斜面を上がっていくと、飛竜の死体が次々に見えてくる。俺は吹き荒れる風の音を聞きながら、褪せ人が祝福で準備するのを待ち、それから共に進む。近くには、雷を帯びた腐肉がたくさん蠢いており、それらに粒子を纏った手で触れると溶ける。俺はそれらを体の中に入れると、彼らの記憶の断片がすっと頭に入ってきた。
彼らは、かつてギザ山の頂上にいる暴竜に挑み、無念の内に敗れた戦士の成れの果て。奴を倒す。貪欲なまでの強さへの執着を俺に刻んだ。肉塊となっても彼らは戦士だった。
褪せ人に助けてもらい、霊気流を跳んだ俺には飛竜の死体の山が見えた。これが、竜の戦士と飛竜が戦った証。俺は飛竜も共に入れたかったが、この量はとてつもない時間がかかる。今はベールに集中すべきだ。
霊気流をまた跳び越えた。その先にはエーゴンが立っている。俺は蛇綱で無事着地すると、褪せ人とともにエーゴンに合流した。
「早いな、竜の戦士たちよ!この先に、あの忌々しい暴竜がいる!恐怖を、魂を思い知らせてやる準備は出来ているか!!」
「エーゴン殿、俺は準備万端だ。褪せ人殿はどうだ。」
俺が褪せ人に尋ねると、彼は頷いた。先ほどの祝福で準備は済んだと。
俺は拳を振り上げた。そして三人で息を合わせると、ベールの潜む山頂へ突き進んだ。
「それでは、いざ尋常に勝負!うおおおおおっ!」
「ベエエエエルよ!今度こそ!思い知らせてやるぞ!」
暴竜ベールは、左脚と翼を失っていた。首元には宿敵であるプラキドサクスの首が食らい付いたままだ。そうであっても竜の目はぎらぎらと野心が渦巻いていた。いつか思い知らせてやる。喉元に食らい付き、自身が王者だということをおしえてやると。
その気配に圧倒されながらも、俺は拳を振るう。竜に残った右脚は、ただの飛竜とは桁違いに太く、転ばせることなど不可能だ。俺はまるで岩を殴っている気分だった。
ただの前ステップで、俺は大きくダメージを受ける。その都度回復して、金色のタックルを行っていき、隙ができるまで攻撃を続けた。褪せ人は「暗月の大剣」を取り出し、冷気の刃を頭部に当てている。そしてエーゴンは全力で叫びながら、大弓を撃ち続けていた。
暴竜は大きく後ろに跳び、ブレスを放つ。それは炎雷であった。俺は回避が難しそうな褪せ人の前に立ち、そのブレスを受ける。
その炎雷は凄まじい威力で、壺の体がめくれていく。粒子を使い続けても、まだ回復が追いつかない。俺は褪せ人が回復できる時間を稼ぎ、紅色の粒子を以て炎雷に対抗した。暴竜は咆哮した後、千切れた翼での薙ぎ払いと噛みつきを合わせた技で、俺たちを砕こうとする。
中距離を保ち続けていたエーゴンが勝負に出た。竜餐祈祷「竜爪」で、暴竜の体を引き裂く。暴竜はそれに怯むことなくカウンターを食らわせるが、エーゴンはピンピンしているためどちらも譲らない。
俺は蛇綱を使って、翼部分へ攻撃する。紅色の粒子を纏わせ、竜の爪を拳に顕現させた。千切れているその部分は弱点であったようで、大きく体を揺さぶることができた。振り落とされ、炎雷のブレスを吐かれるが、岩の腕で防御し、しきれなかった部分は粒子で直すことを忘れない。
暴竜の咆哮による落雷もしっかりと受けきる。
褪せ人が暗月の大剣とバスタードソードを持ち、距離を詰めて暴竜の頭に当てる。初めて体勢を崩した。その隙を褪せ人は逃さず、致命の一撃を入れる。
起き上がった暴竜は少し息を荒げていたが、それだけだった。ここからが本番だとばかりに、周囲から炎雷を解き放ち、大きく飛び上がる。そして舞台をぐるりと回りながら火球を放ってきた。暴竜の千切れたはずの翼には、燃える幻影があった。エーゴンが叫ぶように言う。
「…さすがに硬いか、忌々しい暴竜め。だが!何度でも!何度でも!我が銛を、打ち込んでやるぞ!」
俺は褪せ人が準備を整えられるように、近くに立って火球を受ける。一発一発が割れるような威力だ。粒子を周りに散布するようにして、皆の傷を治す。
旋回を終え、舞台の奥に降り立った暴竜は、幻影の翼を大きく広げ咆哮する。俺は壺を震わせた。これこそが竜狩り。強き者に立ち向かう喜びなのだ。
暴竜は、エーゴンを見つめ集中的に狙う。炎を纏った翼で、炎雷の嵐を起こし、エーゴンを吹き飛ばす。エーゴンはすぐに体勢を立て直して「グレイオールの咆哮」を放った。暴竜は、二回翼を叩きつけて真下にブレスを放ち、エーゴンの無防備な体に追い打ちをかける。俺はすぐさまエーゴンの前に走り込み、拳を頭に突き上げた。よろよろと立ち上がるエーゴンに粒子を使い、飛び上がって炎雷ブレスを全方位に吐く暴竜から守る。俺は自分に粒子を使っているはずなのに、直りが遅いように感じる。
壺の体はひび割れて、中から金色の液体が少しこぼれていた。満足な回復ができないまま、攻撃を食らい続けている弊害だ。これ以上暴れられれば、長くはもたない。俺は縦方向に放たれるブレスを避け、回復に集中する。
暴竜が褪せ人に翼を叩きつけた後、こちらに狙いを定めてブレスを吐いてくる。なんという動きの早さだ。俺は蛇綱を伸ばすと、炎雷の中を一直線に突き進んだ。燃える。雷によって壺が割れていく。
重い一撃さえ与えられれば良い。
蛇綱の先端を紅色の粒子が包み、俺の力が伝播する。蛇の頭は竜となり、暴竜の首元に食らい付く。そして俺は、もう片方の拳で竜爪と金色を解き放ち腹部を貫いた。暴竜はよろめく。体の芯に響いただろう。
暴竜は怒り狂い、俺を執拗に狙う。苛烈な攻撃は、俺に防御さえ許さなかった。直した傍から割られ、岩の四肢は何度も千切れとんだ。だが、諦めない。後ろには褪せ人とエーゴンがいるからだ。
エーゴンが大きく跳んだ。大弓で銛を放ちながら、暴竜にしがみつくようにして、弦を引き絞る。暴竜は、エーゴンを振り払うため何度も噛みつき、ブレスを放った。エーゴンはボロボロになっていく。俺と同じくらい酷い傷だ。
「儂が、竜の戦士が…お前の、恐怖だ!!」
エーゴンは、目をぎらつかせながら、渾身の技を放った。銛が暴竜の目に、口に、突き刺さる。暴竜は叫び、体を捻じった。俺は、倒れ込むエーゴンにゆっくりと近づき、英雄の一撃を待つ。生ける伝説である褪せ人の攻撃を。褪せ人は暗月の大剣で冷刃を放った後、「グランサクスの雷」を取り出し、古雷の槍で暴竜の脳天を穿った。
暴竜が倒れ、戦闘が終わったことを理解する。俺はエーゴンに粒子を使いながら、自分のヒビも直していく。砕ける寸前までいく、壮絶な戦いだった。俺は近寄ってきた褪せ人にも力を使いながら、回復の時を待つ。
しばらくして、俺の壺の体は元通りになった。しかし、エーゴンの調子が戻らない。傷の治りがどんどん落ちている。出力を高めても同じだ。
「はっはっはっ…!儂は、やった…!ベールよ、お前はもう我が恐怖ではないぞ…!」
満面の笑みを浮かべながら、エーゴンはその言葉を遺し、体の力を失った。治療を続けても、エーゴンは目を覚まさない。
彼は満足したのだろうか。魂を暴竜に刻み付けて。
褪せ人は「エーゴンの大弓」と彼の似姿を受け取り、俺は彼自身を連れていくことにした。暴竜ベールの亡骸もだ。
俺は覚えておきたい。ここで繰り広げた戦いと、そこで全てをぶつけた強者たちの栄光を。
俺たちはギザ山を下り、セネサクスと合流した。褪せ人と俺が、ベールに噛みついていたプラキドサクスの頭を見せると、セネサクスは複雑そうな感情を浮かべた。愛は返されなかったが、それでも愛を望んだ竜だ。俺は、ベールも俺の中にあることを告げ、セネサクスに触れた。セネサクスはほろりと涙を流した。
セネサクスは俺たちに対して、背に乗るように言う。俺たちは硬質な彼女の背中にしがみつき、空を駆けた。上空から、竜餐の巫女たちがいる大きな杯が見える。そこに降りてほしいと俺が言うと、セネサクスは鳴き、ゆっくりと地面に足を下ろした。
壺巫女たちは唖然としており、彼女らの視線は、空と目の前とを行き来していた。褪せ人は、頭を押さえている竜餐の巫女に向かって、歩いていった。俺は壺巫女たちの元へ向かう。
「暴竜ベール、褪せ人殿と一人の戦士とともに討ち取ったぞ!」
「ああ、よくぞご無事で。お疲れでしょう…そちらの古竜様は?」
「古竜セネサクス殿だ。彼女も共に来てくれるらしくてな。これで、同胞や巫子らは安全に帰ることができる。」
壺巫女は、その後しばらく黙っていたが、どなたでも家族になって下さる方は歓迎だと言い、セネサクスに話しかけにいった。生き小壺たちも竜に興味があるようで、わらわらと足元に近づいていく。セネサクスは戸惑っているようだが、仲良くなれそうだ。
俺は褪せ人と竜餐の巫女の様子を見に行った。話し合いは終わったようで、竜餐の巫女は、プラキドサクスの代わりに王になってほしいと褪せ人に話したようだ。竜餐の巫女はこちらに頷くと、霊体として褪せ人の中に入っていった。
「褪せ人殿。貴殿の選択は、良き結果を生んだな。」
褪せ人は思いが伝わったことを噛み締めているようだ。しばらく拳を握り締めていた。
褪せ人が祭壇にて、ベールの竜餐を行った後、一旦別れることとなった。褪せ人は「同志」たちの目指す先を追いながらも、この地を探索するそうだ。褪せ人がどこかの祝福に移動した後、俺たちはセネサクスの背に乗り、影の地を飛んだ。生き壺と巫子は皆救い出し、残るは種火だ。有識者であるユミル卿に聞いてみるのも良いかもしれないと思いながら、村へと急いだ。