戦士の壺(パチモン)   作:棘棘生命

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嘆き

彼岸花の花畑を寄り道せずまっすぐ進んでいくと、アーチ状に穴が開いた岩壁の向こうに大きな水場が見えた。そこには鳥の像が立ち並んでおり、霊炎を吐くゴーレムも多く混ざっているようだ。囲まれるのはまずい。

 俺と褪せ人は慎重に行こうと話した。水場を左端の方から歩いていると、突然上空から煙が上がり、巨大な鳥のようなものが姿を現した。死儀礼の鳥だ。

 

 死儀礼の鳥が甲高い叫びを上げたのを皮切りに、鳥のゴーレムが動き始めた。俺は壺巫女を隅に逃がし、褪せ人に作戦を伝える。

 

 

「褪せ人殿、俺が周りの鳥を倒しておく。最初はちょっかいを出してくるかもしれんが、死儀礼の鳥に集中できるようにする。狩りは任せてくれ。では、行くぞ!」

 

 

 褪せ人は「巨人砕き」を取り出すと、離れたところにいる死儀礼の鳥に対して光の刃を放った。戦技「聖なる刃」だ。黄金に輝き始めた巨人砕きを担ぎ、褪せ人は走っていく。俺が周りの鳥を倒す頃には、同じように倒し終わっているだろう。

 

 俺は、鳥のゴーレムを掴み、粒子を纏った拳で殴ることを繰り返した。俺の粒子は死に生きる者やそれに連なるものたちにはよく効くようだ。一発殴っただけで、鳥のゴーレムは力を失っていく。

 粗方倒し終え、褪せ人の方を見た。死儀礼の鳥が、褪せ人の打撃を食らって高い声で呻いている。俺が最後のゴーレムを倒したときに丁度、死儀礼の鳥は消滅していた。俺は褪せ人の戦いを称賛すると、壺巫女を乗せ、水場の奥へ向かった。

 

 川の横を歩いていると、影の地でよく見かける、ミミズのようなチンアナゴのような不思議な霊体が攻撃してきた。顔部分を赤く光らせ、地面に叩きつけてくる。俺は、剣を構えた褪せ人を手で制する。

 彼らが何故攻撃してくるか分からないため、とりあえず触れてみる。元々人であった霊クラゲの例もあることだし、この霊チンアナゴも対話できるかもしれない。すると、言葉は介さなかったが、霊チンアナゴの顔は青色に戻り、そのまま消滅した。怒りが静まったからだろうか。

 横にいた霊チンアナゴが顔を近づけてきて、粒子の残る俺の手に触れてきた。霊チンアナゴは飛び出た小さな両手を絡ませると、天を向いて消滅する。彼らも、牢獄にいる影の霊体と同じように、望んで生えているわけでは無かったのかもしれない。

 推測でしかないため、俺は少しもやもやとした気分だった。これではいけない。最後の救助に集中しなくては。俺は壺を叩いて気合いを入れた。

 

 鉄籠の放棄された一帯に、牢獄の入口はある。俺は褪せ人に改めて説明した。

 

 

「褪せ人殿、俺たちは肉塊を植え継がれた巫子と、俺のような生き壺たちを故郷まで連れ帰ることを目的としている。牢獄に落ちている道具は、全て褪せ人殿のものにしてくれ。しかし、剣は振るわないでほしい。どれだけ、見るに堪えない姿であってもな。」

 

 

 褪せ人は、理解していると言い、頷いてくれた。おそらく肉塊の巫子については、褪せ人にとって敵として認識されるだろう。幾ら錯乱していたとしても、攻撃を行ってくることには変わりないからだ。殺さなければ、こちらが殺される。狭間の地ではそれが常識だ。

 俺はなるべく褪せ人に攻撃が行かないよう、隅々まで探索しようと決意した。

 

 

 洞窟を進んでいくと、鍵がかかった格子があった。おそらくどこかに保管されているのだろう。破壊して進むのは確定だが、左に伸びる道を見てからにしようと俺は考えた。

 歩き回る影の霊体に、部屋の中にいた攻撃性のある影の霊体たちに触れる。褪せ人が道具を回収していると、鍵を見つけたと報告してきた。おそらくその鍵で、扉を開けることができるのだろう。

 しかし戻るのは後にして、細い岩の道を通ることにした。影の霊体三人を浄化し、部屋の中に入ると、素早い動きで奥の方から肉塊の巫子が飛び出してきた。身長が大きく、壺巫女の家族の可能性が高い。俺は褪せ人に入口で待っていてもらい、壺巫女と一緒に治療を行った。

 植えられた肉が溶け、巫子はくたりと眠る。壺巫女は剥がれた肉片を俺に渡し、眠る巫子を抱きしめた。

 巫子が出てきた部屋を見ると、半透明の霊体が蹲っている。

 

 

『…やめてくれ、聞きたくない 俺は、幸せでなくていい だから、もうやめてくれ その嘆きを』

 

 

 褪せ人に治療が終わったことを言うと、部屋の探索を始めた。褪せ人は肉塊の巫子の見た目に固まっていたが、切り替えは早かった。接ぎ木のゴドリックの歪さを知っているからだと、褪せ人は言った。

 褪せ人は探索しながら言葉を続ける。貴公の回復は凄まじいと分かった。何れ頼むことがあるかもしれない。そのときは助力を願うと。

 俺は勿論だと頷いた。俺は褪せ人を待つ間、半透明の霊体に触れる。壺に詰められることに怯えているわけではなさそうだ。

 

 

「貴殿、ここから離れよう。…牢獄で苦しむのはもうやめだ。」

『壺…?俺は、ようやく出られるのか。この嘆きを聞く必要も…』

 

 

 半透明の霊体は、立ち上がると顔を緩ませ、消えていく。彼の悪夢はこれで終わった。

 

 呼び声頭を褪せ人が手に入れたらしい。これは嘆きを発するようだと、褪せ人は言う。霊体の言っていた「嘆き」だ。褪せ人に試してもらうと、土細工からは男性の悲痛な叫びが出てきた。不気味であり、悪趣味な呼び声頭だと、俺は思った。

 

 俺たちは来た道を戻り、鍵を開けた。案の定俺は通れないため、鉄柵を破壊する。

 小さな部屋にあったのは、下へ続く梯子であった。人間の細さであれば通れるだろうが、俺はつっかえてしまう。思い立った。ここの足場も破壊してしまおう。

 

 

「褪せ人殿、壺巫女殿、少し離れていてくれ。俺の新たな力を、今使うときだ…!」

 

 

 俺は今まで通り全身に力を込める。すると、俺の中にある鼓動が高まっていく。もっと早く。もっと強く、鼓動を高める。血管が無いというのに、体に圧迫感を感じる。

 その瞬間、俺は足場に向かって拳を叩きつけた。俺の拳に紅色の粒子が乗る。竜のかぎ爪が具現化し、岩を砕いた。俺は、そのまま下に体が引っ張られていく。竜を宿したことによって生じた力は、想像以上だった。

 蛇綱でしっかり体を固定すると、褪せ人と壺巫女に向けて、降りてきてくれと声を上げた。

 

 壺巫女が梯子を降り、巫子を背負ってくれた褪せ人が最後に降りる。

 褪せ人は俺に対して、貴公は力も凄まじいのだなと言ってくれた。俺は礼を言う。

 

 梯子を下りた先では、地面に氷が張っていた。鉄柵を破壊すると、右の部屋から肉塊の巫子が現れた。しかし、今までに見たことが無いほど悲惨な状態だった。肉塊の巫子の前面には、無数の顔が浮き出ていた。いやこれは、顔だけを継がれている。角人の所業のおぞましさに、俺は体を引き攣らせる。これは善き人にするための儀式などではない。人の体を弄び嘲るための行為だ。

 肉塊の巫子は叫ぶ。嘆く。継がれた罪人たちの頭と共に。

 

 

「あああ…!戦士の壺様、どうすれば…!」

「一旦落ち着こう。彼女は、嘆いている。今までのやり方では、治療するだけでは、生きる意志を持たせることはできないだろう。」

 

 

 俺は壺巫女と褪せ人を見た。二人の力が必要だ。褪せ人は俺の意図を察してくれたようで、「ぬくもり石」を取り出した上に、聖印を左手に持ってくれた。壺巫女は両手で、金色の壺のような聖印を握る。

 これで、必ず助けてみせる。

 俺は嘆く肉塊の巫子の元に走る。肉塊の巫子はまた叫んだ。俺の体に響くが、俺自身も粒子で直しながら彼女に近づき抱きかかえる。ぶるぶると震える肉塊の巫子に対して、褪せ人は周辺に「ぬくもり石」を置き、「王たる回復」を祈る。壺巫女は、金色の細い若樹を生やし、自ら含め周囲を光り輝かせている。巫子の肉塊は地面に溶け落ち、その場で怨念が浄化されていく。

 巫子の顔が次第にやわらぎ、そして眠った。俺は二人に感謝し、壺をなでおろす。

 

 

「二人のおかげだ。死なせないでよかった。」

「良かった…。戦士の壺様がいらっしゃるからこその治療ですが、褪せ人様の力に助けられました。ありがとうございます。」

 

 

 褪せ人は、自分も貴公らの助けになれて良かったと言った。褪せ人は兜に拳をやりながら、しかしこんなにも悪趣味なことを誰が行ったのだと、俺たちに訊いてくる。俺は答えた。

 

 

「角人という、この影の地にいる人々だ。これは神事の一つらしくてな。…壺に、肉塊となった巫子を詰めることで、善き人になると考えているらしい。俺も、それで出来た壺の一体なのだ。だが、心は戦士であるつもりだ。皆を守るためにな。」

 

 

 褪せ人は深く頷くと、狭間の地の生き壺と違っても、その在り方は同じだと言った。また、「同志」の中に角人がいたため、詳しく話を聞いてみるとも話した。

 俺はその言葉だけで、嬉しくなった。俺も、あの気高い戦士の壺に、近づくことができているのだろうか。

 

 俺たちは、この冷たい洞窟を隈なく探索した。沢山の顔を継がれた肉塊の巫子は、この場所だけで二人いて、壺に囲まれた奥の部屋にはもう二人いた。壺の中からぬるりと出てくる肉塊の巫子も見つけた。俺は二人の力を借りながら、彼女らを癒す。

 ここら一帯の影の霊体に触れながら探索を進め、俺たちが降りてきた梯子の近くに穴が開いているのを見つけた。俺がもう一度破壊しようとすると、褪せ人が止める。

 貴公の力をここで使うと地盤が崩れる可能性がある。自分が様子を見てくるから待っていてくれと。

 俺は褪せ人の言葉に甘え、壺巫女とともに待つことにした。

 

 

「壺巫女殿、そういえば…。先ほどから使ってくれている祈祷は、どういったものなのだ。」

「ふふ…これは貴方様と、その金色を信じる者の祈りです。お力になれましたでしょう?」

 

 

 俺は、彼女が微笑みながら言うその情報に驚く。俺の知らない間に、そのような祈祷が編み出されているとは。巫子であるが故、祈ることによってもたらせる癒しは、強いものになるのだろう。俺が壺巫女たちを癒した光は、導きになっているのだなと、ぼんやり思った。

 

 巫子たちの介抱をしながら、少し二人で話していると、褪せ人は別の場所からこちらに戻ってきた。水場にはネズミだらけで、巫子も生き壺もいなかったそうだ。ならば残るのは、この岩の上の道だ。俺は褪せ人に感謝すると、共に先へ進んだ。

 

 しばらく進むと、突然足場が崩れた。俺は巫子たちが怪我をしないように、しっかりと壺の上を押さえ、転倒することなく着地した。周囲の影の霊体に触れてから、外傷の有無を確認する。少し額が切れている巫子がいたので、すぐさま粒子で治す。

 褪せ人も怪我はないようだ。俺は突然崩れる足場に気を付けながら部屋を出て階段を上った。

 

 脇道をしっかり探索しながら、まず一番上まで進む。すると、部屋の死角から俺に向かって肉の鞭を伸ばしてくる巫子がいた。その肉塊の巫子は頭を継がれていない。不幸中の幸いと言っていいのだろうか。

 俺の粒子によって治療すると、巫子は地面に倒れ込んで眠った。

 

 俺の上に寝かせているのは六人。壺巫女と褪せ人が背負ってくれているのが、それぞれ一人ずつ。合計八人の巫子を救助出来たわけだが、そろそろ限界だ。助けがもう少しほしいと思い、その願いは叶った。

 少し戻ったところにある脇道から進んだ先に、生き壺たちがいたのだ。

 最初に視界に入ってきたのは、三体の生き小壺だった。彼らは、牢獄に零れる光源の下で手を伸ばしていた。無邪気な子どもが、遺体の山の上で光を浴びている。それはとても物悲しく、共に外へ出たいという思いが増す。

 俺は、彼らに向けて声を大きく発した。

 

 

「貴殿ら、我が同胞たちよ!俺は、戦士の壺!共に外へ出るため、ここまで来たぞ!」

 

 

 三体の生き小壺が、俺の存在に気づき手を振る。下を見ると、遊んでいた生き小壺がこちらを見て両手を上げていた。どんな場所にいたとしても、生き壺は善良なのだ。

 

 

「貴殿らと共に行きたい!そのために、この我らが家族を運ぶことを手伝ってほしい。頼めるか!」

 

 

 生き小壺と大きい生き壺はこちらに集まり、拳を掲げた。やはりこんな冷たい場所は、早く出るに限る。俺は協力的な生き壺たちに巫子を預けていき、共に遺体の山を去った。

 生き子壺九体に、大きな生き壺三体。いきなり頼れる仲間が増え、俺は最高に気分が良かった。

 だが、まだ一仕事残っている。牢獄の一番下にいる何者か。敵となるか味方として来てくれるか。

 俺は気分を落ち着かせ、生き壺の一体から鍵を受け取ると、褪せ人ともに下へと潜った。

 

 梯子を下りると、大広間がある。褪せ人の目には入口に霧がかかっているようで、俺が先陣を切った。

 そこには、人の頭を象ったランタンを持つのみの人間がいた。褪せ人が言うには、彼は「嘆き人」と呼称されるらしい。痩せさらばえた体で、ランタンを振りかぶってくる嘆き人に、まずは触れてみる。明らかに正気には見えなかったからだ。嘆き人は、俺の粒子に触れ一瞬動きを止めたが、また攻撃を行ってきた。

 

 

「御仁、俺の言葉が分かるか!」

 

 

 嘆き人は、口から悲痛な叫びを上げた。ああ、ああと言葉にならない声を。彼は泣いていた。そしてどこまでも壊れてしまっていた。俺の治療は意味を為さなかった。

 褪せ人は頷くと、嘆き人を「バスタードソード」で斬る。倒れ込み、命を落とすその瞬間の叫びは、どこか安らぎがあった。

 

 壺巫女の家族を含む、巫子八人。大小合わせた生き壺十二体。最後の牢獄は、今まで最もおぞましく、それでいて壺巫女と褪せ人の力に助けられた場所だった。

 

 俺たちは運搬した皆を外に出し、そして竜餐の巫女の元に列をなして戻る。ここからは、俺の力を褪せ人のために使う時間だ。

 

 

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