戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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城砦

 俺たちは、目印にしていた大きな樹から石橋の方へと向かうことにする。城砦を通るには、この道を通るしかない。メスメル兵が野営地として陣取っている場所が道中にあるため、どうにかして説得しながら進むしかない。拾い虫のルート作りがどれだけ素晴らしいものであったか、身に染みて分かる。

 

 

「皆、危なくなったら俺を盾にするのだぞ。では城砦に出発!」

 

 

 俺が拳を掲げ、生き壺たちと巫子たちを先導する。前方を俺含めた大きい生き壺で固め、生き小壺と巫子は、大きい生き壺の影に隠れるように陣形を組んだ。オンジには背後を守ってもらうことにした。

 メスメル兵が石橋の真ん中にバリスタを置いているため、大事を取って俺は声を上げる。拾い虫と通った時は、丁度メスメル兵が配置入れ替えをしていたようで、誰も付近にいなかったのだが、今はしっかりと構えている。

 

 

「貴殿ら、偉大なる君主メスメル公の兵士たちよ!俺は戦士の壺!城砦の主と話がしたい。通してはくれぬか!」

 

 

 幾らメスメルの兵士であってもひと悶着はあると思っていた。ところが、俺の名乗りが聞こえたのだろうメスメル兵たちは、矛を納めて、橋の奥を指し示す。力を示していないのに俺たちを通してくれる様子に、不思議がりつつ、これ幸いと橋を渡った。

 野営地において、メスメル兵と鉢合うことなく、城砦の入口にやってきた。鋭利かつ長い槍に、未だ燻り続ける火で焼かれている遺体が串刺しになっている。それが無数にあることから、戦火の苛烈さを物語っているようだ。

 目の前に騎士トロルが座っており、その巨大な騎士剣を地面に突き刺している。騎士トロルは、その巨体からなる範囲攻撃が脅威だと、俺は考えている。生き小壺たちは、その地面を薙ぐ攻撃で簡単に割れてしまうだろう。

 魔術も使える点が、交渉の余地のある知性を宿していることを推測させるため、何とか通してもらえるよう交渉するしかない。俺は休息を取っている騎士トロルに名乗り上げようとする。騎士トロルは、声を発する前に俺たちへ気づいたらしく、じっとこちらを見てくる。

 

 

「高潔なトロルの騎士殿。俺は戦士の壺と名乗る生き壺だ。城砦を通って、仲間をいるべき場所に帰したい。見逃してはくれないか。」

 

 

 騎士トロルは、拳を兜の下に持ってくると頷いた。右腕を伸ばして、左奥の道を示してくれる。こんなにもすんなり通してもらえることがあるのだろうか。俺は感謝を述べると、生き小壺がどこかへ遊びに行っていないか確認し、全員いると分かってから先へ進む。

 その後も、メスメル兵や、大盾に大槌を持った黒い騎士、輝石魔術を使う貴人と遭遇したが、皆道を譲ってくれた。交渉もなしに先へ進めることへ、疑問が募っていたが、それは一人のカーリア騎士によって解消された。

 

 その騎士は俺たちを見るなり、騎士剣を下ろしたため、俺が何故そこまで警戒を崩しているのかと尋ねたのだ。彼女は、城砦の主から全体に向かってご達しのあった声明に従っているのだと話してくれた。その内容は、「壺と女性を引き連れた大きな壺が来たら、道を開けよ」であるそうだ。メスメルからそうしてほしいという伝言を預かったらしく、広く伝えているらしい。

 城砦の主は、「双月の騎士、レラーナ」という名で、あの満月の女王レナラの妹だという。

 

 俺は、レナラの妹がいた新事実に驚きながらも、未知への好奇心で気分が高揚した。そのまま道を通してもらうべきなのだが、詳しく話を聞きたくて立往生をしてしまった。

 カーリア騎士であり、レラーナの介添人であるという彼女は、その立場からか色々な話を知っていた。彼女は、中々に気さくな女性であり、まずムーンリデルという名をおしえてもらった。カーリア王家の話や、レラーナの愛の話、メスメルとの関係、彼女自身が友とするトロルのことなど興味深い話ばかりだった。

 

 しばらく話し込んでいたら、壺巫女たちが立往生に疲れてしまったようなので、先を急ぐことをムーンリデルに言う。すると、彼女は俺の信念に対し応援をしてくれた。そしてトロルたちとも友誼を結んでくれると嬉しいとも。出会う騎士の、悉くが誉れ高い。

 俺はムーンリデルの言葉に約束をし、上へと進んだ。

 

 

 輝石魔術師に壺を下げ、砦を守るため歩き回るメスメル兵に挨拶しながら進む。壺巫女はずっと不満げである。生き壺たちはマイペースを崩さないのだが、巫子たちからも少し感じるものがある。

 

 

「戦士の壺様、今までで一番気分がよろしいようですが…。」

「先導する俺が、立ち止まってしまい申し訳なかった。…やはり、知らなかった英雄の話を知れるのは、楽しいものなのだ。」

「…戦士の壺様は、勇ましい戦士様でございますからね。」

 

 

 壺巫女はそう呟くと、肩を落とした。重要な目的があるときに、立往生はしないように改善することを俺は心の中で誓った。

 大鎚を持った黒騎士が、奥にある昇降機を示してくれたためそれに乗り、青白い炎のトーチで照らされた部屋に辿り着く。武器が壁に立てかけられた部屋から階段を上って、暖炉を軸にさらに上へあがる。右手に見える円状の大部屋の中心には、銀と青に彩られた鎧を身に纏う、騎士が立っていた。

 

 俺は浅く水に満たされた大部屋に入り、最初に壺を傾けお辞儀をする。無駄な血を流さず、ここまで来れたのは目の前の騎士のおかげだ。双月の騎士、レラーナ。カーリアの王女でありながらその立場を捨て、この地にやってきた。メスメルを愛する、剣としてある騎士。

 

 

「レラーナ殿、貴女のご厚意に感謝を。俺は戦士の壺。メスメル公に近しい血縁の巫子たちを、村に帰したいという思いから、こちらを通らせていただきたく参った次第。」

 

 

 レラーナは、高貴さを感じさせる言葉遣いで俺に返す。ここを通れ、メスメルの考えのままに。

 俺はまた深く壺を下げると、話しておかなければならないことを思い出した。俺は体を元に戻し、レラーナに提言する。

 

 

「レラーナ殿、お話しておきたいことが。この地に、メスメル公と同じ親を持つ幼子が来ておられる。幼子は、人を魅了する力を持ち…その幼子の配下は、城砦を血で染めることになる。」

 

 

 レラーナはその言葉にぴくりと体を動かす。唐突に物騒なことを言えば、反応するのも当然だろう。レラーナは王女であったことも関係しているのか思慮深く、まず話してみろと俺を促した。

 

 

「感謝を。その幼子は、ミケラという。女王マリカと王配ラダゴンの間に生まれた神人だ。レラーナ殿は、ご存じだろうか。」

 

 

 レラーナは考え込むと、そのような者は知らないと返した。やはり影の地は、時間が止まっているように情報が古い。ムーンリデルの話を聞いて思ったことだが、彼女は狭間の地で起こったゴッドフレイの追放や破砕戦争を詳しく知らなかった。ほぼ断絶され、狭間の地から少しずつ伝わってくる情報では、幾ら付添人であっても細かい話は知ることができないのだ。ムーンリデルの狭間の地での記憶は、ラダゴンとレナラが婚姻を結んだ、幸せな記憶で止まっていた。

 ならば、褪せ人についても詳しく知らないだろう。俺はレラーナに続けて言う。

 

 

「神人ミケラの力は凄まじい。視認するだけでも、力を持たぬ者は抵抗する間もなく彼に心酔することとなる。だが、それ以上に彼の信奉者たちが厄介だ。…俺がメスメル公に話をするまでで良い。足止めをお願いしたい。」

 

 

 俺は深く壺を傾け、レラーナに頼み込む。おそらく、ミケラの信奉者である同志たちに褪せ人も混じることだろう。盤外から見る視点として、最初から話の通じる集団と敵対するはずもない。また、このエンシスの城砦は、影の城に向かうための関門だ。褪せ人がレラーナを殺して進むことは、ほぼ確実と言っていいだろう。そして、影の城にいるメスメルさえも殺される。メスメルの存在が影の地の終点だとしてもだ。

 かの主をみすみす死なせるわけにはいかない。無論、彼の部下に、大切な人たちも死なせない。

 

 レラーナは俺が行う必死の頼み込みに頷いてくれた。彼女は言った。元々メスメルを害する者を通すつもりはない。守るために協力を惜しみはしないと。

 俺は岩の手を地面につけ、レラーナのメスメルに対する姿勢へ感謝した。これで、メスメルやレラーナ、メスメルの友人たちを死なせない準備ができる。

 

 俺は、レラーナに対策を話した。まず、城砦に侵入できる脇道を塞ぐ。具体的には、脇道を大量のバリゲードで塞いでもらう。生半可な剣では崩せない強固な柵を用意してもらいたいと俺は言った。

 そして極めつけには、道中にかけられた長い梯子を外してもらい、同志たちを通れないようにする。不便にはなるが、兵士のための通路を残すことが仇となるのだ。

 

 レラーナはその対策を聞き納得してくれた。そして、私の方でも対策を練ることにすると話した。

 不安は残るが、それは薄まった。俺の提言を聞き入れてくれたことに再度感謝し、立ち去ろうとすると、彼女は最後に言った。

 メスメルの蛇を持つ者は、必ず信用する。

 

 

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