戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

23 / 67
影の地 後編
褪せた瞳


 影の城を出て、最後の牢獄へと向かう。その牢獄は、影の地の最南端に位置しており、今までの比にならないほど距離がある。幾らレラーナやメスメルに仕える兵士たちが味方をしてくれると言っても、険しい道中になるだろう。

 

 俺たちは再び城砦を通らせてもらう。城砦では、大広間の手前にある会議室で、レラーナ、黒騎士、輝石魔術師が話し合っており、ムーンリデルはレラーナの横に付き添っていた。レラーナは、俺たちが予想よりも早く往復してきたため驚いていた。

 日数がかかってしまったが、それでも急ぎ行動しなければ、状況がすぐさま変わってしまう。俺たちは礼と、現状の把握を行ってからその場を去った。

 

 騎士トロルに挨拶してから、野営地を抜け、石橋を渡る。石橋を渡り終え、真っすぐ歩いていると、以前来た時と何かが違うことに気が付いた。見覚えのあるものが、地に突き刺さっているのだ。それは祝福のような色をしており、俺と同じくらいの高さのある棒状のものだった。先端は三日月のように弧を成している。

 

 

「これは…。」

 

 

 それに触れようとすると、言葉が頭に浮かんでくる。「我が最初の肉体を、ここに棄てる」と。

 これが何であるのか、今も城街の前にいるであろう、ムーアに聞くこととする。俺は、どこか焦燥感に駆られながらもその棒から離れ、ムーアの元に急いだ。

 

 城街の入口まで歩いていくと、やはりムーアはそこにいた。そして見知らぬ人間も、近くで立っているのが見える。先ほど見た棒状のものもそこにはあった。

 俺と壺巫女は、ムーアに手を振りながら近づく。ムーアも俺たちに気づいてくれ、小さく手を振ってくれた。

 

 

「また、会った。戦士の壺、壺巫女。」

「…おや、知らぬ面々ですな。ムーア殿の友人でいらっしゃいますか。」

 

 

 近づくと、ムーアの近くで立っていた人物はただ者ではないと分かった。しわがれた老人の声であるが、今まで相対してきた人物の中で、最も鋭利に研ぎ澄まされた武を感じる。彼も外見だけは見覚えがあった。

 老人は顔を覆う兜から、長く蓄えられた白髭が出ており、清潔感のある黒いコートを着て、後ろに手を回している。抜き身の剣のようであるのに、物腰はとても柔らかだ。俺たちは二人に返答する。

 

 

「ムーア殿、また会えて嬉しい。そして貴殿、俺は戦士の壺を名乗る生き壺だ。今は影の地を旅している。よろしく頼む。」

「ムーア様、こんにちは。…私は、壺巫女を名乗っております。戦士の壺様に付き従っている者です。よろしくお願いいたします。」

「ご紹介の方、ありがとうございます。私はアンスバッハ。かつてモーグ様に仕え、今はミケラ様に導かれております。以後お見知りおきを。」

 

 

 アンスバッハと名乗る老人が頭を下げてくれたため、俺たちもしっかりと頭を下げた。モーグの配下だったという情報から、確かにミケラに従うのもおかしくはないなと感じた。ミケラとモーグは密接に繋がっていると俺は考えている。主人を鞍替えしたということだろうか。

 彼も「同志」の一人だろう。迫力だけでも、敵に回せば厄介に感じる。ここは穏便に済ませたいところだ。

 俺は早速ムーアに、目の前にある棒が何なのか尋ねる。

 

 

「ムーア殿、聞きたいのだが…ここにある棒のようなものは、一体何なのか分かるだろうか。」

「…うん。これは、ミケラ様が残した、十字。自分たちの、標。」

「神人ミケラの…。」

 

 

 抽象的な答えに俺が壺に手をやっていると、アンスバッハが話しかけてきた。

 

 

「私からお話ししましょう。貴公は、同志ではないですが…気になるのも無理はありません。」

「アンスバッハ殿、ありがたい…!」

 

 

 ムーアと友好関係を築けているから信用してくれたのか、アンスバッハは「十字」について話し始めた。これは「ミケラの十字」で、彼が棄てた肉体や、彼を構成するものの墓標であると。現在は六つほど同志たちによって「十字」が発見されており、彼らはその痕跡に沿ってミケラの後を追うつもりらしい。

 アンスバッハの分かりやすい説明に、俺は納得し壺を上下に揺すった。

 

 

「いやはや、話しすぎたかもしれませんな。しかし、貴公もこの地を旅してらっしゃる身。十字があったら、私に教えて下さると。」

「ああ、承知した。外からの協力にはなってしまうが、そちらの方が自由に探すことができるかもしれん。」

 

 

 俺は頷くと同時に、その十字がどこにあるかで、ミケラが動く場所を把握できるのは僥倖だと考えた。それによってある程度は「同志」たちの動きも分かるはずだ。影の地は広い。同志たちと一緒に行動するわけではないため、逐一情報を更新しなければならない。俺はアンスバッハに礼を言うと、頭の中で計画を練ろうとする。

 

 

「そういえば、ムーア殿。耳に挟んでおりますかな。また新たに、褪せ人殿が同志に加わったことを。」

「うん。その人も、自分の調達で、喜んでくれると、いいな。」

 

 

 ムーアとアンスバッハの談笑が聴覚に入ってきた。その瞬間、俺の頭で描いていた計画は全て壊れた。微細に体を動かし壺巫女を見ると、彼女も俺をじっと見ていた。前に話した、あの褪せ人だと俺は頷く。壺巫女は俺の岩の手を握って震えていた。

 和気あいあいと話している二人に、割り込む形で俺が訊く。

 

 

「ムーア殿、アンスバッハ殿。その褪せ人殿という御仁は、今どこにいるか分かるだろうか。」

「おや、お会いになったことがありますか?」

「いや、俺も風の噂で聞いたのみだ。早く会ってみたい、そう思ってな。」

「…ほほう。しかしその様子からすると、私共より、詳しく知ってらっしゃるようですな…。」

 

 

 アンスバッハが一瞬剣呑な雰囲気を出し、それを雲散させる。見立て通り、鋭い。ミケラは見た者を魅了するが、この老兵はその性質にかかっていないように見える。歴戦の勘で、俺のごまかしを見抜いたのだろうか。

 

 

「…あ。噂をしていたら、来たみたいだ。」

 

 

 ムーアが俺の後ろを見て、呟く。俺は戦々恐々としながら、振り返った。

 その人物は、狼の戦鬼、バルグラムの特徴的な鎧を身に纏っていた。肩に大剣らしきものを担ぎ、小走りでこちらに近づいてくる。俺はアンスバッハとムーアの丁度間に収まり、その人物の動向を観察する。

 その人物は、両隣の二人ではなく俺をじっと見てくる。食い入るように首を突き出すと、戦鬼の兜を脱いだ。

 精悍な顔立ちの男性だ。戦士として相応しい。しかし、それ以上の情報が頭に入ってこない。ただ目が褪せている。その印象だけがあった。

 

 

「貴殿、噂に聞く褪せ人か。」

 

 

 褪せ人は戦鬼の兜を戻し、こくりと頷く。なるほど、いきなり切りかかるほど、血に飢えてはいないらしい。俺は少し調子を取り戻して話す。そして壺巫女から、拾った物の二つを受け取り、彼に手渡すことにする。

 

 

「俺の名は…戦士の壺。こちらの壺巫女殿と旅をしていてな。こうして会ったのも、何かの縁だ。これを受け取ってくれ。」

 

 

 渡したのは、ヒビ大壺と、影の地のルーンだ。影の地のルーンはそれなりに大きいものを渡した。褪せ人は、いきなり巨大な壺を渡されたためか少し焦っているように見える。俺は続けた。

 

 

「この影の地において、使われている壺だ。褪せ人殿も使ってみてくれ。」

 

 

 彼は再び首を縦に振り、この地で入手していたのか、徐にもう一つのヒビ大壺を取り出して見せた。そして二つともしまうと、呼び声頭を使って「ありがとう」と発した。

 初めのつかみは良好のようだ。俺はほっと壺をなでおろす。

 

 褪せ人はムーアにアンスバッハと、交互に話しかけている。俺の影に隠れている壺巫女にも、腰を屈めながら挨拶していた。言葉は話せるようで、先ほどの呼び声頭は茶化しであったようだ。意思疎通の幅が広くて助かった。

 二人と話し終えたのか、俺に再度尋ねてくる。貴公も「同志」なのか。レダという同志から、貴公のことは聞いていないと。

 俺は出ない冷や汗が垂れる感覚がした。正直に話したことで敵対しないだろうか。

 俺は意を決して話した。ある意味本当のことを。

 

 

「褪せ人殿、俺の蓋を見てくれるか。俺はこの、影の地でできた生き壺だ。それ故にレダという女性には会っていなくてな。ここの二人にも偶然会ったようなもの。二人の優しさに甘えて、今ここに立っているというわけなのだ。」

 

 

 褪せ人は、俺が壺の蓋を見せると遠眼鏡を取り出したようで、兜を付けたまま紋様を観察してくる。しばらくすると納得したようで、うんうんと頷いた。どこかコミカルなこれまでの対応で、俺は褪せ人に対して、怖さを感じなくなった。これが褪せ人の、人間関係を構築する力なのだろうか。

 俺はそのため、一歩踏み込んだ話をしたくなった。しかし、ここにいるムーアとアンスバッハに聞かれてはまずい。俺は褪せ人を手で招き、少し離れたところで耳打ちした。

 

 

「すまない。ここでの用が済んだら、俺のところに来てくれないか。貴殿と、無い腹を割って話したい。」

 

 

 俺は、壺の体を掌で触れながら言う。

 褪せ人は再び頷くと、二人して戻った。褪せ人は、ムーアが調達してきたであろう肝漬けを購入してから二人と別れた。俺もしばらくしてから壺巫女を連れて、彼ら同志の元を離れる。

 褪せ人は俺についてきてくれた。そして話とはなんだと訊いてくる。俺は咳ばらいをすると、単刀直入に言った。

 

 

「褪せ人殿、貴殿は神人ミケラに魅了されているか?」

 

 

 褪せ人は腕を組むと、横に首を振った。彼は言う。血の君主、モーグを倒してから祝福に座ったら、繭の前に人が来ていたのだ。ミケラ様に導かれたのだねと言われ、よく分からないまま首を振って、この地に来たと。

 俺は更に安心した。褪せ人の様子から、操られている感じはしなかったが、同志たちの言いなりになって、選択肢もないまま行動されてはたまらない。壺巫女には聞きに徹してもらい、俺たちは問答する。

 

 

「風の噂ではあるが…褪せ人殿は凄まじく腕が立つらしいではないか。俺は戦士の壺。貴殿の武勇伝にとても興味がある。聞かせてはくれないか。」

 

 

 褪せ人は両腰に手を当てて、自慢げにしている。倒した敵のことを話す機会は少なかったはずだ。そのためか、饒舌に話し始める。「接ぎ木のゴドリック」に、「満月の女王、レナラ」のありし姿、「星砕きのラダーン」、「冒涜の君主、ライカード」、「ミケラの刃、マレニア」。かいつまんで話していたが、その旅路は壮大で、俺もモニター越しに体験したというのに、その語り口は正に英雄であった。

 俺は、一瞬旅の目的を忘れるほどに聞き入り、手を叩いて喜んだ。目の前に生ける伝説がいる。真に強き者が、俺のために話をしてくれている。

 一通り話が終わるころには、俺は興奮で疲れ果てていた。褪せ人も俺の反応に喜んでおり、息も絶え絶えであった。

 彼の旅路をまとめるとこうだ。リムグレイブやケイリッド、リエーニエ、ローデイルといった基本的な土地は隈なく回り、地下も探索済み。残すのは、「崩れゆくファルム・アズラ」と「灰都ローデイル」だけである。まだ黄金樹は燃やしておらず、メリナを種火に使うことを躊躇しているらしい。

 そして話の流れで、しまっていた「暗月の大剣」を見せてくれた。魔女ラニとの約束の武器であるため、探索の際は、基本的に「バスタードソード」と使い分けているらしい。

 

 あまりにも好条件だ。ラニの掲げる律を目指しており、それでいてメリナをどうにか燃やさないように考えている。理想的な褪せ人がここにいた。

 俺は、この上なく喜んで、褪せ人の手を握った。彼となら協力していける。そしてこの地にとって、より良い結末を迎えることができる。

 

 

「褪せ人殿、ありがとう。俺は貴殿に全力で協力する。方法を探していこう。」

 

 

 褪せ人は、ぐっと俺の手を握り返し頷いた。ここまで協力的になってくれる人物は初めてだと、彼は言った。

 俺は、褪せ人と別れる前に話した。俺たちの旅の目的だ。褪せ人は、なるほどと考え込むと、牢獄を先に見つけたら手を出さないでおくと言った。俺は、ミケラとその信奉者たちを少し足止めするように話したと彼に言い、回り込む道を探してほしいと頼んだ。

 

 メスメル兵に誤解されて攻撃されないよう、壺巫女に入れ物をもらい、俺の中身の液体を渡す。特別な金色の壺。これを持てば、敵でないことが分かるはずだ。

 互いの意見交換を終え、俺たちはそれぞれの旅路に戻った。またすぐに再会することになるだろう。俺はそんな予感がしていた。

 

 




「金色の印壺」

戦士の壺を名乗る生き壺から渡された、友好の証
生き壺に満ちていた金色の液体が、なみなみと注がれている

メスメルに仕える者と、それに連なる動物との不戦を約束する
自身からも攻撃は出来なくなる


IF
褪せ人が狂い火を宿していた場合、あるいは狂い火を途中で宿した場合…話す間もなく敵対(星の雫効果なし)

褪せ人が戦士の壺(パチモン)を攻撃し続けた場合…その場でHPバー回復、敵対無し

褪せ人が壺巫女を攻撃し続けた場合…敵対(星の雫効果あり)

敵対すると、隠された地への道がジェスチャーをしても開かなくなる。
「串刺し公、メスメル」、「双月の騎士、レラーナ」、「宿将ガイウス」がいなくなり、封印の木は「蕾の聖女ロミナ」を撃破すると自動で燃える。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。