしっかりと護衛するから、休んでくれ。明日はよろしく頼むぞ。」
拾い虫は、じじじと鳴き頷いた。そして地面に丸まるようにして体を休め始める。俺は壺巫女にも休むよう言い、半ば意識を覚醒させながら休息を取った。
吹き抜けの天井が、朝を知らせる。俺たちは拾い虫に先導してもらい、この影のアルターを通り過ぎていく。拾い虫は争いを好まないことから、その兆しが見える部分を見事に回避して動き、長距離の移動であったのに、あっという間に影のアルターを横断し終えた。護衛の必要はなかったようだ。
ムーアは、目の前に聳え立つエンシスの城砦を抜け、ベルラートという街のすぐ近くを中心に活動しているらしい。進む方向からして、俺たちが目指すバツ印に近づけるようだ。一石二鳥である。
俺たちは、城砦の中を通らず、自然にできた洞窟をくぐり抜けた。拾い虫が先導してくれたからこそ通ることのできたルートで、俺たちだけでは入口すら発見できないだろう。拾い虫は自然のトンネルをくぐり終えると、通った痕跡を消していたため尚更見つけられない。また影の城方向に戻るときは、正攻法で向かうことになるだろう。
道中、不思議な幼子に出会った。壺巫女と同じように綺麗な金髪で、長い髪を結っている。整った顔立ちをしており、白くゆったりとした衣類を身に纏った子だ。ここまで特徴を並べたのは、俺がその姿から性別を定めることができなかったからだ。子どもは周囲の様子と明らかに浮いており、ただ者ではないと分かった。
しかし影の地は危険に満ち溢れている。ただの幼子ではないと分かるが、それでも丸腰の子どもが一人で歩けるような場所ではない。俺はその幼子をじっと見ている拾い虫を制止し、少し離れたところから話しかける。
「おーい、そこの幼子よ!ここは危ないぞ!同伴者がいないのならば、俺たちと共に行かないか!」
すると、その幼子は柔らかな笑みをこちらに向けてきた。しかしこちらに近づいてくる様子はない。俺は再度声をかける。
「怪我でもしているのか…?承知した!そちらに行くから、待っていてくれ!」
幼子は、俺の言葉に不思議な反応を返した。目を大きく開き、俺が近づこうとすると小動物のごとく、その場から走り去る。俺は手を伸ばすが、幼子の足は速く、あっという間に俺の視界から姿を消した。やはり、いきなり話しかけてくる生き壺は不審であったということか。
俺は拾い虫に足を止めさせてすまなかったと謝罪する。俺は拾い虫を見て、様子がおかしいことに気づいた。
拾い虫も、俺の隣にいる壺巫女も地面にへたりこんでいる。恐怖で足がすくんだというよりは、気分が良さそうであり、どこか恍惚としていた。幼子の影響だろうか。幼子は確かに愛らしい見た目をしていたが、壺巫女も同列に当たるほどの美しさだろう。
足腰が立たなくなっているのは異常であるので、粒子を纏い拾い虫と壺巫女の体に触れる。すると、焦点の合っていなかった瞳が、俺を捉える。しばらくして、拾い虫と壺巫女はがたがたと震え始めた。
「せ、戦士の壺様…。私は、何という裏切りを…!」
「どういうことだ。」
壺巫女は話始める。あの幼子を視界に入れたときから、頭に靄がかかったように感じ始め、微笑んだ瞬間あの幼子のことしか考えられなくなったという。拾い虫も同じように感じたそうで、紙に「こわい じぶんじゃなくなる」と書いてみせた。
俺は二人の話を聞き、無い背筋が凍る。あふれ出る高貴さのようなものから、ただの幼子ではないと思ったが、それ以上だ。視界に入れたり、微笑んだだけで魅了するだと?
信頼や好意というのは、第一印象ももちろん大事だが、それ以上に積み重ねることで得られるものだ。それを一瞬にして植え付けるなど、あの幼子は、人の形をした化物ではないか。俺は正気に戻った壺巫女と拾い虫の背を撫でて落ち着けてから、再び出発することにした。
「戦士の壺様、私たちを治してくださりありがとうございました。これからはより一層、貴方様の役に立てるようにして参ります。」
「壺巫女殿は、俺に同行して話をしてくれるし、俺が持てない量の道具を運んでくれているではないか。十分助かっている。」
拾い虫と壺巫女は、我を忘れるという体験のせいで不安がり、先程以上に話のサイクルを回している。拾い虫など、歩きながら紙に文字を書き続けているほどだ。俺は一つ一つに返事をしながら、歩を進めた。
気が立った狼の群れがこちらを襲ってくることがあったが、群れのリーダーを殴ることで攻撃を止めさせ、巨大な柱の聳え立つ道を通っていく。半透明な墓石が不規則に並ぶ草原を抜け、影の霊体が端々で祈る大きな階段を上り、城の外壁が見えてくると、その付近の草むらに人が座っているのが確認できた。
その人物は、緑青の重厚な鎧を身に纏っており、木箱を背にして、壺をゆっくりと触っている。拾い虫が一番長い手をその鎧の人物に向ける。彼がムーアのようだ。
俺は、トレーラーでムーアの姿を見た事があった。第一印象と違っていたため、少し驚く。
ムーアは、拾い虫と俺たちに気が付いたようで、こちらを見上げてくる。俺たちはムーアに近づくと話しかけた。
「貴殿がムーア殿か。俺は戦士の壺。こちらの拾い虫殿に話を聞いてな、ぜひ会いたいと思いこうして共に来た。よろしく頼む。」
「私は、壺巫女と名乗っている者です。戦士の壺様の意向に従い、やって参りました。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
俺たちが自己紹介をすると、一気に話したせいか、どこか落ち着かない様子でムーアは返した。
「…やあ。自分は、ムーア。拾い虫が、ありがとうって。人を連れてくるなんて、珍しい。」
ゆったりとした話し方で、温和な印象を受ける。ムーアは、じじと鳴いて喜ぶ拾い虫に手をやりながら、うんうんと頷いている。どうやら筆談を使わなくても、拾い虫と意思疎通が取れるようだ。
「ムーア殿、貴殿は心優しい御仁だと聞いている。それで…厚かましい願いになるのだが、この地のことや同志の話を聞きたい。協力してくれないか。」
「…うん。お礼は、しないと。時間が、かかるけど、いい?」
俺は力強く頷く。交友関係の広いムーアだからこそ聞ける話も多いはずだ。情報はまず、人の話から得るのが良いと俺は考えている。ムーアは快く引き受けてくれて、ゆっくりと話を始めた。
まずこの地について。拾い虫が調べたところ、牢獄の入口はやはり三つであるようだ。メスメルの情報に漏らしはないようで、俺は一先ず安心する。次に同志について聞く。同志とは、針の騎士レダを中心として集められた、神人ミケラに魅せられた集団のようだ。この集団が何をしようとしているのかは、詳しく聞かされていないとのことだ。ムーアも所属しており、拾い虫ともどもミケラの目指す律を望んでいるらしい。
「ミケラ様は、光だ。自分たちを、救ってくれる。それに、調達は楽しい。皆も、喜んでくれる。」
「なるほど、そうか…。確かに、神人マレニアの…。」
俺は腐敗の眷属たちが、マレニアの腐敗に属するものだと思い出した。そしてマレニアは自身の性質である腐敗を望んでおらず、抑えようとしていた。双子の兄である、神人ミケラの協力のもとに。ならば、ムーアたちにとっては見捨てられたも同然か。
同志になることで助けが得られるのは、大きなメリットではあるが、俺たちの目的と噛み合う場面が少なそうだ。ミケラは狭間の地のアイテムを読み解くと、恐ろしい神人だという認識がある。それに俺の中のミケラは、血の君主モーグのところにある、繭の腕のイメージが強い。DLCではミケラの深堀りがなされるという情報があったが、あの有様であるのに、ミケラ本人が自由に動くことができるのか疑問だ。俺は同志になる誘いをやんわりと断った。
最後に、俺はムーアが使う「大腐敗壺」を見せてもらう。ムーアから何故かと聞かれたが、やはり壺を使う者には親近感がわくからだと答える。心根の優しい者であるなら、尚更だ。
俺は彼が困ったときは、必ず力になると約束する。
「ムーア殿。俺たちと拾い虫殿は友人となった。だから、俺はムーア殿とも友人になりたい。良いだろうか。」
「…うん。戦士の壺、また来て。壺巫女も、一緒に。」
ムーアは俺の願いを快諾してくれた。俺は嬉しさのあまり、ムーアと握手をする。緑青の鎧は、柔らかくそれでいてずっしりとした安定感であった。
俺たちは、拾い虫とムーアにしばしの別れを告げると、牢獄へ足を運んだ。拾い虫のおかげで、早々に二つ目の牢獄に辿り着け、生き壺と巫子を救うことができる。姿を消した幼子の不穏さを一旦頭の奥にしまい、目的を達することを一番に考えながら、俺たちは来た道を折り返した。