俺たちはまず、地図に書かれているように、墓地平原を南下していった。俺たちが見ていない方向はこちらだけのため、おそらく褪せ人が通ってきた道だろう。そして墓地平原の最南端と思われる崖から、下を覗く。
「これは、無理だなあ…。」
彼岸花のような紅い花が咲き誇る地が見えるが、地面が離れすぎている。蛇綱を引っ掛けられそうな場所もない。回り込んで、下に行くための道を探すしかなさそうだ。
「あともう少しなのですが…歯がゆいですね。」
「ああ…。戻ろう。メスメルの兵士たちに道を聞けば、下に行く方法も分かるやもしれん。」
「どこまでも、お供いたします。」
俺たちはその場を離れると、石橋を渡ったところにあるメスメル兵がいる野営地へと戻った。
往復するだけでも一苦労だ。メスメルの軍勢は、この地を広く知っているため、俺から見て右手の道を示してくれた。俺たちは哨戒しているメスメル兵に礼を言い、進んでいった。
鬱蒼として光を通さない林を抜け、開けた場所に出た。首のない竜の石像が立ち並んでいる。穴倉から下に行けるらしいので、右手を目指していくと、男性の叫び声が響いた。
何かに襲われているのかと、俺は壺巫女を乗せて、その声の主の元へ急ぐ。
男性は、地面に倒れており、悲痛な顔で痛みを訴えていた。とてつもない声量だ。俺は声をかけた。
「貴殿、大丈夫か。俺がすぐに治療しよう。」
「…ベール!ベールよ!必ずや!お前にも、恐怖を!うおおおおおおお!」
男性は俺の声が聞こえていないのか、痛みを訴えながらも、ベールという者に対して叫んでいるようだ。かと思えば、頭を抱えてうわ言のように恐怖を口にする。刻み込まれた傷は深いのだろう。
俺はそっと男性の体に触れる。なんと、足が千切り取られている。腕も重傷だ。俺は粒子を以って彼を癒した。男性は叫びを止め、治った手で四肢を触り始める。それは早くなっていき、すくりと立って叫んだ。
「ベエエエエル!儂は再び行くぞ!お前の恐怖となりに…!うわーっはっはっはー!」
ない耳を押さえたくなるほどの声量だ。男性は布で隠れていても分かるほどに、目を爛々と輝かせ笑っていた。男性はそのまま走り去っていく。最後まで俺たちの存在が眼に入っていないようだった。
男性がその場からいなくなった後、耳を押さえていた壺巫女が、ほうと息を吐いて言った。
「…あのような方もいらっしゃるのですね。何というか、元気なお方でした。」
「傷は治ったようで良かった。壺巫女殿、先に進むとしよう。」
「はい、戦士の壺様。」
俺たちは穴倉に向かって進んでいく。途中で鳥の像に扮したゴーレムがこちらを攻撃してきたため、翼の部分を掴んで倒す。そのゴーレムの頭部から繰り出される炎は霊炎であり、死儀礼の鳥を思い起こさせた。霊炎は冷たい炎であり、受けてみた結果、また別のアプローチで壺の体を鍛えられそうだと思った。
穴倉に辿り着いた。首のない竜の石像がある道を選んでいけば、自然と入口に来ることができた。この石像は見覚えがある。竜といえば、竜餐の儀式だ。彼ら竜のような強大さを身に着けられれば、より守るための力を付けることができるだろう。俺は新たな力が手に入ることを皮算用して、「竜の穴」に入っていった。
洞窟の中は、遺跡になっていた。崩れている部分も多く、相当古くに作られたものなのだろうと推測する。洞窟の通路は、場所によってはぎりぎり通れるほど細く、周囲に注意しながら体を押し込めていく。
道中、スケルトンが体をなし襲いかかってきた。俺は粒子を纏わせ、一旦触れてみる。すると、触れるだけでも相当なダメージを受けたらしく再びバラバラになる。スケルトンに対しては、粒子は癒しの効果を持てないらしい。
顔が獣の骨であるため、ファルム・アズラの獣人の骨であることを認識しながら、通れる場所を行くと、階段が見えた。下に行くのが正解かと思いきや、洞窟の中は入り組んでいるため、違う可能性もある。俺は上に続く階段を進むことにした。
途中から狭くなる道を抜けて、一息つこうかと思ったが、そこが天然の大広間になっていることに気づき、戦闘態勢を取る。ダンジョン内で開けている場所は、大抵ボスが潜んでいるからだ。予想通り、広間の奥からのしのしと巨大な敵が現れる。俺はぶるりと壺を震わせ喜ぶ。溶岩土竜だ。
「壺巫女殿、通路から少し戻っていてくれ。溶岩は人の身には熱すぎるからな!」
「承知いたしました。ご武運を!」
壺巫女が通路から元に戻っていくのを確認し、俺は拳を突き上げて溶岩土竜に宣言する。俺はエルデンリングの竜の中で溶岩土竜が一番好きだ。竜餐を為し続けた人間であり、今はもう人でなくなった存在。竜の心臓を食らい続けて、溶岩土竜になれるのであれば、それを目指したいと思うほどだった。
そんな竜と今から戦える。俺は粒子を纏い、溶岩土竜に突っ込んでいった。
「竜餐を為した、強大な戦士よ!俺は戦士の壺!互いに力を尽くし、良き戦いにしようではないか!」
返答は口から吐くマグマだった。俺はそれを浴びながら、溶岩土竜の顎に拳をクリーンヒットさせる。マグマが口中に広がったらしく、左手で口を押さえる溶岩土竜。俺はその隙に、何度も溶岩土竜の腹を殴る。俺の一撃一撃は重く響いているらしく、溶岩土竜は俺を押しつぶすように体を地面に叩きつけた。固い外皮で、俺の拳のダメージを軽減しようということか。
理性的な判断に、まだ溶岩土竜には人としての意思が残っているのではと彼の目を見る。爬虫類特有の冷たい目だった。こちらを殺すという単調な思考のみが見える。残念ながら、この動きは戦士だった頃の名残であるようだ。
俺は両手を組み、外皮の上からハンマー状の拳を打ち付ける。腕がボロボロになりそうだ。俺は素早く岩の腕を直すと、柔らかい部分を探し間合いを取る。
そのとき、俺の横を冷気の刃が通り過ぎた。飛んできた方向を見る。そこには、別れたばかりの褪せ人が、「暗月の大剣」を担ぎ、立っていた。
―――――――――――――
褪せ人は、今までにないほど快適な旅路を体験していた。それは戦士の壺から貰った「お守り」によってなされていた。出会ってきた生き壺から、経験として、話せる生き壺は皆いいやつなのだなと、褪せ人は思った。
戦士の壺が話していたように「エンシスの城砦」は閉ざされており、門の近くにいた黒騎士に話しかけてみたところ、脅威が去るまでここは開けられないとのことだった。回り込むしかないと褪せ人は考えた。
褪せ人は「同志」として集まった人々に話を聞いて回った。エンシスの城砦について、強行突破を考える者や一旦待とうとする者、自身と同じように回り道を探すつもりの者など意見はばらばらだった。
褪せ人は、とりあえずムーアがティエリエから頼まれていた「黒いシロップ」を渡しにいった。そしてティエリエが、生きることに疲れないと渡せない道具を持っているらしいので、そう話し、「ティエリエの秘薬」を受け取った。
ティエリエ曰く、「古い竜でさえも、眠りに落とすことができる」らしいので、使えるタイミングがあったら試してみようと、褪せ人は思った。
エンシスの城砦から回り込むために、岩壁に沿ってトレントに乗り進んでいくと、少し離れたところに竜の石像があるのに気が付いた。褪せ人にとっては丁度いいタイミングだった。寄り道していこうと、そちらの方向へトレントを進める。途中でとんでもなく大きな声を上げる男がいたが、話しかけてもこちらに反応しないため放置していった。
道中で侵入してきた「古竜人」を果敢な攻めで撃退し、道を進む。ぽつんと細い塔、「鎮めの柱」が建っているのを視認したため寄ってみたが、古竜岩の鍛石が落ちているのみだったので、嬉しくもあり肩透かしな気持ちもありだった。褪せ人は、この方向に残ったルート「竜の穴」へと歩を進めた。
褪せ人は、竜の穴にて道具を拾いながら、少し不思議がっていた。敵となるものが表れない。こういった洞窟もあるのかと納得するが、どこか引っかかる。その疑問は、先に進むことで解消された。
階段の上に、戦士の壺と一緒にいた「壺巫女」と名乗る女性が座っていたのだ。壺巫女は褪せ人を認識すると、階段のさらに上を示した。
「褪せ人様、戦士の壺様が竜と戦っていらっしゃいます。どうかご助力を。」
褪せ人は壺巫女の言葉に頷くと、武器を切り替え「暗月の大剣」を取り出した。そして、竜の鳴き声が聞こえる上へ向かった。
――――――――――――
褪せ人は、盾を構えながらこちらに合流する。そして溶岩土竜に対して果敢に攻撃し始めた。
「褪せ人殿、協力感謝する!共に竜を退けるとしよう!」
俺は褪せ人が溶岩土竜の注意を引いている間に、体へ力を最大限まで溜め、金色のタックルを繰り出した。溶岩土竜の脇に、俺の体当たりが響き、溶岩土竜は横転する。俺は褪せ人と息を合わせ、得物を取り出す溶岩土竜に対して、大技をぶつけることにした。褪せ人が「霊薬の聖杯瓶」らしき細い瓶を飲み干し、取り出した杖で、力を込めている。魔術「彗星アズール」の構えだ。俺も落葉のダン相手に決めた技を使うことにする。
褪せ人が「彗星アズール」を放つと同時に、俺は蛇綱を伸ばし、溶岩土竜の頭部に噛みつかせる。そして勢いよく跳びあがり、粒子を強く纏わせた両拳を溶岩土竜の頭に勢いよく振り下ろした。腹と頭に深い傷を負った溶岩土竜は、大きな音を立てて転倒し、その命を終えた。
俺は褪せ人に向き直り礼を言う。
「貴殿、助かったぞ。礼として渡したいのだが、何があるか…。」
褪せ人は首を振った。そして「竜の心臓」と「古竜岩の鍛石」を両手に持ち、俺に見せてきた。溶岩土竜からこれらが手に入ったから問題ないと、褪せ人は言った。そして、貴公と行きたい道が被っているようだから、途中まで協力しながら行こうと続けた。
「ありがたい…願ったり叶ったりだ。もう一つお願いがあるのだが、しばし壺巫女殿と待っていてくれないか。することがあるのだ。」
褪せ人は少しならと話す。どういった用事なのか気になると、その場を離れず俺の方をじっと見ている。
「…褪せ人殿であれば問題なさそうだな。まず、壺巫女殿を連れてくる。どういった行為であるのか、見ていれば、貴殿なら分かるはずだ。」
何せ、この巨体では収めるのに苦労しそうだ。考え直したが、壺巫女の助けも必要になるだろう。俺は褪せ人と共に壺巫女を呼びに行った。
俺は壺巫女に、溶岩土竜を俺の中に入れると話す。壺巫女は長い袖をまくった。
「ようやくお役に立てそうですね。気合いを入れます。」
溶岩土竜の体長は俺の数倍もある。だが入れていくべきだ。
溶岩土竜の体からして、竜の穴から出ることは出来なかっただろう。死んでしまっても、一人孤独に亡骸を残していくのは悲しいことだ。記憶を受け継いで、共に外へ行き、終ぞ見ることのできなかった景色を共有する。それこそ、俺がやるべきことである。
尻尾に、四肢。腹を何分割して壺の中に詰めていく。褪せ人も、詰める作業に協力してくれる。
褪せ人は、鉄拳アレキサンダーが砂丘にて、戦士の遺体を入れているのを見ているようで、その話をしてくれた。俺は作業しながら答えた。知っていては不審なものは、知らないふりをして。
「狭間の地にも、気高い戦士の壺がいるのだな。だが、俺のこれは弔いに近い。死したとしても、俺の中で生き続ける。そのために行っているのだ。確かに強くはなるはずだがな。」
褪せ人は、「解体包丁」にて遺体を切りながら頷く。俺の行動の意味を理解してくれたようだ。
俺は、褪せ人と壺巫女の協力あって、溶岩土竜の体を全て収め終える。体を光り輝かせることで中身が金色の液体で満たされる様に、褪せ人は好奇心を持っていた。俺もよく分からないのだと返し、三人でしばらく雑談する。
ふと、俺の中で鼓動が鳴り響いているのを感じた。俺は徐に体の中を触ると、竜の心臓が残っているようだ。それを取り出すと、その竜の心臓は金色に染まっていた。俺は褪せ人に金色の心臓を差し出す。
「褪せ人殿、報酬はこれでどうだろうか。見た目も変わったようだし、使い道はあるだろう。」
褪せ人は、共に連れていくために詰めたのではないのかと聞いてくる。俺は頷きながらその疑問に答えた。
「俺は、記憶こそ大事だと考えている。俺によって肉体は金色に変わっても、思いだけは俺の心に残る。だから、渡して良いのだ。」
褪せ人は、それならと金色の心臓を懐にしまった。どういった効果があるのか気になるところだが、それは褪せ人のみが知ることのできる情報だろう。機会があったら話してもらおうと、俺は思った。
竜の穴にいるボスを倒して、残るは降りるだけだ。しかし、階段を下りた先には奈落が広がっている。ここで行き止まりなのだろうか。
俺が唸っていると、褪せ人は手前にメッセージを見つけた。
恐怖を知らぬ、勇気を示せ
褪せ人はこのメッセージからどういう意味か読み取ったらしく、俺にサムズアップすると、奈落に飛び降りた。唐突な行動に、俺は慌てて下を見る。褪せ人が豆粒ほど小さくなり、見えなくなった。
同じ作業をしたことで、少なからず褪せ人に心を開いていた壺巫女が、膝から崩れ落ちる。
「褪せ人様は、何故あんなにも簡単に命を投げ出されたのですか…。」
「褪せ人殿、なんという勇気だ。…ん?」
奈落の底から、呼び声頭の音がする。色々な種類の物を使っている。まさか、褪せ人が安全だと言っているのか。
俺はいざというときに蛇綱を使えるよう準備し、壺巫女を抱きかかえた。
「…戦士の壺様?何をされるのですか?」
「勇気を示せ…こういうことなのだろう。壺巫女殿、しっかり掴まってくれ!行くぞ!」
「そ、そんな」
俺は褪せ人に続いて奈落に身を任せた。片方の手を伸ばし、蛇綱を飛ばす準備をしながら、岩壁の間をすり抜けていく。地面が見えた。割れるわけには行かないので、少し手前で蛇綱を伸ばす。
こんなにも高所から降りたというのに、着地は柔らかだった。俺の体は勿論、壺巫女にダメージは見えない。壺巫女は息を荒げながら言った。
「勇気も、過ぎると、いけませんから。なるべく、こういったことは、ないようにしてください。」
「壺巫女殿、申し訳ない。…褪せ人殿、素晴らしい勇気だった。貴殿のおかげで道が拓けた、感謝する。」
褪せ人は気分が良さそうだ。俺たちは先にある遺跡へと足を運んだ。
中に入ると、またしても大広間だった。これは人工的に作られた空間であった。三人が中に入ると、竜に似た姿をした人間が、太刀を担いでこちらに走ってくる。もしや、この人間こそが竜の穴における試練なのか。俺は竜人の太刀を岩の腕で受けると、粒子を使う。変化はない。彼は自らの意志を持って、攻撃をしてきているようだ。
「俺は戦士の壺!矛を収めてはくれないか。ここを通りたいだけなのだ!」
その竜人は間合いを取って、言を発した。自分は古竜人として、暴竜を食らい得る戦士を選別している。戦いから逃れることは許されない。どちらかが死ぬまで戦え。
俺は古竜人の発言に、倒した後治療しようにも、それを拒むだろうと感じた。死を望むわけでも諦観に染まっているわけでもない。ただ試練として在るのだ。交渉は意味を為さなかった。
褪せ人と俺は、戦闘態勢を取った。俺が古竜人に拳を当てると、太刀でそれを受ける。しかし太刀越しであってもダメージは与えられているようだ。褪せ人が俺に続いて、取り出した槍で太刀の脇を突く。「グランサクスの雷」だ。俺は古竜人が行う特殊な斬撃を直に受け、太刀を掴んだ。そして古竜人を押し出し体勢を崩させると、その無防備になった体に、戦技「古雷の槍」がぶち当たる。大きく吹き飛んだ古竜人に対し、俺たちがラッシュをかけると、防戦一方になった古竜人は、力を失い倒れ込んだ。
やはり古竜人は、俺が治療すると言うと拒み、そのまま息絶えた。俺は彼の遺体を抱き、壺の中へと入れた。試練に命を賭した彼の生きざまが、俺に刻まれた。そして彼の真の望みを叶えたいという思いが、湧き上がってくる。
暴竜、ベールを打ち倒したいという悲願。この先の山にいる、反逆者に思いを届けるのだ。
俺は、褪せ人に良い動きだったと褒めると、共に先へ進んだ。まずは、牢獄での救助。その次に山の頂上を目指すのだ。
「金色の心臓」
戦士の壺の中に残った、竜の心臓
さざれ石が溶け金色に染まったそれは
不規則な脈動を続けている
竜餐と呼ばれる儀式の供物であり
祭壇でこれを喰らうことで
竜の力を、我がものとすることができる
また竜の心臓としての役割に加え
儀式を行うと最大HPを増やすことができる