エンシスの城砦を抜け、道なりに進んでいく。城砦に至るまでにメスメル兵がいるが、その彼らがレラーナにメスメルの言葉を伝聞したようで、俺たちの存在を知っていた。焼炉のゴーレムは制御出来ないようなので、道の中心に陣取られている野営地は避けて、影の城へと入っていく。巨大な獣は未だ眠ったままだ。
まずは、巫子と生き壺を隠された地に送る。今回の梁渡りでは、巫子の人数が多かったことから、より集中力が必要であった。しかしオンジという身のこなしが達人級の存在がいたため、労力は前と同じくらいで済んだ。
巫子の村は、少し離れただけであるのに、だいぶ景観を変えていた。ただ花畑が広がっていた以前と違い、新しく建てられた家も増えている。ツリーガードの他に、メスメル兵や火の騎士が来ており、村の再興を手伝っているようだ。
これもメスメル公のご厚意か。俺は色々な人が集まる、この村の在り方に美しさを感じた。
俺は再びの帰還を村の皆に伝える。そして、協力してくれているツリーガードとメスメルの部下たちに感謝を述べ、駆け寄ってくる巫子たちに救助した家族を明け渡す。特に、元々この村の住人だった四人は再会を喜んで抱擁し合っていた。俺は近くにいた巫子に、レンガで作られた新造の建物について尋ねる。民家に比べ、明らかに造りがしっかりとしており、それだけ重要な施設なのだろう。
「そこの巫子殿。あの大きな建築物は、調理のための建物なのか?」
「ああ、壺様。あれは、壺を焼くための施設です。」
巫子が俺に答えるのと同時に、その巫子は口を押さえられ、仲間の巫子に引っ張られていく。壺を焼くためとは、入れ物が足りないから増やすということなのだろうか。俺が疑問を持って建物を見ていると、壺巫女の妹がやってきた。
「壺様。あの建物は貴方様の同胞が、体を鍛えるためにも使われているのです。ご覧になりますか?」
俺は納得した。村にいるはずの生き小壺が少なくなっているのは、どういうわけだろうと考えていたからだ。俺はぜひ見たいと快諾し、ついてくる生き小壺と共に壺焼き場へ向かった。
その途中で作りかけの施設についても説明がなされる。食べられる植物を育てる施設や、自然から量が減らない程度の動物を村の外に繁殖させる施設などである。少しずつ橋の向こうにも手を伸ばしているらしい。
その施設の中は壮観であった。メスメルの火がめらめらと燃えあがり、その中で生き壺たちがじっと耐えている。途中で熱くなったのか、生き小壺が両手を上げながら外に出て行く。その姿が爆発する生き壺と被り、少し過酷すぎるのではと思った。
「壺巫女殿の妹君。無理はし過ぎないように、同胞に話しておいてほしい。鍛錬が行き過ぎて割れるなど、本末転倒だからな。」
「ええ、理解しております。火力のほどは細かく分けられるよう、村の巫子が尽力して参りますので、ご安心を。」
俺はせっかくなので、生き壺と共に体を焼いていくことにした。作戦練りは大切だが、俺が割られないことが何より大切だ。生き小壺が傍に寄ってきて、拳を俺に見せる。俺はその生き小壺と拳を合わせた。ナイスガッツだ。
しかし、焼炉のゴーレムの炎に焼かれたからか、温度がぬるいように感じる。あの鉄拳アレキサンダーも、ゲルミア火山のマグマはぬるく感じていたので、もっと体を引き締まらせることのできるような炎が、俺には必要なのだろう。
頑張っている生き壺たちに手を振り、俺は村に戻る。生き壺との交流で心はほぐれた。作戦を考えるときだ。
村の中心に置かれた簡易的な席に、メスメルの兵士たち、巫子たち、壺巫女とその妹が集まる。俺は話し始めた。
「皆、心して聞いてほしい。物としての証拠は提示できないのだが、この地に災いがやってくる。これはほぼ確実なことだ。」
巫子たちは俺の言葉に目をつむり、メスメルの兵士たちはざわめく。俺は喧噪を止めず、声を大きく続ける。
「災いを連れてくるのは、神人ミケラという幼子と、その信奉者だ。まだ詳しく分からないが、ミケラは自身の律を掲げるためこの影の地にやってきたそうだ。ならば、実質的な影の地の統治者と、穏便に済むとは思えない。」
俺は壺巫女のほうを見て促す。見ただけで心を奪われるという話を壺巫女からすると、メスメルの兵士たちはざわめくのを止め、俺の言葉を待つようになった。
「だからこそ、俺が動く。無駄に死なせはしない。今こそ貴殿らから貰った恩を返すときだ。メスメル公にはこれから俺が話に行く。貴殿らは村の守りを徹底してほしい。お願いできるか。」
俺の言葉に頷くメスメルの兵士たち。彼らは、引き続き復興作業と守護を担当してくれるそうだ。だいぶ村の守りが分厚くなってきた。
メスメルの兵士の一人が、隠された地一帯に不戦の約定を立ち上げたため、それを破る者が現れたら対処すると話してくれた。不戦の約定とは、俺が知っているものだと狭間の地における円卓で用いられていた。取り決めにも複雑な手順を知る者が必要であるそうで、詳しく知らない巫子と生き壺だけではできない選択肢だった。俺は改めてメスメルの兵士たちに感謝を述べた。
オンジには、メスメルの兵士たちと共に村を守る者になってほしいと話した。オンジは、行く当てもなしと言い、了承してくれた。そして老人が骨をうずめるには良い場所だとも、オンジは乾いた笑いを上げながら言った。
最後に、壺巫女の妹から俺の体に入っている液体を拝領したいと言われる。頭を深く下げ、大きめの壺を頭の上に掲げる壺巫女の妹に、俺は戸惑いはしたが、それで掬って金色の液体で満たす。これは元々肉片が変化したものだ。記憶を受け継いでいるので、残った肉片そのものを大事にするつもりはないのだが、何故求めるのか分からなかった。どういった効果を持つのか、まだ理解できていない部分もある。
壺巫女の妹は、金色の液体を入れた壺を受け取ると言った。
「象徴を頂きたいのです。村を復興する際の活力になる象徴を。」
俺はどう象徴になるのか分からなかったが、嬉しそうにしていたので良しとする。もっと使える物を差し出せるように、考えていかなければと思い直す一幕だった。
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壺巫女の妹は、隠された地へぞろぞろとやってくるメスメルの兵士たちを出迎えた。影の城と隣接した土地であるから、協力したいとのことだった。壺巫女の妹は喜んで、それを受け入れた。
メスメルの兵士は、復興作業の傍ら、多くのことを語った。雑談に近い話もあったが、特に懸念される事項に壺巫女の妹は耳を傾けた。
この村のある場所は隠されてはいるが、場所自体は既に知られていること。また生き壺についての話だった。メスメルに仕える調香師が言った。
生き壺の破片は堕落した調香師に使われると。貴重な素材であるため高く売れることから、密猟者も存在しており、見つけ次第狩ろうとしてくると。壺巫女の妹は憤ると共に背筋が凍った。生き壺は大事な家族だ。中身の素材についても巫子が使われている。二度も死なせるなど、あってはならないことだ。
壺巫女の妹は思った。外部から来る侵略者に怯えるなど、角人にいいように扱われてきた過去の焼き直しになってしまう。強くあらなければ。
再び作戦を練って、急ぎ村を出て行った神と姉に祈りを捧げ、受け取った金色の液体を見る。壺巫女の妹はその液体を小さめの壺に分注し、そこへ食べることのできなかった動物の死肉を漬け込んでみた。
すると、金色の液体は眩く光り、光が収まる頃には死肉の分だけ量が増えていた。次に壺巫女の妹は、自身の指を切り、傷口を液体に浸す。指先が温かくなり、指を抜くと傷跡一つ残っていなかった。
やはり、この液体は神の一部でありながらも、全てを浄化するのだ。壺巫女の妹は確信した。
壺巫女の妹は、巫子と生き壺、メスメルの兵士たち、村に集まった全ての人員に願った。この液体を入れられる神聖な器を用意してほしいと。神が不在の間、余計な心配をかけないように。見上げるほど巨大な大壺を作り上げることを彼女は計画した。
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俺と壺巫女は影の城を上へと跳び、火の騎士クードが守護する暗室前に来た。クードに対して、急ぎ伝達したいことがあると話し、道を開けてもらう。この前は大勢で来たこの場所も、二人であると途端に広く感じる。俺は声を張り上げて、メスメルに謁見の許可をもらうと中に入った。
「なんだ、貴公。我が送った兵に問題でもあったか。」
「とんでもない、ご助力いただき感謝を、メスメル公。ここを通して頂いたのは、またお話ししておきたいことがあったため。」
「…申してみろ。」
明るくなった部屋にて、メスメルは玉座に座っており、顎で促す。俺は伏せ気味になったまま話した。
「まずは貴殿とレラーナ殿の温情によって、城砦を通過させていただいたこと、感謝申し上げる。そして重大な話を持ち込ませていただいた。貴殿と同じ母を持つ、神人ミケラ。そして彼の信奉者がこの地にやってきた。ミケラが持つ律を掲げるために。」
「ミケラ…。話には聞いている。レラーナの姉君を捨て、母と繋がったラダゴンとの子。」
君主であるが故に、狭間の地から流れてくる情報は集められているのだろう。メスメルはミケラのことを理解しているようだ。怒気が少なからず漏れ出ている。
「貴公、レラーナにこれを話したか。…いい。いつかは知ることになっていたはずだ。」
メスメルはぎろりと俺を一瞬睨み、ため息を吐く。俺は城砦にて、正確に情報を伝えなければという思いが先行していたが、エルデンリングにおける家系図は複雑だ。配慮してしかるべきだったと思いながらも、レラーナとメスメルの心の広さに甘えてしまう。
「それで、我に続きを。」
「承知した。ミケラは律を掲げるつもりだと言っていた。とすると、何か特別な場所が影の地にあるのではと愚考している。メスメル公は、そのような場所に心当たりがおありだろうか。俺は、そこを基点として対策を練りたい。」
「…知っている。影の塔、封印されたその場所に、それはある。」
メスメルが、俺たちの立つ場所の左後ろを指さす。メスメルは続けた。
「封印の木に縛られた場所だ。我の炎でも無い限り、その封印は解かれない。」
俺はその情報に、気づいた。推測できてしまった。俺の頭に、褪せ人と協力して最後には炎に包まれた女性、メリナが燃える様がありありと映し出された。木には炎を。メスメルの炎をもって、その封印を解くために、「同志」たちは影の城に向かってくる可能性が高い。そして交渉は決裂し、メスメルの死をもって火は持っていかれる。同志の中に褪せ人が混じるならば、考えられる話だ。
俺はメスメルの言葉に悩む。メスメルを隠そうにも、必要な物を持っているとあれば、褪せ人は隅から隅まで影の地を探索するだろう。一度見つけられたら、逃れることは出来ない。
メスメルがいきなり唸り始めた俺に疑念を抱いたのか、声をかけてきた。
「どうした、戦士の壺。ミケラ…母が産んだ子に警戒はすれど、それだけだ。」
「メスメル公、貴殿の強さは分かる。だが…そうだ。」
俺は思った。封印の木を焼くのには、他にも手段があるはずだ。狭間の地において、既に示されていたではないか。俺はメスメルに尋ねる。
「メスメル公、知られていたら答えて頂きたい。この地に黄色い炎はあるだろうか?」
メスメルは話してくれた。メスメル兵の中に目が融け、眼窩から黄色い炎を迸らせたものがいると。治療もできず、兵士の中でそれが広まっていったため放置もできず、介錯を行ったらしい。
俺は理解した。火のない所に煙は立たぬ。狂い火は、この地にもまだ燻り続けていると。
メスメルが守備を徹底することを話し、俺は提言を受け入れてくれたことに感謝した。そして壺巫女とともに部屋を離れ、最後の牢獄へと向かうことにした。救助はもう少しで終わり、ここからは守る戦いへと変わっていくだろう。俺は、力と狂い火を求めて影の地を回る。無駄に死なせないために。
「金色のスープ」
戦士の壺(パチモン)を満たす、金色の液体
強い癒しの力を秘めている
魂も意志も残らない屍を、同じ金色へと変える
これは象徴であり、導きである