戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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短めです。




 燭台に照らされた洞窟を通り、外の景色が薄っすら見える空間まで来た。褪せ人は一旦祝福に座ると言い、聖杯瓶の補充をすると立ち上がる。

 外に出ると、途端に視界が開けた。墓地平原とは違って岩肌の目立つ土地だ。俺たちは共に坂を下っていくと、道の脇に白いものがあることに気が付いた。近くに寄ってみると、それは飛竜の亡骸であった。肉は残っているが、表面は風化しているため死んでから時間が経っていることが伺える。辺りを見ると、仰向けになっている個体や、突っ伏して眠っているだけに見える個体が散らばっていた。

 

 褪せ人が俺の体を叩き、上を指さす。そこには翼を大きく広げてこちらを見下ろす飛竜がいた。飛竜は、こちらに向かって炎のブレスを躊躇なく放ってくる。明らかに野生の知性のみがあり、対話は出来ない様子だ。俺は壺巫女と褪せ人を庇い、背に炎を受けた。メスメルの火に比べれば、ぬるいものだ。俺は壺巫女を避難させると、飛竜と対峙した。

 

 

「褪せ人殿、ほぼ連戦になるが…気張っていくぞ!」

 

 

 褪せ人は剣を掲げ、俺の言葉に答えた。俺は蛇綱を使って、飛竜に高速接近する。飛竜の最大の武器は翼とブレスだ。そこを封じてしまえば、褪せ人も楽に戦えるだろう。俺は飛竜の翼に掴まり、手刀で飛膜を貫いた。そして、開けた穴から粒子を纏いさらに大きな傷をつける。拳で殴る以外の選択肢を見せてくれた、落葉のダンに感謝だ。

 飛竜はけたたましい鳴き声を上げ、俺を振り落とす。俺は受け身を取ると、俺が付けた傷を確認した。あれで飛行は難しくなったはずだ。

 

 褪せ人が、俺の動きにナイスだと言ってくれる。俺は拳を見せることで返すと、飛竜の足に向かっていく。転倒させればこちらのものだ。褪せ人は頭を狙って、「屍山血河」を振り回している。俺にヘイトが向いているため、俺を踏みつぶそうと飛竜が足踏みを何度も行っている。

 飛竜は、怒りで無防備になった頭部から出血を繰り返し、やがて体勢を大きく崩した。褪せ人は飛竜の頭部に持ち換えた「暗月の大剣」で致命の一撃を放つ。

 飛竜はこれまでで最も大きな鳴き声を上げ、その後咆哮を行った。すると俺たちが立つ水場に、赤い雷が次々に落ちてきた。これは、古竜の技のはず。特殊な個体なのだろうか。

 よく見れば、飛竜は体に雷を纏わせている。

 

 見た事のない技に警戒しながら、俺は体を光らせ、ラリアットを飛竜の足にかます。褪せ人はまたもや武器を切り替え、「マレニアの義手刀」にて戦技「水鳥乱舞」を放った。転倒しないように足を踏ん張っていた飛竜は、褪せ人の攻撃をもろに食らい、断末魔を上げて倒れた。

 

 

 今回も無理なく倒すことができたようだ。俺は褪せ人の近くに行き、粒子を以て傷を癒す。

 聖杯瓶を飲む前だった褪せ人は、そんな力を持っているのかと、感心したように俺に言った。長丁場になる可能性もある。聖杯瓶を温存してもらうことに越したことはない。

 俺は木の陰に隠れてもらった壺巫女を呼ぶと、また竜を俺の中に詰めることを話した。近くの亡骸も同じように。今回は弔いでありながら、力を得る手段の意味合いを強く持たせたものである。

 

 飛竜は死した後も、しばらく雷を纏わせていた。飛膜に尻尾、胴体と詰め込んでいると、褪せ人が何やら今の戦いで手に入れたものを見せてきた。「竜の心臓」と「逆鱗の肉塊」だ。逆鱗の肉塊というものは、両者知らないアイテムであったので、俺はどういった効果を持つのか褪せ人に尋ねる。

 褪せ人が言うには、古い竜の体に生じる逆鱗であるらしく、体力を削る代わりに一定時間力を得られる代物だそうだ。使い切りなのが惜しい効果だと、俺は思った。

 三人で雑談をしながら作業を続け、終えた頃には日も暮れていた。

 

 

「褪せ人殿、ここまで付き合わせてしまってすまない。かけてしまった労力を考えると、金色に染まった竜の心臓では、足りないな。」

 

 

 褪せ人には一応、金色の心臓を三つ渡したが、時間を取られるのは嫌であったりするかもしれない。

 褪せ人は、気にしなくても良いと言った。狭間の地で色んな人物と接している内に、こういう手助けも悪くないと思い始めた。それにまともに話してくれる人は、中々見つからないから、こういう時間を大事にしたいと褪せ人は言う。

 すさまじく人が好い。俺は褪せ人の善性に感謝した。俺が手を握った後ぼそりと呟いた、関わる人が軒並み死んでいくから尚更、という発言には聴覚を傾けないでおいた。俺たちは休める場所を探しながら、先へ進む。

 

 俺は今までにない感覚を内側から感じていた。金色の心臓は取り除いたが、俺の中に鼓動が鳴り響いているのだ。異物感はなく、寧ろ心地よい。俺の体の中を掻きだすと引っかかる物はあるが、掴もうとしてもするりと抜ける。竜を詰めることによって、力を高めることができた証だろうか。

 俺は新たな技を使える可能性に、気分を高揚させながら、二人の雑談に交じった。

 

 

 地図を俺の体で照らし、確認しながら南下していく。道中に黄金の羊がおり、中でも褪せ人より大きい羊が草を食んでいるのを視認したときは驚いた。俺がアルター高原で見た個体は、成長段階だったのか。ここまで大きくなれるものなのかと。俺たちが近づくと逃げていったため、特に被害もなく通り抜けることができた。

 

 岩壁に囲まれた道から先には、とてつもなく巨大な竜の亡骸と、その元に立ち上がる紅色の炎があった。竜の亡骸の体長は、狭間の地にいたグレイオールをゆうに超えている。どれほどの年月が経てば、ここまで大きくなれるのだろうか。何故命を落としたのかも気になるところだ。

 褪せ人は、紅色の炎の近くに人をいち早く発見し、小走りで近寄っていく。その人物は竜の穴にて戦った古竜人によく似ているが、気配が別格だ。

 

 

「…戦士よ。竜の力を、喰らいませぬか?最も古く凶なる竜の、滾る心臓を。それは至高の竜餐。貴方の飢えを満たし、そして一つの竜と為すでしょう。」

 

 

 その女性は褪せ人に語り掛けていた。褪せ人は特に考えることもせず、竜の力を喰らうと言った。女性は褪せ人の言葉に満足したようで、ギザ山に向かうように言った。ギザ山には凶なる竜、ベールがいると。そして彼女の口から、プラキドサクスの名が出てきて驚く。竜王ということは知っているが、まさか配下が実際に現れるとは。褪せ人は、プラキドサクスの名を聞いても、ピンときていなかった。出会っていないから当然だ。褪せ人は、「竜餐の巫女」から施しを受け、話を更に聞くと、さっそく竜の心臓を喰らいにいった。

 待っている間、俺からも竜餐の巫女に聞いてみる。

 

 

「竜餐の巫女殿、俺は戦士の壺という。褪せ人殿と一緒に、暴竜と戦う予定だ。だがその前に、目的を果たさなくてはいけなくてな。ここで少し、人を預かってもらうことはできるか。」

「貴方も、戦士でございまするか。ええ、場所だけであれば。」

 

 

 竜餐の巫女は寛容だった。俺は彼女に感謝し、美味い美味いと言いながら竜の心臓を喰らう褪せ人を待った。

 

 俺たちは、祝福に座った褪せ人の横で休息をとる。竜餐の巫女も招いてだ。王であるプラキドサクスに祈りを捧げる時間が必要だと言っていたが、少しばかり話に加わってもらう。そこでは興味深い話が訊けた。

 古い竜の時代の話。プラキドサクスとベールの戦いの話。そして飛竜の心臓を喰らう意味を。今まで曖昧なまま受け入れていた、竜餐の意味を知ることができて、とても有意義な時間だった。

 

 

 夜が明け、再び出発することになった。俺は褪せ人にこれからの予定を聞いた。すると、牢獄が近い場所にあるようだから、貴公らについていくと話してくれた。とても心強い。

 俺は、牢獄で行うことを褪せ人に細かく伝え、救助が済めば共にこちらに戻ってこようと誓った。ここまで助けてくれたのだ。戦闘を有利に進められるよう、俺も褪せ人の助けにならねば。

 

 俺たちは巨大な竜の亡骸の上を通って、紅い彼岸花の咲く地へと歩いていった。

 




「戦士の壺(パチモン)の中身」

罪人を善き人にするため作られた影の地の壺
それに入り込んだ並行世界の魂の結晶

祝福の導きに似て、強い輝きを放ち脈打っている
疑似的な竜餐を経て、竜の力をも混ざった

喰らった竜の力を行使するとき
その光は紅色に染まるという
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